第四十一話 登場! 絶対無敵ロボ アポロンカイザー(後編)

「突然なんだ? 体から激痛が消えて動くようになったぞ」」


「私もです」




 完全に死んだと思ったら、とてつもなく眩しい光で目が覚めた。

 俺もプラムも瀕死の重傷を負っていたはずなのに、体が自由に動く。

 俺の胸に顔を乗せていたプラムも、完全に回復したようでその場から飛び上がるように立ち上がった。


「ダストン様、どうやらあの人は眩しくて目が見ないようです」


「どうやら本当にそうらしい」


 母は、この眩しさで一時的だが目をやられてしまったようだ。

 見当違いの場所に拳を振り下ろし続けていた。


「ダストン様!」


 そしてプラムが、上空に浮かぶ巨大なゴーレム……俺からしたら見覚えがあり過ぎるロボットを発見した。

 上空に出現した時空の割れ目から、巨大なロボットが出現する。

 俺が子供の頃に毎週見ていた、大人になっても定期的にDVD、ブルーレイディスクで見ていた絶対無敵ロボ アポロンカイザーの姿があったからだ。


「プラム、覚えているか? 神話の話を」


「はい! 超古代に栄えた文明のロストテクノロジーである絶対無敵ロボ アポロンカイザーは、別次元に隠された要塞から、資格者ショウヘイ・イワキにより召喚される。神話のままですね」


「死ぬ直前ギリギリで俺は、絶対無敵ロボ アポロンカイザーを呼び出すことに成功したようだ」


 どうしてなのかは、さっぱりわからないけど。


「とにかく今は、アレに乗り込むことが先決だ!」


「はいっ!」


 というか、今母が視力を奪われている間に乗り込めないと死ぬ。

 俺とプラムは、急ぎ上空の絶対無敵ロボ アポロンカイザーに乗り込む必要があるのだ。


「いくぞ! プラムは見ていてくれ」


「はい」


 どうすれば乗り込めるかは、これはアニメで岩城正平がやったのと同じようにするしかない。

 恥ずかしがっている場合ではないし、それはスキルを得た時から実践しているので問題なかった。


「行くぞ! 尊き古代アトランティス文明の遺産よ! この星に仇なす悪を俺と倒すのだ! 召喚! 開門! 搭乗! いけ! 絶対無敵ロボ アポロンカイザァーーー!」


 毎週、岩城正平はこうやって別次元に隠されている絶対無敵ロボ アポロンカイザーを呼び出すわけだが、やはり伊達に子供の頃から何度もアニメを見ていないな。

 スムーズにセリフが出てきて、絶対無敵ロボ アポロンカイザーの両目から出た謎の光線を浴びた俺とプラムは、その頭部にある操縦席に瞬時に移転した。


「ここは……」


「これこそが、絶対無敵ロボ アポロンカイザーの操縦席だ。プラム、後ろの補助席へ」


「はい」


 アニメの設定だと、絶対無敵ロボ アポロンカイザーは岩城正平しか操縦できない。

 なぜかというと、古代アトランティス文明の趙科学により作られた絶対無敵ロボ アポロンカイザーの当時の操縦者と岩城正平のDNAが、まったく同じだからであった。

 ダストンのDNAを持つ俺は大丈夫なのか心配だったが、資格がなければ操縦席に呼ばれないはずなので大丈夫であろう。


「ただ、動かせるのか? これ」


 俺はこれまで、ロボットなんて操縦したことがないからなぁ……。

 操縦席に座ってからどうしようか悩んでいた俺であったが、なぜか初めて乗る機体なのに動かせるような気がしてきた。


「……動かせるな!」


「凄いです! ダストン様」


 スキルのおかげかもしれないし、他の理由があるのかもしれないが、今はそれを考えている場合ではない。

 母を……機械大人を倒さなければならないのだから。

 無事に絶対無敵ロボ アポロンカイザーを操縦できることを確認した俺は、母……機体大人の前に立った。


「私と同じ大きさの巨大ゴーレムとはいえ、所詮はさっき死にかけたダストンが動かしているもの。私に攻撃が効くわけないわ。かかってきなさい」


 これまで無敵であった機械大人は、俺たちに対し挑発的な言動を続けた。

 好きに攻撃してくるがいいと。

 たとえ自分と同じ大きさの金属製の巨人とはいえ、自分に勝てる者などいないと思っているのであろう。


「ならば、カイザーパァーーーンチ!」


「蚊が刺したほども効かないわよ。そんな攻撃は無駄よ……あがっ!」


 俺が力一体機体大人の顔面を殴りつけると、先ほどとは違って呆気ないほど簡単に吹き飛ばされてしまった。

 機械大人は先ほど座っていた玉座まで殴り飛ばされ、激突したそれをバラバラに破壊してから、ようやくその動きを止めた。


「なぜ、ダストン如きの攻撃がこの私に……そんなポンコツに乗ったところで……」


 俺の攻撃でダメージを受けたことに、母は驚きを隠せないようだ。

 だが、不完全な絶対無敵ロボ アポロンカイザーの力しか発揮できない俺の体ではなく、本物の絶対無敵ロボ アポロンカイザーが、機械大人如きに負けるわけがない。

 母はその事実に気がつかないまま、俺に破壊されるしかないのだ。


「カイザーキィーーーック!」


「きゃぁーーー!」


「カイザーアイビーム!」


「ダストぉーーーン!」


 さらに遠方へと蹴り飛ばされ、目から発射したビームは機械大人の片目に命中した。

 これで完全に片目が見えなくなってしまったはず。


「コールドフラッシュ」


 続けて、マイナス一億度のコールドフラッシュによりさらに母の動きは鈍くなる。


「フィンガーミサイル!」


 コールドフラッシュで脆くなっていた右肩にフィンガーミサイルが次々と命中し、母は片腕を失った。

 この世界の機械大人は、はたして修理できるのであろうか?

 気にはなるが、そうはさせない。


「ダストン! あなたは実の母を殺すのですか? この親不孝者が!」


「母上。実の息子だからこそ、あなたをこの手で殺すのですよ。いや、破壊するが正しいのか……」


 これまで、ただ贅沢がしたいという理由だけで、いったいどれだけの人たちが母の犠牲になったか。


「母上、俺は反省しています」


 リーフレッド王国の命令で王都に送り出さなければいけなかったフリッフはともかく、母はこの手で処刑しておくべきだった。

 現代人の感情と倫理観で俺が手を汚すのを躊躇い、実家であるブロート子爵家に送り返した結果がこの惨劇なのだから。


「これ以上犠牲者を出さないため、俺はあなたを殺す! そんな容姿になってくれて助かりましたよ。あなたを躊躇いなく破壊できる」


 人間が機械大人になってくれたおかげで、俺は忌避感を感じずに母を殺せるのだから。


「これまでの報いを受けてもらいます。お覚悟を」


「ねえ、ダストン。私はもう反省したわ。これからは、教会に入って静かに清貧に暮らしていくから。お願い。実の母を許してちょうだい」


 俺に勝てないと悟った母は、俺に対し土下座をしてきた。

 この世界に土下座があったのかと思うのと同時に、これまでの母の言動を考えたら、確実に嘘をついているなと感じてしまったのだ。


「往生際が悪いですよ」


「お願い! 死ぬのは嫌なのよ!」


 右手がない母は、土下座をやめて俺の足元に縋りついてきた。


「ここまで醜いなんて……」


 前世の記憶があってよかった。

 もしこれがダストンだったら、情に絆され、また同じ失敗をしたかもしれないのだから。


「お覚悟を」


「お願いよぉーーー!」


 絶対無敵ロボ アポロンカイザーの足元に縋りつく、機械大人。

 アニメにはないシュールな光景である。

 だが、俺は母を許すつもりはなかった。


「もう終わりです」


「ダストン、お願いよぉーーー!」


「ダストン様、キリがないですよ」


 当然だが、プラムも母を許すつもりはなかった。

 ブロート子爵領と、彼女が征服した貴族たちの土地で、何人の人間が母に殺されたか。

 それも自分が贅沢をするためにだ。

 決して許されるものではないのだ。


「助けてよぉーーー! 私はあなたの母なのよぉーーー! 死にたくないわぁーーー!」


「もういい加減に……」


「かかった!」


 しまった!

 つい油断してしまった!

 これまで俺に縋りついて謝っていた母であったが、突然驚異的な跳躍ののち、絶対無敵ロボ アポロンカイザーの腰を両脚で挟み込んだのだ。

 同時に、とてつもない力で腰を折ろうとしてきた。


「あーーーはっはっ! 油断したわね! 青い玉が教えてくれたのよ。私は力を司る『万力』の機械大人。腕は使えないけど、その足は腕の三倍以上のパワーを持つわ。そのポンコツの腰を私の足で圧し折ってあげる。形勢逆転よ!」


 母は、全力で絶対無敵ロボ アポロンカイザーの腰を折ろうと力を入れてきた。

 そのパワーは驚異的で、さすがの絶対無敵ロボ アポロンカイザーもミシミシと音を立てている。


「なるほど、力を司る『万力』の機械大人か」


「だからもう、あなたは逃げられないわ。このポンコツの上半身と下半身を二つに圧し折ってから、ダストンとプラムを引きずり出して、この手で握り潰してやる。美しい私の体に傷をつけ、右腕まで奪って! 惨たらしく殺してやるよ!」


 やはり、母は母か……。


「先ほどの謝罪は真っ赤な嘘だったわけだ」


「当たり前じゃないの! そんなものに引っかかるお前が間抜なのさ! ほうら、上半身と下半身がもうすぐオサラバだよ!」


 母はさらに足に力を籠め、絶対無敵ロボ アポロンカイザーもその体から大きなキシミ音を発していた。


「あと何秒で折れるかしらね? ああ、楽しみ」


「一応言っておく。もう100パーセント、あんたの命乞いは聞かない」


「お前が死ぬのに、私が命乞いなんてすると思ったの? 間抜けな子だね」


 母は勝利を確信しているようで、俺を罵りながらさらに両脚に力を込めていく。


「さあ! 『ボキッ!』と派手に折れな! 『ボキッ!』とね。もうすぐだ。もうすぐ真っ二つに折れる。ほうらきた!」


 次の瞬間、これまでにない破壊音が鳴り響き、ついに絶対無敵ロボ アポロンカイザーは腰を圧し折られ、上半身と下半身に分裂……はしていなかった。

 では、なぜ破壊音がしたのかというと……。


「痛いぃーーー! 私の足がぁーーー!」


 折れていたのは絶対無敵ロボ アポロンカイザーの腰ではなく。母の両脚の方であった。


「絶対無敵ロボ アポロンカイザーは、超々銀河超合金アルファでできている。そう簡単に折れないさ」


 逆に力を入れ過ぎた母の両脚が折れてボロボロになってしまい、不思議なことに痛みがあるようで母は盛大に悲鳴をあげていた。


「右手に続き、両脚も完全に破壊され、もう立ち上がれないな。母上、さあ観念してもらおうか」


 俺は激痛のあまり、壊れた両脚を抱え込みながらのたうち回る母に最終通告を出した。

 もうこれで終わりだと。


「ダストンちゃん、私はお腹を痛めてあなたを産んだのよ。その母を殺すなんて、そんな酷いことはしないわよね? 私は思うのよ。バルサーク伯爵家の当主はフリッツよりもダストンちゃんの方が相応しいってね。プラムさん、綺麗でいい奥さんじゃないの」


「母上」


「なあに? ダストンちゃん」


「今、あなたに最後の教えを承りました。往生際の悪い人間ほど醜いものはないってね。ダブルアームトルネード!」


 また余計なことをされると困るので、俺は両腕で作り出した竜巻で、母を上空へと巻き上げた。

 そして両腕からロケットパンチを発射、母に命中した瞬間、これを爆破した。


「嫌よぉーーー! 私はもっと贅沢したいのよぉーーー!」


 ロケットパンチの爆発に巻き込まれて爆死する寸前まで、母は醜く往生際が悪かった。

 とはいえ、無事に母を倒すことができて……機械大人を破壊できてよかった。


「ふう……謎の巨大ゴーレムを破壊」


「ダストン様、大丈夫ですか?」


「あんな奴だから、悲しくはないさ」


 どうせ俺の中身は冴島誠一であり、遺伝子上はともかく意識では実の母ではないという感覚なので、その死が微塵も悲しくはなかった。

 なかったんだが……この心にポッカリとできた虚しさはなんなのであろうか?


「……」


「ダストン様、今は二人だけです」


「ありがとう、プラム」


 俺はプラムの肩にしばらく寄りかかり、そのまま二人で爆発し、燃え盛る母……機械大人の残骸を眺め続けるのであった。


 『万力』の機械大人は、絶対無敵ロボ アポロンカイザーによって無事に破壊された。

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