第四十四話 招待

「えっ? リーフレッド王国が、陛下が、俺を王城に招待ですか?」


「お前さんは辺境伯に任じられたが、まだ他の貴族たちに顔見せをしていないだろう? そこで陛下が、王都観光がてら王城に呼んでしまえばいいと」


「ちなみに、断ることは?」


「できないから、こうして俺がお前さんの屋敷を訪ねてきたってわけだ」




 とある日。

 バルサーク辺境伯家の屋敷……実家であった旧バルサーク伯爵家の屋敷だが……にドルスメル伯爵が遊びに来た。

 食事やお酒を出して色々と話をしていたのだが、その中で俺が王城に招待されているという事実を知ってしまったのだ。

 面倒だが相手はリーフレッド王国の王様なので、断れないのは言うまでもない。

 一応、ドルスメル伯爵に確認はしてみたのだけど。


「行きますよ。プラムと一緒に」


「せっかくの機会だから、二人で王都観光でもすればいいさ。陛下に謁見して、パーティーに参加して貴族たちに顔を覚えてもらう。これだけだからな」


「ドルスメル伯爵様、確かリーフレッド王国は南方攻略で忙しいんですよね? ラーベ王国と共同での作戦だと聞きました」


「だから、儀式もパーティもそんなに派手じゃないさ。戦争は金がかかるしな」


 現在、リーフレッド王国はラーベ王国と共に南方に兵を出していた。

 寒い北方よりも温かい南方に領地を広げ、実入り大いに増やしたいのだろう。

 旨味がない土地だからこそ、まとめて俺に押し付けたのだろうし。


「まあ、プラム殿は……ラーベ王国もそこまでバカじゃないと思うがな」


 プラムも俺と同じく、スキルのせいで実家であるラーベ王国から勘当された身だ。

 俺と一緒に王都に姿を現してラーベ王国の人間の目についたとしても……大人なら見て見ぬフリをしてくれるはず……さすがに、南方攻略で忙しい最中なので余計なことはしないだろう。


「わかりました。早速王都に向かいますよ」


 俺とプラムなら、飛んでいけばすぐに到着するからな。

 スキルのおかげで、絶対無敵ロボ アポロンカイザーの最速マッハ10とはいなくても、現時点でマッハ3~4は余裕で出せるのだから。


「じゃあ、頼むぜ。俺はアーベンの統治で忙しい。知らねえよ、アーベンの景気をよくする方法なんてよ」


 ドルスメル伯爵の本職は軍人なので、住民の多くが逃げ出し、そのあと周辺の貴族領から難民たちが入り込んで治安が悪くなったアーベンの統治に苦慮していた。

 残りのリーフレッド王国北部領域を俺が押さえ、大赤字覚悟で経済対策をしたら故郷に戻ったり、バルサーク辺境伯家の大規模農家募集に応募する人たちも多かったし、シゲールが本気を出して魔法道具関連の工房地帯の編成も始めたので、前よりは状況が落ち着いている。

 ところがそれは、アーベンの人口減少の呼び水となってしまった。

 リーフレッド王国の南方攻略がある程度成功し、やはり移住者を募集していていたので、暖かい南部に移住してしまった人も多い。

 南部は、この北部に比べると冬の燃料代がかからないからなぁ……。

 気持ちはわからないでもない。


「ハンター協会のアホ共もうるさくてな」


 そのうるさい理由で一番大きいのは、バルサーク辺境伯領に作られた仮の買い取り所の存在であった。

 俺が交渉して二十年間のみ有効な買い取り所を設置したのだが、そのせいでアーベンのハンター協会支部と買い取り所に閑古鳥が鳴いているらしい。

 俺とプラムが獲る大量の素材や魔石の売却代金と、節約できた税金とハンター協会に支払う手数料で領内の経済を回すためと、直接シゲールたちに魔石と素材を卸すためのバルサーク辺境伯領支部だったのだが、支部長のランドーさんが思った以上に優秀だったようだ。

 多くのハンターたちが、獲得した魔石と素材をバルサーク辺境伯領支部に売却するようになった。

 なぜなら、その方が残るお金が多いからだ。

 買い取り金額はアーベンの方が高いのだが、税金や手数料を差っ引くとバルサーク辺境伯領支部に卸した方が儲かる。

 それに加えて、ランドーさんは毎日シゲールから特に必要な素材を聞いて、細かく買い取り金額を変更していた。

 ハンターたちが買い取り金額が上がった素材を集めると、アーベン支部よりも実入りが大きくなるので、自然とアーベン支部に魔石と素材を売りに行くハンターが減ってしまったわけだ。

 暗黒竜騒動でアーベンのハンタ―協会に不信感を持つ者も多く、上位ランカーたちの多くがが南部に逃げてしまったこともあり、まさに踏んだり蹴ったりというわけか。

 他にもランドーさんは、比較的在庫に余裕がある素材が他の地域で高くなったら転売するなどして、利ザヤを稼いで税を払ってくれている。

 なお、その輸送にはシゲール作のトラック型魔法道具がとても役に立っていたけど。


「アーバン支部も、ランドーさんの真似をすればいいのに」


「面倒なんだろう。表向きの言い訳は、昔からの規則でそういうことはしないの一点張りだがな。年寄りばかりだから新しことはしたくないんだろうぜ」


 新しい試みをやりたがらない年寄りが抵抗勢力化する構図は、どの世界でも同じか……。


「失礼ながら、私はドルスメル伯爵様がアーベンの支部に配慮しろと言ってくるのかと思いました」


 このままだと王国直轄地であるアーベンが廃れてしまうので、俺に配慮しろとドルスメル伯爵が苦言を呈す。

 ありそうな話ではある。


「プラム殿、ハンター協会は国を跨ぐ大きな組織で、いわば別国のようなものなんだ。普段はその地力を盾に国家に対し横柄な態度に出ることも多い。それに不満を抱く各国の王族や貴族も多いのさ」


 上級ハンターは貴族扱いになるのだから、それだけハンター協会の力は大きいわけだ。

 普段も各国に対し強気なわけで、今アーベンが苦境だから国に助けろと言っても、『なにを今さら!』と思う為政者も多いわけだ。


「ここでアーベン支部の連中を助けたところで、あいつらが王国に対し恩を感じるわけがないのでね。すぐに元通り傲慢な連中に戻るはずだ。俺からしたら、世話になったバルサーク辺境伯のところにちゃんとした買い取り所があるのだから、それでいいと思うぜ」


「ですが、アーベンを停滞させた責任を取らされませんか?」


「将来は知らないが、今のところは大丈夫だな。なにしろ、今の王国は南方攻略に夢中になっているのだから」


 あとは、暗黒竜、機械大人と。

 北部は連続して不幸に見舞われた。

 誰がアーベンを統治しても、暫くはどうしようもないと思われているのかもしれない。


「俺は、敗戦処理みたいな役割だからな。結局のところ、バルサーク辺境伯領が復興すれば、自然と商都であるアーベンの景気も回復するわけで。俺は治安を維持して対処療法しかできないのさ。今王都に行くと嫌味を言ってくる貴族もいるから、俺は静かに留守番しているぜ」


 法衣貴族も色々と大変なようだ。

 俺たちが王都に向かうので、ドルスメル伯爵まで王都に行くわけにいかないというのもあるのか。


「王都を楽しんでくるんだな」


「わかりました」


「行ってきます」


 いまだバルサーク辺境伯領は復興の最中にあり、家臣を連れて行く余裕ない。

 俺とプラムは二人だけで、王都に向かって高速で飛んで行くのであった。


 護衛は……スキル的に考えても必要ないよな。

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