第七十三話 シルバースライム
「ミア、メア。補助を頼む」
「「わかりました!」」
「そういえば、ムーアってレベルいくつなんだ?」
「私ですか? レベル12です。これでも高い方なんですよ」
「スキルは?」
「ないです……。うちは先祖代々、貴族じゃないですから。陪臣と貴族との間にある大きな壁ですね」
翌日。
暗黒竜が潜んでいたビランデ山の近くに、俺、プラム、シゲール、ミア、メア、ムーアの臨時パーティが立っていた。
レベリングのためと、とある特殊な魔獣を倒すためと、足りない魔獣の素材を集めるためであった。
「シゲールとムーアは、俺とプラムの傍を離れるなよ」
「死んでしまいますから」
「でしょうねぇ……」
「あれが、『シルバースライム』なのか。初めて現物を見るぜ」
高難易度な魔獣の棲みかで、ビビるムーアと、興味深そうなシゲール。
生まれついての性格だな。
ビランデ山は暗黒竜の棲みかだっただけはあって、上位のハンターでも死んでしまうことが多い危険な魔獣の生息地であった。
特に危ないのがシルバースライムと呼ばれるスライムの一種であり、これは液体金属の塊が自我を持ったものだと思ってくれればいいと思う。
物理的な攻撃は一切効果がなく、火魔法の高温でも融解せず、氷魔法により凍結もせず。
これまで倒した報告が皆無という、とんでもない魔獣だったのだ。
ただビランデ山にしかいないので、近づかなければ害もなく、放置しても問題はない魔獣ではあった。
「陛下は、そのような魔獣を倒せるのですか?」
「多分、今度はいけると思う」
「今度は?」
「何度か試したんだけど、これまでは駄目だったんだよね」
シルバースライムは、マイナス一億度という実在するのか怪しい……昔のアニメの設定だから仕方がないか……コールドフラッシュにも耐え、他の武装でも倒せなかった。
だが、今の俺はレベルも上がった。
ランドーさんから、もしかしたらこの方法ならというアドバイスも受けている。
そして、シゲールが『シルバースライムの体液が欲しいです!』とうるさいので、試してみることにしたのだ。
確かに、シルバースライムの体を構成している液体金属が手に入れば、シゲールなら有効活用できそうではあるのだ。
「では、いざいかん!」
シゲールとムーアの護衛はプラムたちに任せて、俺は一人ビランデ山の山腹へと向かう。
するとそこには、直径二メートルほどの、まるで水銀の塊のようなスライムがあちこちに鎮座していた。
あまり動かず、こちらが攻撃しなければ一切害はない。
普段はただその場にいるだけなので、本当に不思議な魔獣であった。
「まずは……カイザーパァーーーンチ!」
久々に思い切りカイザーパンチを放ってみるが、以前と同じく、かなり盛大に凹むが、すぐに元通りになってしまった。
そして、俺に対し全力で体当たりをしてくる。
「これは……普通の人なら粉々だな」
高速で移動する金属の塊にぶつかった人間がどうなるのか?
命が欲しければ、シルバースライムに手を出してはいけないのだ。
「しかし!」
ランドーさんがこう言っていたのだ。
『魔獣ですが、実は体内の魔石を取ると死んでしまうんですよ』
当たり前という意見もあるだろうが、シルバースライムの魔石を取るのはとても難しい。
というか、これまで実行できた人は少ないだろう。
魔石がなくても大丈夫そうな気がしなくもないけど、以前、研究者が魔獣から魔石だけを取り出すと、みんな死んでしまったそうだ。
「つまり! シルバースライムの魔石のみを抜き取れば、シルバースライムを倒すことができるはずだ!」
ただ、言うは易し、行うは難しである。
液体金属でできたシルバースライムは、外部からの一定以上の威力を持った攻撃で変形する。
それを利用して発見した魔石を抜き出す……練習してできるようにしてみよう。
「カイザーパンチではない! 絶対無敵ロボ アポロンカイザーの力を指先一点に集中してシルバースライムの液体金属を突き破りつつ、内部にある魔石に辿り着くんだ!」
あとは、素早く抜き取ればいい。
「はぁーーー! 新技だ! カイザーニードル!」
まるで錐のように指先にパワーを集中し、シルバースライムを構成する液体金属を突き破りつつ、魔石に手を届かせる。
そして素早く魔石を掴み、一気に引き抜いてしまうのだ。
「カイザーニードル! 失敗した! うわぁ」
失敗する度に俺は、シルバースライムの体当たりを食らった。
普通の人間なら木っ端みじんだが、俺はスキルのせいであまりダメージを受けなかった。
ただ、さすがに頭がクラクラしてきたので、そろそろ成功させなければ。
「今度こそ……カイザーニードル!」
これで何度目の挑戦であろうか、手を突き入れたシルバースライムから手を抜くと、その手の中には銀色の魔石が残っていた。
「とても綺麗だ。そして、なんて高品質な魔石なんだ」
さぞやシゲールが喜ぶであろう。
そして魔石を抜かれたシルバースライムだが、まったく動かなくなってしまった。
まるで、電池が切れた玩具のようだ。
「本当に魔石を抜き取ると死ぬんだな……コツは掴んだからいくぞ! カイザーニードル!」
俺は、あちこちにいるシルバースライムの魔石を、カイザーニードルの連発で抜いていく。
魔石を抜かれたシルバースライムはすぐに動きを止めてしまい、俺はシルバースライムの死骸を無限ランドセルで回収しながら、ビランデ山中を駆け回った。
「ふう……こんなものでいいかな?」
今日はもうこれで十分……疲れたなと思いながら山を下りていく俺であったが……。
「げっ! もう復活している!」
最初にシルバースライムを駆逐した場所は、わずかな時間で元どおりになっていた。
「相変わらず、魔獣は謎が多いな……」
毎日のように俺とプラムが大量殺戮を繰り返しても、まったく数が減らないのだから。
一方、南方は順調に魔獣が減って開発が進んでいた。
双方の差がよくわからないのだ。
「戻るか」
大量のシルバースライムの素材と魔石をプラムたちの元に持ち帰ると、なぜかみんなが大騒ぎしていた。
「みんな、どうしたの?」
「ダストン様! 私も含めて、みんな急にレベルが上がったんです!」
「そうなの?」
そういえば、今日はレベルを確認していなかったなと思い、急ぎ確認してみると……。
ダストン・バルザーク(16)
レベル1578
スキル
絶対無敵ロボ アポロンカイザー
解放
カイザーパンチ
カイザーキック
カイザーニードル
カイザーアイビーム
フィンガーミサイル
コールドフラッシュ
ダブルアームトルネード
ロケットパンチ(爆破)
アームミサイル
カイザーサンアタック
無敵剣
豪槍(ごうそう)アポロニアス
スペースブーメラン
為朝の弓
スペースヌンチャク
スペース青龍刀
カイザースコップ
特殊
アトランティスベース(基地)召喚
「これは……」
わずか一日で、レベルが100以上も上がっている。
フリッツや機械魔獣軍団を倒した時と、そうレベル上昇に差がないとは。
もしかして、これまで誰も倒倒せなかったシルバースライムは、某RPGのメタルっぽいスライムと同じように獲得経験値が高いのか。
そして、シルバースライムを倒した時、便宜上技名をつけたカイザーニードルを習得していた。
この技名はアニメには登場しておらず、俺が勝手につけたものであった。
どうやら、アニメの設定にはない新しい技も覚えられるようだな。
「私もこんな感じです」
そして、プラムのレベルも見せてもらったが……。
プラム・ラーベ(17)
レベル1425
スキル
セクシーレディーロボ ビューティフォー
解放
レディーパンチ
レディーキック
パイオツミサイル
ヘッドレーザー
ダブルブーメラン
修理キット
補給
やはりレベルの上昇が凄いので、シルバースライムは大量の経験値が得られるのであろう。
「シゲールは?」
「レベル753まで上がりました。新しい獲得スキルはないですが、頭がクリアーになったような気がします。研究したいなぁーーー!」
どれだけレベルを上げても、シゲールは知力しか上がらないのであろう。
ただその知力の上がり方が尋常ではなく、知力特化なのだと思う。
ハンター適性がない人は自然にレベルが上がるのを待つしかないので、これも新しい発見であろう。
「ムーアは?」
「レベル511ですね。新しいスキルは『財務大臣』です」
ムーアも、身体能力はほとんど上がらなかったようだ。
だが、財務大臣というスキルを覚えた。
戦闘にはまったく関係ない、やはり特殊なスキルというわけだ。
これも、俺がレベリングしなければ出なかったスキルのはずだ。
ムーアも、本来ならハンターの資質がゼロなのだから。
「ハンターなら、超一流ってレベルを超えてるけどな」
「ここまでレベルが上がっても、私とムーアはスライムがせいぜいでしょうな」
「私もそんなところだと思います」
ハンター適性がない人をここまでレベリングするなんて、まず俺しかやらないか。
「ミアとメアは?」
「「レベル567です!」」
双子で同時にレベルリンを始めたから、レベルの上りも一緒なのか。
で、新しく覚えたスキルだが……。
ミア・ハウ(13)
レベル567
スキル、レップウⅣ(戦闘機)
ビーム機銃
対空ミサイル
対艦ミサイル
対地ミサイル
輸送コンテナ
メア・ハウ(13)
レベル567
スキル、マウスⅢ(戦車)
ビーム機銃
ビーム主砲
主砲(徹甲弾、榴弾)
牽引コンテナ
ミアは、戦闘爆撃機プラス偵察と輸送もする飛行機のスキルのためこうなった。
偵察機と、戦闘機と、爆撃機と、輸送機を兼ねた飛行機は、アニメの設定ならアリであろう。
かなり矛盾した飛行機なのだが、アニメの設定のおかげで絶対無敵ロボ アポロンカイザーよりも高速で飛行できるから問題ない。
「火力も上がってよかった」
「あのぅ……ミサイルというのを試してみたんですけど……」
ミアは、その辺にいたグラスゼブラというシマウマに似た魔獣でミサイルを試したそうだ。
「なにも残りませんでした」
「だろうなぁ……」
どんな攻撃を受けても魔石だけは残るけど、ミサイルの爆風でどこかに飛ばされて回収が困難なはずだ。
「じきに使う機会も増えるだろうから」
「そうなんですか?」
もう少しレベルアップを頑張ってもらい、実機を呼び出せるようになれば、機械大人や機械魔獣との戦いに参加できるはずだ。
レップウⅣは、偵察でも、機械魔獣の数減らしでも、輸送でも貢献できるはず。
「私も、主砲を使ったら魔獣が……」
機械魔獣でなく、ただの魔獣相手に戦車砲だからなぁ……。
ビーム機銃でも駄目なのだから、主砲は実弾でもビームでも魔獣狩りには使えない。
シルバースライムにも通用しないから、これも機械大人と機械魔獣との戦いで使用するしかないだろう。
「倒せれば、シルバースライムは美味しい」
「この流体金属が欲しかったんですよ。早速色々と試すかな」
なおシゲールも、『博士』という新しいスキルを覚えた。
これは、アニメの千葉博士ような役割をはたすと捉えればいいのかな?
アニメにおける千葉博士は、ロストテクノロジーであった古代アトランティス文明の技術を次々と理解し、絶対無敵ロボ アポロンカイザー以下のメカたちの修理、改良、新装備の設計、製造と大きく貢献していた。
シゲールもじきにそうなる可能性が高く、女帝アルミナスとの戦いに大きく貢献してくれるはずだ。
「アントンたちも試すか……」
ムーアに財務大臣のスキルが出たので、同じようにレベルを上げればなにかスキルを覚えるかもしれない。
アトランティスベース(基地)のみならず、新ラーベ王国も女帝アルミナスに対抗するため必要なのだから。
「明日は、アントン、ドルスメル伯爵、ボートワン、アップルトンで試そう」
「それがいいと思います」
機械大人と機械魔獣との戦い以外で、そういつも俺とプラムが前線に出るわけにいかない。
レベリングで新しいスキルを出現させ、新ラーベ王国を統治する幹部たちを揃えなければ。
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