第五十話 新ラーベ国王 

「……それは本当なのか?」


「はい。こんな嘘をついても仕方がありません。事実です」


「そうか……。プラム殿も大変だったな」


「ダストン様がいなければ、父の暴走は止められなかったと思っています。私の強さは、ダストン様ほどでは……」


「二人で参加したのが幸いだったというわけか……。わかった、急ぎこれからどうすべきか決めよう」



 機械大人となったラーベ王を倒した俺とプラムは、王都の守りを王国軍のトップに据えたボートワンに任せ、急ぎリーフレッド13世に会いに行った。

 すべての事情を説明し、これからの両国の関係を協議するためだ。

 リーフレッド13世は俺とプラムを私室に招き入れ、秘密の会合が始まった。


「人を巨大な金属ゴーレムにしてしまう謎の敵か……。しかも、どこにいるのかもわからないときた。旧ブロート子爵領に続き、今度はラーベ王国。荒唐無稽な話だが、嘘とは思えない。しかし……」


 この世界において、リーフレッド王国とラーベ王国の支配と影響が及ぶ範囲など、全世界の一割もあればいい方だ。

 もし全銀河全滅団の首領女帝アルミナスがこの世界に君臨していた場合……俺はその可能性が高いと思っている……その本拠地が他国だと手が出ない。

 まさか勝手に他国に侵攻して女帝アルミナスを倒すわけにいかず、今は情報を集めやすい国王になってレベルアップして強くなり、有事に備えるしかないのだ。


「情報を集めるために人を送り出せるから、国王になった方が有利だな。わかった。バルサーク辺境伯……いや、今はラーベ国王か。認めるし、両国は同盟を結ぼう」


「それはありがたい」


 確かに国政を壟断していたが、祝勝会に参加していた連中はラーベ王国を動かしていた。

 とりあえず、優秀だが若手だったり、非主流派だったり、下級貴族や平民出身者を強引に役職に当てて対応しているが、ラーベ王国の混乱を早く収束しなければならない。

 それともう一つ問題があった。


「バルサーク辺境伯領ですが、これは返還するのが筋でしょう」


 もう俺はバルサーク辺境伯ではなく、北部の領地をリーフレッド王国に返還しなければならなかった。


「北部か? あそこは、バルサーク辺境伯だから纏まっている場所なのだ。ラーベ王国に編入でいい。アーベンも南方攻略の恩賞だからな。これもラーベ王国に編入しろ」


「いいのですか?」


 勝手に領地を他国に分割してしまって。

 家臣たちからの反感が大きそうだ。


「だから、代わりにラーベ王国が獲得した南方領域と交換だ。ラーベ王国が確保した分だけでもなかなかの広さだ。家臣たちも納得するだろう」


 北部は寒いし、暗黒竜、機械大人で大きな損害を受けた。

 俺が懸命に立て直しているが、リーフレッド王国からすれば、俺だからできることという認識なんだろうな。


「南の土地は暖かいのでね。その代わり、もうラーベ王国は南方攻略ができなきくなる」


 そうか。

 ラーベ王国が確保した南方領域をリーフレッド王国に譲渡すれば、自然と南下はできなくなるな。

 俺は別にいいけど。


「問題ないと思います。なにより、本来ならラーベ王国は南方攻略に手を出している場合ではなかったのですから」


「そうなんだ」


「プラム殿の言うとおりだ。ラーベ王国は、長年反抗する東部の反乱勢力があるからな」


「反乱戦力?」


 ラーベ王国って、国内の反乱を鎮圧しないで南方に兵を出していたのか?

 それは優先順位を間違っているだろう。


「彼らが王都に攻め込むわけではないですが、ようはラーベ王国から離脱を宣言した貴族たちの連合です。南方の独立領主とそう違いませんよ」


 プラムによると、すでに百年以上東部地域の貴族たちはラーベ王国の統制を離れているそうだ。

 さらに彼らは、連合してラーベ王国に対抗するようになった。

 これでは、ラーベ王国もそう簡単に東部領域に手を出せないわけだ。


「結局のところ、東部に手を出せないから南部に兵を出したということです」


「状況はわかった」


 とにかく今は、ないとは思うが東部からの侵攻を阻止しつつ、ラーベ王国と旧リーフレッド王国北部地域を纏め上げなければ。


「後日正式に同盟を結ぶとして、ちゃんと結婚式には呼んでくれよ」


「そうだった! ちゃんとプラムと結婚しないと!」


 本当はバルサーク辺境伯領内で挙式をする予定で準備をさせていたのだけど、それは一旦キャンセルして、ラーベ王国の国王と王妃就任の式を合わせて……こうなれば、ムーアとアントンに任せるしかないな。





「そういうことだから、バルサーク辺境伯領とラーベ王国は統合し、俺は王様にプラムは王妃となることが決まりました」


「ムーアさん、アントンさん。色々と大変でしょうがよろしくお願います」


「「ええっーーー!」」




 バルサーク辺境伯家の屋敷に戻り、ムーアとアントンに事情を説明したら鼓膜が破れるのではないかというほど驚きの声をあげた。

 俺とプラムがラーベ王国主催の祝勝会に来賓として出かけたと思ったら、戻っていた途端、俺がラーベ王国の国王に。

 プラムが王妃になったと言われたのだから。


「お館様、それはなにかの冗談ですよね?」


「だったらいいな」


 俺のその一言で、ムーアの表情が神妙ななものになった。

 アントンも同様だ。

 俺の説明を神妙な態度で聞いていた。


「つまり正式に、ラーベ王の遺言を受けてお館様は王となられたのですね」


「ああ、だからボートワンたちは俺の命令に従っている」


 言うことを聞かなそうな連中は、機械大人化したラーベ王がみんな焼き払ってしまったからな。

 文句がある奴はゼロではないが、身分や権力、財力がないので陰で文句を言っているだけであろう。


「だが、彼らが世論を煽るかもしれない。急ぎラーベ王国を安定化させる。幸い、リーフレッド王国は同盟を結んでくれるそうだ」


「それはよかったです。ならば早速軍勢を率いてラーベ王国の王城に向かいましょう」


「それがよろしいかと」


 俺はバルサーク辺境伯領をアントンに任せ、ムーアが率いる軍勢と共にラーベ王国の王城に入った。

 城内に特に大きな混乱もなく、ボートワンが上手くやってくれたようだ。

 とても優れている軍人なのに、王妃たちのせいでいまいち出世できなかったのであろう。


「今はスピードが大切だ。ボートワン、軍を任せるから上手く再編してくれ。対外侵攻については考えなくていい。リーフレッド王国との同盟は継続。すでにリーフレッド13世との話はつけてある」


「さすがでございますな」


 俺が、リーフレッド王国貴族だったからだけど。


「ボートワンに難しい任務を与える。犠牲を出し苦労して占領した南方だが、同盟の条件としてリーフレッド王国に譲渡することになった」


「確かに難しい仕事ですな」


 現地の軍に、土地の引き渡しを命じなければならない。

 命令ではあるが、多くの犠牲を出してまで押さえた土地を他国に与えるのだから、感情的な反発は必至であろう。


「その代わり、今俺がバルサーク辺境伯として治めていた土地とアーベンがラーベ王国に編入される。戦死者の遺族には年金を出すし、あとは子弟の優先雇用を約束しよう」


「それならば、反発は小さいかと」


 南の土地は未開地ばかりで、立て直しに成功しつつあるバルサーク辺境伯領の方が美味しいと言えなくもなかったからだ。

 開発のノリシロで言えば、南方の方が圧倒的にあるのだけど。


「軍人たちに言え。新しいラーベ王国が次の目標とするのは、これまで反乱が放置されていた東部だとな」


「……了解しました」


 いくら先代の王から直接指名次の王に指名されたとはいえ、ラーベ王国が南方に進出する道を断たれることになった責任者なので反発は大きいはず。

 そこで、歴代の王が放置していた東部の貴族連合を降して東部に進出すると宣言。

 俺に協力し、戦功を挙げれば出世できるという飴を与える必要があったのだ。


「今は、国内の統制で精一杯だけど」


「左様ですな」


 こうして、俺がラーベ王国に新王となった。

 なし崩し的だが、ラーベ王国を強い国にしておけば、もし全銀河全滅団の脅威が世界中に明らかになった時、連合軍の結成も可能であろう。

 いくら俺がバカみたいに強くても、一ハンターが呼びかけるよりも、国王が呼びかけた方が賛同者も多いはずなのだから。

 それと、この世界のハンターや軍では機械魔獣にすら対抗できないが、後方支援や被災者たちの保護はできる。

 そう考えた俺は、ラーベ王国の王になることを決意したのだ。


「ダストン様、素晴らしい考えです」


 プラムも俺の考えに賛同し、大いに感心してくれたのだが……。


「(王様が搭乗する絶対無敵ロボ アポロンカイザーって格好よくねえ? と思ったのもあるけど)」


 それは言わぬが華であろう。

 俺とプラムは、レベル上げをしながらラーベ王国の安定化に尽力するのであった。

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