第三十九話 敗北?
「いくぞ! 機械大人!」
「死ぬがいい。我が息子……いや息子だったダストンよ」
いよいよ、母との戦いが始まった。
相手は機械大人なので、手加減は無用。
俺は、カイザーパンチを連発で母にくらわし、続けてカイザーキックも放っていく。
すべて命中したが、残念ながらこれまでの魔獣たちとはまったく硬さが違っており、まったくダメージを与えられなかったようだ。
「次だ!」
続けて、目からカイザーアイビームを。
攻撃箇所を一箇所に絞り、フィンガーミサイル、コールドフラッシュ、ダブルアームトルネード、ロケットパンチ(爆破)、アームミサイルと。
母に効果がありそうな攻撃を繰り出していくが、これまでの魔獣や、暗黒竜よりも桁違いの頑丈さであった。
傷一つつかずに、まったく攻撃が通じていないのだ。
「豪槍(ごうそう)アポロニアス! やぁーーー!」
俺は全力で飛びあがり、高所にある母の顔面に、槍による一撃を入れた。
ところが、またも傷一つつかなかった。
「そんなバカな……」
「なにか顔に当たったようね。ハエかしら? ハンターとして大活躍していると聞いたけど、全然大したことはないのね。攻撃とはこうしてやるものよ。食らいなさいな」
母に軽く手で払われただけなのに、俺は全身の骨がバラバラになったかのような痛みを全身に感じながら地面に叩きつけられた。
「ううっ……」
「ダストン様!」
「うるわしい愛? ダストン、ダストンと、媚び諂ってうるさい淫売ね」
「あなたに言われたくありません! ダストン様、初めて使うのでちょっと自信がありませんが……」
「痛みが取れた。問題なく使えているよ」
俺が初めて負傷したため、プラムは初めて『修理』を使った。
サポートロボットであるセクシーレディーロボ ビューティフォーの面目躍如であろう。
俺は再び動けるようになった。
「無駄なことを。そうだ、何度立ち上がれるか試してあげるわ」
機械大人になったら、ますます性格が悪くなったようだな。
その後も俺は次々と技や武器による攻撃を繰り出していくが、命中しても固すぎてダメージを与えられなかった。
一方俺は、母の一撃で簡単に戦闘不能になってしまう。
スキル絶対無敵ロボ アポロンカイザーと、本当の機械大人になってしまった母のとの間には、越えられない壁が存在するというのか……。
もしくは、俺のレベルがまったく足りていないかのどちらかであろう。
「スペースヌンチャク! えいや!」
ヌンチャクを振り回して母の顔を攻撃するが、やはりまったく効いていなかった。
どうすれば母を倒せるのか?
ここは、一旦退くしかないのか?
そんなことを考えながら、様々な攻撃を行うも倒され、プラムに修理してもらって復活する、をくり返しているが打開策は見つからなかった。
「同じパターンでつまらないわね。ダストンが弱過ぎて笑うしかないわ」
「……」
「言い返さないのかしら?」
駄目だ……。
まったく歯が立たない。
スキル絶対無敵ロボ アポロンカイザーは、まだ本来の実力を発揮できていないのか……。
だから、機械大人に歯が立たない。
魔獣なら余裕で倒せるのに……残念だが、アーベルとバルサーク伯爵領は一旦放棄するしかないか……。
家臣や領民たちをどう逃がせば……これからのことを考えていたら、隙ができてしまった。
「ちゃんと見ていないと危険よ! ダストン、お母様が戦い方を教えてあげるわ!」
「がはっ!」
これまでにない強烈な一撃……これまでは母に手を抜かれていたようだ。
再び全身の骨がバラバラになったかのような衝撃を受け、また地面に叩きつけられてしまう。
「ダストン様! これは……」
これまでのように、『修理』の効果がすぐに出ない。
動けるまで直るのに時間がかるような感覚を覚え、同時にこれまで巨大な玉座に座ったっままであった母が立ち上がり、こちらに近づいてきた。
「ついに遊びをやめて、俺にトドメを刺しにきたようだな……」
「一時撤退をします!」
『修理』を中止し、プラムは俺を抱えて高速飛行で逃走しようとすた。
「そんなことだろうと思ったわ。遅い、遅いわね。まるでハエのよう」
金属製の巨体が物理的法則を無視して急接近し、今度はプラムごと俺たちを叩き落とした。
完全に直りきっていないところに再び大ダメージを受け、俺は今にも意識が遠のきそうであった。
俺と一緒に地面に叩きつけられたプラムも大ダメージを受けたようで、ほとんど動けない状態であった。
「終わった……」
俺の慢心、油断だ。
心を鬼して、バルサーク伯爵領も、アーベンも、リーフレッド王国も一旦見捨て、レベルを上げてから母に挑めばよかったものを……。
しかし、後悔は後に立たない。
回復役もプラムも動けないのでは……俺の方も脳が全身の激痛を遮断しようと、今にも気絶してしまいそうであった。
強く抵抗して意識を失わないようにする。
「プラム……逃げられるか?」
「ダストン様……」
プラムにはまだ意識があるようだ。
ゆっくりと這いずりながら俺に近づこうとするが、当然母の常識ハズレの素早さに勝てるわけがなかった。
「健気ねぇ……昔の私みたい。ねえ、プラムさん。助かりたくない?」
「……」
「返事はナシなのね。このままダストンを置いていきますって宣言したら、あなただけ助けてあげるわ」
我が母なから下劣な考えだな。
瀕死の俺に精神的なダメージを与えるため、婚約者であるプラムに見捨てさせようとしているのだから。
「どうかしら? あなたは綺麗で若いから、すぐにいい男性が見つかるんじゃないの? ダストンなんて見捨ててしまえばいいのよ。無駄にここで命を落とすことはないわ」
「……」
プラム、こうなったらもう俺を見捨てて逃げてくれ。
「悔しい? ダストン。ああ愉快愉快」
母は相変わらず清々しいまでの下衆っぷりを発揮しているが、俺としてはプラムにだけでも生き残って欲しかった。
この敗戦は俺のミスであり、その責任は俺だけが取ればいい。
それに、もし俺が死んだとしても、プラムだけは生き残ってほしいからだ。
「見捨てちゃえ、見捨てちゃえ」
母は相変わらず性格が悪く、挑発の中身は幼稚園児レベルだが、それでもプラムには逃げ延びてほしい。
俺は彼女に視線で合図を送った。
「(生き延びるんだ!)」
わかってくれればいいが……。
そう思っていたら、プラムは母に向けて話し始めた。
「私は、代々風魔法の大家と言われている実家であったラーベ王国を、スキルのせいで追い出されました。苦労してどうにか一年生き延びたけど、先がまったく見えずに日々の生活で精一杯。そんな時にダストン様と出会ってパーティ組み、スキルの使い方を教わり、あなたが寄越した暗殺者によって毒殺されそうになった時に命を救われ、色々とあって今は婚約者となっています。私とダストン様は死なば諸共、死ぬまで二人で一緒にいようと決意しています。たとえ今ここで死ぬことになってもです。ダストン様と二人でなら死も怖くありません。地獄にでもおつき合いします。……自分のことしか考えられないあなたにはわからないでしょうが……」
「小娘が言うわね」
「あなたのこれまでの人生は、よくいる貴族の妻と同じだったはず。それなのに、なにをどうするとそこまでの外道と化すのか……。高価なお酒と食事、服とアクセサリー。それだけしかないなんて、悲しい人ですね。私には他に沢山あります! ダストン様と一緒にスキルを練習して魔獣を狩り、お休みには一緒に買い物やお食事に出かけて。王女時代にはあり得なかった楽しさがあって。あなたにはないんでしょうね。そんなものが。だから……」
「小娘がぁーーー!」
俺に母の心の奥底は理解できない。
貴族の娘として貴族に嫁ぎ、だが父の叔父と浮気して不義の子である俺を産み、それで父の血を引かない俺を憎んで追い出した後にも暗殺者を差し向けた。
まるで浮気の証拠を処分したかったかのように。
そして父の死後、フリッツと共に悪政を敷いてみんなに愛想を尽かされた。
さらに今は、実の父と兄、多くの家臣や領民たちを殺して贅沢をしている。
そうすることでしか満たされない可哀想な人だからこそ、機械大人になってしまったのか。
とても悲しい話だが……プラム……は逃げてはくれないのか……。
「ダストン様」
どうにか俺のところまで這ってきたプラムは、俺の手を掴み、その顔を仰向けで倒れる俺の胸の上に乗せてきたが、もう俺の体に感覚は残っていなかった。
「俺を捨てて逃げればよかったのに……」
「嫌です! もう前のように一人で魔獣を狩って、寂しく一人で食事をとるくらいなら、ここでダストン様と共に」
「そうか……ありがとう」
随分と短い異世界生活だったが、こんなに可愛い美少女と婚約できただけ幸運だつたかもな。
なにしろプラムは、前世の俺の初恋の人アンナ・東城によく似ているから。
「しかし、ただ一つ無念が……いや、二つだ」
「ダストン様?」
「プラムを殺させたくないのと……乗ってみたかった、絶対無敵ロボ アポロンカイザーに……」
スキルでは、絶対無敵ロボ アポロンカイザーの力を完全に再現できなかった。
機械大人が出現したのだから、きっと俺が絶対無敵ロボ アポロンカイザーに乗ることも可能だったはず。
乗れていればプラムも助けられたのに……駄目だ……意識がなくなっていく……。
「ダストン様!」
「すまない……プラム……」
俺はもう駄目だ。
天国で……地獄でもいい……プラムにまた会えるといいな。
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