第六十八話 北部騒乱

「これは素晴らしい! 北の地において、多くの虐殺と破壊が行われ、妾のレベルが上がっておる」


「アルミナス様、それはよろしゅうございましたな」


「大量の赤い玉を召喚したのがよかったようだ。青い玉をまるで競争するかのように妾にレベルを献上してくれておるぞ」



 今回はとても上手くいったようじゃ。

 赤い玉と青い玉が、実にいい仕事をしてくれている。

 下等生物が同胞を殺し、その生活の場を破壊し続けていた。

 実に下等生物らしい、愚かな所業ではないか。


「しばらくは、妾にレベルを献上してくれるであろう」


「左様でございますな。ところでアルミナス様。この地下宮殿の工事ですが、バトゴアが第一期の拡張を終了させたそうです」


「そうか。バトゴアはよくやったな」


 しかしながら、まだこの地下宮殿は妾に相応しい規模となっておらぬ。

 さらなる拡張が必要であろう。


「それは勿論。バトゴアには、引き続き第二期拡張工事を進めさせております」


「それは重畳」


 全銀河系を征服するため、まずはこの惑星を妾の本拠地としなければならない。

 当然地下宮殿は、それに相応しい規模になるべきなのじゃ。


「とはいえ、妾が最盛期の力を取り戻すにはまだまだ時間がかかる。今は静かにしているしかあるまい」


 そのために、世界中に赤い玉と青い玉を召喚しているのだから。

 せいぜい頑張って下等生物を殺し、古き物を破壊してほしいものじゃ。

 そしてそのあとに、妾による新しい支配が始まるのだから。




「プラム、多数の機械魔獣が接近中だ! 数は……百を超えるな」


「それだけの人たちが、機械魔獣になってしまったのですね」


「悲しいことだ。しかしどうして?」


「エリオット王国の今の王は、悪政を働くことで知られていました。九公一民という酷い税率を設定したり」


「生活に絶望した人たちが、機械魔獣になってしまったのか。そして……」


「エリオット王は生きていないでしょうね」



 旧リーフレッド王国領であった北西部と、エリオット王国領との国境付近において、俺とプラムは砂煙を上げながらラーベ王国領内に侵攻しようとする機械魔獣の群れを発見した。

 これだけの数が、すでにラーベ王国を目指している。

 これではもうエリオット王国は、統治機構が崩壊しているはずだ。

 エリオット王も生きてはいまい。

 悪政の報いとはいえ、巻き込まれる国民たちが可哀想だ。


「シゲール!」


『はい、繋がりました。この通信機は実に素晴らしい性能ですな』


 今回の作戦では、直接の脅威に対応すろ俺とプラム。

 アトランティスベース(基地)と王都郊外の工房群で必要なものの生産と補給を担当するシゲール、アントン、ムーア。

 そして現在、リーフレッド王国領内に軍勢を差し向け、難民の保護や支援、生き残ったリーフレッド王国政府関係者との合流を目指しているボートワンと、広範囲でバラバラに動いているので、通信機を支給していた。

 今回は電池式だが、シゲールが使いやすい魔力仕様に改良する予定だそうだ。


「難民が増えそうだ。彼らに配る物資や、難民キャンプを建設する資材など。多めに頼む」


『お任せください。彼らを運ぶ車両なども必要ですか。あとは、建設用の車両もですか。ムーアトとアントンにも伝えておきます』


「頼む」


 続けて、ラーベ王国軍を率いているボートワンに通信を入れた。


「ボートワン、リーフレッド王国政府関係者は見つかったか?」


 残念ながら、これまでに得た情報によればリーフレッド13世とその家族、多くの王族の生存は絶望的であろう。

 それでも、重臣の一人でも生き残っていれば……。

 そう思って、ボートワンに探させているのだ。


『唯一、ドルスメル伯爵と彼が率いていた軍勢との合流に成功しております』


「ドルスメル伯爵か! 助かった!」


 彼はリーフレッド王国軍の重鎮であり、能力も優れている。

 統治者不在で混乱しているリーフレッド王国を上手く統治できるはずだ。


「話をしたいから呼んでくれないか?」


『もういる』


「ドルスメル伯爵、無事でよかった」


 アーベンの代官だった頃からの知り合いなので、そういう人が生き残ってくれていてよかった。


『悪運が強いんだろうな。だが、ダストン陛下。リーフレッド王国は駄目だぞ』


「駄目ですか?」


『リーフレッド王国を襲った災厄の原因は、ラーベ王国と同じだ。突然金属製の巨大ゴーレムが出現し、王城を完全に破壊してしまった。陛下以下、ご家族、その他の王族、閣僚クラスの大貴族たちも全滅だ。なにしろ真昼間に突然、一瞬で王城が崩壊したんだからな。誰も脱出する暇などなく、運悪くみんなその日は閣議で集まっていた……』


「そうですか……」


『もう一ある。その巨大な金属製のゴーレムだが、なぜかフリッツだと言い張っていてな。脅かして味方につけた貴族たちに、生き残りの王族、大貴族及びその家族などを捕らえさせ、自ら処刑しまくったそうだ。彼らは崩壊した王城の庭で踏み潰されて、現場は地獄絵図らしい』


 フリッツか……。

 母に続き、フリッツまでもが機械大人と化してしまったのか。

 そして、恨みを抱いていたグリワスを殺してしまった。


「次の狙いは俺ですね」


『そういうことだ。今さら詮無いことだが、陛下もダストン陛下も、フリッツをすぐに処刑しておけば。あいつの罪状では、せいぜい爵位を取り上げて追放が関の山だったけどな』


 ドルスメル伯爵の言うとおりだ。

 俺が甘かったから、フリッツ処分しなかったせいでこんなに多くの犠牲者が出てしまった。


「ダストン様のせいではないです。フリッツはリーフレッド王国の貴族であり、彼を処分する権限はリーフレッド13世陛下にしかなかったのですから。彼にそれを提言しなかった貴族たちもです」


『王妃様、年寄りを苛めないでくれ』


「まだ老ける年ではないと思いますが」


『そうなんだが……。今はそれぞれの仕事に集中するとしよう。あとのことはすべて終わってから考えるしかない。なにしろ、リーフレッド王国の統治機構は完全に壊滅したのだから』


 ドルスメル伯爵によると、フリッツは自分に従順な貴族たちに王都を統治させているらしいが、小物ばかりで能力も低いそうだ。

 そして、領地と伯爵位を奪われて騎士爵となり王都で隠棲していた時、自分をバカにしたり、借金を頼んでも断ったり、自分をバカにする貴族たちを惨たらしく処刑しているらしい。

 当然、王都の外などろくに支配できていないのだ。

 そして、この混乱を利用して南方に兵を進めようとする四ヵ国を討伐しに向かうそうだ。

 ラーベ王国周辺は、フリッツのせいで大きく荒れるであろう。


「俺はエリオット王国から侵攻する金属の魔獣を討ってから、エリオット王国を占領する。エリオット王国は……」


『難民、貴族、軍勢……。フリッツがラーベ王国に攻め入るまで、リーフレッド王国領内で救える者は救いましょう』


「ドルスメル伯爵?」


 咄嗟に彼の口調が変わったので、俺は驚きを隠せないでいた。


『綺麗事は言っていられない! 他の四ヵ国も、リーフレッド王国と同じような結末を迎えるはずだ! おっと、こっちに来るのはラーベ王国に侵攻しようとする敵を排除してからだ。唯一無事なラーベ王国領を、王様であるお前が見捨てるなよ! 今さら綺麗事はなしだ。俺の陛下はもういないんだ! なら、陛下が同格と認めたダストンが、フリッツを討ってこの地の混乱を治めるしかない! わかったな?』


「協力感謝する。功績には褒美と名誉で報いるだろう」


『それでいい……この年で仕える国を変える羽目になろうとはな……それでは』


 仕えることになんら不満がなかったリーフレッド13世を突然失い、ドルスメル伯爵は本当は泣きたかったはずだ。

 だが、今生き残っている人たちのために、変節漢、裏切者の汚名を被ってまで協力してくれるという。


「ならば、俺は迷ってはいけない! プラム! いくぞ!」


「はい」


 俺とプラムは、国境に押し寄せる様々な種類の機械魔獣を迎え撃つことになる。

油断は禁物だ。

 もし負けてしまうと、ラーベ王国が機械魔獣たちによって蹂躙されてしまう。

 俺たちは覚悟を決めて、機械魔獣たちに対し攻撃を開始するのであった。

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