第四十三話 日常

「機械大人の反応が消えた……遥か北の地において。機械大人を倒すなんて、もしかして……絶対無敵ロボ アポロンカイザーが復活したというのか?」


「アルミナス様、どうかされましたか?」


「北の地に、妾たちの脅威があるということが判明したのじゃ」


「アルミナス様が脅威に感じる存在……敵ですか?」


「間違いなく敵であろう」




 眷属たちを使ったレベル上げは効率が悪く、妾は全盛期の半分ほどしか力を回復できていない。

 さらなるレベルアップのため、どうにか使えるようになった『機械大人召喚の儀』を用い、この世界の下等生物を機械大人とし、破壊と殺戮でレベルアップを促進しようと思ったのじゃが……。

 まさか、機械大人を倒せる存在がいたとは。

 残念ながら、最初の機械大人はあまり妾の役には立たなかったようじゃ。


「アルミナス様、その敵を今すぐ倒せないのですか?」


「無理であろう」


 妾の勘では、どうやら遥か北に絶対無敵ロボ アポロンカイザーかそれに比する存在が……いや絶対無敵ロボ アポロンカイザーもこの世界に出現したと見るのが妥当であろう。

 向こうも能力が万全ではないかもしれぬが、機械大人を倒せる力はある。


「今の妾ならば簡単に殺されてしまうであろう。眷属たちよ。魔石を集めなさい」


 それがあれば、この世界の下等生物を機体大人にしてしまう青い石が召喚できる。

 とにかく今は、遥か北にいる敵に気がつかれないよう、妾は隠れながら力をつけるしかない。

 傲慢は二回目の死を招く。

 妾は決して、前回の轍を踏まぬ!


「ここは、慎重に力を蓄えなければ……。眷属を増やすか?」


 少なくとも、この南の果て氷の大陸は安全なのだ。

 地下宮殿の建設を急がせ、いつでも機体大人を召喚できるよう眷属たちに下等生物を倒させ、魔石を大量の確保しなければ。

 魔石があれば、次の機械大人召喚も早まるというもの。


「今、遥か北の地で機械大人を倒した敵に、妾たちの存在を知られるわけにいかぬ。今は我慢の時というわけだ」


「畏まりました」


 とにかく今は、この世界に飛ばされる前の力を取り戻すことが重要じゃ。

 そのためにも、もっと眷属たちを増やさなければ。







「順調なようだな」


「はい。なにしろ放棄地が多く、人集めにも限界があるので、大規模農業にしてしまいました。シゲール殿が農業用の魔法道具を提供してくれたので、少人数で広い農地を耕せるのはいいですね。土壌改良剤、肥料などもシゲール殿が製造用の魔法道具を量産してくれまして。順調にいけば、来援にも以前の収穫量を超えるでしょう」


「こんなに広い農地なのに、人が少ないのですね。それなのに大量に収穫できるなんて……」


「魔法道具のおかげさ」



 またも広がったバルサーク辺境伯領において、大規模農業が始まっていた。

 暗黒竜と機械大人のせいで領民たちの逃亡が増えていたのと、リーフレッド王国とラーベ王国が行っている南方出兵に伴う領地の増加で、そちらに移住してしまった者たちが多かったからだ。

 そのせいで人集めができず、ならば魔法道具を使用した少人数、大規模農業経営に舵を切ったわけだ。

 同じく畜産業も規模を拡大して行う予定だが、これも魔法道具を大量に導入して少人数前提で事業計画を立てていた。


「少人数なのを利用し、少人数で広い農地と牧場を経営して生産効率を上げるわけだ。将来に向けての投資だね」


 その代わり、新しく併合した領地でも今年は免税。

 来年以降も、既存の農地の集約や移転に協力した農家はさらに一年、未開地を開墾した場合は、その土地は三年免税である。

 さらに、シゲールが製造した農業、工事用の農業機械はバルサーク伯爵家が管理して農家に貸し出しているが、費用を取るのは三年後から。

 今は、修理、メンテナンス費用ですらバルサーク辺境伯家持ちであった。

 今のところ完全に大赤字だが、魔獣を虐殺レベルで倒せる俺とプラムだからこそ、可能な手法とも言えた。

 それに長期的に見れば回収……俺が生きている間に……別に回収しなくてもいいのか。

 金が欲しければ、魔獣を狩ればいいのだから。


「というわけで、俺とプラムは魔獣狩りに行く」


「留守をお願いしますね」


「わかりました」


 領内のことは、ムーア、アントン、シゲールに任せよう。

 人間は、そんなにいくつも仕事をこなせない。

 俺の最大の目標は、いつでも絶対無敵ロボ アポロンカイザーを呼び出し搭乗できるようにすることだ。

 そうそう瀕死になってもいられないので他の方法を模索しているわけだが、一番可能性があるのはやはりレベルアップであろう。

 プラムも俺の意見に賛同しているので、こうして毎日つき合ってくれている。

 彼女は、セクシーレディーロボ ビューティフォーを呼び出して搭乗してみたいそうだ。


「俺は必殺技も武器も増えていないんだよなぁ……」


「私はブーメランを……ブーメランってなんでしょうね?」




ダストン・バルザーク(16)


レベル773


スキル

絶対無敵ロボ アポロンカイザー


解放


カイザーパンチ

カイザーキック

カイザーアイビーム

フィンガーミサイル

コールドフラッシュ

ダブルアームトルネード

ロケットパンチ(爆破)

アームミサイル


無敵剣

豪槍(ごうそう)アポロニアス

スペースブーメラン

為朝の弓

スペースヌンチャク

スペース青龍刀



プラム・ラーベ(17)


レベル685


スキル

セクシーレディーロボ ビューティフォー


解放

レディーパンチ

レディーキック

パイオツミサイル

ヘッドレーザー

ダブルブーメラン


修理キット



 機械大人化した母を倒した影響であろう。

 レベルが100以上も上がったが、俺は新しい武器、武装を覚えなかった。

 まだまだなのだと思う。

 プラムはダブルブーメランを覚えた。

 これは、アニメ第七話からセクシーレディーロボ ビューティフォーに装着された武装で、背中に背負った二本のブーメランで敵を攻撃するものだ。

 空中の機械魔獣だと一度に何体も落とせるので、戦闘初期における雑魚の一掃には大いに役に立っていた。

 ただ、この世界にはブーメランが存在せず、プラムはブーメランという武器をどう使っていいのか困惑していた。


「ブーメランとは、こんな形をしていて……」


 俺はプラムに対し、セクシーレディーロボ ビューティフォーが背中に装備しているダブルブーメランについて絵を描いて説明をした。

 すると、彼女の背中にいつの間にか二本のブーメランが装着されていた。

 恐るべし!

 スキル、セクシーレディーロボ ビューティフォーである。


「これを手に取って敵に向かって投げるのですね。実戦は現地で魔獣相手に行いましょう」


「そうだな。じゃあ、みんなあとを頼む」


「お館様、プラム様。いってらっしゃいませ」


 俺とプラムは、急ぎ北の魔獣の住処に向かって飛んでいくのであった。





「では、我らは仕事を始めよう」


「そうだな。一気に領地が増えて管理する家臣たちも増えた。ダストン様とプラム様が必死に開発資金を稼いでくださっているのだ。我らは領地を任された身として頑張らねば」




 ダストン様は、実の父親である前バルサーク伯爵様により、領地を追い出されてしまった。

 その理由は、バルサーク伯爵家の当主が代々授かるはずであるスキル『火魔法』を成人の儀で得られなかったからだ。

 私もムーアも、ダストン様が領地を追い出されるのを止められなかった。

 我が身可愛さで、見なかったことにしたのだ。

 その後、跡取りとなられたフリッツ様は当主に相応しくなかった。

 ただの無能ならまだ補佐しようもあったのだが、人間として問題のある方であり、その母親であるルーザ様も同じであった。

 それを諫めた私もムーアも、半殺しにされて領地を追い出された。

 このまま死ぬかと思われたその時、私とムーアを助けてくれたのはダストン様であった。

 ダストン様が追い出された時、なにもしてあげられなかった私たちをだ。

 しかもダストン様はハンターとして超一流となり、とてつもなく稼ぐようになっていた。

 私もムーアも他の家臣たちも、ダストン様の才能を見誤っていたのだ。

 ハンターとしての才能と、領主としての才能は違うと言う者もいるであろうが、元よりダストン様の方が勉学でも優れていらっしゃった。

 先代様は、ダストン様がルーザ様と叔父との間にできた不義の子であることに気がついていらっしゃり、さらにダストン様が火魔法のスキルも継がなかったから……。

 本当なら家臣一同で、この身を呈してでも、ダストン様を跡継ぎにするべきであった……。

 以後、バルサーク伯爵領の荒廃と多くの犠牲者が出た責任は、私たちにもあるのだ。

 その後さらに私たちは、ダストン様を貴族にしてしまった。

 暗黒竜のせいで多くの犠牲者を出して統治機構が崩壊し、貴族たちが逃げ出した土地の領主にしてしまったのだ。

 断られても文句は言えない状況にも関わらず、ダストン様は貴族になることを受け入れてくださった。

 ろくに税も取れず、逆に持ち出しばかりなのに、ダストン様はプラム様と毎日魔獣を狩ってその利益を領地のために差し出してくださった。

 普通の貴族なら逃げ出すほど酷い領地が、たった三年で生まれ変わったのはダストン様とプラム様もおかげだ。

 さらに、フリッツ様とルーザ様を追い出した旧バルサーク伯爵領に、謎の巨大ゴーレムのせいで壊滅した旧ブロート子爵領以下多くの領地も引き受け、今では北部唯一の貴族にして辺境伯にまでなられた。

 だがその内情は、現時点ではただ金と魔石と魔獣の素材を消費するのみ。

 そんな状態でも、ダストン様とプラム様はなにも文句を言わずに毎日魔獣狩りをして開発資金を稼いでくださっている。

 そんなダストン様とプラム様を慕う家臣や領民は多い。

 ならばこそ、私もムーアも決意をしているのだ。

 もしバルサーク辺境伯領の経営に失敗したら、その場で自害をして詫びようと。

 ダストン様とプラム様はこのままハンターとして贅沢に暮らせたのに、面倒な貴族に戻してしまったのは私とムーアだ。

 そして、お二人はその義務をはたしておられる。

 私とムーアがその義務をはたせなければ、死をもって償うのが当たり前なのだから。

 その点では、私とムーアも一蓮托生だな。


「そんなに気張りなさんな。今のところ、あんたたちはちゃんとやっているさ」


 お館様が、仲間たちと共に雇い入れた魔法道具職人であるシゲール殿。

 魔法道具は門外漢なので任せているが、彼らは大いに成果を出していた。

 ダストン様には、人を見る目もあるという証拠であった。


「俺もあんたらと一蓮托生よ。新しい魔法道具を作るにはどうしても失敗が必要だ。失敗することで、なにが悪いのかわかるのだから当然だ。だがな。どの国も貴族も、失敗しないで成果を出せと言う。魔法道具の開発には金がかかる。スポンサーとしては、失敗に金を出したくない。それはわかるが、失敗をしなければ成功はない。いきなり成功するなんて、奇跡のような確率なのさ。だから俺は家族に苦労させても仕官しなかった。だが、お館様は違った。失敗を許容してくれた。新しい魔法道具を産み出すのになにが必要なのか理解しているんだ。失敗しても、確実に資金と素材を提供してくれる。自分が魔獣を狩ってな。だから俺はこの成果を出せたのだ」


 確かに、最初のシゲール殿は失敗して爆発ばかり起こしていた。

 そしてそれを見てもお館様は、『順調みたいだな』と笑っていたし、追加の資金と素材も大量に提供していた。

 だからシゲール殿は成果を出せたとも言える。

 多分、大半の貴族は『安くない金を出しているのだ! 失敗は許されない!』と言うであろう。


「だからな。俺はお館様の傍を死ぬまで離れないぜ。あんたらがもし失敗しても、俺が稼いでなんとかする! それこそが、俺にできるお館様への恩返しなんだから」


 シゲール殿をここまで心酔させるとは……。

 私もムーアも他の家臣たちも、バルサーク辺境伯領を発展させるために労力を惜しまないはずだ。


 ダストン様とプラム様が、誰よりもそれを実践なされているのだから。




「レベルが上がりにくくなったなぁ。もっと効率を重視するか」


「ダストン様の無限ランドセル。いくらでも入りますしね」


「ランドーさんに任せれば、勝手に領内に配分するか、他に売ってお金にしてくれるからなぁ。別に文無しになってもすぐに稼げるし」


「借金をしなければいいのですよ」


 そんなに金ばかりあってもなぁ……。

 ムーア、アントン、シゲールに押しつけて、俺とプラムはレベルを上げなければ。

 多分もっとレベルが上がれば、再び絶対無敵ロボ アポロンカイザーを呼び出せるはずなのだから。

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