第五十七話 王の立場
「最近勃興した謎の国家及び組織で、金属製のゴーレムや魔獣を操るところですか……。今のところ、それに該当するところの情報は入ってきておりませぬな」
「そうか……引き続き情報収集を続けてくれ」
「はっ!」
俺とプラムの目の前から、ラーベ王国の諜報責任者であるボンド・キリガクレが姿を消した。
すぐにその顔を忘れてしまいそうなほど特徴がなく、その前に会う度に容姿が違うので変装しているのであろう。
彼は、ラーベ王国のどこかの里山に住むキリガクレ一族の当主なのだそうだ。
非常に諜報活動に優れた一族なのだが、残念ながらここ数代のラーベ王は彼らをちゃんと使いこなせていなかった。
ボンドによると、王族や貴族が政敵のスキャンダルを探らせたり、度々予算を削られたり。
もう他国に引っ越そうかという時に王が俺に代わり、予算増額、爵位の授与、世界中の情報収集を頼み、多額の経費を出したらなんとか留まってくれた。
この手の人材や組織をちゃんと運用できる国家なり王様というのは、案外あまりいないというわけだ。
情報は目に見えないからな。
俺の場合、この世界のどこかに復活したであろう女帝アルミナスを探さなければならないので、彼らが必要だったわけだ。
彼らが俺に忠誠を誓ってくれる……ところまでは期待していないが、仕事さえしてくれたらな。
予算も、名誉もちゃんと与えるさ。
「ダストン様、南方に機械魔獣が出現しました。ですが……」
「今のところは手を出せないな」
ボンドは優秀な諜報担当であった。
女帝アルミナスはまだ見つかっていないが、現在南方において一体の機械魔獣が出現し、南方攻略を進めているリーフレッド王国軍を完全に足止めしているそうだ。
現在リーフレッド13世は、機械魔獣を倒すハンターたちを募っていると聞くが……。
ハンターたちでは難しいだろう。
プラムはハンターたちを心配しているようだが、俺たちはもう手を貸せないのだ。
もしラーベ王国の国王と王妃が勝手に機械魔獣を倒せば、リーフレッド王国との関係がおかしくなってしまうのだから。
「リーフレッド13世からの依頼があれば……」
とはいえ、これをしてしまうとまた問題が起こってしまう。
「せっかくリーフレッド王国が南方を独占できるようにしたのに、またそれが崩れてしまうからなぁ……」
リーフレッド13世は、ラーベ王国の新王になった俺に対する祝いとして、旧バルサーク辺境伯領を含む北部を譲渡した。
暗黒竜と機械大人化した母が荒廃させてしまった場所が多く、バルサーク辺境伯領は順調に発展していたが、俺から取り上げると領民たちの不満が大きくなる。
という事情があるにしても、戦争に負けてもいない国家が土地を譲渡したのだ。
再び南方攻略にラーベ王国が参加するような事態は、陛下も避けたいはず。
ゆえに、俺たちはその機械魔獣に手が出せないというわけだ。
「難しいですね」
「難しいんだよなぁ……」
俺たちが国を背負っていなければ、すぐにでもその機械魔獣を助けに行けるのだけど、ハンターのままだと復活した女帝アルミナスを探すのが難しくなってしまう。
自由に使えるようになったアトランティスベース(基地)だが、ハンター個人で持っていたら軋轢は大きくなるはずだ。
だから俺は、王様のままでいなければならない。
「なにかリーフレッド13世がいい手を思いつくまで待とう」
今のところ、彼はこの問題を国内のみで解決しようとしている。
そこに情報を掴んだ俺が口出しをすると、不要な軋轢を生みかねない。
「陛下! 王妃様!」
そんな話をしていたら、そこにアントンが飛び込んできた。
「陛下! 王妃様! 大変です! ランカーを目指していた他国の貿易船が撃沈されました!」
「撃沈? 遭難や沈没じゃなくて?」
「はい! なんでも巨大な金属製の魔獣が、ヒレで船底を斬り裂いて沈めてしまったとか」
「ダストン様」
「なんとかしないとな」
いまだ建設途上にあったが、海底の浚渫が終わって大型船が寄港できるようになったランカーに、いよいよ他国から貿易船がやってくる予定だったのだが、それが撃沈されてしまった。
しかも貿易船を沈めたのは、金属製の巨大な金属製の魔獣。
つまり、機械魔獣の仕業で間違いないだろう。
「プラム、まずはこちらに対応しないと」
「そうですね」
リーフレッド王国の機械魔獣よりも、まずはラーベ王国の貿易を妨害する機械魔獣への対処の方が先だ。
「せっかく他国との交易が始まるところなんだ。邪魔されて堪るか」
「すぐに対処しましょう」
俺とプラムは、急ぎランカーまで飛んで行くのであった。
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