第五十九話 初の水中戦 

「ようし、予定どおり目的の海域に到着したぞ」


「ダストン様、機械魔獣の姿は見えますか?」


「まだ見えないな。すぐに姿を見せると思うけど……」



 無事予定の海域に到着したことをプラムに無線で知らせると、彼女は機械魔獣がいるかどうか聞いてきた。

 早速各種センサー類で探ってみるが、まだ姿を見せていないようだ。


「勘づかれたか?」


 機械魔獣は、大型船がほぼハリボテで、中に絶対無敵ロボ アポロンカイザーが入っていることに気がついた?

 だから姿を見せないのかもしれない。

 などと考えていたら、レーダーとソナーに反応があった。


「時速五十ノット! 来たな!」


 この世界でそのような高速で動けるものといえば、シゲールが開発した車やトラックに似た魔法道具か、魔獣のみであった。

 しかもここは海上であり、やはりシゲールが開発中の小型高速ボートも完成していない以上、水生の魔獣かこの船を狙った例の機械魔獣であろう。

 船体に開けた穴から除くと、高速で迫る巨大なヒレが見えた。

 どうやらサメ型の機械魔獣がこのハリボテ大型船の船底をヒレで斬り裂き、一気に沈める作戦らしい。


「大型の船のみを沈めるか……」


 象型の機械魔獣になってしまったスタッカー伯爵のように、あのサメ型の機械魔獣も誰か誰か負の感情を持った人間が、女帝アルミナスの放つ赤い石のせいでああなってしまったのか。

 もしそうだとしても、今のところ機械魔獣化した人間を救う手立てはない。

 他人に害を及ぼすのであれば、討つ……破壊するしかないのだ。


「そこで、このカイザースコップを使うのだ」


 スコップは、アニメでもちゃんと武器として使用していた。

 ワンシーンだけで、あとは地面とか掘っていた謎の武器だったけど。


「いくぞ!」


 勝負は一瞬だ。

 勿体ないけど外側の大型船戦闘で壊れることが想定されており、破壊しても構わないとシゲールから許可を取っている。

 サメ型の機械魔獣が今にも船の船底を斬り裂こうとする寸前、俺は船を内部から破壊して飛び出し、カイザースコップで脳天に一撃を入れるのだ。

 いかに機械魔獣とて、頭を破壊されれば機能を停止してしまうはず。


「(まだだ……まだ焦るな)」


 徐々にサメ型の機械魔獣が迫ってくるのが見えるが、まだ飛び出すタイミングではない。

 ギリギリのタイミングで船の外装をぶち破って攻撃しないと逃げられてしまうし、もしそうなった場合、俺は足場がなく機動力で不利な水中戦闘をしなければいけなくなる。

 近づいてきたところを一撃(カイザースコップ)が基本だ。


「(まだだ。ギリギリまで我慢するんだ)」


 船の中に隠れて絶妙なタイミングを待つ。

 サメ型機械魔獣のヒレが高速で接近しているにも関わらず、とても長い時間を待っているかのようだ。


「今だ!」


 今にもサメのヒレが船底に触れようかというその瞬間、俺はジャンプして船の甲板をぶち破り、一気にサメ型の機械魔獣の上空に飛び上がった。


「覚悟!」


 そしてカイザースコップを両手で構え、上空からサメ型機械魔獣の頭頂部を狙って刃を突き入れた。

 これで終わりだと確信した俺であったが、予想外の事態が発生してしまった。

 なんと、カイザースコップの刃がサメ型機械魔獣の頭部を滑り、背中も滑り、最後にヒレを綺麗に斬り落としてから、絶対無敵ロボ アポロンカイザーは海に転落してしまった。

 そしてその直後、サメ型機械魔獣の尻尾で叩かれ、俺は海の中でグルグル回る羽目になってしまった。

 さすがに絶対無敵ロボ アポロンカイザーの存在に気がついたサメ型機械魔獣が、今度はこちらを標的として突進してくる。

 これはどうにか回避し、俺は再び空中へと飛び上がった。


「ダストン様! 大丈夫ですか?」


「しくじってしまった」


 無線からプラムの心配そうな声が聞こえてきた。

 大型船を沈めたヒレは斬り落とせたが、この程度で死ぬ……活動停止する相手ではない。

 とはいえ相手は水中にいるので、俺の正体がバレてしまった以上、次はどうすればいいのか。

 考えていると、なんとサメ型機械魔獣が浮かび上がり、俺に声をかけてきた。


「俺の復讐を邪魔するか!」


「復讐?」


 サメ型機械魔獣は、大型船に恨みでもあるのか?


「俺は……元は商人だったんだ! 小さな船で商いをしていた」


 だが、大きな船を持つ大商人たちに市場を奪われ、挙句のはてに大切な船まで借金のカタとして取り上げられてしまったそうだ。


「大きな船が憎い! 挙句に果てに、他国との貿易だと? 俺だって、船が残っていればラーベ王国との貿易でチャンスがあったんだ!」


「(いや、ないだろう……)」


 小さな船しか持っていない商人が、他国との交易などできるわけがない。

 この世界の旧来の帆船では、大型船でも遭難する確率が低くはないのだから。

 ましてや、このサメ型機械魔獣の人の船は小型だった。

 他国との交易で海を渡ることなんてできないのだから。


「うるさい! 俺の夢を潰しやがった大型船はすべて沈める!」


「無理じゃないか?」


 だって、俺は背ビレを斬り落としてしまったのだから……あっ、尻尾でやればいいのか。


「舐め腐りやがって! 俺はこの海域の海底に隠れながら船を狙ってやる!」


「それは辛いからやめてくれ」


 そんな通商破壊作戦はやめてくれ。

 せっかくラーベ王国が、貿易で稼ぐ算段をつけたのだから。


「俺は水中いる。悔しければここまで来るんだな」


 絶対無敵ロボ アポロンカイザーを見て、水中戦は不得手だと分析したわけか。

 だから俺を水中に誘っているわけだ。


「(……仕方があるまい)プラム」


 俺は、無線でプラムを呼び出した。


「遺憾ながら、絶対無敵ロボ アポロンカイザーは水中戦に移行する。プラムは上空で待機していてくれ」


「わかりました」


 どうにか乱戦に持ち込んで、サメが水上に体を出したところでプラムに上空から攻撃させるか。

 為朝の弓を持っているので、狙撃が可能なはずだ。

 銃器……は、アニメにも出てきたが、もっとレベルが上がらないと解放されないのかな?


「お望みどおり、水中で戦ってやる!」


 俺はサメ型機械魔獣の挑発に乗り、上空から水中に飛び込んだ。


「だと思ったぜ! 不用意に水中に飛び込んだことを……クソッ! 避けやがった!」


 着水直後を狙ってサメ型機械魔獣が突進してきたが、それは予想できたので回避できた。

 今度は、尻尾による最後の攻撃もちゃんとかわしている。


「サメだから、攻撃の手段が限られるな」


 他の動物型機械魔獣のように、手足がないから当然か。


「クソッ! 避けられたか! だが!」


 まるで闘牛のように、サメ型機械魔獣は俺への突進を繰り返した。

 何度避けられても、またUターンをして襲いかってくる。

 それに慣れてきたと思った瞬間、突然サメ型機械魔獣がその大きな口を開けた。

 開けたのだが……。


「なんだ? これは?」


 機械魔獣だからであろう。

 その体の大きさに合わない巨大な口を開け、その歯は大きく、下手な刃物よりも尖っているように見える。

 なにより、その口が大き過ぎて多少回避しても口の範囲から逃げられなかった。

 絶対無敵ロボ アポロンカイザーは、右肩と肩の部分をサメ型機械魔獣により噛まれてしまう。

 超々銀河超合金アルファ製の絶対無敵ロボ アポロンカイザーの装甲は破られていないが、ギシギシというキシミ音が操縦席内にも聞こえてきており、このままでは右手と右肩が食い千切られてしまうかもしれない。


「機械魔獣にしては強敵だな」


 アニメでも強い機械魔獣が何体か出てきたが、それと同じかもしれない。


「外さなければ……」


「させるか!」


 サメ型機械魔獣はさらに噛む力を増し、ますます操縦席にキシむ音が鳴り響く。

 続けて、俺を咥えたまま高速で泳ぎ出した。

 そのせいで俺は水流によって揉みくちゃにされ、脱出どころではなくなってしまう。


「右腕と右肩を食い千切ったら、次は反対側か? 足を食い千切るか? 場所を選ぶのが楽しみだぜ」


「いい気になりやがって」


「俺が得意な水中では、なにもできないくせに! 負け惜しみか?」


 サメ型機械魔獣の奴。

 もう勝ったつもりらしいが、それこそ油断大敵であろう。

 そう思った次の瞬間、水上からなにかが勢いよく落ちてきてサメ型機械魔獣の背中に突き刺さった。

 一本だけでなく、二本、三本と。

 確認をしたら、為朝の弓から放たれた矢であった。

 どうやらプラムが上空に辿り着いたようだ。


「またか!」


 四本、五本、六本と。

 次々にサメ型機械魔獣の背中に矢が突き刺さっていく。

 だがやはり、水中抵抗のせいで背中の深くにまで矢が刺さっていなかった。

 ダメージが少ないのであろう。

 サメ型機械魔獣は、すぐに余裕しゃくしゃくな態度を崩さなかった。


「水中こそが俺のホームなのだ! たとえ二対一でもな! 残念だったな」


「そうでもないさ」


 俺が、絶対無敵ロボ アポロンカイザの武器について知らないことなんてほとんどない。

 何本も刺さった矢にはちゃんと意味があるのだ。

 今、お前はそれを知ることになる。


「爆破!」


「なんだとぉーーー! ぎゃぁーーー!」


 為朝の弓で放たれる矢であるが、貫通力重視の矢と、矢尻が爆弾になっている矢。

 他にも特殊効果のある矢など。

 実に多彩なバリエーションを誇っているのだ。

 一度に数本の矢が背中で爆発したため、サメ型機械魔獣は背中に大きなダメージを受けてしまった。

 さらに上空から数本の矢が突き刺さり、やはり爆発して背中に大きなダメージを受けてしまう。


「こんなはずでは……」


 あまり機械魔獣に苦戦できないのでね。

 絶対無敵ロボ アポロンカイザーは、機械大人に勝利できるロボットなのだから。


「まだ俺を咥えているのか? もしかしてお前、まだわからないのか?」


「そうか! 水深が!」


「ご名答」


 確かに水中での絶対無敵ロボ アポロンカイザーは機動力に欠ける。

 だがその浮力はかなりのもので、サメ型機械魔獣は知らず知らずのうちにいつもより浅い場所で俺を振り回していた。

 そこを、上空に到着したプラムに狙撃されたわけだ。


「クソッ!」


 サメ型機械魔獣は絶対無敵ロボ アポロンカイザーを口から放ち、矢が届かない水深まで移動した。


「ダメージはないけど、装甲が傷だらけだろうな」


 まあ、アトランティスベース(基地)で修理できるから問題あるまい。

 それよりも、ダメージが大きいサメ型機械魔獣だ。

 俺も水深深くまで潜り、サメ型機械魔獣を追いかけた。


「ああはっ! バカめ! 水深の深いところは俺のテリトリーだ!」


「また俺を咥えると浮上してしまうぞ」


「俺が一度噛んだ右肩と右胸の部分。同じ場所を噛めばすぐに食い千切れるさ!」


 多少は知恵が回るようだな。

 だが、お前は一つ大切なことを忘れている。

 それは……。


「噛み千切ってやる!」


「何度も同じ手を食らうか!」


 さっきは、予想以上に口が大きくなったから回避が間に合わなあったのだ。

 今の俺は、サメ型機械魔獣の口の大きさをちゃんと記憶している。


「避けるのか?」


「違うな!」


 俺は再びカイザースコップを構えると、そのまま喉の奥に向かって泳ぎ出した。

 そしてそこにカイザースコップを突き立てると、頭部や背中の表面とは違って内側は柔らかいようだ。

 スコップの刃は深く突き刺さり、サメ型機械魔獣の脳味噌や延髄に相当する部分を破壊した。


「ひぎゃーーー!」


 生物なら即死レベルの致命傷を受けたサメ型機械魔獣は、これまでに聞いたことがない悲鳴をあげながら海底に向かって沈み始めた。

 俺がサメ型機械魔獣の口をこじ開けて脱出すると、そのまま静かに海底へと沈んでいく。

 数十秒後、爆発音と振動が操縦席に響き、これにて無事サメ型機械魔獣の破壊に成功したのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る