第六十六話 久々の青い玉
「アルミナス様、本日はご機嫌ですな」
「ルース、ようやく新しい青い玉を召喚することに成功したのだ」
「それは素晴らしい! さすがはアルミナス様」
「機械魔獣の赤い玉だと数は出せるが、強い個体がなかなか出にくい。ゆえに、アポロンカイザーによって容易く殺されてしまう。すぐに殺されてしまうと破壊と殺戮が足りず、妾のレベルが上がりにくいのだ。やはり機械大人を作れる青い玉こそが本命であろう」
ようやく青い玉を召喚することができた。
これで強い機械大人がこの世界に出現し、破壊と混乱をもたらすことができる。
心に闇を抱えた下等生物の数は多く、その中でも特に強い負の感情を持つ者に青い玉は引き寄せられる。
鬱屈した下等生物は、用意に同胞を殺める。
下等生物に相応しいが、数は沢山いるので少しくらい減っても問題あるまい。
どうせすぐに増えるのだから。
「下等生物同士、せいぜいお互い潰し合えばよい。将来妾がこの世界を征服した時、新しく生まれた下等生物たちに、赤子の時からこの世界の支配者が誰なのか教えた方が楽なのでな。頑固で古くなった下等生物など、いくら潰しても問題ない」
古い下等生物は、愚かにも妾に抵抗するのでな。
妾が全盛期の力を取り戻すまでの時間を稼ぎもあるので、即座に潰すに限る。
「妾が、全盛期の力を取り戻すには時間がかかる。今回の機械大人は、多くの下等生物たちを殺し、町を破壊してくれるとが……」
アポロンカイザー如きに負けてほしくないものよ。
「今回は大丈夫でしょう。なにしろ、久々の機械大人の誕生ですから」
それならいいが、さて今度の青い玉はどこに向かうのやら。
せいぜい、多くのニンゲンを殺してくれよ。
「おかしい……なぜ俺様が……。おいっ! この俺様を誰だと思っている! 今すぐここから出さないと、兄に言ってお前らを罰してもらうからな!」
「お前のその言い分はもう聞き飽きたよ。陛下より事情は聞いている。お前の実の兄であるラーべ王が、お前の所業に呆れ果てて縁を切ったこともな。領地で悪政を働き、伯爵から騎士爵に爵位を落とされ、それでもなお、バカなことをして爵位まで奪われてしまった。お前がとんだ間抜けだったかということは国中に知れ渡っている。そこで暫く大人しくしていろ」
こんなバカなことはないんだ。
俺様は、バルサーク家の正当な跡取りなんだぞ!
スキルは火魔法で、おかしなスキルが出たダストンよりも優秀なんだ!
俺様に劣るダストンが王様になれたのだから、俺様はもっと高い地位に就けるに決まっている。
あいつよりもいい女を妻にできるはずなんだ!
いや、女たちだな。
世の中のいい女たちは、全員が俺様に惚れるはずなんだ!
「俺様は、この世界を統べるに相応しい男なんだ!」
「はいはい。自意識ばかり肥大して、現実が見えない奴は大変だな。その牢屋で一生吠えてな」
ただの牢番のくせに、俺様をバカにしやがって!
必ず報いをくれてやるからな!
「酷い飯だ! 俺様には相応しくない!」
「なら食うな! それだけ贅肉があれば暫く死なないだろう。もっともここにいる限り、お前の気に入る飯は出ないけどな」
俺様をバカにしやがって!
こんな酷い飯を食わせた報いを、必ずくれてやるぞ!
「ダストンの奴め! リーフレッド三十七世の愚王も同罪だ!」
「陛下はなんでこれを処刑しないのかね? 静かにしていろよ……って、結局飯は全部食ってるじゃないか……」
牢番のような小物にはわからないだろうが、俺様くらい有能な人間になると、一時の恥を忍んでも生き延びる能力が備わっているんだ。
俺様の爵位を奪った?
世界の王に相応しい、この俺様の爵位をだと!
愚王二人め!
必ずや俺様自らの手で殺し、国を奪ってやる。
リーフレッド王国とラーベ王国。
この二つを皮切りに、周辺国から、最後は世界を征服して俺様が世界の王となるのだ!
「お前の根拠のない自信の根源はなんなのかね? 大人しくしていろよ」
愚かな門番め!
俺様の威厳とオーラに恐れをなし、言い返してこなくなったか?
「さて、これからどうしよたものか……」
脱走する……のも難しいか。
ここは一時降伏したフリをして愚王に出してもらい、国家百年の刑を練った方がいいのか?
もしこのまま処刑ということになったら……俺様の才能を怖れる愚王ならあり得るか。
ダストンも、自分にとって脅威である俺様を消そうとするはず。
「(この俺様を消す?)ふざけるな! 俺様こそが世界の王に相応しいのだ!」
「うるさい! 静かにしていろ! なにが世界の王だ! お前の世界はその牢屋の中だ。どうせもうすぐ打ち首だろうから覚悟しておくんだな」
この俺様が打ち首だと!
「出せ! 出せよぉーーー!」
「ああもう、うるせえ!」
「がはっ!」
門番の奴!
槍の石突で、俺様の鳩尾を……。
高貴な俺様に対し、平民の門番が……。
「このようなことは……」
「うるせえ! 静かにしていろ!」
門番は俺様の前から消えてしまった。
この俺様が死刑だと?
バルサーク家の正統な跡取りであるこの俺様が!
「そっ、そんなことは……許されては……なんだ?」
頭上が眩しいので、みぞおちの激痛に耐えながら顔を上げると、なんと目の前に青く光る石が浮いていた。
とても綺麗で、見ていると石の奥に魅き込まれるような……。
「なにより力が湧いてきたような気がする。そうか! これこそが、俺様が世界を征服できるであろう力の源となるのか!」
わかった!
わかったぞ!
俺様が手を伸ばして青い石を掴むと、それは体の中に入っていった。
するとみるみる力が湧いてきた。
同時に俺様は理解した。
「進化だ! これは進化なんだ! 俺様は……あーーーはっはっは! これで愚王二人を殺すことができるぞ! リーフレッド13世! そしてダストン! 必ず殺してやる!」
そして、この世界を俺様の手に!
この世界は、相応しい支配者の手に渡るというわけだ。
「おいっ! うるさいぞ! また一撃食らいたいのか?」
「そういえばいたなぁ。門番」
世界の王になる俺様の鳩尾に、槍など食らわせやがって!
とても痛かったので、念入りに殺してやろう。
「なんだ? 急に静かにしろ!」
再び槍の石突による一撃を鳩尾に食らったが、まったく痛くない。
それどころか、槍が折れてしまった。
「なっ! なんだ!」
「俺様が世界の王に相応しい力を得た証拠だ。まずは、無礼なお前を殺してやろう」
できるような気がしたので、素手で鉄格子を曲げてみたら、簡単に牢屋から出られてしまった。
「急にどうして?」
「それは、俺様が神から選ばれた人間だからだ。さて、無礼な門番に罰をくれてやる」
「ふざけるな! 脱走の罪でお前を斬り捨てる!」
無駄なことを。
門番が剣で斬りかかってきたが、俺様の体が頑丈になっていたおかげで剣の方が折れてしまった。
「そんなバカな……」
「言っただろう? 無駄だって。まずはリーフレッド王国の愚王を始末し、この国を完全に征服するとしよう。だが、その前に……」
「なんだ?」
「お前だよ! お前! 世界の王になる俺様にあんなことをして。許されると思うなよ。おらぁ!」
「ぎゃぁーーー!」
さらに力が沸き上がってきたので、そのまま拳で門番を軽く殴ったら、粉々になって消えてしまった。
もの凄い力だ!
「世界の王たる俺様に、相応しい力じゃないか! まずはここを脱出……必要ないな」
ここは王城の地下牢だ。
青い玉によると、俺様は巨大化して圧倒的な力を得られるらしい。
世界の王になる俺様にとって、この城は狭すぎる。
どうせ建て直させるので、一旦壊してしまおう。
ついでに、リーフレッド13世も死ぬかな。
あんな奴、わざわざ見つけて殺すまでもない。
「本命は、ダストンだからな。必ずや俺様の手で殺してやるさ」
まずはリーフレッド王国の制圧だ。
逆らう奴は皆殺しにすればいいので、今の俺様にとっては児戯に等しいがな。
さあ、俺様による世界征服の始まりだ!
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