第七十四話 レベリングと体制強化 

 そして翌日。

 俺は、同じ場所で大量のシルバースライムを狩り続けた。

 やはり、狩っても狩ってもシルバースライムはいなくならないな。


「どうかな?」


「陛下、俺は『軍務大臣』のスキルが出たぞ。実は俺は、元から『火魔法』は持っていたんだよ」


「初めて知った」


「陛下は実家のこととか、弟のことがあるから。バルサーク家の火魔法の話を思い出すかなって」


 ドルスメル伯爵は、意外というと失礼かもしれないが、人に気を使うことも多かった。

 俺に『火魔法』のスキルが出ないばかりに、実家を追い出されたことを知っていたので、自分が『火魔法』を持っていることを言わなかったのだから。


「気にする必要はないけど、『軍務大臣』ならラーベ王国軍を任せられるな」


「元リーフレッド王国貴族の俺が重責を任せてもらえる。ありがたいが、そんなんでいいのかな?」


 俺の人生最大の目標は、絶対無敵ロボ アポロンカイザーを極め、復活した女帝アルミナスを倒すことである。

 それが終われば、もし新ラーベ王国の王でなくなっていたとしても、プラムと二人ハンターとして稼いで暮らせばいい。

 王位を奪われてしまったら、それはそれで仕方ないだろう。


「なあ、プラム」


「はい。私はダストン様の行くところならどこまでも」


 プラムも王妃に未練などないので、新ラーベ王国は将来誰かに譲ってもいいな。


「……陛下も王妃も本当にそう思ってるから困るんだよなぁ……。せっかく新ラーベ王国として安定してきたんだ。陛下は死ぬまで退位するな。ムーア、アントン、ボートワン、アップルトン、俺は、この国のために頑張るから」


「みんな、意外と野心がないんだな」


「陛下には、過ぎたる野心で自滅した弟がいるじゃないか。アントン、どうだ?」


「私は、『国務大臣』が出ました」


「ボートワンは?」


「それが、『海軍大将』が出まして……私は、船なんて動かしたことも指揮したこともないのですが……」


「才能があるからスキルとして出たんだろう。貿易船の護衛に海賊対策。他国には海軍がある国も多い。国防上新ラーベ王国も海軍を組織する必要があるんだ。海軍はボートワンに任せる」


「やってみますが……船酔いしないかな? そこもスキルなのでしょうか?」


 いきなり立ち上がった国だからこその、無茶ぶりであろう。

 大量レベルアップで出現したスキルに合わせて、いきなり重職に任じてしまうのだから。

 他の国では不可能な芸当だろう。


「私は、『陸軍大将』ですね」


「アップルトン将軍は、王国陸軍を全部を任せることにしよう」


「貴族、軍人冥利に尽きることで大変にありがたいですが、シゲール殿が開発した車両を装備した、即応力、機動力、火力、輸送力を兼ねた新しい軍ですか……忙しくなりそうです」


 辞令は……あとで、国務大臣のアントンに出させるか。


「でも、これだけレベルを上げても、あまり身体能力に違いはありませんね」


 だから、ここまでレベルを上げた人が今までいなかったわけで、俺が発見したことになっているのか。

 通常の魔獣狩りでハンターの才能がない者をここまでレベリングをしたら、付き合わされるハンターたちが辟易するほどだから仕方がない。

 俺はシルバースライム倒せ、その経験値がとても高いからこそ可能なレベリングなのだから。


「あとは、ミアとメアだな。呼び出せないか? 俺とプラムのように」


「ダストン様、私たちもそれができるようになるまでかなりレベルを上げたので、まだ二人のレベルが足りないのかもしれません。二人のレベルを上げつつ、見所がありそうな人たちのレベリングもしてみて、国の体制を強化しましょう」


「そういえば、他国に機械大人と機械魔獣の脅威について手紙を送ったけど、返事はないからなぁ……」


 これまで理由はわからないが、機械大人と機械魔獣の被害は範囲が限定されていた。

 情報の伝達が正確でなかったり、遅いか届かないような場所も多い世界だ。

 いまだ機械大人と機械魔獣に襲われたことがない国からすれば、俺の手紙なんて与太話くらいに思われているのであろう。

 もしくは、新ラーベ王国の謀略だと思っているかもしれない。

 新ラーベ王国の建国は、よく事情を知らない他国から見たら、野心的な王である俺が力づくで大陸北部を強引に征服したように見えるのだろうから。


「女帝アルミナスに対し、対抗できるのは俺たちと新ラーベ王国のみか」


 ならばこそ、新ラーベ王国を世界一の大国にしなければ。

 俺は王になんてなりたくなったのに、これは大いなる矛盾だが仕方がない。


「まずは枠組みからというわけか」


 翌日以降も、俺とプラムはミアとメアにレベリングを続けた。

 レベル700を超え、800を超え、900を超え、ついに1000を超えたその時。


「来たれ! レップウⅣ!」


「来たれ! マウスⅢ!」


 アニメと同じようにミアとメアが呼び出しの声をあげると、すぐにシゲールから通信が入って来た。

 彼には、格納庫の封印が解けたかどうか確認するため、アトランティスベース(基地)に待機してもらっていたのだ。


『陛下! 封印が解けた! 戦車と飛行機って資料では見てたけど凄ぇ! いきなりこれは無理だが、似たようなコンセプトの魔法道具を……陛下、早速試作してみるぜ! 予算も素材も潤沢にあるからな!』


 シゲールはとても嬉しそうだな。

 俺はシゲールに、普通の国ならあり得ない額の予算と素材を渡していた。

 失敗した研究の総額を聞いたら、他の国の王様なら卒倒するはずだ。

 だが、シゲールはその何倍も成果を出しているので、まったく問題なかった。

 俺とプラムが魔獣を虐殺して金と素材を稼いでいる、おかしな国だからであろうが。


「「来ました!」」


「前に説明したとおりだ。今のレベルとスキルがあれば、必ず実機も動かせる。自信をもっていけ!」


「「はいっ!」」


 俺のアドバイスを聞いたミアは、レベル1000超えにより手に入れた驚異的な身体能力……この二人にはハンター資質があったので……を生かして崖の上から飛行しているレップウⅣに飛び乗った。

 レップウⅣもミアを認めているようでコックピットハッチが開いており、すんなりと乗り込めている。


「まずは基礎的な飛行からだ」


『はいっ!』


 ミアは、搭乗したレップウⅣを飛行させ始めたのだが……。


「もう見えない」


「早すぎて、あっという間に見えなくなりました」


 考えてみたら、最高速度マッハ10で飛べる絶対無敵ロボ アポロンカイザーよりも高速で飛べるからなぁ……。

 全速力ではなくても、すぐに視界から消えて当然か。


『陛下、王妃様。武装の試験をします! あっ……』


「当然そうなるよな」


 ミアは、地上にいた魔獣にビーム機銃で攻撃を仕掛けたのだと思うが、スキルのみの時でもなにも残らなかったのだ。

 それよりも強い実機では、もっとなにも残らないはずだ。

 魔石は残るはずなんだが、どこかに吹き飛ばされてしまうから回収が困難だろう。


「一応、対地ミサイルと爆撃も試してみてくれ」


『わかりました! あっ……』


 当然魔獣は、爆発ののちに破片一つ残らず消えてしまった。

 実際に見ていないが、見なくてもわかるという。


「ある程度動かして問題なかったら、先にアトランティスベース(基地)に帰還してくれ」


『了解です!』


 アニメに出てくる天才双子姉妹の姉、涼川あんずのようにいい返事であった。


「次はメアか」


「いきます!」


 メアも高速でこちらに向かってくる、反重力走行が可能な万能戦車『マウスⅢ』に無事乗り込むことに成功した。

 彼女の呼びかけに答えてやって来たのだから、当然と言えばそれまでなんだけど。


「メアも、北の方で試験してみてくれ。動かせるよな?」


『はい。なぜか動かせます』


 レベルとスキルのせいであろう。

 ミアも、難なくマウスⅢを動かしていた。


「すぐに見えなくなったな」


「そうですね」


 マウスⅢは時速500キロ以上で走行でき、浮きながら走行しているのでどんな悪路でも速度は落ちなかった。

 すぐに見えなくなって当然だ。


『ビーム機銃、主砲と副砲もすべて試します!』


「どうぞ」


 マウスⅢには、レップウⅣと同じビーム機銃、ビームと反応弾(完全核融合弾で、放射能は出ない設定)を発射する主砲と副砲を装備していた。

 これらを魔獣相手に試したわけだが……。


「なにも残らないよな」


「あとで、魔石は拾えるかもしれません」


 絶対無敵ロボ アポロンカイザーとセクシーレディーロボ ビューティフォーの武装を試した時と同じだな。

 生身でスキルを使用する時よりも威力が大きいので、今頃死の凍土は大変なことになっているはずだ。


「どうだい? マウスⅢの武器の威力は?」


『なにも残りませんでした』


「魔獣相手だとなぁ……。もう少し動かしてみて、なにもなかったらアトランティスベース(基地)に戻ってくれ」


『了解! シゲールさんが大喜びで整備に参加しそうですね』


 シゲールは、レップウⅣとマウスⅢを参考に、飛行機と戦車の量産を目論んでいた。

 もし完成したら、戦車はアップルトンに任せるとして、飛行機は空軍を作らないと駄目か。

 人材……いい候補者がいるといいな。


「これにて、第一次人材強化計画を終了とする。で、ボンドはどうだった?」


「ボンドさん」


「陛下、王妃様。私はいきなり出現して雇い主を驚かせるのが趣味なのです。こうも事前に察知されますと……さすがと言いますか……」


 人材強化のためのレベルアップには、ボンド・キリガクレも参加していた。

 彼は気配を消すのが上手なので、誰にも居場所を気がつかれていないと思っていたようだが、俺とプラムにはわかってしまう。

 彼も、初めてそういう雇い主に出会ったので困惑しているようだ。


「私は元々、『風魔法』のスキルを持っておりまして。それに『忍者』と『情報分析官』木わかりました」


「スキル三つは凄いな」


「ハンターとしても優秀ですしね」


 ボンドは、下手な上級ハンターよりも強かった。

 これに、『忍者』……異世界でもニンジャは強いスキルなのであろう。

 あとは、情報分析官もあった。

 彼は、我が国の諜報部門の責任者に決定だな。


「陛下も王妃様も、よく拙者のような怪しい男をよく雇い入れますね。とはいえありがたくはあり、その待遇に相応しい仕事はしましょう」


「とりあえずは、こんなものかな」


 それからも、見どころのある人物を連れてレベリングを行った結果、レベル100~300を超えると特殊なスキルが出る者が多かった。

 スキルが出た者をそれに合う役職につけ、ハンター適性があった者たちはこのところ常に不足気味の素材と魔石を集めるため、北の魔獣の住処へと向かった。


「今のところは順調だ。あとは一日でも早く、女帝アルミナスの居場所が見つかるといいのだけど……」


「ダストン様、焦ってばかりはよくありませんよ」


「それもそうだな。俺にはプラムもいるから」


 順調に前進はしているのだから、今はそれを素直に喜ぶこととしよう。


「アトランティスベース(基地)に戻ろうか?」


「はい」


 今日はもう仕事は終わったんだ。

 俺は仕事とプライベートをきっちりとつ分ける男。

 このあとは夫婦二人だけの時間を過ごして、明日以降の英気を養うとしよう。

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