第七十七話 軍人の矜持

「やれやれ、ようやくレベルアップの恩恵で『神の目』を取り戻すことに成功したか。これにより、絶対無敵ロボ アポロンカイザーに見つかりやすい偵察衛星や無人機を用いなくても、世界中を監視することができるようになったわ。どうやら妾が召喚した機械大人と機械魔獣のすべては、復活した絶対無敵ロボ アポロンカイザーやセクシーレディーロボ ビューティフォーが倒してしまったようじゃの」


「残念無念にございます」




 南の極点の地下で建造中の地下宮殿だが、いまだ完成していなかった。

 いつ絶対無敵ロボ アポロンカイザーに見つかるやもしれず、欺瞞装置の類を大量に設置しなければならないからだ。

 慎重に建設作業を行うため、時間が限られているという理由もある。

 とにかく、定期的に召喚した青い玉と赤い玉を放って、この世界に混乱を引き起こさねば。

 奴らの注目を、この世界の各地に発生させた機械大人と機械魔獣に注目させるのじゃ。

 これまでは満足できる偵察手段がなかったので、どうして機体大人と機械魔獣が倒されてしまったのか不明だったが、北部の新しい国の王が絶対無敵ロボ アポロンカイザーを操れるとは。

 そして、新しく完成した王城の上空に時おり見える巨大な空中要塞。

 見忘れるわけがない。

 前の世界でも、度々妾に煮え湯を飲ませてくれた絶対無敵ロボ アポロンカイザーの母艦『アトランティスベース』なのじゃから。


「しかしながら、直接対決まではまだ時間が欲しいところよ」


「地下宮殿の完成と、アルミナス様が呼び出す機械大人と機械魔獣で大規模な軍団を形成したいところですな」


「材料はいくらでもあるからの」


 この世に強い不満を抱く下等生物など、いくらでも存在する。

 その中でも特に強い不満を抱えている下等生物の下に青い玉と赤い玉が出現し、それを受け入れると機械大人と機械魔獣と化してしまう。

 彼らがこの世界に殺戮と破壊をもたらせば、その分妾のレベルが上がる。

 地下宮殿のこともあるが、一日でも早く最盛期の力を取り戻したいものよ。


「妾の力も大分元に戻り、機械魔獣に関しては一度に多くを召喚できるようになった。これよりはさらに多くの下等生物たちを殺し、奴らの住処を破壊できるというもの。さあ、絶対無敵ロボ アポロンカイザーよ! 妾が召喚した僕たち勝てるかしら?」


 先ほど召喚し、送り出した青い玉と赤い玉。

 下等生物の醜い心が媒体となって妾の僕となり、先兵として世界征服に貢献できることを喜ぶがいい。


「妾の完全復活まで、まだ時間がかかる。せいぜいこの世界をかき乱してほしいものよ」


 そして最終的にはこの地を支配し、さらに宇宙、銀河系全体へと支配の手を進める。

 それこそが、この女帝アルミナスがこの世に生まれた理由、意義なのだから。






「俺は無罪だ! 兵を損ねたわけでもないのに、なぜ処罰されて牢屋に入れられるのだ!」


「なにを言うか。お前は、国家に対し多くの損害を与えたではないか。陛下からの命令は、リーフレッド王国の混乱に乗じ、彼らが押さえたばかりの南方を奪取することであった。それを果たせず、無駄に国家の予算と物資を消耗したこと。万死に値する」


「しかし! 新ラーベ王国が先にかの地を先に押さえてしまったのだ。作戦では、あくまでも無血占領だったはず。新ラーベ王国との戦闘は禁止だと聞いていた! 俺は悪くない!」


「言い訳ですか? バルゼー将軍。あなたは陛下からの命令を達成できなかった。ゆえに極刑なのですよ」


「俺は悪くない!」


「聞く耳持てませんね。今から一人で新ラーベ王国を占領できれば、陛下もあなたを助けるかもしれませんが……無理でしょうけど。それでは、残り短い余生を牢屋の中で楽しんでください」



 あの腰巾着野郎!

 陛下からの信頼が厚いのをいいことに、俺を讒訴して罪に陥れやがって!

 リーフレッド王国の南方未開地については、もし戦闘をしなければ奪取できない場合、撤収が認められていた。

 だから俺は撤退したのに、戻って来たら牢屋にぶち込まれ、明日にも処刑されてしまう身だ。

 これもあの腰巾着が、俺の後任に自分に親族を当てたいがために、俺を無実の罪で陥れたからだ。

 この恨みをどう晴らしてくれよう。

 俺は軍人だ!

 戦っても問題ないのなら、俺は撤退せずに南方占領作戦を続行していた。

 悔しい……とにかく俺は、軍人として功績を挙げ、あの憎たらしい腰巾着に一泡吹かせてやりたい。

 だが、今の俺は牢屋の中だ。

 そして明日にも処刑されてしまう。


「俺にチャンスを! うん? なんだ?」


 突然目の前に、青い玉が出現した。

 そして頭の中で、誰かの声が聞こえてきた。

 もしかして、この青い玉が喋っているのか?


「『受け入れろ』だと? 『さすれば、この牢屋より外に出られるであろう』だと。そうか……。俺は再び敵地に攻め込めるぞ!」


 腰巾着に一泡吹かせられるのであれば、俺は青い玉を受け入れる。

 たとえそのあと、死に至るとしてもだ。

 すぐに両手を出し出すと、手の平の中に青い玉が入り込んでいく。

 痛みはなく、体の内側からとてつもない力が沸き上がってくるのが感じられた。


「こんな牢屋、すぐに壊せるはずだ」


 俺の予想は現実となり、巨大化した俺は牢屋がある軍施設を完全に破壊していた。


「人ではなくなったが、気分は晴れ晴れしている」


 周囲を見ると、他の牢屋も次々と破壊され、その跡には巨大な金属製の魔獣たちが多数いた。


「あの牢屋は……もしかして……」


 俺と同じく、南方攻略に失敗した罪で投獄されていた仲間たちか。

 彼らも玉を受け入れたのであろう。

 そして早速、私と共にこの軍基地を破壊し始めていた。

 あの腰巾着や、あいつの親戚、賄賂を送って軍内での地位を得たコバンザメ共を潰している。

 これまでは腰巾着の威を借りて偉そうだったのに、みっともなく逃げ惑い、情けない顔で命乞いをしているところを見るといい気味だ。

 いくら泣いて頼んでも、握り、踏み潰すだけだがな。


「進撃する前に、あの腰巾着を殺しておくか……」


 今の俺なら、あんな奴簡単に殺せる。

 無実の罪で陥れた仕返しをしなければ気が済まないし、ちょうど戦の前に捧げるイケニエが欲しかったところだ。


「ここかな?」


 軍人としての適性など皆無で、陛下に媚びを売って出世を果たしたような奴だ。

 軍の施設など汗臭くて嫌いだろうから、高級士官用の迎賓館にいるはずだ。

 このような無駄遣い。

 いかにも奴が作らせそうな施設だ。

 こんな金があったら、兵たちに少しでもいい食事を出せばいいのに。


「こんなものはいらん!」


 派手に迎賓館を破壊したら、予想どおりそこに腰巾着がいた。

 しかも瓦礫で足を挟まれているようだ。


「ひぃーーー! 化け物だぁ!」


「情けない声だな。腰巾着」


「ザンス様と呼べ!」


 そういえばそんな名前だったな。

 この腰巾着は。


「私を助ければ、私は陛下より信任厚い者。出世も思いのままだぞ」


 なにをとち狂ったのか。

 すでに金属製の巨大ゴーレムになってしまった俺が、仕官などできるわけがないのだから。


「俺はただ、このまま処刑されるのが嫌だったんだ。その前に、戦えなかった、占領できなかった敵地に進撃するこそのみが目的なのだから」


 これが果たせれば、軍人冥利に尽きるというもの。

 あとはいつ死んでも構わないが、その前に……。


「君側の奸であるお前を殺しておくとしよう」


 とはいえ、どうせこいつを殺しても、あの陛下の下から第二、第三のザンスが出てくるであろう。

 俺はこの国に忠誠を誓っていた軍人なので、陛下はあまり関係ない。

 ただこの国の害になる、私的にも気に食わないお前を殺しておくだけだ。


「覚悟はいいか?」


「まっ、待て! 俺を殺すと大変なことになるぞ!」


「もう大変だな」


 俺と同じく、玉のせいで巨大な化け物となった部下たちが、派手に軍基地を破壊して回っていた。

 彼らは金属製の魔獣と化してしまったので、俺ほど理性がないのかもしないな。

 ここにいた連中は不幸だったが、腰巾着が連れて来た殺しても惜しくない連中もいる。

 金属の魔獣と化した部下たちに、見分けなどつかないので仕方がない。


「俺の部下たちまで罪に陥れ、後釜に賄賂を貰った連中を押し込んだんだ。あいつらは、そんな連中を殺したくてウズウズしているのさ」


 軍基地はすでに壊滅状態であり、巻き添えで死んだ者たちも多いが、俺には止めようがないな。


「すべてお前の悪行の結果とも言える。そして俺は、お前を絶対に許さない」


「そっ、そんな! 助けてぇーーー! うぐぁ」


 簡単に潰れてしまったな。

 これだけ巨大化すれば、呆気なくて当然か。


「皆の者! 沈まれ!」


 俺は、いまだ軍基地を破壊し続けている部下たちに強く口調で命令を出した。

 すると、俺の部下であった頃の記憶が残っているのであろう。

 すぐに俺の元に集まってきた。


「見たことがないタイプの鳥が九名と、猪に似た金属の魔獣が十三名か。みんな大分見た目が変わってしまったな」


 同時に、俺たちはもう人間には戻れない。

 それが、本能に近いなにかでわかってしまった。


「ならば、戦わずに撤退したあの地を占領するのみ! 抵抗すればそれを撃滅するだけだ。バルゼー軍! 発進!」


「「「「「「「「「「おおっ!」」」」」」」」」」


 この作戦に成功したところで、なにかが変わるわけではない。

 むしろ、ただ犠牲者を増やすだけの無駄な行為であろう。

 だが、俺たちは証明しなけばいけないのだ。


「俺たちが、精強な軍人であったという事実をな」


 壊滅した軍基地を北上し、目指すは新ラーベ王国領の南部。

 俺たちだけで守備戦力を粉砕し、かの地を占領してくれるわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る