第四十七話 謎の招待
「ラーベ王国から招待状? この私にですか?」
「はい」
「なぜです? 私はラーベ王国にいない者。死んだ者とされた身ですよ」
「陛下の意図はわかりませんが……参加していただきたいそうです。バルサーク辺境伯様もご一緒にお願いします」
「まあいいけど」
南方攻略から戻った俺とプラムはとても忙しかった。
無事に大な土地を得られたリーフレッド王国が、バルサーク辺境伯である俺に褒美を寄越したからだ。
倒した魔獣の素材と魔石があるので褒美は期待していなかったのだけど、まさかアーベンの町の割譲とはな。
ただ、すでに衰退が始まっているアーベンをバルサーク辺境伯家に押しつけたとも取れる。
もしくは、アーベンが王国直轄地であり、周囲がバルサーク辺境伯領だからこそアーベンの復興が進まないという意見もあるのだ。
もしアーベンがバルサーク辺境伯領に組み込まれたら、俺もインフラが整ったアーベンに本拠地を移すであろう。
そうすればアーベンは再び栄え、それがリーフレッド王国北部から全土へと波及する。
陛下がそういう計算をしているのなら、アーベンを直轄地にし続ける必要がなくなる。
どのみち、俺たちへの褒美が必要だったというのもあるのか。
そんなわけで、最後のアーベンの代官でもあるドルスメル伯爵との引き継ぎなどで忙しかったのだが、そこにラーベ王国からの使いという、謎の若者がやってきた。
貴族には見えないが……軍人としては優秀かも。
そんな印象を彼に受けた。
彼はラーベ王からの手紙を持参し、その内容はプラムをラーベ王国主催の祝勝会に招待するという内容であった。
ラーベ王国も新しい領地を得たので、そのお祝いというわけだ。
その祝勝会に、領地が隣接している他国の領主を招待する。
間違ってはいないが、どうして自分が勘当したプラムを招待するのであろうか?
とにかく不思議でならなかった。
「『まあいいけど』ですか。豪胆でございますね」
「そうか?」
一応、リーフレッド王国とラーベ王国は南方攻略で協力する仲なのだ。
祝勝会に誘われて断るのは、リーフレッド王国の辺境伯としては失礼にあたるのではないかと考えただけだ。
「もしものことを考えないので?」
この男……なんか変だな。
まあいいけど。
「そんなことがあったら、リーフレッド王国に復讐されるだろうし、俺も無抵抗ではないけどな」
もしラーベ王国が、招待した俺とプラムを暗殺しようとした場合?
スキルを全面開放して逃げ帰らせてもらうが、進路を塞いだ奴は命を諦めてくれとしか言えなかった。
「その時は、お前も俺の前に出るなよ」
「死にますか? 私は?」
「かなりの確率で死ぬだろうな。手加減が難しい」
「……そうですか。そのようなことはありませんので、是非ラーベ王国までお越しください」
「わかった。陛下の許可が出たら伺わせてもらう」
おかしな使者が帰ったあと、俺は急ぎ陛下へと手紙を……。
「シゲール、通信機とかないのか?」
「ありますし、すぐに試作できますが、たとえリーフレッド王国にだって流出させるのはどうかと思いますよ」
「それもそうか」
「資金も素材も十分にあるので、そのうち試験してみます」
またもバルサーク辺境伯領名物である、シゲールたちによる実験失敗が原因の爆発音が鳴り響くな。
そのあと確実に成功させてしまうから、シゲールは凄いのだけど。
「手紙を待つしかないな」
数日後、陛下よりラーベ王国主催の祝勝会に参加する許可が出た。
「リーフレッド王国において、俺は今一番有名な貴族らしい。だから、外交特使扱いのようだな」
そしてプラムだが、彼女は俺の婚約者である。
連れて行かない理由がなく、ただラーベ王国ではプラムは死んだことになっているそうだ。
同名の別人扱いになるのだろう。
酷い連中だが、俺の実家も同類だからな。
「それにしても、私を見たラーベ貴族や王族たちはどういう態度を取るのでしょうか?」
「無視……、白々しく話しかけてくる……。ラーベ王国王女であるプラムと俺の婚約者である同名のプラムは別人という扱いだから」
そういう風に演じられるのが、ラーベ王国の王族と貴族なのだと思うことにしよう。
「顔を出して挨拶をするだけでいいさ」
「そうですね。義務、仕事だと思えば」
他の家臣たちは全員忙しいし、スキルの関係で俺とプラムを暗殺するには難しい。
俺とプラムは、二人だけでラーベ王国へと飛んで行くが、そこで思わぬ騒動に巻き込まれることになるのであった。
※※※※
「陛下! この祝勝会の人選はおかしいですぞ!」
「どこがおかしいのだ? ボートワンよ」
「南方攻略において、前線で剣を振るい、軍勢の指揮で活躍した、若く優秀な者たちが一人も招待されていないではないですか」
なにもしていなかったり、リーフレッド王国軍に遅れを取った無能な高級軍人たちやその親戚、家臣と家族。
王妃様やその実家であるダイスン公爵家の腰巾着たちも多い。
ようするに、身分は高いがこのラーベ王国の停滞を真似ている戦犯ばかりが招待されているのだ。
大方、王妃様の差し金であろう。
無能でもなんでも、与党を組んで国政を動かしている腐敗した高貴な連中が、ありもしない功績を国民たちに示す場というわけだ。
そして陛下は、いつもどおり彼らの圧力に屈した。
それでも、私は言わなければならないのだ!
いつまでもこんなことを続けていたら、この国はリーフレッド王国に呑まれてしまうと。
「王妃の人選でな。軍事と政治にバランスよくということだそうだ。軍事行動には後方支援も必要なので、宰相とその家族、部下たちも呼んでおるぞ」
それでは、ただ王妃様とダイスン将軍や宰相の言いなりではないか!
あなたはラーベ王国の王なのに、どうして一部の重臣や親族たちの意見ばかり聞き、言いなりになるのだ!
軍人としては無能なダイスン将軍が失敗しても処罰もできず、寧ろ祝勝会で功績を讃えると言う。
この国の王なのに、王妃とその実家、重臣たちの言いなりなのだ。
呆れてものも言えない。
そしてもう一点。
その祝勝会に、名、リーフレッド王国からバルサーク辺境伯とその婚約者であるプラム様を呼ぶという。
プラム様は、以前に追い出されたこの国の王女であった。
彼女はリーフレッド王国領内でハンターをしながら、じきにバルサーク辺境伯と知り合い、彼の婚約者となったと聞く。
さぞや苦労したであろう。
彼女はそのおかしなスキルのせいでラーベ王国を追放された。
それを黙って見ていた私も同罪だが、それならせめてそっとしておけばいいものを。
公式には病死したことにしたプラム様とは別人のプラムだと言って祝勝会に招待する。
こんな茶番を私は見たことがなかった。
いかにこの国の王とて、私はこの人に呆れ返るしか術を持たなかったのだ。
「そうそう。祝勝会は王城では行わぬ。王都郊外の迎賓館とその庭に特設会場を作る予定だ。ボートワンたちは遠くより警備をするのだ」
「遠くからですか?」
「招待客以外、誰も通さなければ警備の用は足せよう。迎賓館に近づくなよ」
そのような言い方……。
あなたは、なぜ王である自分を蔑ろにする連中にばかり気を使うのです?
我々が、卑しく祝勝会の会場で自分をアピールすると思ったのですか?
「ボートワン」
「はっ」
私は陛下の前で、不満そうな表情を露わにしてしまったのか?
いつの頃からか、この国に絶望して、なにがあっても表情を変えないようになった私が。
陛下は、私にぐっと顔を近づけた。
「(いいか? 招待客以外はなるべく迎賓館に近づくなよ。これは王の命令なのだ。わかったな?)」
「はっ」
そのようなことをわざわざ改めて言われなくれも……。
私も、この国の将来を憂いている者たちも、王妃様以下、この国を財布程度にしか見ていない連中と慣れ合うつもりなどないさ。
「下がるがいい」
「はっ」
その後すぐに私は下を辞したが、思えばあの時に陛下の真意を理解できていれば……いや、理解できたとて結果は同じだったか……。
とにかく、陛下より命じられた仕事をしなければ。
私は、祝勝会の準備が進む迎賓館を遠くから見張り始めたのであった。
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