第四十話 登場! 絶対無敵ロボ アポロンカイザー(前編)

「ダストン様! 目をあけてください! ダストン様!」


「なによ。もう死んでしまったの? 脆いわねぇ」




 私の子供なのに、なんて情けない。

 フリッツよりは遥かに頑丈なんだろうけど……あの子を殺す時はもっと手加減しないとね。

 だって、そうしないとあっという間に死んでしまって、苦しみを与えられないから。

 私の言うことを聞かない子供たちなんて、一秒でも長く死の恐怖と激痛で苦しみながら死ねばいいのだから。

 自分のお腹を痛めた子供なのにって?

 だからなに?

 私は私。

 それに今の私は、単体の生物として最強の存在になったわ。

 もう何人も、私が自由に生きるのを止められる存在はいない。

 バルサーク伯爵家に嫁ぐ前は、やれ貴族の娘らしくしろ、貴族の妻は夫を裏から支えるのが仕事。

 華美に見せても、無駄な贅沢をしてはいけないなどと、父も母も兄たちもうるさかった。

 うるさくて鬱陶しいから、積年の恨みを晴らすかのように叩き潰してやったけど、潰れたカエルのようになっていい気味だったわ。

 亡くなった夫であるバルサーク伯爵も同じ。

 すぐに無駄遣いをするなって、大体ろくすっぽ領内の財政を見ていなかったくせに。

 私はあいつが嫌いだったから、あてつけで彼の叔父と浮気してやったわ。

 ダストンを孕んでしまったのは想定外だったけど、誤魔化して産んだから問題なかった。

 夫は気がついていたようだけど、バルサーク伯爵としての体面を気にして黙っていた。

 いい気味。

 そんな夫は暗黒竜に殺され、フリッツと二人で贅沢に暮らした時が一番よかったわ。

 税が重過ぎると言って反抗した領民たちを奴隷に落とし、さらに搾り取る。

 死ぬ奴も多かったけど、どうせ領民なんて土からすぐに生えてくるもの。

 補充は容易だったのに、ダストンの奴!

 昔から気に食わなかったのよ!

 もうすぐ死ぬと思うと清々する。

 ダストンに縋って泣いているバカ女と一緒に潰してやるわ。

 いくら若くて美しくても、潰れてしまえば同じ肉片でしかない。

 いい気味ったらないわ。

 この私が自由になるまでに、大分年を取ってしまった。

 そうだ!

 これからは、私よりも若く美しい女性は皆殺しにしてしまいましょう。

 その容姿がわからないほど潰してしまえば、私が支配するブロート王国において一番美しいのは私になる。

 しかも永遠に。

 なんて素晴らしいのかしら。


「その第一歩として、プラムさん。せいぜい派手にミンチにしてやるわ。覚悟しなさい!」


 すでに意識がないダストンと、ダストンのところに這って行ったところで力尽きたプラム。

 その健気さがムカツク。

 まずは私の拳で、ミンチにしてあげるわ。


「死になさい! 二人とも! っ、急になによ? 眩しいわね!」


 ダストンとプラムに拳を振り下ろそうとした瞬間。

 突然空から眩しい光が! 

 あまりの眩しさに、私は目がしばらく見えなくなってしまった。


「そんなバカなことが!」


 私の力を封じるため、魔法で目晦ましをかけてくる魔法使いもいたけど、まったく効果がなかったのに……。

 どうしてこの光は、私の視力を奪うほど眩しいのかしら?


「クソッ! 潰してやるわ!」


 見えないけど、瀕死で動かない二人なんて簡単に叩き潰せるはず。

 先ほど二人がいた位置目がけて拳を振り下ろしたけど、なぜか手応えがない。


「どうして? 二人は動けないはずよ!」


 続けて、その周辺に拳を振り下ろしてみるが、まったく手応えがない。


「まさか逃げたの? そんなわけないわ!」


 瀕死のダストンとプラムが、あそこから動けるわけがないのよ。

 いったいなにが起こっているの?


「眩しいじゃないの! 腹が立つわね!」


 しばらくして、ようやく眩しくなくなったので確認すると、さっきまで倒れていた場所から、ダストンとプラムがいなくなっていた。

 どこに消えたのかと急ぎ周囲を見回してみたら、なにか上空に巨大な物体が浮いているのが確認でき、その影が私の巨大な体全体を覆っている。

 こんな巨大なものが空に?

 いったいなんなのかと、慌てて空を見上げると、そこにはなんと……。


「私と同じ、金属の巨人?」


 これまでに、あんな形状のゴーレムは見たことがないわ。

 先ほど私の視界を奪った眩しい光と、姿が消えたダストンとプラム。


「もしかして……ダストン?」


「そうだ! ギリギリで命拾いした。これで形勢逆転だな」


「負け犬が、なにを言うのかと思えば……」


 たとえ同じ金属の巨人でも、この美しい私がそんな武骨な鎧武者のような巨大ゴーレムに負けるわけがないじゃない。

 今度こそ、その武骨な巨大ゴーレムごとお前をバラバラにしてやるわ。


「プラムもそこ?」


「だとしたらどうなんだ?」


「別に。ダストンと一緒にミンチにしてやるわ。覚悟しなさい」


 今度こそ、私の不義の証拠であるダストンを殺すのよ。

 そして私は、この世界を永遠に支配する女王として贅沢に暮らすのだから。

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