第七十一話 新しい仲間
「ダストンさん、プラムさん。この子たちです」
「ミア・ハウです」
「メア・ハウです」
「双子かぁ……」
「この子たちも自分のスキルが使いこなせず、ハンターとして苦労しているようでして」
フリッツを倒してから三日後。
俺とプラムは、ランドーさんから新人ハンターを紹介された。
プラムと同じく、成人の儀で授かったスキルが前代未聞のためその使い方がわからず、この一ヵ月ほどスライム退治で糊口を凌いでいたそうだ。
成人の儀の直後なので、二人は共に十三歳。
数年前の俺とプラムを見るようだ。
顔を見るとそっくりなので、すぐに双子だとわかるな。
ただ髪の色が違って、燃えるような赤い髪を束ねて左肩の前に垂らしているのが姉のミアで、紫色の髪を束ねて右肩の前に垂らしているのが妹のメアだそうだ。
二人とも、プラムに劣らない美少女であった。
それにしても、ランドーさんは優しいな。
同時に、彼の優れたハンターを見抜く目は本物でもある。
変わったスキルを持つ俺の活躍から、プラムの才能を見抜いたのだから。
きっとこの双子も、俺やプラムと同類だと思って手を差し伸べたのであろう。
「それで、そのスキルって? 言いにくいとは思うけど……」
多分昔の俺やプラムと同じで、この世界だと意味不明なスキルなのであろう。
意味が分からないスキルは使えないので、ハンターになっても成果が出ない。
すると周囲の人は、わけのわからないスキルだからハンターとして使い物にならないのだと判断してしまう。
悪循環ではあるが、使い方がわからないスキルはないのと同じだ。
役立たずだと判断されても仕方がないのだ。
「あの……私のスキルは『レップウⅣ』です。妹のメアのスキルは『マウスⅢ』です」
「了解、わかった」
「「ええっ! わかったのですか?」」
「うん」
「あっ、私もわかりました」
俺のみならず、どうしてプラムまで双子のスキルがわかったのか?
それは、レップウⅣとマウスⅢがアニメに出てきた支援用のマシンだからであった。
レップウⅣは、アトランティス帝国が最後に採用した多目的戦闘爆撃機であり、アニメでは、偵察、飛行型機械魔獣との戦闘、敵母艦への対艦攻撃、地上爆撃、輸送と多彩な活躍をした。
超々銀河超合金アルファ製で、飛行速度は絶対無敵ロボ アポロンカイザーよりも速く、火力と搭載量もある万能戦闘機であった。
地球の軍事的な常識からはかけ離れているが、元がアニメの設定なので気にしてはいけない。
仕組みはよくからないが、多分ちゃんと設定どおりの性能を発揮できるようになるだろうから。
マウスⅢは、大型の万能戦車だ。
どこにでも移動できるよう、重力操作で宙に浮かび上がりながら高速で移動できたり、やはり超々銀河超合金アルファだから頑丈で、ビーム主砲、ビーム副砲、ビーム機銃、ミサイルなどを搭載して火力も高い。
こんな戦車あり得ないとか言わないでほしい。
アニメの設定だから仕方がないのだ。
「使い方を教えてください!」
「お願いします!」
「私からもお願いします」
ランドーさんの紹介なので、この二人にそれを教えることに反対はしない。
だが飛行機と戦車のスキルなので、この世界の人間には教えにくいという弱点があった。
プラムのセクシーレディーロボ ビューティフォーは、人型だったので教えるのは楽だったというわけだ。
「わかりました。お引き受けしましょう。ですが!」
「ですが?」
「プラムの時よりも教えるのが難しい。ゆえに、この二人はしばらくうちで預かります。同時に、世界の根幹を揺るがすスキルなので、我が国に仕官してもらうのが条件です」
せっかくスキルを教えたのに、他の国に引く抜かれると面倒だからだ。
スーパーロボットほどではないが、銃すらないこの世界だと戦車と飛行機のスキル持ちは国家間のパワーバランスを崩してしまう危険があった。
「それはつまり、二人を……」
「ええ、まずは騎士として雇い入れます。この条件を呑まなければ教えられません」
「ですが、陛下。彼女たちは女性ですよ」
古臭いような気もするが、この世界では女性は騎士になれない国が大半らしい。
「別に構いませんよ。この国では俺がルールなので」
このところ、愚弟に滅ぼされた国の王族、貴族が大量に殺されてしまった影響で、新ラーベ王国に所属を変えた貴族たちも困っていたのだ。
血筋が一番近い跡取り候補に女性しかいない。
これも男性ばかりが戦場に立ったり、前ラーベ王やフリッツの標的にされて殺されてしまったりしたからであろう。
そこで俺は、女性の当主就任を認めることにした。
俺は男子継承に拘りがないし、うるさい人ほと死んでしまっているので、事前の意見交換では皮肉にも反発が少なかったというわけだ。
「そんなこと気にしているほど、うちの国に余裕はありませんよ。ハンタ―協会も同じでしょう?」
「ええまあ……」
ダメージが大きかったのは、この地方のハンター協会も同じであった。
特にフリッツは、俺が世に出たのはハンター協会のせいだと言いがかりをつけ、ハンター協会の幹部クラスをほぼ皆殺しにしてしまった。
もっともハンター協会の方は、ランドーさんの地方支部長への就任と、彼が若い人材を引き上げたせいで逆に活気のある組織に代わっていた。
シゲールが魔法道具の開発と研究を産業にしようとしているので、魔獣の素材や魔石が高く売れるようになったというのもあるか。
「私たちが貴族ですか?」
「嫌か?」
幼くしてハンターを目指すような二人だ。
堅苦しい貴族は嫌かもしれないな」
「凄いです! 夢のようです!」
「私たちは、陛下の騎士なのですね。早く強くなって陛下のために働けるようになりたいです」
「二人とも、よろしくね」
あまりに嬉しそうなので少し驚いてしまったが、無事にミアとメアが新ラーベ王国に仕官したので、早速スキルの習得に入ることにしたのであった。
「随分と凄いぶ厚い資料ですね」
「うわぁ、絵が綺麗です。総天然色ですね」
「(総天然色って……。メアって、昔の日本人みたいな言い方をするな……)まずは、これを読み込んでよく覚えるんだ」
戦車と飛行機の概念がない二人に、どうやってそれを覚えさせるか。
答えは、アトランティスベース(基地)で作成されたカラー漫画を読ませるである。
これには、レップウⅣとマウスⅢが活躍する様子も沢山描かれているので、具体的なイメージが湧きやすいはずだ。
「古の神話って、面白いですね!」
「私、これと同じように活躍できるんだぁ」
二人は、食い入るようにカラー漫画を読んでいた。
娯楽としても面白かったらしい。
他にも、設定資料集も深く読み込ませている。
「自分が、レップウⅣとマウスⅢとなって活躍するイメージを頭に何度も刻み込む。プラムも通った道だ」
「「はいっ!」」
二人は熱心に学んでいた。
自分たちが強くなれるかどうかがかかっていたからだ。
ラーベ王国に仕官して騎士になったので、生活のことを考えなくてよくなったのもあるのかな?
「陛下、ですが、私のステータスだとビーム機銃しか使えません」
「私も同じです」
やはり知識もそうだが、二人はハンターになってまだ一ヵ月ほど。
しかもスキルを使えず、ギリギリ生活できる数のスライムしか倒していないので、まだレベルが5しかなかった。
もっとレベルを上げないと、他の武装が解放されないのであろう。
「明日から、レベリングをします!」
「レベリングですか?」
「ですが、それはハンターとしては……」
基本、レベリングはよく思われていないのは事実だ。
実際、貴族やその子弟が悪用する例があとを断たない。
他にもレベリングに関するトラブルは多いが、とにかく今は二人にスキル、レップウⅣとマウスⅢとして戦えるようになってもらわないと。
世間の評判なんて気にしている場合ではないのだ。
「気持ちはわかるが、二人は今俺の家臣でもあり、むしろハンター業よりもそっちの仕事が最優先なんだ。レベルを上げないと、資料で見たような武装が使えない。だから先にレベルを上げてそれを使えるようにし、魔獣との戦いでどんどん使って経験を積んでもらわないと」
「「なるほど……」」
「あとで、王国軍の演習にでも参加して、レベリングの恩返しをすればいい。なにしろ、二人は騎士だからな」
「「はいっ!」」
数日間びっちり資料を読ませたら、二人はちゃんと物語から資料までちゃんと細かいところまで覚えてくれたようだ。
「次はレベル上げだ」
当面の目標は、レップウⅣが地上の機械魔獣を爆撃できるまで。
マウスⅢは、ビーム主砲を使えるようになる、であろう。
「スライムの群れ。懐かしいですね」
「そうだな」
今は大してお金にならないのでスライムはパスしているのだけど、二人がちゃんと初期武装ビーム機銃を使えるかを確認しなければならない。
俺は二人に、ビーム機銃の発射を命じた。
「カラ―漫画の絵しか資料がないので、最初は苦戦するかも」
「大丈夫です! 私とメアは、必ずやスキルレップウⅣと!」
「スキルマウスⅢを使いこなしてみせます!」
二人はスライムの群れの前に立ち、両腕を前に出した。
「「ビーム機銃発射!」」
掛け声は……発動すれば問題ないか。
二人の両腕の先から、光りの弾の奔流がスライムの群れを襲った。
たとえ一発でも当たれば、スライム程度ならひとたまりもないようで、すぐに一匹残らずビーム焼かれて蒸発してしまう。
俺とプラムもそうだけったけど、本当にスキルって不思議だ。
人がビーム機銃を発射しているのに、熱がったりしないのだから。
そしてスライムの群れがいた跡には、魔石だけが大量に残されていた。
「ダストン様、魔石って本当に丈夫ですよね」
「一番の謎だ」
たとえ素材まで蒸発してしまうような攻撃を受けても、魔石だけは必ず残るからだ。
「もしかしたら、超々銀河超合金アルファよりも頑丈かも」
「魔石を装甲にすると強いかもしれませんね」
どうなんだろう?
試してみたくはなるよな。
今度、シゲールにできるかどうか聞いてみようかな?
「お館様、レベルが上がりました!」
「私も上がりました!」
二人のレベルは低かったので、これだけスライムを倒せばレベルが上がって当然だ。
ただ……。
「陛下、王妃様。ビーム機銃がもう撃てません」
「体がフラフラします……」
レベルが低いので、当然こうなってしまった。
アニメだとビーム機銃のエネルギー切れだが、スキルだと魔力切れになるわけだ。
レベルアップしたので武器を貸して……。
魔力切れで二人ともフラフラなので無理かな?
「まだやれます!」
「やらせてください!」
「でもなぁ……」
ここで無理をさせてなにかあると、二人はまだ十三歳なのだから。
「陛下は、私たちと同じ年齢でハンターとして一流になっていたと、ランドーさんから聞きました」
「大丈夫です! まだやれます!」
やる気があるのはいいけど、魔力切れという物理的な問題に精神論はよくないと、俺は思ってしまうのだ。
「それでしたら、私が」
とここで、プラムが二人に助け船を出した。
「なにか策があるのか?」
「ダストン様、私はこの前レベルアップした際に、『補給』を覚えたのです」
『補給』とは、アニメでも中盤以降になるとよく見られた絵だ。
セクシーレディーロボ ビューティフォーが、絶対無敵ロボ アポロンカイザー、レップウⅣ、マウスⅢなどに武装のエネルギー源や、飛行用の推進剤を補給する。
まさしく、セクシーレディーロボ ビューティフォーは支援用ロボットというわけだ。
「『補給』は便利だよな」
「頑張って、みんなを支援しますよ」
これからも、機械大人や機械魔獣との戦いは続く。
補給は大切であり、同時にレップウⅣとマウスⅢの支援は重要になるはずだ。
しっかりと育てないと。
「では、『補給』をします」
プラムが二人に『補給』を使うと、魔力が回復したようで再びビーム機銃によりスライムの群れを攻撃し始めた。
二人の指先からビーム機銃が出る様は非常にシュールだったし、科学的な原理を知りたくなってくるが、そこは所詮アニメの設定だ。
この世界だと、魔法、スキル……余計に意味不明なので気にしないようにしよう。
「魔力が切れたら教えてください」
「「わかりました、王妃様」」
その後は夕方まで、二人はビーム機銃でスライムを倒し続けた。
尋常ではないな数のスライムが蒸発し、そのあとには大量の魔石が残された。
「どんな攻撃でも魔石は残るんだよなぁ……」
俺たちはスライムの魔石を集め、それをアンター協会の買い取り所まで持って行った。
「やっぱり、スライムの粘液は残りませんか?」
「「すみません、残りませんでした!」」
「陛下と同じですね。明日からは、他の魔獣でお願いします」
俺とプラムの元に来てから、わずか一日でミアとメアはスライムを卒業した。
しかし、まだレベルも低く新しい武装も解放されていない。
明日からも頑張ってもらわなければ。
「これが買い取り金額になります」
「二人で平等に分けるんだよ」
「えっ? 私たちが貰っていいのですか?」
ミアは変なことを言うな。
スライムを倒したのは二人なのだから、報酬は二人で分ければいいのだ。
「でも、私たちは仕官しましたから」
「たとえスライムの魔石でも、今我が苦には魔石が極点に不足している。それを売ってくれたのだから正統な報酬というわけだ」
それに、スライムの魔石なのでやはり買い取り金額が……。
曲りなりにも一国の王都王妃が、十三歳の少女の報酬を奪うのはどうかと思うのだ。
「どうせ買い取り金額から税金も引かれてるし、お小遣いか、貯金しておけば?」
「「ありがとうございます!」」
喜んでくれたようでなによりだ。
「明日からはもっと強い魔獣を相手にするので、覚悟するように」
「「はいっ!」」
この調子なら、二人ともすぐに強くなるであろう。
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