第七十五話 シゲールの息子
「ダストン様。レップウⅣとマウスⅢは、近くで見ると迫力がありますね」
「大きいからね」
「ある程度の数の戦車と飛行機を王国軍の装備として配備する場合、もっと小さくしなければ、運用が難しいでしょうな。武装もかなり削らないと駄目でしょう」
「レップウⅣとマウスⅢは特別製だからさ」
ついに、アトランティスベース(基地)内にあるレップウⅣとマウスⅢの格納庫が解放された。
そこに収納されているレップウⅣとマウスⅢが見られるようになり、俺とプラム、そしてシゲールはそれを興味深そうに見物していた。
「陛下、ミアとメアはどこですか?」
「ああ、シミュレーションルームのレップウⅣとマウスⅢも解放されたから」
「訓練ですか。しかし、あのシミュレーションってのは凄いですな」
アニメでもそうだったが、そう実機でばかり訓練していられないので、みんな空いている時間にアトランティスベース(基地)内にあるシミュレーションで訓練していた、という描写がアニメでもあったのだ。
俺とプラムも定期的に訓練はしているし、ミアとメアも同じというわけだ。
これまでは、スキルを使いこなすために魔獣狩りばかりしていたけど、これからはシミュレーションによる訓練や実機による訓練もメニューに加える予定だ。
「俺も、レップウⅣとマウスⅢの操縦訓練をしてみようかな?」
「私もしてみたいです」
アニメでは数回、岩城正平がレップウⅣとマウスⅢを操縦した描写もあった。
操縦を覚えておいて損はないだろう。
プラムも同じように思ったらしく、俺たちはシミュレーションルームへと向かう。
「あれ? コヘイがいるじゃないか」
「本当ですね。ダストン様、あれはなにをしているのでしょうか?」
コヘイとは、シゲールの長男である十歳の少年であった。
彼は母親に似たようで、女性ウケする細身の文系イケメン眼鏡男子であるが、同時にシゲールの息子なので、魔法道具の研究にも興味を持ち、新しく生活の拠点としたアトランティスベース(基地)内でよく端末を開いて勉強をしてるのを目撃している。
その彼が、シミュレーションコンピューターの……あれはプログラムを見ているかな?
「コヘイ、シミュレーションの調子が悪いのか?」
シゲールによると、コヘイはとても頭がいいそうだ。
とはいえ、彼に古代アトランティス文明の最新型コンピューターのプログラムが理解できるわけが……。
「より実戦に即した訓練ができるので、プログラムを改良したんです」
「そうなんだ……」
残念ながら、俺の前世は文系男子であった。
地球のコンピュータープログラムもよくわからないのに、古代アトランティス文明の最新型コンピューターのプログラムが理解できるわけがない。
「(コヘイが正しいのか、正しくないのか……あっそうか!)」
アトランティスベース(基地)の能力を舐めてはいけない。
もしシミュレーションコンピューターのプログラムがおかしければ、すぐに人工知能が遮断してしまうはずだ。
『審議! 外部よりの修正プログラムの正しさを確認しました。これより更新に入ります』
アトランティスベース(基地)のAIがチェックをして問題ないと判断したので、コヘイのプログラミング能力は本物のようだ。
「この短期間でよくプログラミングをマスターしたよな。しかもこの若さで」
まだ十歳だよな?
コヘイは。
「天才じゃないのか? コヘイは」
「私も、時間を見てこのプログラムってのを研究はしているんですけど……今では、コヘイに教わっているんです」
「凄いな」
シゲールに教えるレベルとは……本物の天才なんだろうな。
『陛下、王妃様。コヘイ君が直してくれたシミュレーションですけど、さっきよりも圧倒的に使いやすいですよ』
『シミュレーションなのに、本当にマウスⅢを動かしているようです』
やはり、コヘイは天才なのか……。
そしてミアとメアは、コヘイに信頼を置いているような。
「コヘイ、父親よりもモテるの巻」
「陛下ぁ。コヘイはまだ子供ですよ。ミアとメアだって小娘じゃないですか」
シゲールはそう言うが、あと五年したら、ミアとメアは十八歳でコヘイは十五歳である。
あり得るかもしれない。
「コヘイ君って、今はレベルいくつなのですか?」
「1でしょう。あいつにハンターの資質はないですよ」
しかしながら、すでに天才ではある。
レベルアップさせてみるか。
「コヘイ、明日から遠征な」
「僕がですか?」
「その場にいるだけだから。ミアとメアがいるから大丈夫だって」
二人はハンターとしての資質もあり、レップウⅣとマウスⅢのスキルまで持っているんだから。
コヘイが魔獣に襲われる心配は皆無であった。
「レベルが上がってスキルが上がると、もっと色々とできるぞ」
「行きます!」
というわけで、翌日からコヘイも連れてレベリングをすることになった。
「このシルバースライムを構成する流体金属は面白いですね。意外と軽いですし」
コヘイは、俺が倒したシルバースライムの体を構成する流体金属を興味深そうに調べていた。
「なにかに使えそうか?」
「いくつか可能性があります」
「えっ? そうなのか?」
シゲールも懸命に研究しているのだけど、今のところは成果が出ていない。
一方コヘイは、流体金属の用途に心当たりがあるというのだから。
「それはあとにもらって、レベルアップの影響がどうだ?」
「レベル300を超えたら、新しいスキルを続々と覚えました。『天才プログララマー』、『研究者』、『職人』、『博士』です」
シゲールの上位種って感じだな。
もしかしたら知力も、数字表示したら父親よりも上かも。
「徐々に頭がクリアになっていくのがわかります。身体能力は変わらずですけど」
コヘイは、間違いなくシゲールの息子であった。
レベルが上がると、知力だけが大きく伸びていたのだから。
「コヘイは、シゲールの下につける」
「頑張ります。作ってみたいものが沢山あって。アトランティスベース(基地)のOSも弄りたいですし、他にも色々と試してみたいんです」
十歳にしてこれだ。
末恐ろしいというか、はたまた二十歳過ぎればただの人なのか。
スキルが出た以上、技術部門のナンバー2にして好きにやらせてみよう。
資金と素材は……魔獣を倒せばいいのだから。
「コヘイ君、夜はなにを食べる?」
「デザートはどうしようか?」
「あの……僕は……」
レベリングを終えてアトランティスベース(基地)の居住区に戻った俺たちであったが、共用のレストルームにおいて、コヘイはミアとメアに挟まれ、両手に花の状態であった。
コヘイは顔もいいし、頭もよく、貴族になったシゲールの跡取り息子だ。
モテて当然だな。
「陛下ぁ……」
「同年代同士、仲良くしなさい」
最近、ミアとメアを嫁にすれば出世確実だと考える貴族たちが一定数いて、だから彼女たちの住居をアトランティスベース(基地)に移したという事情もあったのだ。
コヘイが二人と仲良くしてくれた方が、新ラーベ王である俺にとっては都合がよかった。
「ミア、メア。三人で仲良くな」
「「はーーーい」」
二人も満更でないようで、三人仲良く食事をとっている。
「初々しくて心が洗われるようだ」
「陛下だって、まだ若いじゃないですか」
シゲールよ。
見た目はそうなんだけど、俺の中身は五十歳を超えているんだ。
多少考えが枯れていても仕方がないじゃないか。
「陛下こそ、側室だの妾だの差し出そうとしている連中が多いと聞きますよ」
バルサーク家の家臣たち、これまでに併合した国の王族、貴族、大商人たち。
いちいち話を聞いていたら時間がいくらあっても足りないので、俺はプラム以外の妻を持つつもりがないと宣言している。
それなのに、いまだお見合い写真を持ってくる連中は多いけど。
「シゲールが、カメラを量産してしまうから」
「私のせいですか? でもあれは、輸出品として有望なんですよ」
いつまでもアトランティスベース(基地)で製造した酒などに頼るのは危険なので、シゲールが量産したカメラを輸出する計画だったのだけど、先に国内でよく売れていると聞いた。
それを用いて、俺にお見合い写真を送ってくる者たちが増えたのは、想定外だったけど。
「これまでは画家に似顔絵を描かせていましたけど、今はみんな写真を撮るのが流行しているようでして」
「俺は見合いなんてしないぞ。プラムがいれば、それで十分だしな」
「ダストン様……」
「ならば、なるべく早く跡継ぎをお産みになられることですな」
プラムがまだ子供を産んでいないから、もしかしたらと期待する者たちが出るわけか。
しかし……。
「アトランティスベース(基地)でちゃんと健康診断をしたが、俺とプラムは健康そのものだ。女帝アルミナスを倒したら子供を作るから問題ない」
平成日本で生きていた身としては、子供を次の王様にすることに違和感があるけど、せっかく女帝アルミナスを倒して平和になっても、そのあと後継者争いで内乱になったら意味がない。
そこは受け入れるしかないのか。
「二十代前半くらいまでに子供が生まれれば問題ないのは、アトランティスベース(基地)のコンピューターから得られる知識どおりだ」
シゲールも見ているはずだし、そういうことを一番言わなそうなのにな。
あっでも。
シゲールはこう見えて、すでに三人の子持ちだったことを思い出した。
コヘイもそうだが、なにか突き抜けている人間はモテるかね?
「ムーアやアントンならわかるが、シゲールがそういうお小言を言うとは思わなかった」
「この国が続かないと、研究できないじゃないですか」
「「おおっ! なんて自分本位だ!」」
ある意味ブレないシゲールに、感心してしまう俺とプラムであった。
そして彼の息子であったが……。
「コヘイ君、あーーーんして」
「次は私ね」
「……あの……恥ずかしいです」
いくら天才でも、やはりまだ十歳。
年上のミアとメアに羨ましいことをしてもらっていたが、肝心のコヘイはただ顔を真っ赤にさせていたのであった。
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