第四十八話 『業火』の機械大人 

「なんか、完全にアウェイで居心地が悪いな」


「(なにがしたいのでしょうか? 父上は)」




 ラーベ王国からの招待で祝勝会に参加したのはいいが、俺とプラムは端の席に追いやられていた。

 一応これでもリーフレッド王国からの来賓なのだけど、前の方では王妃……プラムの母親や姉たちにその夫である大貴族。

 あとは、王妃閥とも言うべき貴族たちとその家族が楽しそうにワインを片手に話をしていた。

 俺とプラムは末席で放置されている。

 たまにプラムに視線を送る者もいるが、完全に呼ばれざる客といった感じだ。


「陛下になんて言おうかな?」


 南方攻略で同盟を組んだ国同士なのに、成果で大きな差が出たからであろうか?

 とにかく、俺とプラムの扱いが酷過ぎるのだ。

 もの凄く無礼だと思うのだけど、プラムによるとラーベ王国の王……プラムの父親……は、王妃とその実家、さらに大貴族たちに頭が上がらないそうだ。

 リーフレッド王国の陛下とは大違いだな。


「(王妃……私の母ですが、彼女とその実家のダイソン公爵家は、南方攻略でリーフレッド王国に恥をかかされたと思っているはずです)」


 だから微妙な戦果でも国民たちに宣伝するために豪華な祝勝会は開くが、リーフレッド王国から招待した俺たちは適当に扱うわけか。

 それで鬱憤を晴らすつもりだろうが、将来のリーフレッド王国との関係はなにも考えていない。

 こんな人たちがち牛耳る国なんて、将来が不安になってしまう。


「(母といい勝負だな)」


「(はい)」


「(適当なところで切り上げよう)」


「(それがいいです)」


 お腹が減ったので食事だけとっていると、会場の前方が騒がしくなった。

 どうやら王様が挨拶をするらしい。

 プラムの父親であり、王妃とその実家及び派閥に言いなりの王。

 傀儡と呼ぶに相応しい人物だ。


「みなに伝える」


 王様は、大きくもなく小さくもなく、それでいてなぜかこちらにまで通りがいい声で話を始めた。


「南方攻略だが、我が国はリーフレッド王国よりも遥かに小さな領地しか確保できず、大いに恥をかいた。これも総司令官であるダイソン将軍が軍人として無能だからだ。それなのに、このような祝勝会を開けというのだから、厚顔無恥も甚だしい」


「「陛下!」」


 まさかの発言内容に、王妃とダイソン将軍が怒り心頭であった。

 今にも食ってかかりそうな表情を浮かべるが、王様は気にずに話を進めた。


「ここに集まった者たちも最悪だ。ただ大貴族の家に生まれただけで、この国を内側から食い破るシロアリのような連中ばかり。なぜこの祝勝会に呼ばれたのかいえば、ただ生まれがよかったからだ。南方攻略で活躍した者たちは、ここには呼ばれていない。つまりだ。この会場にいる連中は存在価値がない。いや、いると害悪な者たちばかり」


「陛下! いい加減に!」


「それ以上に無礼は、いかに陛下とて!」


 王様に無能だと批判された参加者たちはお騒ぎを始めたが、王様は特に気にもしていないようであった。


「唯一、この祝勝会に呼ばれた者たちの中で有能なのは、バルサーク辺境伯とプラムくらいか」


「「……」」


 まさかここで、俺とプラムの名前が出るとは……。

 一斉に、祝勝会の参加者たちからの注目を集めてしまった。


「プラム! あなたの差し金ね?」


「そんんわけないですけど」


 俺たちだって、王様がこんな暴言を……事実という説もあるか……挨拶で吐くとは思わなかったのだから。


「相変わらず、都合の悪いことは全部他人のせい。くだらぬ女だ」


 王様は、王妃を侮蔑の表情で見ながら彼女を批判した。


「父上! いい加減にしてください! このような、この国を支えるご歴々ばかりを集めた席でゆされる暴言ではありませんぞ!」


 続けて、プラムの兄でもある王太子が王様を強く批判した。

 彼も、母親と祖父であるダイソン公爵、大貴族たちの言いなりだと評判の人物だ。

 見た目は生まれのよさそうな平凡な男であり、プラムの追放に異議を唱えなかったので、カリスマも持ち合わせていないはずだ。


「ただ王妃の言うことを聞いていれば楽だと思っている、我が息子ながら恥ずかしい男だ。生きる価値もない」


「父上! あなたは!」


 多分、『人のことが言えるのか?』と王太子は言いたいのであろう。

 この政治状況なら仕方がないし、王様だってこれまでは王妃やダイソン将軍、宰相などの言いなりだからな。


「だからさ」


「だからなんです? 父上」


「余は生まれ変わるのだ! そして王に逆らう者はたとえ家族親戚でも殺す! これより余は新しい王となるのだ!」


 つまり、これは革命なのか?

 それにしては、王様一人しかおらず味方がいなければすぐに王妃たちに幽閉でもされてしまうであろう。


「みなの者、陛下はご乱心なされた! すぐに取り押さえて療養に入っていただく」


 ほら見たことか。

 王妃がそう命じると、すぐに参加者たちが王様を取り抑えようと壇上に上がり、彼を囲んでしまった。


「せめて自分を守る兵たちくらい隠しておいてから、そう言えばよかったのに……」


「それよりもダストン様。私たちは、都合が悪いものを見てしまったのでは?」


 王様が乱心して、王妃たちに幽閉される。

 リーフレッド王国には持って帰って欲しくない情報だが、まさかたまたまそれを目撃してしまった俺とプラムをどうこうするとは……。


「ダストン様、最悪の展開ですね。相手はあの母なのである程度予想はしていましたが……」


「プラムも、出来の悪い母親に苦慮していたのか」


 壇上にはプラムの母親である王妃が立ち、底意地の悪そうな笑顔を浮かべながら俺とプラムにこう言い放った。


「ラーベ王国の不祥事と混乱を知られてしまった以上、バルサーク辺境伯とプラムには死んでいただきましょう」


 王妃の言い分は、プラムの予想どおりだった.

 祝勝会に参加している者たちに対し、俺とプラムを殺せと命じたのだ。


「酷い話だ」


 そっちが招待しておいて、都合が悪いと俺たちを始末しようとするのだから。


「外交問題になるぞ」


「帰り道で魔獣に襲われて死んだことにすればいいわ」


 俺とプラムがそう簡単に魔獣になど殺されないことを知っている家臣たちが騒が……なかった。

 あの王妃の言いなりになっている連中なので、そこまで理解が及んでいないらしく、剣を抜いて俺たちに迫って来た。


「お互い、愚かな母親に苦労するな」


「私とダストン様は似た者同士、つまりお似合いだってことですよ」


 そう思えば、別に大したことでもないのか。


「色ボケ娘が、なんとでも言えばいいわ。陛下があなた方を招待した理由はそういうことでしょうしね。色ボケに相応しい末路よ」


 あの王様、俺とプラムの殺害を狙っていたのか?

 だが、それにしては憎悪の感情は王妃たちに向いているような……。


「陛下! 落ち着いてください!」


「なんだ? この力は?」


「「「うわぁーーー!」」」


 俺たちの殺害とは別に、王様を拘束しようとした貴族の子弟たちであったが、その目的を達せないでいた。

 彼が思っていた以上にバカ力なので、逆に投げ飛ばされたり、蹴り飛ばされてしまったからだ。

 すぐに包囲が解けてしまい、まさかの事態に王妃たちも驚いていた。


「(ダストン様、おかしいです。父にそんなバカ力はありませんから)」


「陛下……」


「あーーーはっはっ! 余は、お前ら如きに押さえつけられはしない! 言ったであろう? 余は新しき王となるのだと! これは祝勝会ではあるが、南方攻略の功績を祝うものではない! 余が新しき王となり、ここに呼んだ王妃以下愚か者ども全員を、余自らが始末できる喜びを国民たちに示すための祝勝会である! 見るがいい!」


「ダストン様!」


「まさか……」


 言いたいことを言い終わった王様は、急速にその体を巨大化させていく。

 その様子を見た王妃たちは、ただ口を開けてその様子を見上げるしかできなかった。

 次第にその体が金属質にもなっていき、つまりラーベ王国の王様も機械大人化してしまったわけだ。


「母に続き……どういうことなんだ?」


「ダストン様! あの機械大人の口!」


「あれは……」


 絶対無敵ロボ アポロンカイザーのアニメで出現する機械大人は、すべてテーマみたいなものが決まっている。

 母は『万力』で、人を握り潰すのが好きでパワー重視の機械大人だった。

 ラーベ王国の王様は、その開けた口の奥から真っ赤な炎が見えており、これは確か……。


「(同じテーマの機械大人はアニメに出てくるが、アニメの機械大人とはまるで形状が違う! 口から高温の炎を吐く。『業火(ごうか)』か!)プラム! スキル発動! 急げ!」


「はい!」


 俺とプラムがスキルを発動させた直後、ラーベ王国の王様は祝勝会が行われている迎賓館が壊れるほど巨大化しており、そのガレキに巻き込まれて負傷した招待客たちも出始めていた。


「陛下! 私の家族を傷つけるなど、許されることではありません!」


「相変わらず、自分と実家のことばかりで薄汚い女よ! 余がすべてを焼き払ってくれよう。一人も逃さない! 死ねい!」


「「「「「「「「「「ぎゃぁーーー!」」」」」」」」」


 機械大人となったラーベ王国の王様は、その口から真っ青な業火を吐き出し、それに包まれた参加者たちは炎に包まれた。

 あまりに高温のため、彼らはわずかな時間で骨も残らずに消えてしまった。


「あーーーはっはっ! 愉快愉快! この力は大したものだ。気に入らない者を皆殺しにするなど、王でもそう簡単にはできない。だが、それを可能にするこの力は素晴らしい!」


 自分の妻、息子、娘、重臣とその家族たち。

 彼らは迎賓館や祝勝会で用意されたガーデンパーティーの設備ごと高温で焼き払われてしまった。

 祝勝会に参加した者たちで、生き残りは誰一人いない。

 あっ、俺たちがいたか。


「クソっ! 結構高かったのに!」


「ダストン様。ちょっと恥ずかしいです」


 俺とプラムだけは、スキルを発動していたので助かった。

 しかしながら、着ていたドレスやフォーマルは完全に焼け落ち、俺とプラムは素っ裸の状態になってしまっている。

 服にまでスキルは作用しないから、当然の結果なんだよなぁ……。


「プラム、とりあえずこれを」


「ありがとうございます」


 俺が無限ランドセルからワンピースを取り出すと、彼女は素早くそれを着て機械大人化した自分の父親と対峙した。


「プラムか。そしてバルサーク辺境伯」


「だからなんだ? 他国の客人に対し、随分な歓迎だな」


 もし俺とプラムに絶対無敵ロボ アポロンカイザーとセクシーレディーロボ ビューティフォーのスキルがなかったら、とっくにこの世からいなくなっていた。

 外交問題なんてものじゃない。


「まがりなりにもラーベ王国の国王なら、隣国であるリーフレッド王国のことも考えてくれ」


「考えているさ。今の余は無敵! もしリーフレッド王国が攻めてくるのであれば、かの国も征服して、余はラーベ王国でもっとも評価の高い王となれるはずだ」


 ここで世界征服と言わず、ラーベ王国で最も評価が高い王になるか……。

 機械大人になっても、元の性格がかなり左右するようだな。


「どちらにしても迷惑な話だ」


「そんなことはどうでもよかろう。もしやバルサーク辺境伯まで余に逆らうつもりか?」


「生憎と、俺はリーフレッド王国の貴族なのでね」


 いくらあんたが王様とはいえ、他国の王の命令に従う義務などないわけだ。


「なにより、いきなり豪火で人を焼くような奴に従う義務はないね!」


 それだけは言っておこう。

 俺は堂々とラーベ王国の王に対し言い放った。


「あの……ダストン様?」


「どうかしたのか? プラム」


「なにか履いてください」


「おっと、忘れてた」


 プラムに新しいワンピースを渡せたので安心して、つい俺のことを忘れていた。

 俺も服が焼かれて素っ裸だったんだ。

 急ぎ、無限ランドセルからパンツを出して履く。


「これいいか」


 時間もないし、丸出しではないから問題あるまい。

 それにしても、絶対無敵ロボ アポロンカイザーのスキルとは凄いものだ。 

 全裸でも熱くも寒くもない。

 恥ずかしささえ克服できれば、一生衣料費がかからないのだから。


 ……全裸で町中を歩いていたら、この世界でもさすがに通報されるだろうけど。

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