第四十五話 リーフレッド13世

「これは、ドルスメル伯爵様よりの書状! バルサーク辺境伯様のことは事前に伺っております。城内へどうぞ」




 プラムと二人で王都へと飛んで行き、まずは王城に向かった。

 ドルスメル伯爵からの書状で辺境伯に任じられたのは確かだが、まだ正式に陛下から叙勲されたわけではない。

 陛下に謁見し、まずは正式に辺境伯に任じられるのが最優先というわけだ。

 城門でドルスメル伯爵から預かった紹介状を門番に渡すと、すぐに城内に入れてくれたのでよかった。

 連絡の不行き届きがあって、城内に入れてもらえなかったら色々と面倒だからだ。


「よく来たな! バルサーク辺境伯よ!」


 出迎えてくれたのは、リーフレッド13世。

 二十代後半で、鍛え上げられた体と鋭い目つきが特徴の王様であった。

 亡くなった父は当然会ったことがあるはずだが、俺は今日が初めての顔合わせとなる。


「暗黒竜、謎の巨大ゴーレムと。北部の騒乱をよく治めてくれた。お前はバルサーク辺境伯に相応しい男よな」


「はっ、光栄にございます」


 相手は一国の王なので、俺は跪くいてから頭を下げた。


「っ!」


 ところが次の瞬間、俺は殺気を感じたのでつい本能で反応してしまった。

 俺の頭上に剣が振り下ろされようとしていたので、思わず反射神経で真剣白刃取りをしてしまったのだ。


「(レベルが上がったせいか……こんなことができたんだな。俺)」


「いいじゃないか。気に入ったぞ! バルサーク辺境伯」


 俺の頭上に剣を振り下ろしたのは、陛下自身であった。

 間違いなく、俺の強さを試したのであろう。

 どうせ頭をカチ割られることはなかったので、反応しなければよかった。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          

 その判断ができない時点で、俺はまだ未熟なのであろう。

 任意で絶対無敵ロボ アポロンカイザーを召喚できるようなるのは、まだ先の話かもしれない。


「儀式はこれで終わりだ。これを受け取るがいい」


 陛下が俺になにかを投げて寄越したが、それはリーフレッド王国の貴族が着けるバッジであった。

 バッジとはいえ、宝石や金で装飾されているので非常に高価であったが。

 バッジは爵位に準じて豪華になっていくので、俺と陛下とのやり取りを見ている貴族たちの誰よりも俺は豪華なバッジをつけることとなった。

 これはドルスメル伯爵から聞いていたのだが、リーフレッド王国に辺境伯は俺一人だけだそうだ。

 西、東、南の国境地帯は、直轄地プラス複数の伯爵領で構成されている。

 法衣貴族には侯爵も複数存在したが、リーフレッド王国では辺境で独自の軍権を持っている辺境伯の方が上らしい。

 確かに、彼らのバッジよりも俺のバッジの方が豪華であった。


「このまま今夜はパーティーと言いたいところだったが、南方情勢が少し厳しいのだ。バルサーク辺境伯とその婚約者であるプラムよ。ついて来い!」


 陛下は玉座から立ち上がると、そのまま駆け足で謁見の間を出て行く。

 それに数名の騎士たちが同行し、俺とプラムも置いていかれないよう走り出した。


「ちゃんとついて来たな。見たな? 謁見の間にいる置石のような連中を。魔獣満ちるこの地で、俺は命がけでリーフレッド王国の生存圏を広げようと努力しているのに、法衣貴族も、在地貴族も、その家族も。バカが多くて困る」


 確かに俺の父の最後は、貴族として決して褒められたものではなかった。

 母とフリッツは言うまでもない。

 北部の領地を捨てて逃げ出し、今はこの王都で年金を貰っている貴族たちも多い。

 陛下は、そういう連中が嫌いなのであろう。


「死の荒野、死の凍土、北アーベルの沼、ビランデ山、リンデル山脈。北部に弱者などいらん! バルサーク辺境伯。お前でいいのだ」


 陛下は王城を出ると、そのまま駆け足で郊外へと走り続けた。

 レベルアップした俺とプラムはともかく、完全武装の騎士たちはよく遅れないでついてくるものだ。


「俺が選抜して鍛えさせた。家柄よりも資質で選んだ騎士たちだ」


 まるで俺の考えを読んでいるかのうように、陛下は話を続ける。

 なお、息はまったく切れていない。


「王都郊外の軍施設に、臨時の移転魔法陣を設置しているのでな。俺は王都と南方を行き来しているわけだ」


「南方攻略に賭けていると?」


「そうだ。南方には開いている土地が多い。ラーベ王国との共同作戦だが、ある種の競争でもある」


 リーフレッド王国とラーベ王国は共同で南方に兵を出しているが、どれだけの領域を占領できるかは完全な競争というわけか。

 ラーベ王国……プラムの実家だが……。


「安心するがい。どうせラーベ王国の連中とは顔を合わせないのだから。タイミングを合わせて、それぞれに攻めているだけなのでな」


 二方面から攻め込んで、南方の独立領主たちや未開地の魔獣の注意と防御力を分散するわけか。


「条約では、領地の確保はそれぞれの責任となっているのでな。もうすぐ大攻勢が始まるので、バルサーク辺境伯とプラムにも助っ人を頼みたい。ここで功績を挙げておけば、王城の置き石たちも文句は言えない。パーティーであの虚栄心の塊のような連中を相手にするのは嫌だろう?」


「そうですね」


 俺はバルサーク伯爵の血を継いでいないという話は、王都との貴族たちの間に広がっているらしい。

 一応俺はブロート子爵家の血を継いでいるんだが、不義の子扱いなので、家柄と爵位の高さしか自慢することがない貴族連中に嫌味を言われることは確実であった。


「パーティーよりも、魔獣との戦いですか」


「プラムもその方がいいだろう?」


「はい」


 プラムも……ラーベ王家に勘当されてしまった身だ。

 パーティーに出席すると、心ない中傷に晒されてしまうかもしれない。

 それなら、魔獣狩りの方がいいというわけだ。


「どうでもいいことを。あいつらを一層できたらどれだけ楽か」


 いくら気に入らない連中でも、貴族たちがいないと国が回らないのも事実だ。

 陛下は平民の登用もしているようだが、考えが古い貴族たちからすればそれが気に入らない。

 大変なのはよく理解できた。


「ついたぞ。おい! 南方の最前線だ」


「わかりました」


 王都郊外の軍施設に到着すると、俺たちは奥のある大きなテントの中に案内される。

 するとその中心には、大きな魔法陣が描かれていた。


「これを使えば、すぐに南方に飛べるって寸法だ。執務もあるので重宝しているよ」


「確かに、これは便利ですね」


 今度、シゲールに頼んで作ってもらおうかな。

 彼なら絶対に作れませんとは言わないだろう。

 バルサーク辺境伯領でも普及させてみたくなった。


「行くぞ」


「「はい」」


 陛下、護衛の騎士たち、俺とプラムは魔法陣で一気に南方へと飛んだ……はず。

 同じような大型テントの中の魔法陣の上に立っていて、外に出ると鬱蒼としたジャングルが周囲に広がっていた。


「ここを開拓すれば、年に二度も小麦が収穫できるのさ」


 北部を俺たちに任せて、リーフレッド王国が南方攻略に熱中する理由がよくわかった。

 確かに、南方の土地の方が沢山農作物を収穫できるのだから。


「手つかずの鉱山も、様々な魔獣が棲む土地もある。ハンターたちも集まっているのさ」


 ハンター協会アーベン支部がやらかして、多くの実力があるハンターたちが逃げてしまったのもあり、多くのハンターたちが南方に集まっていた。


「とはいえ、これはラーベ王国との競争なのだ」


 同時に南下して土地の占領と魔獣の駆除を開始するが、その成果はそれぞれの実力で勝ち取るというわけか。


「互いにすでに占領した土地を奪うのはナシというルールだ。わかりやすいだろう?」


 両国とも、自国の方が広い土地を抑えるべく戦力を集めている。

 陛下は、俺とプラムの戦闘力に期待しているわけだ。


「伊達に、暗黒竜や巨大ゴーレムを倒していないんだろう?」


「ええまあ……」


 この人に隠しごとをするのは難しいようだ。

 スキル絶対無敵ロボ アポロンカイザーとセクシーレディーロボ ビューティフォーはバレていないと思うが、俺もプラムも強いハンターだと思われているのであろう。


「今日はよく休んで、明日の日の出から両軍同時に南下を始める。立ち塞がる魔獣を倒し、独立貴族領に関しては、服属させていく。バルサーク辺境伯には大いに期待している」


「了解しました」


「明日の備えて夕飯と睡眠だな」


 普段の陛下は竹を割ったような性格で、随分と豪胆でもあるようだ。

 その日は兵士たちと同じ食事をとり、すぐに寝てしまった。

 そして早朝の日の出前。

 リーフレッド王国南方派遣軍全軍とハンターたちが全員揃った。

 ラーベ王国も、西の方で全軍を集結させているらしい。


「もうすぐだな……日の出だ! 全軍前進!」


 陛下の合図で、全軍が一斉に南下を始めた。

 俺とプラムは、随分と期待されているようで最前線に配置されている。

 一応スキルは発動させているが、無限ランドセルから武器を出すわけにいかず、俺は事前に用意した槍を。

 プラムは、腰に何本も剣を差していた。

 通常の武器を使って攻撃するのだが、いかんせん俺とプラムは力が超合金ロボットに近づきつつある。

 加減して武器を使わないと、すぐに壊れてしまうのだ。

 それがたとえ、オリハルコン製の武器でもだ。

 壊れても鋳つぶして再利用できるが、勿体ないなのは確かであり、剣も槍もシゲールが作ったチタン合金製の武器となっていた。


「プラム、行くぞ!」


「はいっ! ダストン様!」


 魔獣相手なら、そう苦戦はしないであろう。

 そういえば南方の魔獣について詳しくなかったが、まずは金色の巨大なマントヒヒの群れが俺たちの進路を塞いだ。


「プラム、知ってるか?」


「それが生憎と……」


 俺もプラムも、北方で活動していたハンターであった。

 そのため、南方の魔獣に詳しくなかったのだ。


「とはいえ……」


「そんなに強くないですね」


 人間の倍ほどの大きさしかないマントヒヒなので、俺は槍を口に中に突き入れ、プラムはすれ違いざまに首筋を斬り裂いていく。

 金色のマントヒヒの数は多かったが、暫く戦っていると群れは全滅してしまった。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     

 大量の死骸は、無限ランドセルに仕舞ってさらに前に進んだ。


「あんた、『アイテムボックス』持ちなのか。それにゴールデンエイブをこんなに沢山倒せるなんて……」


 俺の後ろにいたハンターが驚いていたが、そんなに強かったかな?

 この金色のマントヒヒ。


「ゴールデンエイブは、毛皮が高級品なのさ。魔石も品質がいいが、肉はと内臓食えない。肥料に加工して終わりだ」


 中年男性ハンターは、俺たちに魔獣の情報を教えてくれた。


「うん? もう魔獣たちを倒したのか? ならば前に出てどんどん倒してくれ。疲れたら交代してくれよ」


 近くにいた軍人にそう言われ、俺たちはさらに前に出た。

 立ち塞がる魔獣たちを倒し、死骸を無限ランドセルに仕舞ってからさらに前進し。

一時間ほどで、後ろのハンターたちと交代した。


「交代だ!」


 またプラムと共に前に出て、立ち塞がる魔獣たちを倒していく。

 先ほどのゴールデンエイブに、カバみたいな魔獣、サイみたいな魔獣、虎みたいな魔獣と。

 南方はいかにもな魔獣の宝庫であった。

 そして暫く進むと、人の住む町が見えた。


「戦争になるのかな?」


 と思ったら、いきなり白旗が上がった。

 その土地を治める独立領主が、戦う前に降伏したのであろう。

 おかげで人間とは戦闘にならず、俺たちはさらに前に進む。


「今日はこんなものかな?」


 大分前進したので、今日はその場に野営して明日に備えることになった。

 プラムと食事をしていると……陛下は、全員に同じ食事を出した。味は普通だけど、とにかく量が多い……俺とプラムの前にドカッと座った。


「バルサーク辺境伯、プラム。助かったぞ」


 そう言いながら、テーブルの上に地図を広げる陛下。

 そこには今日確保した土地が塗られていたが、ラーベ王国の倍以上の広さであった。


「リーフレッド王国の方が、確保している土地が広いですね」


「気合意を入れてよかった。バルサーク辺境伯とプラムのおかげだな」


 荒廃した北部の復興を俺に押しつけ、その資金は南方の新領地とその開発に使うわけか。

 随分と割り切りのいい陛下だな。

 そして、俺とプラムをいきなり連れてきて投入する思い切りのよさ。

 陛下は優れた統治者なのであろう。

 ラーベ王国は……プラムの父親が王様か。

 どうなんだろう?


「父は凡庸な王なので……」


「そうなんだ……」


「どうせやるなら、出来る限り戦力を集めるべきだろうな」


「それができないのが父なので……」


 優柔不断なのかな?

 プラム父親は。


「(あまり詳しく聞くのも酷かな)」


「父が父のままなら、リーフレッド王国は南方の土地の獲得競争に負けないと思います」


 プラムの予感は当たり、その後一週間ほど南下作戦に参加したが、両国が確保した土地の広さの差は広がるのみであった。

 勿論、リーフレッド王国の方が圧倒的に多くの土地を確保している。


「とりあえずはこれまでだな。大分領地が広がったから、ここに移住させて開発をさせなければ」


 北部の大半を俺に与えてもなお、余りある広さの土地をリーフレッド王国は確保していた。

 どうせアーベン以外の北部の土地は他の貴族たちの領地だったので、降伏してリーフレッド王国貴族になった独立領主たちの領地を除く南方領域を確保した方が、リーフレッド王国としては得というわけだ。


「ですが、父は嫉妬深い面もありまして。他人の発言に引っ張られやすい面もあります。私の追放の時もそうでした」


 父親としては娘を追放したくなかったが、他の王族や家臣たちに言われて拒否できなかったわけか。


「危ないなぁ……。そういう人」


 自分の意思がない人は、他人のどんな酷い意見にも引きずられてしまうからだ。


「一応条約はあるんだが、こうも結果に差が出るとなぁ……。気をつけて防衛体制を整えるか」


 確保できた土地の量に差があるからという理由で、今度は両国が戦争にになるのは勘弁してほしい。


「ラーベ王国なら、バルサーク辺境伯領も領地が隣接しているから気をつけなければな」


「そうですね。気をつけます」


 せっかく順調に開発が進んでいる領地なので、他国に奪われるのは勘弁してほしい。


「気をつけてくれよな」


「はあ……」


 俺はいい王様だと思うんだが、人によってはその腰の軽さが批判の対象になるかもしれない。

 それでも南方で活躍した俺とプラムは、領地に戻る前に陛下から褒められ、褒美を貰った。

 南方攻略に参加もせず、王城に残ったままの貴族たちは俺を批判できなくなり、俺はバルサーク辺境伯として正式に認められたような気がする。

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