第六十一話 妨害 

「塩か……大変ありがたい。お茶とケーキがあるので休んでいくといい」



 王城に到着し、リーフレッド13世に塩の話をするととてもありがたがっていた。

 本当に、他国から塩の値段を釣り上げられていたようだ。

 王城の倉庫に塩を入れに行ったが、軍事行動をしているせいもあるのであろう。

 在庫がほとんどなかったのだから。


「ご覧のとおりだ。金がないわけではないが、他国が塩の値段を上げてきたのだ」


「南進開始前に集めなかったのですか?」


「それは当然したが、あまり露骨にやると目立つのでな。軍を動かすことにも気がつかれてしまう」


 塩が手に入ったリーフレッド13世は悩みが一つ減ってストレスが減ったのであろう。

 表情が穏やかになったが、少し疲れているようにも見えた。


「南方でなにかありましたか?」


「……プラム殿は鋭いな。ラーベ王、浮気は困難だな」


「するつもりはないですけどね」


 だって、プラムが奥さんなら他の女性はいらないよなぁ。

 俺的に言わせてもらえば。


「夫婦仲が良好でいいことだ。実は、我が軍は足止めを食らっている。ラーベ王とプラム殿が複数倒したアレだよ。金属製のゴーレムや魔獣さ。見たこともない金属製の魔獣が、我らの南下を阻んでいるわけだ」


 機械魔獣が南方にも出現したのか。

 しかしながら、機械魔獣ということは女帝アルミナスもそうポンポンと機械大人を生み出せない。

 つまり、不完全な状態ということになる。

 だが、俺とプラムもまだアニメに出てくる岩城正平やアンナ・東城のようには活躍できない。

 女帝アルミナスの居場所も知れず、今は自分たちを強くするしかない。

 自身と、ラーベ王国をだ。


「ハンター有志を向かわせたのだがね」


「それは……」


 暗黒竜相手でもあの様なのだ。

 それよりも強い機械魔獣を、いくら上位のハンターたちとはいえ倒せるわけがない。

 多分、かなりの犠牲者を出したはずだ。


「ラーベ王の予想どおりだ。ハンターたちに多くの犠牲者が出た。もう討伐を引き受けてくれないだろうな」


 やはりそうなったか……。

 腕に自信があるトップランカーたちばかりが向かい、機械魔獣に逆襲を受けて多くが死んだのであろう。

 あまりの惨状に、続けて機械魔獣の討伐を引き受けるハンターたちがいないと。


「まさか、死ぬとわかって向かわせるわけにもいくまい。南方攻略にも、その後の開拓にもハンターたちは必要なのだから」


 通常の魔獣を排除するのにハンターは必須だからだ。

 勝てない相手にぶつけて消耗させる余裕はないか。


「どうしてものか、迷っている」


「俺とプラムで引き受けましょうか?」


「いいのか? しかし……」


「多少胡乱な方法ですけど……この条件を受け入れてくれるのなら」


 リーフレッド王国は貴重な同盟国であり、リーフレッド13世は優秀で物分かりもいい人だ。

 彼に協力した方がいいだろう。


「まずは、俺とプラムの二人だけで倒すので、軍勢を下げて誰も見れないようにしてください」


「そうだな。暗黒竜の件や、旧ブロート子爵領での件もある。ラーベ王とプラム殿の特殊なスキルはなるべく他人に、それも他国の者にに見せない方がいいか」


 当然であるが、リーフレッド13世は俺とプラムのスキル、本当は俺たちが暗黒竜を倒したとこと。

 そして、旧ブロート子爵領で母が機械大人化し、俺たちが倒したことも知っていた。

 そのくらい掴めなければ、その国の王など務まらないので当然か。


「俺は、バルサーク伯爵を恨んでいる」


「父をですか?」


「これほどのスキルを持つ跡取りをわざわざ廃嫡しおって。人を見る目がなさ過ぎる」


 それで跡取りになったのが、あのフリッツだからな。

 しかも彼は、継いだバルサーク伯爵領を悪政で崩壊させ、暗黒竜騒動で荒れた領地を競売で買い取り、私財を入れて立て直していた俺の領地に攻め入ろうとした。

 それなのにリーフレッド13世は、フリッツを王都に引き取って年金まで与えているのだ。

 色々と思うところがあるのであろう。


「父は……人間だったのですよ。やはり」


「そうだな」


 父は、自分の血を引いていない、ましてや弟の血を引いていた俺を跡取りにしたくなかったのであろう。

 それはよく理解できるのだ。


「どのみち、リーフレッド王国ではそなたを抱え込めなかったか。他国の王にするというのも苦肉の策だったのだ」


 俺とプラムみたいなスキルを持つ奴を、わざわざ家臣にはしないか。

 少しでも期限を損ねたら……とか考えてしまうからだ。

 それは今でも同じだが、王と王妃という義務つきの枠に嵌めた方がいいとリーフレッド13世は考えたわけだ。


「詮ないことを言った。続けてくれ」


「いつの間にかいなくなっていた。それでよろしいですか?」


「報酬は?」


「貿易の代金で少しずつ」


「それがいいな」


 南方の機械魔獣は、俺とプラムだけで倒して残骸を回収。

 リーフレッド王国軍には、『いつの間にかいなくなっていた』ことにしてもらう。

 俺とプラムには経験値が入るから問題なく、報酬はこれから始まる貿易の代金で少し色をつけてさり気なく支払っていくことにした。

 これなら、俺たちとリーフレッド13世だけが口を噤めば問題ない。

 国家間だと発生する問題も、これでなかったことにできるわけだ。


「すまない。まさか助けてもらえるとはな」


「俺は、元リーフレッド王国の貴族なので」


「それでも、今はラーベ王国の王だ。国同士の貸し借りの問題は大きいのでな」


 個人同士なら、『このくらいでいいよ』くらいで済む話が、国家が絡むと大きな問題になってしまう。

 仕方がないと言われればそれまでだが。


「当然、打算がないわけではありません。最近、おかしいと思いませんか? 金属製の巨大な人型ゴーレムに、金属の巨大魔獣。しかも、人がそのような姿になってしまうのですから」


 全銀河全滅団と女帝アルミナスの件は説明しにくいので、俺は連続して発生したこれら事件に黒幕がいることを匂わせた。


「誰かが、あのようなものを発生させ、我らを混乱させていると? 最終目的は……侵略かな?」


「その可能性は高いです」


 女帝アルミナスは、全銀河系の征服を目標としていた。

 この世界を標的にしていないわけがないのだが、他の国に機械魔獣が出ても俺は手を出せない可能性があった。

 ハンターのままなら、怪しげな奴に機械大人や機械魔獣を倒すことを任せないかもしれない。

 国家としてのプライドがあるので、まずは国軍による討伐を目指すからだ。

 国王である俺が倒そうとしても、やはり他国の王様に機械大人と機械魔獣の討伐は任せないだろう。


「そんなわけで、せめて二ヵ国間では、この脅威に共同して立ち向かうという共通認識がほしいのです」


 二か国で訴えれば、他の国も聞き入れるかもしれないというのもあった。

 だから俺はリーフレッド王国を、いやリーフレッド13世を助けるのだ。

 なにより、自国の反発を抑えてラーベ国王にしてもらった恩もあるので、それを返さなければ。


「貸りを返して、これで平等ってことで」


「そうか、ありがたい。しかし、人間があのような化け物になってしまう。不思議な話だ」


「人の心の闇を黒幕は利用しているのです」


 母は、贅沢への渇望。

 前ラーベ王は独裁への野心。

 スタッカー伯爵は東部の統一と、ラーベ王国の併合という野望。

 そして大型船を沈めた者は、自分を破産に追い込んだ大商人たちへの復讐。

 誰にでもああなってしまう可能性があり、これからも警戒を続けなければならない。

 だからこそ、両国は協力し合わなければならないのだ。


「ダストン……お前は王の器だな」


「そうでしょうか?」


「本人は意外と気がつかないものだ」


「陛下もですよ」


「俺のファーストネームはグリワスだ。そう呼べ。敬語もいらん。俺たちは同じ王同士。なにを遠慮する必要がある」


 俺はもうラーベ王国の王なので、リーフレッド13世に敬語を使うのも変か。


「グリワス、早速その機械魔獣を倒してくる」


「あの化け物、機械魔獣というのか」


「自分でそう名乗っているからな」


「そうか、頼むぞ」


 グリワスから極秘依頼を受けた俺とプラムは、急ぎリーフレッド王国の南下を防ぐ機械魔獣の元へと飛んで行くのであった。

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