第六十二話 汚いカバ
「……出たな! 同類が!」
「お前と一緒にするな。俺はお前のように、心の闇には負けていない」
リーフレッド王国軍の南下を阻止している機械魔獣は、カバによく似ていた。
グリワスとリーフレッド王国軍の将兵たちはこんな魔獣を見たことがないと言っていたので、カバはこの世界にいないのかもしれない。
「とはいえ、こいつは元は人間なんだけど……。何者だ?」
「俺の名は、ヒースタック子爵。ここより南に領地を持つ独立領主だ!」
南方に領地を持つ貴族だったのか。
彼らが独立領主を名乗るのは、過去からずっとこの地にどこかの国が攻め込むと、すぐに降伏してその所属を変え、影響力が薄れると独立領主に戻る、を繰り返していたからだ。
独立領主なのに子爵を名乗っているが、これは以前にどこかの国から与えられた爵位であろう。
『外の大国から子爵に命じられるほど、自分の家は凄いのだ!』と、領地支配の正当性を証明するためというわけだ。
独立領主なのに、他国が与えた爵位を領地支配の正当性にする。
一見矛盾しているように見えるが、逆に言えば領地を円滑に支配するために、なんでも利用しているとも言える。
小さな領地の領主は色々と大変なわけだ。
「なぜリーフレッド王国に降らない?」
すぐに降れば、多分子爵に任じられて引き続き領地を任されるであろう。
リーフレッド王国も、降伏した独立領主たちの領地は一切奪っていない。
それ以上に未開地があるので、開発して直轄地を増やせるし、彼らを自国に所属させれば通商路を展開できる。
そうすれば、勝手に税収が上がるからだ。
「降ればいいだろう。そんなに悪い話ではない」
「悪くはないだろうな、だが……」
「だがなんだ?」
「それで、リーフレッド王国のいち貴族のまま生涯を終えるわけか。つまらない! 俺はせっかく独立領主に生れたんだ! 渇望して得たこの力を用い、この地方、リーフレッド王国、ラーベ王国を併合して偉大な王になってやる!」
つける薬がないとはこのことか……。
ヒースタック子爵はただ自分の野望を成就するため、赤い玉とやらを受け入れて機械魔獣になったわけだ。
「ラーベ王国を狙っているのであれば、もう容赦はしない」
元々機械魔獣になってしまった人を助ける術はないが……。
ヒースタック子爵はこのままにできない。
討つしかないだろうな。
すでにそれぞれのロボットに搭乗していた俺とプラムは、それぞれ豪槍(ごうそう)アポロニアスとスペース青龍刀を構えてカバ型機械魔獣と対峙した。
「お前が倒れれば、領地の人たちは降伏できるからな。覚悟してもらおう」
「ふっ、返り討ちだぜ!」
そう言うと、カバ型機械魔獣は『ドスン! ドスン!』と地響きを立てながら突進をしてきた。
しかも地球のカバと同じく、意外と足が速いのだ。
俺とプラムは、思わず左右に散ってカバ型機械魔獣の突進を回避してしまった。
「(象型と大きさが変わらず同じくくらい重たいはずなのに、機動性は上か……)」
「どうした? 俺の突進に恐れをなしたか?」
怖れてはいない。
ただ、予想外の速さだったので驚いただけだ。
次からは、ちゃんと対応できるさ。
「お前はそんなに強くない機械魔獣だな」
「なんだとぉーーー! 死ねえーーーい!」
再びカバ型機械魔獣が突進してきたが、二度目なので今度は余裕で対処できた。
よく見れば、やはり巨体なのでそこまで速くない。
意外性に翻弄されただけだ。
「「せぇーーーの!」」
俺とプラムは直前でカバ型機械魔獣突進をかわしつつ、両足をそれぞれの得物で攻撃した。
短い前脚は、右足がプラムが持つスペース青龍刀によって斬り落とされ、左脚は俺の豪槍(ごうそう)アポロニアスに貫かれた。
バランスを崩したカバ型機械魔獣は、地面につんのめりながら倒れてしまう。
「足がぁーーー! 痛いよぉーーー!」
人間が機械魔獣や機械大人となって多大な力を得た代償は、たとえ機械となっても痛みは感じること。
そして、壊れると生体ではないので自然治癒しないことだ。
アニメの機械魔獣や機械大人も、修理しなければ壊れたままであった。
機械は自然治癒はしないので当然だ。
「覚悟はいいか?」
「ひぃーーー! 助けてくれぇーーー!」
損傷した途端、カバ型機械魔獣は弱気になってしまったようだ。
助命を願ってくるが、残念ながら機械魔獣化した者をそのままにしてはおけない。
今は両脚を修理できなくとも、他の機械大人や機械魔獣が修理を行い、恨みに思ったカバ型機械魔獣がラーベ王国に被害をもたらすかもしれないからだ。
「可哀想だが容赦はできない」
「そんな! そうだ! 俺の領地をやるから! なあ? 助けてくれよ」
「お前、独立領主でないと嫌なんだろう?」
だからリーフレッド王国に降伏せず、軍勢にもハンターたちにも大きな損害を与えた。
一見弱そうに見えるこいつは、すでに多くに人間を殺しているのだ。
「別に、領民なんていくらでも殺していいから! リーフレッド王国軍の恨みは領民たちで晴らせばいい。俺は命だけ助かれば」
「とんでもない人ですね」
「そうだな」
自分が強硬に抵抗してリーフレッド王国軍やハンターたちに被害を与えておいて、その恨みは領民たちで晴らせばいいと言い張るカバ型機械魔獣。
プラムが呆れるのも無理はない。
「逆だ」
「はい?」
「逆じゃないか。お前は、リーフレッド王国軍の怒りを買っているんだ。助命なんて絶対に認められない。だからこそお前の領地の領民たちに被害が出ないよう、お前には消えてもらう」
公式には、カバ型機械魔獣は逃げて行方不明ということになるが、グリワスは俺とプラムが破壊したことを知っている。
こいつの元領地が酷いことにならないよう、配慮してくれるであろう。
「そのためにも……」
お前には死んでもらわないといけない。
俺は、豪槍(ごうそう)アポロニアスを構え直した。
「そんな……助けてくれ!」
「最後くらい潔くしろ」
「……」
静かになったので、もう観念したのかな?
……と思ったら。
「きぇーーーっ!」
突然、カバ型機械魔獣がこちらに向かって飛び掛かってきた。
その重量で一気に俺を圧し潰すつもりか。
「だが、そんな攻撃は通用しない!」
俺はその場に豪槍(ごうそう)アポロニアスを突き刺し、そこから離れた。
前両脚が駄目になり、渾身のジャンプののちに俺に飛び掛かったカバ型機械魔獣がそれをかわせるはずもなく、地面に刺さった豪槍(ごうそう)アポロニアスの穂先に向かってダイブする形になってしまった。
「うごげぁ……しょっ、しょんな……」
カバ型機械魔獣の喉から背中にかけて、豪槍(ごうそう)アポロニアスが一気に貫通した。
これではもう助かるまい。
「心に闇を抱えし者よ! 消え去れ!」
「しょんなぁーーー!」
カバ型機械魔獣は大爆発を起こし、その所業と言動に相応しい最期を迎えた。
その体は爆発でバラバラに飛び散り、地面に突き刺した豪槍(ごうそう)アポロニアスは傷一つない状態であった。
やはり、超々銀河超合金アルファ製の武器は優秀だな。
「また無事に倒せてよかったよ。これもプラムのおかげだな」
「ですが、このバラバラに飛び散った破片を回収ですか?」
「それしかないなぁ……」
今になって気がついた。
軽々しく機械魔獣の残骸はすべて回収すると言ってしまったが、考えてみたら機械大人と機械魔獣は倒すと爆発してしまうので、残骸の回収がえらく面倒なのだ。
「急ぎ残骸と破片を拾って帰ろう」
「そうするしかないですね」
機械魔獣は早く倒せたが、まさかこんな罠があるとはな。
それから一時間ほど、俺とプラムは機械魔獣の残骸を隈なく拾ってからその場をあとにするのであった。
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