第五十一話 東部崩壊
「……北の地に、機械大人を倒せるなにかがあるようね」
「北ですか……急ぎ何者かを送りましょうか?」
「いや、それはもしその敵が絶対無敵ロボ アポロンカイザーであった場合、妾がここにいるヒントを与えかねない。幸いにして、この世界は多くの国に分裂しており、北部の国がこの南洋極には辿り着けない。今のうちに力を蓄えるのだ」
「しかしながら、今回の機械大人は成果が……」
「イマイチであったな」
再び北部の人間が機械大人なったようだが、今回はさほど破壊と殺戮をしなかったようだ。
これではあまり経験値が入らない。
せっかくの機械大人なのに、損をした気分だ。
そうでなくても、今の妾ではそう頻繁に機械大人など召喚できぬというのに……。
召喚した二体目の戦果もイマイチであり、なかなか上手くいかぬものよ。
「とにかく、今の妾には時間がほしいのだ」
妾が元の力を取り戻せば、堂々とこの世界を征服すると宣言し、機械大人と機械魔獣を世界中に送り出してやるものを。
「それでしたら、機械魔獣を召喚して時間を稼ぐべきでは?」
「それしかないかの」
二体の機械大人を倒した敵に当たれば呆気なく壊されるであろうが、その敵と戦うまでは無敵であろう。
それは、ニンゲンを機械魔獣化したメリーを見ればわかること。
「機械魔獣の召喚の方が、時間を開けずに行えます。時間を稼ぐにはかえって有効では?」
「ルースの言うとおりだな」
ようは時間を稼げればいいのだ。
暫くは、機械魔獣を召喚して世界を混乱させておくか。
その後召喚をしてみたが、確かに赤い玉の方が楽に呼び出せる。
肝心の赤い玉の受けてであるが、この世界のニンゲンも欲深い。
不満や野望のある者は多く、赤い玉も青い玉もそれをすぐに見抜いてその者の元に向かった。
「己の欲で同胞を死に追いやる。やはり下等生物よな」
「それを正すのが、アルミナス様でございますれば」
「それもそうよな」
いつまでもこんな狭い世界に拘ってはおられぬ。
一日も早くのこの世界を統一し、銀河系の征服に取り掛からねばな。
「汝、ダストン・バルサーク・ラーベは、妻であるプラム・ラーベを妻とし、終生愛することを誓いますか?」
「はい、誓います」
「汝、プラム・ラーベは、夫であるダストン・バルサーク・ラーベを夫とし、終生愛することを誓いますか?」
「誓います」
「では、指輪の交換を。そして誓いの口づけを」
本日。
俺のラーベ王国国王への戴冠式と、プラムとの結婚式が行われた。
国家行事のため、式には多くの人たちが見学に訪れ、リーフレッド王国からもリーフレッド13世が国賓と参加している。
神父の誓いの言葉にそれぞれ返事をし、お互いに指輪を着け合い、口づけをする。
前世、結婚できなかったので俺は感慨に浸っていた。
しかもプラムは、俺の初恋の人アンナ・東城に似ているのだから不満などなかった。
十七歳になったプラムは、アニメのアンナ・東城と同じくらいまで成長しており、俺も相応に成長していたので、みんなお似合いのカップルだと声援を送ってくれた。
そのあとは、王都のメインストリートを馬車で移動しながらラーベ王国の国民たちに新王と新王妃を披露する。
ムーアたちの意見を受け入れたわけだが、前王が王妃や一族、重臣たちをすべて焼き払って殺すという最悪な事件を起こしたあとだったので、明るい話題に国民たちの顔に笑顔が戻っていた。
「新婚旅行名目で、国内行脚か」
「新王と新王妃の顔見せですね」
「それがいいだろうな」
夜の晩餐会において、俺とプラムは隣に座るリーフレッド13世と話をしていた。
多くの招待客の前で、両国の親密ぶりをアピールするのが狙いだ。
「これからのリーフレッド王国は、やはり南下ですか?」
「そうだな。して、ラーベ王国は東征か」
ラーベ王国は今回の件で、南下政策ができなくなってしまった。
代わりに、百年以上も反乱状態のままの東部貴族たちを従わせることになる……国内が落ち着いてからだけど。
「降りそうなのか?」
「やってみないとなんとも言えませんが、昔ほど『貴族連合』に結束力はないようです」
その昔、東部の貴族たちは一致団結してラーベ王国に対抗すべく、貴族連合という同盟を作った。
どこかがラーベ王国に攻められたら、他の貴族たちが全面的に支援する。
という条件だったので、ラーベ王国は以後東部にほとんど手を出さなかった。
リーフレッド王国と組んで南方攻略を行ったのは、東部攻略を諦めていたからという理由もあったのだ。
「我が国も、長期的には南下を志す予定だ。だが今のところは、押さえた土地の開発が必要であろう。暫くは兵を出せぬよ」
せっかく新しい土地を攻め落としても、その土地を有効活用できなければ意味がないので当然か。
「互いに、内政の時期であろう」
「そうですね」
そんな話をした翌日。
リーフレッド13世は国に戻り、俺とプラムはラーベ王国の視察に向かうことにした。
みんな忙しいので二人だけで……というわけにはいかないので準備をしていると、そこに王国軍最高司令官に就任したボートワンが血相を変えて飛び込んできた。
彼は有能だったし、実は前王が彼の上司たちを根こそぎ焼き払っていたので、すんなりと王国軍のトップになれたという事情もあった。
それほどの男が、いったいなにを慌てているのであろうか?
「陛下、王妃様。東部からラーベ王国に逃げ出してくる難民の数が急増しています。どうやら、貴族連合は崩壊したようです」
対ラーベ王国用の同盟だったが、肝心のラーベ王国は攻め込まず、その間に貴族たち同士が境界線、水源、利権などで揉めるようになったという報告は以前聞いていた。
それでも、ラーベ王国を利するだけなので争いは禁止されていたはずだったが、ついに戦を初めてしまった貴族が現れたようだ。
「スタッカー伯爵という人物が、この頃急速に領地を拡大しているとか。さらに彼は攻め落とした貴族やその一族を惨たらしく殺しているそうで。なによりスタッカー伯爵は、金属製の巨大な魔獣を操り、従来の軍勢を短時間で壊滅させてしまうそうです」
金属製の魔獣……。
ついに、機械魔獣までこの世界に出現するようになったのか。
しかし人間が操れるものでは……まさか!
機械大人となった母や前ラーベ王のように、スタッカー伯爵がその心の闇を利用されて機械魔獣化してしまったというのか。
「この勢いですと、すぐに東部を席巻してラーベ王国に攻め寄せるかもしれません」
「先に打って出るしかないか……」
「せっかくの新婚旅行が残念です」
「これが終わってから、二人で……温泉とかあるのかな?」
「ラーベ王国にはありますよ。いいですね、温泉」
「いいな。二人で一緒に入ろうよ」
「ダストン様のエッチ」
「いいじゃないか。夫婦なんだから」
「そういえばそうでした。一緒に温泉、いいですね」
本当にいいね。
新婚で奥さんと一緒に温泉。
最高の贅沢だと思う。
「おほん! 仲良きことはよろしいですが、まずは東部への対策を」
「東部の秩序破壊者である、スタッカー伯爵とやらを討つ! ラーベ王国軍出撃!」
せっかくプラムと結婚したのに、新婚旅行の前に戦争とは。
しかし相手が機械魔獣では仕方がない。
一刻も早く現地に向かい、多くの人たちに害なす機械魔獣を倒さなければ。
それが、絶対無敵ロボ アポロンカイザーとセクシーレディーロボ ビューティフォーの力を持つ俺とプラムの使命なのだから。
ちゃんとなりきって、今度はいつでも絶対無敵ロボ アポロンカイザーを呼び出し、別次元に隠れているであろうアトランティスベース(基地)も手に入れたいものだ。
どうして俺が、そこまでこだわるのかって?
それは俺が、絶対無敵ロボ アポロンカイザーを心から好きだからであった。
アトランティスベース(基地)は必ずあるはず。
絶対に手に入れたいので、機械魔獣も経験値となるがいい。
レベルが上がればなんとかなるという俺の経験則はこれまで間違っておらず、ならば俺にとっての機械大人、機械魔獣戦とは、貴重な経験値稼ぎなのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます