第五十五話 家臣たちをレベリングする 

「頼みます! 俺にも見せてください! そのアトランティスベース(基地)とやらを!」


「そんなに見たいの?」


「当たり前じゃないですか! 未知の技術の産物を直接目にし、触れて調べ、分解し、試作する。研究者冥利に尽きるってものですよ」


「いや、分解はするなよ……」



 ラーベ王国の復興と開発は順調に進んでいた。

 資金、素材、魔石など。

 必要なものをすべて、俺とプラムが魔獣を狩って確保していたにしてもだ。

 ムーアが財政を、アントンが内政を、ボートワンが軍事を。

 特に前者二人は二十代の若造なので文句が出るかと思ったが、思ったほどでもないそうだ。

 そういうことを言いそうで力のある連中は、前ラーベ王がみんな焼き払ってしまったから。

 あとは、この二人が担当者だからこそ、俺が資金、資材、魔石を提供しているというのもあった。

 どこの世界でも、スポンサーが最強というわけだ。

 そんなわけで俺とプラムは、この三人を伯爵にして王宮の序列トップ3にしていた。

 侯爵、公爵などはみんな死んだので、現在一人もいない。

 そのうち、王国発展の功労者だからという理由で三人とも襲爵する予定だ。

 そしてもう一人、様々な魔法道具の開発と量産で貢献しているのが、シゲール・チューバであった。

 彼も伯爵にしており、他国はラーベ王国の四天王みたいな呼び方をしているそうだけど、俺たちは悪の組織や全銀河全滅団じゃないんだけどなぁ……。

 そんなシゲールであるがあまり爵位には興味がないようで、俺とプラムにアトランティスベース(基地)を見せてくれと頼み込んできた。

 職人、技術者、研究者として大いに興味があるそうだ。


「入れてあげたいのは山々なんだけど、今のシゲールでは入れないんだよ」


「どうしてですか?」


「スキルの関係で」


 アトランティスベース(基地)だが、実は現時点で俺とプラムしか入れないことが発覚した。

 アニメだと、岩城正平とアンナ・東城しか入れない設定なのをそのまま踏襲したようなのだ。

 実は、アニメの中盤になると一人だけは入れる人間が出てくるのだけど、シゲールはどうかな?


「シゲールのスキルってなんだ?」


「土魔法です」


 技術者が持つスキルの定番である。

 だがそのスキルでは、アトランティスベース(基地)には入れないのだ。


「ぬぉーーー! 見て見たいですよ! 神話の世界のロストテクノロジーで作られた要塞。もの凄く興味あります!」


「でも、入れないものは仕方がないというか……」


 俺も意地悪をしたいわけではなく、これまでムーア、アントン、ボートワンを連れて行こうとして悉く失敗した結果からの返答なので、仕方がないのだ。


「どうすれば入れるようになるのか……」


「レベルを上げるとか?」


「それはあるかもしれない」


 レベルが上がるということは、可能性が上がるということであった。

 もしかしたら、アトランティスベース(基地)に入れるようになる特技を獲得できるかもしれない。


「あっでも。シゲールは忙しいだろう」


 多くの職人たちを使って、新しい魔法道具の開発と量産をしているのだ。

 俺たちと魔獣狩りをしている場合ではないな。


「行きます! 行かせてください!」


「でも、研究と量産が滞るだろう」


 旧バルサーク辺境伯領時代からそうだが、シゲールたちが作る魔法道具がラーベ王国発展の鍵なのだから。

 農業機械は農民たちが逃げ出した農地を集約し、大規模農業をするのに必要だ。

 さらに、将来は魔法道具製造を産業化したいので、余計に農家は人手が足りなくなってしまう。

 少人数で多収穫できるようにしておくのは、今が大きなチャンスなのだ。

 建設建設、工事機械については、今さら言うまでもない。

 女性も働くようになってきたので、電化製品に似た魔法道具も普及しつつあり、シゲールはとても忙しいはず。

 俺たちと魔獣狩りをしている場合ではないと思うんだが……。


「大丈夫です! 俺がいなくても暫くは回せるようにしているから! お願いします!」


「じゃあ試しに」


 俺たちは、試しにシゲールとレベリングをすることを決めた。

 たとえアトランティスベース(基地)に乗れなくても、レベルアップの影響で知力などが上がり、開発能力が増すかもしれないからだ。

 なんだが、普通はハンター適性のない人間のレベリングなんてしない。

 魔獣狩りとはそれくらい危険だったからだ。


「ところで、シゲールさんのレベルは?」


「1ですよ。王妃様」


「そうですか……」


 シゲールにはハンターの適性がないので、これはばかり仕方がない。

 翌日。

 俺はシゲールを抱え、北部の魔獣の住処へと飛んだ。


「頑張ってレベリングするか」


 とはいえ、ハンター適性のないシゲールに無理はさせられない。

 もしなにかあるとラーベ王国の技術力の要がなくなってしまうので、彼はプラムが守っていた。

 通常の素材、魔石集めも大切なので、ここは俺が一人で頑張らなければ。


「(いつもどおりやればいいよな)」


 絶対無敵ロボ アポロンカイザーのスキルを解放し、俺は魔獣たちを効率重視で倒していく。

 すると、シゲールのレベルがどんどんと上がっていった。


「さすがは、元レベル1」


 そんな彼にゴーレム討伐の経験値が入るので、レベルアップが早くても当然なのだ。


「お昼は、お弁当にしよう」


 シゲールだけ置いてアトランティスベース(基地)に入ると彼が魔獣たちに殺されてしまうので、今日は昼食にお弁当を食べた。

 これも、アトランティスベース(基地)のロボットたちが作ったのだけど。


「美味いですな、このお弁当は」


 シゲールは、牛丼大盛りを気に入ったようだ。

 ただし、いい年をしてサラダは残していた。


「奥さんの苦労が偲ばれますね」


 プラムは、天才だが、頑固で、偏食で子供みたいな部分があるシゲールの奥さんに同情していた。

 ただ彼のおかげで伯爵夫人になれたのだから、悪くはないのかな?

 それにシゲールは、奥さん以外の女性に興味がない。

 側室の誘いを『女性は面倒だし、俺は研究で忙しいんだよ! 子供たちがいるからいいだろう?』って即座に断るくらいなので、実は愛妻家なのかも。


「午後も魔獣狩りを続ける」


 これを一週間ほど繰り返した結果、シゲールのレベルは急速に上がっていった。

 そして、彼のレベル300を超えたその時。



シゲール・チューバ(36)


レベル300


スキル

土魔法、研究者、職人


特技

土魔法、研究、製造、情報官



 スキルが増えたたのだが、複数、それも三つあるのは珍しい。

 俺とプラムも一個だけからだ。

 ただ、戦闘力はほとんど上がらなかった。

 その代わり、情報収集官という特技が手に入った。

 これはアニメでも中盤以降、アトランティスベース(基地)の情報管理室で機械大人の情報を収集し、その弱点などを分析、岩城正平に報告する『牟田 茂樹(むた しげき)』(既婚者三十六歳)というキャラに……そういえばなんとなく似てるような……見た目も名前も。


「これでシゲールも、アトランティスベース(基地)に入れるはずだ」


 俺とプラムは、試しにシゲールと一緒にアトランティスベース(基地)を召喚した。

 すると、彼もその内部に入ることに成功していた。


「おおっ! これは研究し甲斐がある! すげえ、床も壁も金属でできていて、継ぎ目がない。どうやって作ったんだ」


 シゲールは大喜びで、アトランティスベース(基地)のあちこちを見て回っていた。

 あまりの喜びように若干引く俺たち。

 三十歳を超えた妻子持ちのおじさんが、子供のようにはしゃぐから当然か。


「伯爵の爵位なんかより、ここに入れた方が百倍も嬉しいぜ」


 研究バカであるシゲールらしい言い分だ。


「すげえ、この『端末』……ここから情報を集めるのか……すげえ、とにかくすげえ」


「シゲール、わかっていると思うけど……」


「当然秘密は厳守しますよ。俺しか入れないのは幸いか。悪いが、昔からの仲間たちにも言えないな」


 シゲールは見たこともない量子コンピューターを起動させ、早速情報を集めていた。

 科学と魔法道具。

 共通性がなくもないのか。


「シゲールさん、メモも取らないんですね」


「そのメモが外部に漏れると大変だ。覚えてしまえばいいのさ」


 それができる人はとても少ないと思うが、彼ならできてしまうのか。

 レベルも上がって、戦闘力は上がらないけど、知力は上がったのかもしれない。


「なんか、記憶力が上がったような気もするし、頭がスッキリするな。そうか! レベルアアップの影響か!」


 シゲールの場合元から天才なんだが、レベルアップでさらに知力が上がったようだ。


「さすがにレベル300まで上がると、知力にかなり影響があるんだな」


 普通の人がレベル10になったくらいだと、多少の身体能力と知力が上がるくらいだ。

 訓練したり、勉強したのとそう変わらず、だから一般人はレベリングなどしないし、受けるハンターもいないと思う。

 そのくらい魔獣とは危険な存在というのあった。


「これは、ムーアたちでも同じなのかな?」


 なかなか信用できる重臣クラスが集まらないため、こうなったらムーアたちのレベルを……百くらいまで上げてしまえば大分能力に違いが出るのか?


「試してみるか」


 翌日より、俺とプラムはムーア、アントン、ボートワン他信用できそうな若手の家臣たちばかり北に連れて行き、レベリングを開始した。


「人の不足は、魔法道具や新しいやり方でカバーする。家臣の質を上げて、さらなる成果の拡大を狙うわけだ」


 それでも駄目なら新しい人を雇えばいいのだから、駄目元でもやっておいた方がいいだろう。

 とりあえず、時間がないのでレベリングでレベル100まで上げる。

 すると……。


「陛下、おかげさまであまり疲れなくなりました」


「これなら徹夜も大丈夫」


「訓練ですぞ!」


「……ちゃんと休みなさい」


 やはり能力が上がったか。

 俺はラーベ王であるが、家臣たちに時間外労働をさせるつもりはない。

 能力が上がった分、定時上がりも可能になったのだから、ちゃんと家に帰って休んだり、家族と時間を過ごしなさい。

 特に、新婚のとムーアとアントン。

 俺は前世の影響で、ブラックな労働環境が大嫌いなのだから。

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