第四十九話 父と娘

「それはよかったが、余に勝てるのか? 多少腕に自信があり、だからこそバルサーク伯爵家を勘当されても貴族に復活できた。自信があるのであろうが、新しく生まれ変わった余には勝てまいて」




 機械大人としての力を手に入れたラーベ王国の王様は、随分とはっちゃけたようだ。

 これまでは王妃やその実家、大貴族たちの意向に逆らえない力のない王様だったから、ストレスの元をすべて始末できてテンションが上がってるのであろう。


「父上! あなたは母たちを一気に抹殺するために、このような祝勝会を開いたのですか?」


「正解だ、プラム。だがお前は生き残ってしまったな。残念だよ」


「私をラーベ王国から追い出し、それでもまだ私が嫌いですか?」


「あの女の血を引いているのでな。あの女の血族は念入りに探し出して招待しておいた。その代わり、有能な若手貴族や王妃たちと仲が悪い派閥の貴族たちは割りを食い、ここには招待されていない。あの下種女とダイソン公爵たちは、それを知って大いに喜んでいたが……」


 わざと王妃に配慮した招待客にして、呼び出された連中は傀儡の王に一網打尽にされたわけか。


「残念残念。プラム、次はお前だ!」


「私をそこまで憎んでおいでですか……追い出しておいてまた呼び出す……そこまで……」


「プラム」


「ダストン様」


 もう可哀想で見ていられない。

 プラムがなにをしたというのだ。

 しかも、得体の知れない者から授かった借り物の力でいい気になっているなんてな。

 それは、王妃や家臣たちに蔑ろにされるわけだ。


「愚王に相応しい最期を迎えるがいい! プラム!」


「はいっ! もう私は、あなた父とは思いません!」


「小さき二人でなにができるものか。余に潰されて死ぬがいい」


 今のままで俺たちが機械大人に勝てるわけがないが、この前に死闘で得たものを用いれば、そう簡単にお前に負けなどしない。


「行くぞ! 尊き古代アトランティス文明の遺産よ! この星に仇なす悪を俺と倒すのだ! 召喚! 開門! 搭乗! いけ! 絶対無敵ロボ アポロンカイザー!」


「尊き古代アトランティス文明の遺産よ! この星に仇なす悪を俺と倒すのだ! 召喚! 開門! 搭乗! いけ! セクシーレディーロボ ビューティフォー!」


 俺とプラムが空に向けてそう言い放つと、突如上空に巨大な扉が出現し、それが開くと同時に、二体の金属製の巨人が姿を見せた。

 一体は、この前機械大人化した母を倒した絶対無敵ロボ アポロンカイザー。

 そしてもう一体は、その補佐をするセクシーレディーロボ ビューティフォー。

 このところのレベルアップと訓練で、すでに一回召喚している俺のみならず、プラムもセクシーレディーロボ ビューティフォーを呼び出すことに成功していた。


「二体の金属の巨人か!」


「成功だな、プラム」


「はいっ!」


 実は訓練で呼び出せていたのだけど、残念ながらこれまで搭乗ができなかった。

 その理由を考えてみたのだが、どうやらスキルではなく実際に絶対無敵ロボ アポロンカイザーとセクシーレディーロボ ビューティフォーを呼び出すには、機体大人クラスの敵が現れないと駄目なようだ。

 少なくとも搭乗できない。

 その証拠に、今の俺とプラムはすんなりとそれぞれの機体に搭乗できた。


「巨人に乗り込んだ……」


「これで互角だな。ラーベ王よ!」


 いや、二対一なのでこちらの方が圧倒的に有利か……油断はしないようにしないと。


「プラム、大丈夫か?」


「はい。どういうわけか動かせますね」


 初めてセクシーレディーロボ ビューティフォーを召喚し、搭乗したプラムだが、特に問題なく操縦できていた。

 スキルのおかげだと思う。


「二対一だから余に余裕で勝てると? 甘いな! 余は『業火』の力を得た巨人となった! いくら相手が二体であろうとも、余の業火で焼き払えばいいのだ! 食らえ!」


 ラーベ王は、口から青白いバーナーのような火炎を吐き出した。

 確かアニメだと、『業火』の機体大人に絶対無敵ロボ アポロンカイザーはかなり苦戦していた。


「『バリアーマント』!」


 俺は咄嗟に無限ランドセルから、バリアーマントと呼ばれる絶対防御が可能というマントを取り出し、ラーベ王の業火を防いだ。


「プラム、俺の後ろにいろ! セクシーレディーロボ ビューティフォーは絶対無敵ロボ アポロンカイザーよりも装甲が薄いから、業火に耐えられる時間が短いんだ」


「はい!」


 さらにセクシーレディーロボ ビューティフォーはバリアーマントも装備していないので、今は俺が前面に出てラーベ王の豪火を防いでいた。


「しかし、これは予想以上の熱さだ!」


 次第に操縦席が熱くなってきた。

 超々銀河超合金アルファ製の絶対無敵ロボ アポロンカイザーをして、さらにバリアーマントまで使用してこの熱さとは……次第に滝のような汗が額から流れ出てくる。


「(これでは、絶対無敵ロボ アポロンカイザーが保っても、俺が保たないかもしれないな……)」


 どういう仕組みなのか。

 ラーベ王は、永遠に業火を吐けるのではなかと思うほど、長時間まるで勢いが衰えることもなく業火を吐き続けていた。

 俺は、バリアーマントでそれを防ぐので精一杯の状態であった。


「(このまま業火が履けなくなるまで待つか? しかし、それはいつだ?)」


 アニメで『業火』を用いる機体大人と、ラーベ王が変身したそれとは大きく外見や戦法が異なるから困ってしまう。

 機械大人の特徴を事前に知っているだけ俺は有利なのだから、贅沢は言っていられなかった。


「ダストン様! ここは私が!」


「……」


 俺は無言で、バリアーマントを片手に持ち替え、左手を後ろに回してプラムに無言で合図を送った。

 今回の戦いの鍵は、業火を防ぎ続ける俺よりもプラムが握っている。

 実の父親を討たせることに抵抗があるが、装甲の厚さの関係でセクシーレディーロボ ビューティフォーに業火を防ぐ役目を任せるのはリスクであろう。

 暫く観察していると、業火を吐いている間、ラーベ王は動けないようだ。

 ならば、タイミングを見計らってプラムに攻撃……ラーベ王に対するトドメの一撃を放ってもらわなければ。


「プラム、すまない」


「いいんです」


 ありがたいことに、プラムはこの一言で理解してくれた。

 いくらスキルのせいで勘当されたとはいえ、実の父を討たなければなたないのだ。

辛くいないわけがないのだから。

 俺は……中身はダストンではないので、母を躊躇なく討てたのは幸いだったかもしれないな。


「(必ず、後ろで待機しているプラムが攻撃できるタイミングがあるはずだ……)」


 徐々に操縦席内は暑くなってきたが、まだ耐えられる。

 それよりも、ちょうどいいタイミングについて考察できた。


「(ラーベ王は内心焦っているはずだ)」


 業火……強力な火魔法を使っているのに、俺に防がれてしまっていることをだ。

 加えて彼が、火に詳しくない点もある。

 なぜか風魔法のスキルを授かっていたラーベ王が、風ではなく火を攻撃手段とした機械大人になってしまった。

 人間だった頃のスキルは関係ないのかもしれないが、慣れていないのは確かだったからだ。


「(もしくは……挑発してみるか)代々風魔法の名門であったラーベ王家の当主が業火ねぇ……」


「なにが言いたい? バルサーク辺境伯よ!」


「いやね。プラムに風魔法のスキルがないから追い出しておいて、実は自分も風魔法のスキルが出なかったのに、それを誤魔化していたんじゃないかってね。業火はおかしいだろう。突風とか、竜巻とかじゃないのか? 自分だけスキルを誤魔化して追い出されないようにするなんて、卑怯にもほどがある」


「余は、風魔法のスキル持ちであったぞ! そのような言いがかりをつけるな!」


「なんとでも言えるよな。じゃあ、なんで業火なんだよ? 嘘くさい」


「ガキがぁーーー!」


 ラーベ王が、上手く挑発に乗ってくれた。

 彼から冷静さを失わせれば、きっと俺の予想どおりの手に出てくるはずだ。


「一気にケリをつけてやる!」


 ラーベ王は、業火をさらに強くした。

 それにしても、口から火を吐きながら喋れるなんて器用な奴だ。


「(さらに予想どおりだ)」


 ラーベ王は業火を強くしたが、それはさらに彼の機動性を奪っていた。

 ラーベ王は俺に向かって業火を吐き出し続けなければならず、業火を回避されてはまたらないと、さらに俺に集中してしまう。

 その結果、周囲への警戒がまったくできなくなってしまったのだ。


「(今だ!)」


 俺は無限ランドセルから、無敵剣を取り出した。

 あとは俺がなにも言わなくてもプラムが無敵剣を無限ランドセルから抜き取り、そのままジャンプして俺を飛び越えていく。

 彼女は上段に構えた無敵剣をラーベ王に対し振り下ろし、業火を避けて斜めに袈裟斬りにした。

 落下時のエネルギーもあり、ラーベ王は綺麗に左肩から右足にかけて真っ二つに斬り裂かれてしまう。

 さすがの機体大人でも、こうなったらあとは爆発するしか手が残されていなかった。


「プラム……」


「私は謝りませんよ」


 先にプラムを捨てたのはラーベ王である。

 決して親不幸ではない。

 それにいくら国政を壟断していたとはいえ、明確な罪もない人たちを数百人も焼き払ったのだ。

 ラーベ王は罰を受けるべきなのだ。


「プラム、よくやった」


「えっ?」


 ラーベ王のまさかのプラムはその真意を問い質そうとしたが、その前に時間切れになった。

 このままだとラーベ王の爆発に巻き込まれてしまうので、俺が無理やり彼女をラーベ王の傍から引き剥がしたのだ。

 そして次の瞬間、真っ二つに斬り裂かれたラーベ王は大爆発を起こした。

 これで、二体目の機体大人が倒されたことになる。


「父上……よくやったとはどういう……」


「プラム……」


 爆発し、盛大に燃え盛るラーベ王……機体大人を見ていると、そこに数千名の軍勢が近づいてきた。

 同時に俺とプラムは、絶対無敵ロボ アポロンカイザーとセクシーレディーロボ ビューティフォーから降ろされてしまった。

 二対のロボットは、再び上空に出現した扉が開くと、それに入ってしまい姿を消した。

 これまでの戦闘でわかったことは、二体のロボットは機体大人を倒すと、すぐに操縦者を降ろして別次元に戻ってしまうことだな。


「(アニメだと、途中からアトランティスベースという絶対無敵ロボ アポロンカイザーとセクシーレディーロボ ビューティフォーの修理、補給ベースで活動できるのだけど……)」


 それは、もっとレベルを上げるか、別の条件が必要かもしれない。

 二体から降ろされた俺とプラムだが、ラーベ王国軍に囲まれてしまった。

 もし祝勝会の参加者たちや、ラーベ王の死に関わっていると判断されて攻撃されてしまったら……。


「(プラム、逃げるしかないかも)」


「(スキルだけでも、逃げるくらいなら大丈夫です)」


 二人でタイミングを計って軍勢から逃げようと瞬間、軍勢を指揮するボートワンとういう若い将軍が慌てて声をかけてきた。


「バルサーク辺境伯様、プラム様! 誤解です! 我々はお二人に害など加えません! それどころか、この手紙をご覧ください!」


 いきなり手紙を見ろとは不思議な話だが……。

 ボートワンから渡された手紙をプラムと見ると、そこには衝撃的な内容が書かれていた。


「『ラーベ王国の次の王は、プラムの夫とする。異論は許されない。ラーベ王国の全家臣たちは、新王を支えること』って……えっーーー!」


 どうして、次のラーベ王が俺なんだ?

 プラムが女王になるのならまだわかるが……。


「これは、父の字ですね」


「はい。今回の陛下の暴走ですが、陛下はバルサーク辺境伯様とプラム様に討たれることを覚悟していたようです」


 ボートワンによると、今回の祝勝会は色々とおかしな点が多かったそうだ。


「はっきり言って、バルサーク辺境伯様とプラム様以外の出席者は……」


 王妃とその実家であるダイソン公爵家、宰相家、歴史の長い重臣家とその家族など。

 身分的には豪華なメンツであるが、能力や人格では劣る者ばかりであった。


「彼らは王妃様を中心に派閥を作り、このラーベ王国の足を引っ張ってきました」


 重職や利権を仲間内で独占し、身分が低くても優秀な者たちの抜擢を阻止していた。

 成り上がり者に、自分たちの特権をが奪われことを防ぐためだ。


「その弊害は、先日の南方攻略の失敗です」


 王妃の義兄であるダイソン将軍が指揮した軍勢は、リーフレッド王国よりも圧倒的に少ない領域しか確保できなかった。

 すべて総指揮官であるダイソン将軍が無能であったからだが、ラーベ王は王妃たちに阻まれて彼を処罰できなかった。

 それどころか、その失敗を糊塗するため、無駄な予算を使って祝勝会を開くというのだから目も当てられない。


「私は陛下に諌言いたしましたが受け入れてもらえませんでした。ですが……」


 ガッカリして祝勝会の会場周辺を警備していたら、あの騒ぎとなった。

 慌てて王城に戻って援軍を編成しようとしたら……。


「玉座の間に、この手紙がありました」


 つまり、ラーベ王は王妃たちを始末したあと、俺とプラムに討たれるつもりだったのか。

 しかしどうして彼は、俺とプラムが機械大人化した自分を倒せると判断したのか?


「(母を倒した時の情報が漏れているのか?)」


 ラーベ王は、かなり優れた目と耳を持っている? いた?

 どちらにしても、まずは王と王妃、王太子、王女たち、さらに一族や重臣たちを家族ごと失い、中央が空っぽになったラーベ王国をなんとかしなければ。

 下手をしたら、内乱、他国との戦争になってしまうのだから。


「ボートワンだったな? 一つ聞きたい」


「はっ、なんなりと」


「俺がラーベ王になった場合、ちゃんとみんな言うことを聞くのか?」


「それは勿論です。遺言もありますが……」


 迎賓館を完全に破壊した巨人が、王都の住民たちに見えないわけがなく、それを倒した俺とプラムイの同時に目立ったわけか。


「あのような巨人を呼び出せるスキルとは凄いですよ。バルサーク辺境伯様とプラム様こそが、ラーベ王国を治めるのに相応しい。なあ? みんな」


「「「「「「「「「「新しい陛下と王妃様、万歳!」」」」」」」」」」


 機械大人を倒したのが功を奏したのか、俺とプラムはあっさりと新しい王に認められていた。


「しかしながら、問題は山積みだな」


「我らもお手伝いいたします」


「頼むボートワン将軍」


「陛下、私のことは呼び捨てにしてください、君臣の関係がおかしくなります」


「ボートワン! 後始末は面倒だぞ。リーフレッド13世と交渉が必要だな」


 こうして紆余曲折の末。

 俺はラーベ王国の王に。

 プラムは王妃様になってしまった。

 しかしながら、いまだに機体大人を生み出している者……女帝アルミナスだと思うが……の本拠地がどこにあるのかわからないなど、とにかく謎が多い。

 どうにか探し出して……となると俺が王になった方がいいのか……。


「……父上」


「プラム」


「私は大丈夫です」


 プラムは落ち込んでいた。

 ラーベ王は、王妃やその実家であるダイソン公爵家、その他重臣たちの意向を受け入れなけば国が回らない傀儡の王である立場に不満を抱いていたが、なにもできないでいた。

 多分、プラムの追放も本心ではなかったのであろう。

 自分が機械大人の力を手に入れた時、彼は母と違って自分が永遠に力のある支配者として君臨することを望まなかった。


「せめて愛する娘に討たれよう。そしてラーベ王国のことを託そうと思った……あえて言わなかったのだろうが」


「私もそうだと思います」


 プラムは俺と手を繋ぎ、肩に頭を乗せてきた。

 人前なので、このくらいが限界かな。

 俺も彼女の肩をそっと抱くことしかできなかった。

 ボートワンたちはそれを見てもなにも言わず、彼女の悲しみを理解しているのであろう。


「暫くは忙しい方がいい。ラーベ王、お義父さんの葬儀は、国が落ち着いてからにしよう」


「はい」


 機体大人こともある。

 俺はラーベ王になる決意をし、急ぎ国を固めることを決意するのであった。

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