第六十九話 不良債権

「プラム、合わせるぞ!」


「はい!」


「「スタート!」」


 とにかく機械魔獣たちの数が多い。

 そこでまずは、俺が前衛、プラムが後衛で対応することになった。

 俺は豪槍(ごうそう)アポロニアスを構え、プラムは為朝の弓を構える。


「プラム、小さな機械魔獣からだ!」


「はいっ!」


 まずは後方から、プラムが為朝の弓で地面を走るネズミ型機械魔獣たちを射っていく。

 矢が急所に命中した瞬間、爆発するネズミ型機械魔獣と、矢が貫通して地面に縫い付けられたようになる個体もあったが、それらは俺が豪槍(ごうそう)アポロニアスでトドメを刺していった。


「スペェーーース、ブーメラン!」


 さらに、鳥型機械魔獣も次々と迫ってきたが、これは俺がスペースブーメランを投げて三体を一度に撃破。


「カイザーアイビィーーーム! フィンガーミサイル!」


 続けざまに、これまで魔獣相手には封印していた武装も使って、機械魔獣たちを倒していく。

 彼らも元は人間で、色々と事情はあったのかもしれないが、それに斟酌している余裕はなかった。

 一匹でも通してしまえば、街に甚大な被害が出てしまうからだ。


「ダストン様!」


「速い!」


 こちらの隙を突くように阻止線を突破しようとした狼型機械魔獣に向けて、咄嗟に俺は豪槍(ごうそう)アポロニアスを投げつけた。

 見事背中の真ん中を貫き、狼型機械魔獣は大爆発を起こす。


「そうきたか!」


 武器がなくなったと知るや、数匹の鳥型機械魔獣が一斉に襲いかかってきた。


「フィンガーミサイル!」


 フィンガーミサイルの連射で二体を落としたが、残りはダメージを受けただけなので、ダブルアームトルネードを使って鳥型機械魔獣を斬り裂き、同類同士を激突させて破壊する。


「またか! コールドフラァーーーッシュ!」


 再び狼型機械魔獣が阻止線を突破して人が住む場所に走り去ろうとしたので、コールドフラッシュで凍らせ動きを鈍らせる。


「アームミサイル!」


 トドメでアームミサイルを発射し、狼型魔獣の破壊に成功する。


「大忙しだな!」


 すでに多くの機械魔獣に接近されたプラムも為朝の弓を投げ捨て、無敵剣で機械魔獣を次々と斬り裂いていった。

 やはり、剣の腕前ではプラムに勝てないな。


「半分くらいでしょうか?」


「そんなところだな」


 あと半分か……。

 しかし不思議なのは、いまだ絶対無敵ロボ アポロンカイザーが大技を覚えられない点であろう。

 レベル1000超えくらいでは駄目ということか。


「しかし、まだ武器も武装も残っている! カイザーキィッーーーク!」


 最後の鳥型機械魔獣をカイザーキックで蹴り落とし、墜落したそれは落下地点を走っていた猪型機械魔獣と激突。

 双方が大爆発を起こした。


「地面に降りたぞ! 囲め!」


 やはり機械魔獣たちは、元人間のようだ。

 地面に降りた俺とプラムを、日十重二十重に包囲する知恵があるのだから。


「プラムは無敵剣のままでいいのか? 他の武器を貸すけど」


「これが一番使いやすいので」


 どうも俺は、岩城正平と違って無敵剣はあまり性に合わないようだ。

 そこで一番のお気に入り、カイザースコップを用いて鹿型機械魔獣の首を切断し、ネズミ型機械魔獣の脳天に一撃入れ、サイ型機械魔獣の前脚を斬り飛ばした。


「カイザースコップは素晴らしい武器だな」


 アニメだとほぼ土木工事専用であるカイザースコップだが、俺にはとても役に立つ武器であった。

 隣で華麗に剣を振るうプラムと比べてはいけない。

 武器とは、見た目だけではないのだから。


「大分減ったな」


「あと十体ほどでしょうか?」


 念のため、アトランティスベース(基地)に詰めているシゲールがレーダーでチェックしているので、俺たちを出し抜いてラーベ王国領内に入った機械魔獣はいないはず。

 後続もないようで、あとはこいつらを倒せばエリオット王国領内に軍勢を送れるだろう。


「クソぉーーー! 俺たちから苛酷な税を取って家族を飢え死にさせた王族の仲間のくせに!」


「俺たちは負け組じゃない! ラーベ王国や他の国で沢山税を取って贅沢に暮らすんだ!」


「弱者になったら負けだ! 俺たちは強者になるんだ!」


 次々と自分の考えを述べる機械魔獣たち。

 彼らは、エリオット王国の悪政で家族が餓死してしまったらしい。

 その恨みのせいで機械魔獣となり、エリオット王たちはもうこの世の者ではないのであろう。

 そして強者となった彼らは、今度は自分たちが弱者を搾取する番だと思って行動している。

 悲しい話ではあるな。


「(まさしく、ミイラ取りがミイラになったな)」


 このたとえは、この世界では通用しないか。

 それに彼らは気がついているのであろうか?

 機械大人や機械魔獣になってしまうと、別に食事なんてとらなくても生きていけることを。

 機械大人化した母はワインに執着したが、はたして味がわかっていたのか?

 フリッツもそうだが、人間を捨てて機械大人や機械魔獣になって力を手に入れても、機械の体では豪華な食事も、豪華なお酒も、綺麗な女性も楽しめない。

 傍に置いてコレクションするのがせいぜいなのだ。

 そしてなにが怖いかというと、機械の体ではその手の欲望を完全に解消できないので、それを満たそうと残虐性が大いに増してしまう。

 だから元の人間に戻せない以上、機械大人と機械魔獣は破壊するしかないのだ。


「我らはこれだけになってしまったが、まだお前たちに対抗できる策はあるぞ!」


「見るがいい! 『機械魔獣十面合体』を!」


「ダストン様、機械魔獣が合体しました!」


 単体では各個撃破されるだけだと悟った機械魔獣たちは、合体を試み始めた。

 俺はこの光景に見覚えがある。

 アニメでも、機械魔獣が合体したことがあったからだ。


「忠告しておく。合体しない方がいいぞ」


「はんっ! 負け惜しみを!」


「合体した我らの強さを、心して見るがいい! 機械魔獣!」


「「「「「「「「「「合体強化!」」」」」」」」」」


 俺とプラムの目の前で、合計十一体の機械魔獣たちが合体し、全高数百メートルはあるであろう巨大な……謎の塊にへと変化した。

 したのだが……。


「ダストン様、これってちゃんと動けるのですか?」


「無理」


 それはそうだ。

 いくらこの世界の機械魔獣が人間を青い石で変化させるものだとしても、機械である機械魔獣自体に合体用の機構や、それに合わせた同規格の合体装置がついていなければまともに合体などできない。

 ましてや動くことなど余計に難しいであろう。


「つまりただの塊なのですか?」


「そういうことになるかな」


 アニメだと、ちゃんと合体前提で製造された機械魔獣や機械大人はいたが、こいつらはとてもそうは見えなかった。

 そういう機構も見えなかったので、ただ集まっただけでしかないというわけだ。


「お前たちなどすぐにでも潰せるぞ!」


「そうかな? あっ!」


「急になんだ?」


 俺が突然声をあげたので、機械魔獣たちはそれに釣られてしまったようだ。

 合体とはいえ、主導するのが誰なのかわからない状態ではまともに動けないであろう。

 俺は、それもお前たちの弱点だと付け加えた。


「だからなんだ? すぐ傍にいるお前たちなど、造作もなく踏み潰せるさ!」


「はたしてそうかな?」


「そうやって俺たちの動きを止めようとして無駄だ! 俺たちに潰されろ!」


 合体した機械魔獣はゆっくりと足を……ただ猪型機械魔獣がくっついているだけだが……持ち上げ、俺たちを踏み潰そうとした。

 あまりにゆっくりなので、俺とプラムは余裕で回避してしまう。

 そして地面に足をつけたのと同時に、脚の付け根部分が大爆発を起こして猪型機械魔獣も誘爆。

 片足を失った合体機械魔獣はそのまま後ろに引っくり返った。


「なんだ? 急に爆発したぞ!」


「お前らはバカか!」


 どうして、合体機械魔獣の足の付け根が爆発したのか?

 それは、合体寸前に俺が絶対無敵ロボ アポロンカイザーのフィンガーミサイルを投げ入れたからだ。

 合体の精度がイマイチな機械魔獣たちはフィンガーミサイルをその身に噛み込んでしまい、それが地面に足をついた振動で爆発してまった。

 このように、計画的でない合体などかえって戦力を落としてしまうだけというわけだ。


「プラム!」


「はい!」


 あとは、倒れた合体機械魔獣に対し、カイザーアイビーム、フィンガーミサイル、コールドフラッシュ、ダブルアームトルネード、ロケットパンチ(爆破)、アームミサイル、パイオツミサイル、ヘッドレーザーなどを連続して食らわせたところ、合体機械魔獣は呆気ない最期を迎えてしまった。


「もうちょっとよく考えて戦えよ」


「最後の敵が一番弱かったなんて……」


 プラムは納得できなかったようだが、今は機械魔獣たちのせいで大混乱しているはずのエリオット王国だ。


『アップルトン! 速やかにエリオット王国の主要部を抑えるように!』


「はっ!」


 俺はすぐさま通信機で一軍を率いているアップルトン将軍に対し、エリオット王国占領を命じた。

 とはいえ、俺たちが先行する予定てなので戦闘は少ないであろう。

 物資も大量に持たせているので、被災者の支援が主な目的となってしまうはずだ。


「ラーベ王国の王様は、大きなゴーレムに乗っているのか。抵抗できない……する気力もないが……」


「ワシ等は先代王の統治のせいで困窮しており、先日も金属の魔獣のせいで街を破壊されてしまい、これからどう暮らしていけばいいものか……」


「これは……」


 すぐにエリオット王国領内に入ったが、どこもかしこもボロボロであった。

 あの機械魔獣たちが破壊したのであろう。

 ただ、残った建物の大半はボロく、人々もみずぼらしい格好をしており、それ以前からエリオット王による悪政で苦しんでいたようだ。


「王都も……一から再建した方が早そうだな」


 王様以下王族、大貴族たちは王都や王城ごと機械魔獣たちに破壊、殺されてしまったようだ。

 悪政の恨みを晴らすため、彼らは機械魔獣化したのであろう。

 その後、欲望と破壊衝動を抑えきれず、ラーベ王国領へと侵攻しようとして俺とプラムに討たれてしまったが。

 とにかく被災民が多いので、軍の仕事は彼らの救助、食料や物資の提供、臨時の難民キャンプの建設、破壊された町のインフラ補修、治安維持のみが仕事となった。

 エリオット王国の貴族たちは大半が機械魔獣に殺されてしまったので、軍勢を率いていたアップルトン将軍が軍政を敷くしかなかったが、俺たちは侵略者にも関わらず、無税で食料や物資をくれるので人気があった。

 機械魔獣たちに殺された王様や貴族たちを惜しむ声が聞こえないので、今までよく国を保てたなと、逆に感心してしまったのだ。


「陛下、王妃様。これはとんだ不良債権ですな」


 アップルトン将軍の正直な気持ちだが、多分俺も含めてみんな思っている。


「だが、これから不良債権が増えるんだよ」


 まずは、リーフレッド13世という名君を亡くしたであろうリーフレッド王。

 そして、今フリッツが侵攻している四ヵ国もだ。

 間違いなく欲望と殺戮、破壊衝動に駆られたフリッツにより甚大な被害が出るはずだ。

 しかし、先手を打って助けには行けない。

 間違いなく四ヵ国からいい顔をされないし、先手を打ってフリッツを倒したのに恨まれてしまうかもしれないからだ。

 なにより、ラーベ王国に侵攻しようとしていた機械魔獣たちを放置できなかった。

 他国の救援に向かうのが最優先で、自分の国が侵略されるのを黙って見逃す王なんて論外だからだ。


「アップルトン将軍、エリオット王国に駐留してくれ。必要な食料や物資は確実に輸送させる。税はしばらく取るな。どうにか人々が普通に暮らせるようにするのを最優先にする」


 というか俺、最初からまともに税を取れる土地を得た経験がないな。

 魔獣狩りとアトランティスベース(基地)で補填できなかったら、今頃完全に詰んでいただろう。


「陛下と王妃様は、次はどちらに向かわれますか?」


「リーフレッド王国だな」


 四ヵ国を蹂躙したあとのフリッツの侵攻先が予測しにくい。

 すぐにラーベ王国を目指すか、それともエリオット王国を狙うか。

 予測を間違えると、ラーベ王国か、アップルトン将軍たちラーベ王国軍が全滅してしまう。

 そこで俺とプラムは、急ぎリーフレッド王国の王都を落とすことにした。

 自分の留守中に本拠地を落とされたフリッツが激怒して向かってくるか、もし先の二つのどちらかに侵攻しても地理的に救援がしやすいのだ。


「なるほど。わかりました、エリオット王国領のことはお任せを」


 エリオット王国の占領は終わった……復興を考えると頭が痛いが……ので、俺とプラムは急ぎ王都を目指した。

 すでにボートワンとドルスメル伯爵の軍勢が先行しているはずなので、先発して王都を落としてしまっても問題ないだろう。


「ダストン様、機械魔獣などが配置されているのでしょうか?」


「それはないな」


 どう考えても、フリッツと俺たちが倒した機械魔獣軍団は連携していない。

 それにドルスメル伯爵から、フリッツに従順な貴族たちが王都の統治をしていると聞いた。

 フリッツに従順なら、絶対無敵ロボ アポロンカイザーとセクシーレディーロボ ビューティフォーを操る俺たちに全力で抵抗する勇気はないだろう。

 俺とプラムは、急ぎリーフレッド王国の王都を目指した。


「王城が崩壊しているな」


「一部貴族の屋敷もですね」


 貴族の屋敷の方は、フリッツが個人的な恨みを晴らしたのであろう。

 あいつにウサ晴らしに選ばれた貴族たちは不幸だったな。


「ひぃーーー! フリッツ様ではない化け物だ!」


「攻撃せよ!」


「無理ですよ!」


 さすがは、フリッツ如きに選ばれた連中だ。

 フリッツから王都を預かるという名誉と権限を得た彼らは、王国軍に俺たちに対する攻撃を命じていた。

 だが、彼らも死にたくはないので命令を受け入れない。

 当然と言われればそれまでか。


「もうすぐラーベ王国軍とドルスメル伯爵が指揮する軍勢も到着する! フリッツの犬は捕らえておけ!」


「「「「「「「「「「了解です!」」」」」」」」」」


「コラっ! 離せ! 王都を守り切らないと俺も殺されてしまうんだ!」


 フリッツから王都を預かっていた貴族たちが抗議の声をあげたが、すぐさま兵士たちによって捕えられてしまった。


「王都は無血で落としたけど……」


 数時間後。

 ボートワンとドルスメル伯爵の指揮する軍勢が無事王都の完全占領に成功したが、フリッツが四ヵ国を蹂躙したら必ず取り戻しに来るはずだ。


「その時こそが、俺とフリッツが決着をつける時だ」


「ダストン様」


「俺は大丈夫さ」


 実の母に続き弟と戦う羽目になった俺をプラムは心配してくれるようだが、こういう時、前世の記憶があってよかったと思う。

 あまり罪悪感と後悔を抱かずに済むからだ。


「フリッツ! 必ずお前を討つ!」


 俺とプラムは王都の復興を助けながら、四ヵ国を蹂躙したフリッツが戻ってくるのを待つのであった。

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