第四十二話 バルサーク辺境伯
「バルサーク辺境伯よ」
「辺境伯?」
「リーフレッド王国は、貴殿に謎の巨大ゴーレム退治の褒美として、旧ブロート子爵領以下、アーベンを除くすべての北方の土地を与えるそうだ。これよりはバルサーク辺境伯として、死の荒野、死の凍土より南下する魔獣たちへの対処を任せることとする」
「……これって褒美ですか?」
「金銭とかも出るから……勲章も……だから褒美だと思ってくれ」
「「……」」
機械大人と化した母を無事に対峙した俺とプラムであったが、その後はドルスメル伯爵と共に事後処理に奔走した。
旧ブロート子爵領以下、母に占領された貴族領は貴族及び一族がほぼ全滅していたからだ。
臨時ながら統治体制の立て直しに、母のせいで被災したり、難民化した人たちの支援。
やることはいくらでもあり、俺とプラムもとりあえずは採算度外視で魔獣退治で稼いだ金と素材を提供し続けた。
そんな時間が終わってようやく北部が落ち着きを見せた頃、ドルスメル伯爵が俺をバルサーク辺境伯に任じるという任命書を持参したのだ。
ようするに暗黒竜騒動以降、荒れに荒れた北部地域を俺に押しつける決断をリーフレッド王国はしたわけだ。
襲爵したのは、辺境伯にしておけば、有事の際にバルサーク家のみで初期対応ができるからだと思われる。
アーベンは直轄地なので、このままドルスメル伯爵に任せて俺たちを見張らせるわけだ。
「……なんだかなぁ……」
「現在のリーフレッド王国は、ラーベ王国と組んで南方攻略に集中したいのが本音だ。荒れた北部の大半をお前さんに任せて恩を売りつつ、自分たちは南方で実入りの多い攻略に集中する、というわけさ」
ドルスメル伯爵によると、両国の南方には所属する国家が曖昧な豊かな貴族領、未開地、魔獣の住処が多数存在し、現在両国で兵を進めているそうだ。
暗黒竜、機械大人と。
他国と戦争をしている場合ではないと思うのだが、暗黒竜はともかく、この世界にも出現した機械大人については、魔獣である巨大ゴーレムという線でケリがついてしまった。
母が機械大人になってしまった件についても、人間が魔獣になったケースは存在せず、それを認めると子供である俺にまで責任が発生してしまうかもしれない。
俺とプラムが、英雄的な行動で魔獣巨大ゴーレムを倒した、ということにした方が幸せというわけだ。
そのため公的には、母は巨大ゴーレムによってブロート子爵一家と共に殺されたということになっていた。
その死すら偽装されてしまうとは、自業自得な部分も多いとはいえ、ある意味可哀想な人なのだと思う。
「俺もアーベンの再建でしばらくは忙しい」
アーベンの町自体は魔獣による被害が出ていないが、暗黒竜騒動と機械大人の件で多くの住民たちが南方に逃げ出し、そのあとに旧ブロート子爵領などの領民たちが難民として逃げ込んできた。
優れたハンターたちの流出もあり、経済は停滞し、治安も悪化しているそうで、ドルスメル伯爵も決して暇ではなかったのだ。
「俺たちは一蓮托生のようなものだ。これからも頼むぜ。はあ……アーベンの賑わいを取り戻すのは大変だけどな。バルサーク辺境伯の辺境伯昇爵の儀も、今は南方出兵が忙しいから後回しだしな。じゃあな」
ドルスメル伯爵は、俺に任命書だけ渡すとアーベンに戻ってしまった。
「よほどお忙しいのですね」
「アーベンは、人と物の流れが遮断されてしまったから」
直接町を破壊されたり、住民が殺されたわけではないが、アーベンのような商業都市は周辺の貴族領で混乱が起きれば、それに連動して経済が死んでしまう。
そうなると、人々が生活できないので逃げ出してしまうのだ。
今のアーベンはそんな悪循環の中にあった。
「それを解決するには、バルサーク辺境伯領が復興することですか」
「そうなるかな」
これまで多くの貴族たちが分割統治していた北部地域の大半がバルサーク家の領地になってしまった以上、これを立て直さないとアーベンも死んだままになってしまう。
「とはいえ、旧ブロート子爵領以下の新領地は、全住民の三分の一が逃げ出しました」
「三分の二残っただけでも恩情だろう」
「空いている土地は山ほどあるので、大規模農業ができて万々歳ですな」
ドルスメル伯爵がいなくなるのと同時に、ムーアとアントンが姿を見せた。
彼らは現在、併合した旧ブロート子爵領以下の土地も含めて、その統治に奔走している状態であった。
母から生き残り、俺たちに協力してくれることになった旧貴族の一族、家臣やその家族を家臣団として編成しつつ、懸命に北部の立て直しを行っている状態だったたのだ。
「お館様、これは魔法道具の大規模工房を作らなければいけませんな」
技術担当の家臣になったシゲールやその仲間たちも、北部の復興と開発に使用する魔法道具の量産で大忙しであった。
ただ彼らが一筋縄でいかないところは、大義名分を盾に俺にさらなる投資を頼むところであろう。
まあいいさ。
金や魔獣の素材なら、プラムと二人で魔獣狩りをすればいくらでも手に入るのだから。
「結局のところ、復興の鍵は俺とプラムがハンターを続けることなんだよなぁ……」
「頑張りましょうね、ダストン様」
この世界において、永遠に湧き出てくると言われている魔獣。
その素材と魔石で荒れた北部を復興する資金をねん出し、シゲールたちが作る魔法道具の研究費用と素材も提供しているのだから。
「お館様とプラム様の頑張りが、復興の効率化を図るのですよ」
農業、工事、生活が便利になればさらに経済も上向くはず。
それに必要な魔法道具の製造をシゲールたちに頑張らせるためにも、俺とプラムは魔獣を狩り続けなけばならない。
「ムーア、アントン、シゲール。あとは任せる」
「「「お任せを!」」」
俺とプラムは、死の凍土に向かって飛んで行く。
今日も沢山魔獣を狩るのだ。
狩れば狩るだけ、その素材を魔石が北部の復興に役立つのだから。
「レベルも上げないとな」
「そうですね。ダストン様は、あれから一度も絶対無敵ロボ アポロンカイザーを呼び出せていませんから」
あの死に瀕した時に呼び出せた絶対無敵ロボ アポロンカイザーだが、あれから何度やっても呼び出せないで困っていた。
「機械大人がいないからか? よくわからないが、今はレベルを上げるしかないな」
「私も、セクシーレディーロボ ビューティフォーを呼び出せるようになりたいです。そうすれば、次に機械大人が出た時、ダストン様と一緒に戦えますから」
この世界に出現した機械大人だが、母が変身したあの一体だけで終わるとは到底思えなかった。
もしかしたら、全銀河全滅団の首領女帝アルミナスが復活しているかもしれないが、今の俺にそれを探す時間を作り出すのが難しい。
ならば今はプラムと共に己を強くし、いつでも絶対無敵ロボ アポロンカイザーを呼び出し搭乗できるようにしておく方が大切だ。
絶対無敵ロボ アポロンカイザーがあれば、機械大人に遅れを取ることなどあり得ないのだから。
「いつも不思議に思うのだけど、どうして魔獣って減らないんだろうな」
「むしろ増えていますね」
シゲールが、金属が欲しいというので今日はリンデル山脈に来ていた。
そこには大量のゴーレムたちがひしめき、いくら倒しても数が減らないことに疑問を感じてしまうのだ。
「優秀なハンターたちの多くが南に去ってしまったから、余計に数が多いようにも見える」
「倒すハンターたちが減ったからですね」
北部において活動するハンターたちは大幅に減ってしまったので、魔獣がさらに増えたような気もする。
これは俺たちが頑張らないと。
「今日も沢山倒してレベルを上げるぞ! 頑張ろう、プラム」
「はい! ダストン様」
俺とプラムはそのスキルを駆使して、魔獣を虐殺レベルで次々と倒していく。
そんな俺たちに多くのゴーレムたちが襲いかかってくるが、俺のスキルは絶対無敵ロボ アポロンカイザーであり、プラムのスキルはセクシーレディーロボ ビューティフォーである。
ただがゴーレムたちになど倒されるわけがない。
「アームミサイル!」
「ヘッドレーザー!」
俺とプラムの攻撃で次々と砕け、沈黙していくゴーレムたち。
しかしながら、すでに多くを倒さなければレベルは上がらなくなった。
魔石も鉱石も素材も北部復興のため大量に必要であり、これもレベル上げのためだと割り切り、頑張っていこうと思うのだ。
「ダストン様! あれは?」
「なんだ?」
突然俺たちの前に、巨大なロックゴーレムが出現した。
全高二十メートルを超えており、これまでに見たことがない大きさだ。
「だがいくら大きくなっても、ゴーレムはゴーレムでしかない。この絶対無敵ロボ アポロンカイザーのスキルを持つ俺に勝てるわけがない! いな! 負けてはならぬのだ! ロケットパァーーーンチ!」
俺の両腕が巨大なロックゴーレムの腹部を貫通し、すぐさまブーメランのようにUターンして再び巨大なロックゴーレムの背中を襲った。
「爆破!」
そして命中と同時に、巨大なロックゴーレムはバラバラになってしまう。
「ちょうどレベルが一つ上がったぞ」
巨大なだけあって、巨大なロックゴーレムの経験値は多かったようだ。
「ダストン様! あそこにも巨大なロックゴーレムがいます」
「たとえ何体いようとも、俺とプラムが負けるわけがない! いくぞ!」
「はい!」
その後も俺たちは、夕方まで魔獣退治に精を出した。
またいつ出現するやもしれぬ機械大人に備えて、もっと魔獣を倒さねば。
そして、アニメのキャラであった全銀河全滅団がこの世界で復活した時に備えながら、俺たちは戦う。
たとえこの世界に全銀河全滅団が復活していたとしても、俺とプラムがいれば大丈夫。
なぜなら俺とプラムは、絶対無敵ロボ アポロンカイザーとセクシーレディーロボ ビューティフォーのスキルを持つ者なのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます