第七十話 VS弟

『陛下、王妃様。リーフレッド王国とエリオット王国に配給する食料……まあ、効率の関係で全部マグヌードルですけどね。カレー、味噌、トンコツなどのフレーバーも増えたからいいんですかね? 一応ビタミン剤も製造して支給していますけど。ラーベ王国はムーアとアントンが上手くやっているので特に問題もありません。日常と変わらずです』


『エリオット王国は、前王の悪政もあってボロボロですな。立て直しには時間がかかると思います。ですが、今はとにかく金属製の巨大ゴーレムを倒しませんと』


『陛下、王都はなんとか押さえています。フリッツの野郎! 個人的な恨みで貴族たちを虐殺しやがって! 国が回らねえよ! 生き残った中でマシな連中や商人の子弟、平民も加えてなんとかやっています』


「引き続き頼む」


『『『了解!』』』




 今、俺とプラムは南方の未開地にいた。

 四ヵ国と国境を接する、すべて鬱蒼とした密林に覆われた場所で、ここならフリッツと戦っても人間に被害は出ないはずだ。

 今フリッツは、四ヵ国で猛威を振るっていると、密偵から情報が入ってきた。

 すでに半分心が壊れているようで、貴族やその家族を見つけては、その場で握り潰し、踏み潰して殺しているらしい。

 あいつは自分の所業のせいで伯爵から騎士爵へと爵位を落としたにも関わらず、それを周囲の責任だと思っていた。

 そうすることで、自分の心を守っているのであろう。

 同時に、自分よりも優れた貴族などいないという結論に至ったようだ。

 だから貴族を見つけては殺す、なんてことをしているのであろう。

 本当はすぐに助けに行きたかったのだが、押さえたリーフレッド王国とエリオット王国への対応が忙しかった。

 絶対無敵ロボ アポロンカイザーとセクシーレディーロボ ビューティフォーも、復興に使わなければいけない状態だったのだ。

 ラーベ王国ですらインフラ整備の途上なのに、アトランティスベース(基地)と無限ランドセルがなければ二つの国の被災した人たちに配る食料や物資を配れなかったのだから。

 同時に、リーフレッド王国とエリオット王国の南端で、もうすぐ四ヵ国を蹂躙し続けるフリッツの北上を阻止するための阻止線を貼りつつ、俺とプラムで『リーフレッド王国を奪ってやったぜ!』と奴を徴発しているわけだ。

 機械大人化したフリッツは、俺が倒すしかないのだから。


「陛下ぁーーー! 南に巨大な金属製のゴーレムが来まぁーーーす!」


「よし! 行くぞ!」


「はいっ!」


 俺とプラムは、フリッツに向かって機体を発信させる。


「俺様と同じような機械大人が二体も?」


「フリッツ、久しいな」


「ダストンか!」


 フリッツは、俺が絶対無敵ロボ アポロンカイザーに乗っている事実を知らなかった。

 声をかけると、途端にフリッツの声に怒りの感情が混じり始めた。

 奴は、俺が大嫌いなのだから当然だ。


「ダストン! お前は俺様の邪魔ばかりしやがって!」


「俺はフリッツの邪魔なんてしていない。お前が勝手にやらかして報いを受けただけじゃないか。なんでも人のせいにして自分を顧みないからその様なんだろう?」


「はっ! 俺様はこの体を得て最強になったんだ!」


 最強かどうかは知らんが、フリッツが人間を捨てた結果、リーフレッド王国と四ヵ国を滅ぼせたのは事実だ。

 だが……。


「なあ、フリッツ。一ついいか?」


「命乞いか? そのポンコツは弱そうだからな」


 絶対無敵ロボ アポロンカイザーだから、そんなに弱くないと思うけどな。


「確かにお前は強くなった。五ヵ国も……一つは俺が奪還したが……国を占領できたんだ。歴史に名が残るレベルの偉業だ」


「だろうな」


 俺がまず褒めたら、フリッツがご機嫌になった。

 単純で羨ましい限りだ。

 さぞや生きていくのが楽……じゃないから、こんなことをしたのか。


「さて、お前は大きな国を得た。どんな贅沢も、酒池肉林も可能なわけだが……。その体でか?」


「っ!」


「気がついたか。お前は母と同じだな」


 満たされないものを得るため、青い玉に選ばれるほど心を病んでまで圧倒的な力を求めたのはいいが、金属製の機械大人や機械魔獣になってしまったら、それを楽しむところではない。

 母も、高価なワインを飲み、自分用の衣装まで作らせていたが、はたしてそれで満足できたのかどうかも怪しい。

 結局、機体大人と機械魔獣の方に心が寄せられ、満たされぬ心を人間の殺戮や町の破壊で晴らすようになる。


「人間が機械大人になった瞬間、お前はもう人間ではないのだ」


「だからなんだ?」


「お前は、永遠にそのままなんだぞ」


 機械大人と機械魔獣は、完全に破壊されなければ自動修復機能が存在する……あくまでもアニメの設定だけど……。

 人間が永遠に生きた結果、精神や心を保てるわけがなく、次第にただの機械大人と機械魔獣になっていくであろう。


「安易に赤い玉や青い玉に手を出した結果、人間としてのお前はもう死んでいるのさ」


「だからなんだ! 俺様は困っていないぞ!」


「お前以外のみんなが困るんだ。お前の意見なんてどうでもいいんだ。ゆえに、お前を破壊する!」


「やれるものならな! 俺様がダストンを殺してやるよ! そのポンコツから引きずり出し、手を千切り、足を千切り。命乞いなど決して認めず、『僕を殺してください!』と涙ながらに訴えるようにしてやるぜ」


 相変わらず、下品な奴だ。

 前世の記憶があってよかった。

 なぜなら、フリッツを殺す……破壊することになんら罪悪感を感じないで済むからだ。


「俺も、お前の命乞いは聞かないぞ。先に言っておく」


「そんなことにはならないぜ! 『ブリザード』!」


「ブリザード?」


 機械大人の大半が、見ただけではその能力がわからないようになっていたが、まさか火魔法のバルサーク家に拘っていたフリッツがブルザードを操るとは……。

 それは、怪力を用いた母も同じだったか。


「ダブルアームトルネード!」


 しかし、その程度の攻撃なら余裕で防げる。

 俺はダブルアームトルネードで、ブルザードを吹き飛ばしてしまった。


「残念だったな。効果がなくて」


「俺様からダストンへの挨拶代わりさ。しかし不思議だな」


「なにがだ? フリッツ」


「俺様に『兄上と呼べ! 』と叱らないのか?」


「そのことか。俺は、家族で苦労しているからなぁ」


 父は、火魔法のスキルを持たなかった俺を追放し、そのせいで領地を荒廃させた。

 母は俺を不義の子として産み、俺に火魔法のスキルがないと知ると、俺の追い出しどころか暗殺まで目論んだ。

 フリッツのクズぶりに関しては、今さら説明するまでもないだろう。


「俺の家族はプラムしかいないからさ。お前が弟? そんなうすらデカイだけの化け物が俺の弟? ないない。寝言は寝て言え」


「死ねよぉーーー!」


 機体大人になっても、フリッツの煽り耐性の低さは健在だった。

 俺が思っていたよりも速いスピードで組みかかってきたので、回避できずにガップリと組み合う羽目になってしまった。

 思っていたよりもパワーもあるな。


「どうだ?」


「どうだとは?」


「俺様のスピードとパワーだ!」


「凄いでちゅね」


「ふざけるなよ! 圧し潰してやる!」


 からかったら、フリッツはさらに力を入れてきた。

 一瞬力負けしそうになってしまうが、フリッツはただ全力を出しているだけで、すぐにパワーダウンしてしまうはずだ。

 降って湧いた力に振り回されている印象だ。

 考えてみたら、あいつはろくに剣の稽古すらしていなかったのだ。

 ハンターとして鍛え、ちゃんと絶対無敵ロボ アポロンカイザーの操縦訓練を続けている俺とは違う。


「俺を圧し潰すんじゃないのか?」


「これからな!」


 これからのことを考えて色々と分析しながら戦っているのだが、フリッツはあれだけの破壊と殺戮を繰り返したのにレベルが上がっていないようだ。

 機械大人や機械魔獣になると強くなるが、成長はせず能力が固定化してしまうらしい。

 もっとも、最上位のハンターでも機械魔獣にすら勝てないのだが。


「接近戦はやめだ! 俺様の力の神髄を見るがいい!」


 フリッツは一旦俺から離れると、背中から羽を生やした。

 母や前ラーベ王とは違い、フリッツは飛行できるようだ。


「どうだ?」


「どうだって言われても……」


「けけけっ! 上空から俺に襲われて死ね!」


 そう自慢気に言いながらフリッツが上空に飛び上がったので、俺も飛んで奴の追跡を始めた。


「カイザーアイビィーーーム! フィンガーミサイル!」


 そして、後ろからフリッツに攻撃を仕掛けてダメージを与えることに成功した。

 実践経験がないからこういうことになってしまうのだ。


「卑怯者め!」


「……ロケットパァーーーンチ! 爆破!」


「ぐはっ!」


「アームミサイル!」


「おのれぇーーー!」


 続けざまにダメージを与えていくが、どうやらフリッツはブリザード以外の飛び道具を持っていないようだ。

 母に比べてもかなり弱いが、それでも多くの国に破壊と殺戮をもたらしたのだから厄介であった。


「(心に闇を持つ人間が、定期的に機械魔獣か機械大人になってしまうようになった。彼らは容易に破壊と殺戮をもたらしてしまう)」


 アニメにはない設定だから、どうしても対応が遅れてしまう。

 厄介な話だ。

 だから俺は、今懸命にラーベ王国を豊かにしようとしている。

 そうすることで、機械大人と機械魔獣による損害を即座に回復できるようにするためだ。

 リーフレッド王国は救えなかったが、エリオット王国と他四ヵ国はあえて救わなかった面も否定しない。

 ラーベ王国がこの地方を統一して国力と技術力を増やして大国化すれば、今後はもっと素早く機械大人と機械魔獣へ対処でき、すぐに損害の回復もできるというわけだ。

 完全に偽善だが、この世界が女帝アルミナスの手に落ちるよりはマシだと思うことにしよう。


「ダストンのくせにぃーーー!」


 再びブリザードを繰り出してきたが、フリッツは他に遠距離の用の武装がないようで、それがわかれば回避は余裕だった。


「なんてな! 『コールドミサイル』!」


「なんと!」


 ここで突然、フリッツのお腹が開いて巨大なミサイルが飛び出した。

 これもなんとか回避したと思った瞬間、後方至近で爆発し、同時に機体の左半身が凍ってしまった。

 操縦席に備え付けられたディスプレイに、『左半身機能低下』のアラートが表示される。


「超々銀河超合金アルファを凍らせるか……」


「どうだ?」


 フリッツはドヤ顔であったが、一時的に機能が低下しただけだ。


「新技だ! カイザーサンアタァーーーック!」


「うっ! あれ? こっちに飛んでこない? バァーーーカ! 失敗したのか?」


 機械魔獣たちを倒してレベルが上がり、新しい武装が解放されたのだが、俺はそれを極低出力にして外部に放出せず、全身に纏わせて凍り付いた左半身の解凍に成功していた。


「続けて、カイザーサンアタァーーーック!」


 絶対無敵ロボ アポロンカイザーの全身に太陽光を集め、それを敵に放出するエコな兵器。

 エコロジーの先端といった感じの設定があったのも、絶対無敵ロボ アポロンカイザーの特徴であった。

 ただ、当時はその思想は早すぎたのか。

 あまり注目は集めなかったけど。


「クソォーーー! 俺様の右腕がぁーーー!」


 フリッツは回避が下手で、俺のカイザーサンアタックによりフリッツの右指先は完全に溶けてしまった。

 あれでは、自動回復するまで何も掴めないだろう。


「こうなれば!」


 その後は、双方による空中戦が展開された。

 フリッツはブリザードを連続して放ってくるが、俺はそれを回避しながら次々と武装を繰り出していく。


「カイザーアイビィーーーム!」


「また当たった! クソォーーー!」


「お前の回避が下手だからだ!」


 脅威的な力を持つフリッツであったが、機械大人としてはかなり弱い。

 人間だった頃の戦闘力が機械大人や機械魔獣と化したあとの強さに直結するわけではないのは、母が強かったことからでもわかる。

 心の闇……鬱屈がいかに強いかが重要で、ただ贅沢できないで喚くフリッツが機械大人になれただけでも上出来かもしれない。


「ダブルアームトルネード!」


「クソッ! コントロールが!」


 さすがに機械大人は、ダブルアームトルネードの嵐で壊れたりはしなかったが、コントロールを失って地面に落下してしまった。


「アームミサイル!」


 同時にアームミサイルが降り注ぎ、フリッツの体には皹が目立つようになってきた。


「クソッ! クソッ! クソッ!」


「当然の結果だ」


 はっきり言って、フリッツは他のどの機械大人よりも弱い。

 機械魔獣でも、フリッツより強い奴はいた。

 なぜ機械大人に慣れたのか、本当に不思議なくらいなのだ。


「この俺様が、ダストンになんて負けるわけがないんだ! こんなことはあり得ないーーーっ!」


 そうやって不都合なことがあると、全部他人のせいにしてしまう。

 そう思いたければ、死ぬまでそう思っていればいいさ。

 お前の死は、もうそれほど先ではないのだから。


「覚悟はいいか?」


 俺は、無限ランドセルから取り出した豪槍(ごうそう)アポロニアスを構えた。


「俺様が、ダストンに負けるわけが……」


「現に負けつつあるだろうが」


 往生際の悪い奴め。

 これ以上時間をかける意味はないので一気にケリをつけようとするが、ここでフリッツが予想外の動きに出た。

 いきなり俺の傍から離脱して、後方にいるプラムに攻撃目標を変えたのだ。


「しまった! プラムを狙うのか!」


「はっはぁーーー! 俺様は頭がいい。ダストンの女を捕らえて人質すれば、簡単に倒せるじゃないか。やはり俺様は強いぜ!」


「人質を取って勝利し、自分の強さを誇るのかよ!」


「なんとでも言えばいいさ。勝てばいいんだよ。勝てば!」


 予想外のことだったのため、フリッツは俺が一撃加える前にプラムに迫っていた。


「これまで、こいつが後ろにいたのは戦闘力が低かったからだ! 天才である俺様にはわかるぞ! お前は支援役で弱いことがな! お前を人質にすれば!」


 フリッツは矛盾の塊だ。

 俺よりも優れていると言っているくせに、プラムを人質にして俺を倒そうと考えてしまうのだから。

 そうしなければ、フリッツは己の現実と真正面から向き合わなければならず、とっくに精神が崩壊していたかもしれないな。

 あいつの大言壮語と根拠のない自信は、やはり自分の心を守るものなのであろう。


「……」


「ダストン! お前の妻が乗っているんだろう? 人質に取られたら困るよなぁ」


「下種ですね」


「俺様に靡かない、処女でない女などいらんわ!」


「気持ち悪いので死んでください」


「弱いくせに……あがっ!」


 外見でセクシーレディーロボ ビューティフォーが戦闘向きないと判断したフリッツであったが、装甲は薄いが超々銀河超合金アルファ製であり、武装もそれなりに持ち、アニメでは何体も機械大人を倒している。

 機械魔獣に至っては、かなり数を仕留めていた。

 機体大人としては弱い方であるフリッツに対し、不覚を取るわけがないのだ。

 フリッツの胸には、為朝の弓から放たれた矢が深々と突き刺さり、あまりの激痛に彼は盛大に悲鳴をあげていた。

 人間が機械大人化すると、痛覚が残ってしまうのは欠点だな。


「このアマぁーーー! そのポンコツから引きずり出して裸にひん剥いてやる!」


「やれるものならですね」


「俺様は無敵だぁーーー!」


「バカな」


「ひゃぁーーー! 両足がぁーーー!」


 事前にプラムに貸していた無敵剣が一閃し、フリッツの両脚が斬り落とされた。

 続けて両腕も斬りおとされ、フリッツはその場に倒れてしまう。

 手足がないので、もう動けないはずだ。

 自動修復機能はあるが、アニメだと回復がとても遅かった。

 両手、両脚がこの状態では、元通りになるまで時間がかかるし、俺とプラムがそれまで待ってやる義理もないのだから。


「終わったな」


 俺とプラムは、両手と両脚を失ったフリッツを見下ろしながらそれぞれ武器を構える。

 残念だが、こいつに慈悲の心など無用だ。

 仏心がかえって他の犠牲者を増やしてしまうからだ。


「実の弟を殺すのか?」


「実の弟だからだ」


 母の時もそうだが、バルサーク伯爵領から追放する際に斬っておけば、こんなに多くの犠牲者はでなかったはずだ。

 俺の甘さが、今回の悲劇の原因なのだから。


「母の時と同じだ。ここで仏心を出して助けても、お前はさらに恨みを増して多くの犠牲者を生み出すであろう。覚悟を決めるのだな」


「わかった……俺様が悪かったんだ。せめて最後くらいは往生際よくだな」


「「えっ?」」


「なんてな! 最後の切り札! 『コールドボール』!」


 最後の最後で改心したのかなんて、一瞬でも考えた俺がバカだった。

 両手、両足を失ったフリッツは頭と体を丸めて球状に変化し、そのまま上空へと飛び上がった。


「まさか、最後にこんな切り札があったとはな!」


「しかし、倒されるのが遅くなるだけのことです! きなさい!」


「生意気な! コールドボールの威力を見るがいい!」


 回転している間に氷と冷気に覆われたボール状のフリッツは、高速で無敵剣を構えるプラムに襲いかかった。


「そこっ! なにぃ!」


「甘い!」


 的確な斬撃にも関わらず、プラムの一撃はフリッツに一切ダメージを与えられなかった。

 ボールを斬っても、まったく傷がつかなかったのだ。


「氷が俺様を助けているのさ」


「なるほどな」


 球状になり、自分の周りに氷を張ることで防御力まで上げたわけか。

 フリッツが最後の切り札であると、自信満々に言うわけだ。


「どうだ? ダストン。その槍も効果ないだろう?」


 続けて俺に体当たりしてきたので、豪槍(ごうそう)アポロニアスを突き入れてみたが、表層部分の氷の防御力が案外バカにできない。

 槍の穂先は簡単に弾かれてしまった。

 それどころか、フリッツの体当たりのせいで、俺は操縦席の中で大いに揺さぶられてしまう。


「コールドボールとなった俺様にダメージを与えられる奴はいない! 攻撃を続ければ、そのポンコツはじきに壊れて動かなくなる。俺様の勝ちだな! あーーーはっはっ!」


 勝利を確信したフリッツは、一人高笑いを続けていた。


「どうしたものかな?」


「どうもできないくせに。おっと、俺様もお前を許すつもりはないからな。せいぜい死ぬまでの時間を楽しんでおけ。嫁の方は、裸にひん剝いて俺の手下たちに与えてやろうかな?」


 相変わらずというか、これでよく貴族だったなと思えるほどの下品ぶりだ。


「……やってみるか……」


 俺は、再び豪槍(ごうそう)アポロニアスを構え直した。


「無駄なことを! いくぞ! コールドボール!」


「今だ!」


 フリッツが俺に向かって突進を開始した直後、構えていた豪槍(ごうそう)アポロニアスをその場に捨て、両腕を広げた。


「こいっ!」


「俺様を捕らえようというのか? まあ無駄なことだがな!」


 すでに高速での突進を開始した直後なので、フリッツは攻撃をキャンセルできなかった。

 進路を変えて俺への攻撃をやめようとしたが、俺がすぐに反応してフリッツを両手で抱えることに成功した。


「すぐにそのポンコツも動けなくなるさ! ブリザード!」


 逃がすまいと、俺がフリッフを両腕で強く抱えた直後、彼は全力でブリザード攻撃を仕掛けてきた。

 先ほどみたいに絶対無敵ロボ アポロンカイザーを凍らせて動けなくする意図があるのであろう。

 だが同時に、俺にもカイザーサンアタックという技がある。

 これで氷を溶かしてしまえばいいのだ。


「先ほどの攻撃か! しかし!」


 フリッツがブリザードをさらに強くし、俺はカイザーサンアタックを続ける。

 双方持てるエネルギーを限界まで使い、フリッツは俺を凍らせようとし。

 俺はそれを防ぎつつ、ボール状のフリッツを覆う氷を解かそうとした。

 わずか数分のことだと思うが、まるで一時間以上も根競べをしていたような感覚に襲われてしまう。

 そして……。


「俺の勝ちだな!」


 カイザーサンアタックの威力が勝り、フリッツを守っていた氷の塊が消えてしまった。


「だが、俺様を抱え込んでいる間は、ダストンは勿論、その女も攻撃できなぁーーーい! 残念だな!」


「そうでもないさ、プラム! やれ!」


「はいっ!」


 無敵剣を構えたプラムは、絶対無敵ロボ アポロンカイザーへのダメージを一切気にせず、俺に抱え込まれたままのフリッツを縦に一閃した。


「体が……ズレていく……」


「やはり、両手首が落ちたな」


 逃がさないためとはいえ、絶対無敵ロボ アポロンカイザーは両手首から先や指を斬り落とされてしまった。


「『修理』で直します」


 どうせ、プラムがすぐに直してくれるから問題ないけど。

 肝心のフリッツであるが、完全に真っ二つにされたのでもう駄目だろう。


「俺様が……こんなことに……。だが俺様は、絶対に死なないんだ!」


「好きにそう思っておけ」


「ダストォーーーン! 必ずや仕返しをぉーーー!」


 そこまで叫んだところで、真っ二つにされたフリッツは大爆発を起こしてバラバラになってしまった。


「終わった」


「そうですね……」


 実は、なにも終わっていないけど。


「リーフレッド王国他四ヵ国かぁ……。いまだ女帝アルミナス居場所はわからず、機械大人と機械魔獣の脅威は続く。準備が必要だ」


「私もお手伝いします」


「プラム、頼りにしているよ」


 フリッツを倒した俺たちであったが、その後は彼に統治機構を完全に破壊されたブルマイ王国、ドーラ公国、トワイト王国、アストハン王国の統治、食料の分配、復興の支援、開発と。

 絶対無敵ロボ アポロンカイザーとセクシーレディーロボ ビューティフォーは、暫くは休みなく働くこととなった。


 そして、今回の騒動で統治者を失った国々はすべてラーベ王国に吸収され、一気にこの地方唯一の大国へとのし上がったのであった。


 それは決して、俺が心から望んだことではなかったのだけど。

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