第三十八話 毒母
「ダストン様、今さらですが、逃げるという選択肢を取らなかったのはなぜですか?」
二人きりで飛行しているからか、プラムが際どい質問をしてきた。
「実は、それは考えなくもなかった」
なにしろ相手は、機械大人の特徴を兼ね備えた暗黒竜以上の強さを持つであろう敵だ。
ここでプラムと二人だけで逃げ、新天地で生活を始めるのもアリだった。
だが一つだけ懸念があったのだ。
「俺が知っている昔の物語に出てきた敵が出現した。俺とプラムは、そいつらと戦っていた巨大ゴーレムのスキルを得た。もしかしたら俺たちは、これからも同じよな巨大ゴーレムたちと戦うことになるかもしれない」
移転したファンタジー風の異世界に、絶対無敵ロボ アポロンカイザーとセクシーレディーロボ ビューティフォーのスキルが顕在化し、さらに機械大人の特徴を持つ脅威が現れた。
もしかしたらこれからもこの世界に、機械大人、機械魔獣が出現するようになるかもしれない。
さらに、全銀河全滅団の首領である女帝アルミナスか、そのスキルを持つ者がこの世界のどこかに出現するか、もうしているかもしれないのだ。
「次は逃げられる保証がない。だから俺たちは強くなるしかない」
「巨大ゴーレムを二人で倒すのですね」
「他のみんなには荷が重たいだろう」
軍勢なんてぶつけても、死人が増えるだけだからな。
ハンターたちも……たとえ上位者でも機械大人に歯が立つとは思えない。
「戦ってみるしかないんだ。それに……」
「巨大ゴーレムが『ルーザ』と名乗っていたことですか?」
「もしかしたらと思うんだ」
人間が機械大人になるなんてあり得ない、とは言いきれなかった。
現に俺とプラムは、超合金ロボットのスキルを持っているのだから。
ただの人間に見えて、実はスキルが機械大人、機械魔獣、女帝アルミナスである、なんて奴にこれから遭遇し、戦うことになるかもしれない。
「その時に慌てるのは悪手だ。今から備えるに限る。巨大ゴーレムと戦ってみる」
「そうですね。あとでなんら対策もないまま戦って手遅れになるよりは」
プラムも俺の意見に賛同してくれたので、二人で巨大ゴーレム、機械大人と戦ってみることになったのであった。
「ダストン! プラムさん! こそこそしていないで姿を見せなさいな」
「これはたまげた」
「金属製の巨大ゴーレムが喋るなんて……」
「相変わらず無礼な小娘だこと」
とある町の広場では、現代日本だと芋煮会にでも使いそうな巨大な鍋に入れたワインを楽しむ女性型の機械大人が、やはり急ぎ作らせたのであろう巨大な椅子に座って俺たちを待ち構えていた。
そしてその周囲には、哀れ潰されてしまった人間の死体らしきものが複数見える。
機械なのに残虐なのは、機械大人の最大の特徴であった。
「明日にはアーベルを目指して進む予定だったのよ。もっと支配地を広げて、ブロート王国唯一の女王である私に相応しいアレやコレを用意させるためにね」
「機械大人になっても、これまでと同じく欲深い人だ。フリッツと同じく、救いようのない愚か者ですよ」
「産んでやった恩も忘れて、本当に失礼な子ね。ふんっ!」
母は、持っていたワイン入りの鍋を俺に向かって投げてきたが、すぐさまそれを殴って弾き返した。
再び自分に向かって戻ってきた大鍋だったが、母はそれを片手で叩き落としてしまう。
地面に大量のワインが広がり、大鍋は母の怪力で大きく歪んでしまった。
「勿体ないですね。そのワインも血税でしょうに」
「どうせすぐに愚民たちが用意するわ。用意できなければ、ああなるだけよ」
「酷い……」
母の視線の先には、彼女に叩き潰されてミンチとなった人たちの死体が地面の上に放置されていた。
プラムが顔を背けるが、見ていて気分がいいものではないな。
「なるほど。あなたは、まさしくあのフリッツの母ですね」
「ダストン、あなたの母でもあるのよ」
「その事実を、俺は今最高に呪っていますよ」
元から母は、このような性格だったのであろう。
以前は力がなかったので、父親であるブロート子爵、兄たち、そして夫である俺の父に逆らわずに大人しくしていた。
フリッツがバルサーク伯爵家を継いでから、その本性を露にしたわけだ。
過度な贅沢に興じ、税を払えない領民たちを奴隷にして、多くを悲惨な環境下に追いやって。
そして機械大人の力を得た瞬間、さらに残虐性を増したわけだ。
「あなたは、家臣や領民たちをなんだと思ってるのですか?」
「どう思っているって……ただの養分よ」
「養分?」
「ええ。ダストンのせいでブロート子爵家の屋敷の離れに軟禁され、明日にも教会に送られようとしていたその時、私の目の前に青い光の玉が現れたわ。そして、力が欲しければ受け入れろと。受け入れて正解だったわ」
青い玉……。
それを母に送り出したのは、全銀河全滅団の首領女帝アルミナスか、そのスキルを持つこの世界の人間である可能性が高まった。
アニメでの全銀河全滅団は、機械大人と機械魔獣を自身が本拠地とする要塞内の工場で製造していた。
それが青い玉かぁ……。
アニメとまったく同じではないということだな。
「私は、永遠の時を生きることができるようになったわ。一体で完全なる女王となったのよ。このまま世界を征服して世界の女王となるわ。人間? 養分は、私が美味しいワインを望んだら、それを綺麗なグラスで差し出せばいい。今はあんな鍋で我慢していたけど、これからは用意できなければ潰すわ。豪華な料理も、甘くて美しく、美味しいデザートも。お洒落な服も、帽子も、靴も、アクセサリーも。私が望んだら、養分がすぐに差し出すようにする。逆らえば潰すけど、所詮は養分。いくらでもかわりはいるわ」
機械大人なのに、高級な酒や豪華な料理を欲するとは……。
ますますアニメの機械大人とは違うな。
それにしても、ここまでおかしくなるとはな……。
ダストンの中身は俺なので、あまり実の母という実感はないが……。
いや、母の実感がないからこそ、この女は確実に倒さなければならないと思っている。
人を殺すことになんの躊躇もなく、些細なことで人を殺す化け物となり果てた以上、これ以上犠牲者を増やさないために。
「お前は殺す!」
「実の母をかい? 貴族なって養分たちに支持されているようだけど、実の母を躊躇なく殺そうとする息子だなんて嫌ねぇ……」
「よかったな。お前と同じだ。血が繋がっている証拠だろう?」
母も、俺を躊躇なく殺すだろうからな。
フリッツはどうなのかな?
それだけは少しだけ気になっていた。
「私は永遠の時を生きられる、完璧な存在となったわ。不完全な時に産んだ子供なんて、今の私には不要なもの。不要なものは処分して当然よ」
「フリッツもか?」
「当たり前じゃない。王都を落とす時に叩き潰してやるわ」
機械大人化した影響なのか、それとも元からこうだったのか。
もはや話をする時間は終わりだ。
俺が母を殺すか、それとも母が俺を殺すかだ。
「ダストン様」
「プラムは後方で控えていてくれ」
「私もお手伝いします」
プラムは、どんな経緯であれ実の母を殺そうとしている俺が心配なのかもしれない。
一緒に戦うと言ってきた。
「プラム、あの化け物を破壊するのに未練や躊躇はないさ。安心して後ろで控えていてくれ。今回こそ『修理』が必要になるかもしれないのだから」
これまで、俺がまったく負傷しないために必要なかったプラムの『修理』だが、相手は機械大人だ。
必要になる可能性が高かった。
「プラムはいつでも『修理』を使えるようにしておいてくれ」
「わかりました」
プラムが納得してくれてよかった。
「コソコソと相談して、私に勝てると思っているのかしら?」
「思っているからここに来ている」
俺のスキルは、絶対無敵ロボ アポロンカイザーだ。
機械大人に負けるわけがない。
そう確信しながら、俺は母へと攻撃を開始したのであった。
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