第七十六話 状況

「いまだ旧ラーベ王国の開発も終わっていないのに……新王都建設と、旧ラーベ王国の王都及び、旧六ヵ国の王都に副都を建設し、それを道路で結び、アーベンなどの商業都市や工業都市、大規模な農地開発と忙しい。王城はなんとか完成したか……」


「陛下、被災した国からはしばらく税が取れません。商人たちは上手く稼いでいるので、ちゃんと納税していますけど。新ラーベ王国は順調に規模を拡大しているのに、そういえばこれまであまり税が取れた記憶がありませんな……」


「アントン、ムーア。陛下と王妃様のおかげで、我らはこういう時に一番苦労するであろう、お金のことで汲々とせずに済むんだ。ありがたいし、あと数年の辛抱じゃないか」


「ドルスメル伯爵は元気でいいですね」


「陛下より請われ、ラーベ王国軍の再編を任された身なのでな。もっとも、集めた兵たちは野戦陣地構築訓練と基礎体力強化訓練にかこつけた、建設工事ばかりしているが……」


「海軍を作ったのはいいですが、他国に輸出品ばかり運んでいますね」


「陸軍も、建設と道路工事以外は被災地へ配る食料や物資を運ぶくらいだぞ。車両の運転を兵たちに覚えさせないといけないから、必要なことではあるのだが」


「軍人さんたちも大変だな。陛下、例の流体金属ですが、そのままだと使いにくいので、合金にして試験してますよ」



 フリッツが倒れてからおよそ二ヵ月。

 新ラーベ王国の統治は順調であった。

 フリッツのせいでリーフレッド13世以下、多くの王や貴族たちが殺されてしまったので、結局ラーベ王国が纏めるしかなかったとはいえ、反乱がなかったのは幸運だった。

 被災地への免税と、食料と物資の配給までしているのだから当然……と思えるほど俺は楽観論者ではなかったので、

 グリワスが生きていれば……惜しい人物を亡くした。

 彼が生きていれば、もう少し楽だったはず。

 多くの王族や貴族たちが死んでしまったので、領地の接収はそれほど大変ではなかった。

 むしろ大変なのは、被災した人たちの救援と支援であり、アトランティスベース(基地)で大量生産したものがなければ、反乱祭りだったかも。

 エリオット王国などは悪政で知られていたので、むしろ旧王や貴族たちを惜しむ声すら聞こえないほどだ。

 合計七ヵ国を一つの国にする。

 しかも、機械大人、機械魔獣に強い……どうせ勝てないので、被害が出てもすぐに復興できる国力と生産力をつける。

 そのため新ラーベ王国は、ちょうど中心部にある旧リーフレッド王国領であった南方未開地に新王都を建設し、他の王都はすべて副都としで再開発。

 さらにアクセスをよくするために道路を建設し、商業地、工業地、学術都市、港湾都市、見本となる大規模農業や牧場などの建設と。

 人手不足は、シゲールたちが量産している魔法道具で解決し、予算不足は今日も俺とプラムが魔獣を狩ってその素材と魔石で補填していた。

 だからこそ、新ラーベ王国は破産から逃れられているわけだが。

 アトランティスベース(基地)で生産したものは長い目で見ると経済的によくないかもしれないが、今は富の再生産に繋がるものとして容認している。

 この世界に復活した女帝アルミナスが作り出す赤い玉、青い玉によって人間が機械魔獣や機械大人となって国家に甚大な被害をもたらす。

 その脅威が真実となった今、せめてラーベ王国だけでもこの世界の危機に対応しなければ。

 一応ドルスメル伯爵に話を聞いて他国にも情報を流しているところが、はたして信じてもらえるかどうか。

 新ラーベ王国など、この広い世界ではほんの一部でしかないし、地球のようにグローバルな人と物の流れがあるわけではない。

 望みは薄いと、ドルスメル伯爵も言っていた。

 もし他国に機械大人と機械魔獣が……すでに暴れているかもしれない……出現したとしても、そう簡単に助けられないのだ。


『俺だって、リーフレッド13世陛下以下王族や大貴族の大半が殺されてしまったからこそ、陛下に縋った。周囲の目を気にしないで済んだんだ。普通なら自国だけでなんとかしようとする。他国に助けられたら、国家の独立という根幹が侵されるからだ』


 国家とはそういうもので、だからこそ俺は新ラーベ王国を作ったともいえた。


「国とは面倒なものだけど、あれば便利な面もありというわけか」


「それで一人でも多くの人を救えれば、新ラーベ王国にも意味があるのだと思います」


「で、俺たちができることって……」


「魔獣狩りとレベル上げですね」


「そういうことで」


「「「「「「「「「「いってらっしゃい!」」」」」」」」」」


 統治は家臣たちに丸投げて、俺とプラムは魔獣を狩るべく北へと飛んでいった。

 レベルが上がったせいで、生身でも移動時間がかからなくなったのはいい。

 生身の体でマッハ5以上で飛行して息が詰まらないのかとか、空想科学読本的なことを思わなくもないが、スキルのせいだと思うことにしよう。


「プラム、獲物発見だ!」


「行きます! 無敵剣!」


 今日も、俺とプラムは狩りを続ける。

 いかなる機械大人、機械魔獣にも負けないようにするためと、財政が厳しい新ラーベ王国のために。

 俺、絶対無敵ロボ アポロンカイザーと。

 プラム、セクシーレディーロボ ビューティフォーは今日も力の限り戦うのであった。

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