第三十七話 母の影 

「こんな感じの、高さ五十メートルを超える巨人なのです。女性を模して造られているように見え……いや、ゴーレムとは違って、その巨人には人と同じように感情があって話せます。自分が気に入らない者や、彼女に逆らった者たちは全員握り潰されるか、叩き潰されるか、踏み潰されました」


「なるほど(完全に機械大人だと思うが……喋るっているのは気になるな)」


「(ダストン様が私に教えてくれた伝承に出てくる、敵の巨大ゴーレムにソックリですね。喋りますけど)」


「なんだ? なにか知っているのか? バルサーク伯爵?」


「いえ、話に聞く限り、非常に厄介ですね」


 暗黒竜よりも厄介な機体大人……ということにしておこう……に北部のかなりの領域を占領されてしまったので、俺とドルスメル伯爵は兵を出した。

 行軍の途中、命からがら機械大人の元から逃げ出して来たブロート子爵家の家臣から事情を聞くと、ただの機械大人ではないようだ。

 そいつは人間と同じように喋るそうだが、アニメに出てくる機械大人は喋らなかった。

 全銀河全滅団がその科学力で作り出した兵器なので生物ではなく、喋るわけがないのだ。

 続けてその家臣は、とんでもないことを言い出した。


「さらにその巨人は、自分がルーザ様であると言っています。ですが、ルーザ様はお館様や跡継ぎであらせられたハンス様と一緒に屋敷ごと巨人に潰されたはずなのです。なにより、人間がいきなりあんな巨人になるわけがありません」


 母の名を名乗る機械大人かぁ……。

 常識で考えたら、人間が機械大人になるわけがない。

 だが、その機械大人は金属製なのに高価なワイン、豪華な食事、甘いお菓子などを好み。

 巨体でも過ごせる屋敷の建設を領民たちに命じ、自分の体に合うオーダードレスと、沢山の宝石を使ったアクセサリーを作らせているそうだ。


「あの母と好みが似ているな」


 さらにいえば、自分が贅沢をするためなら、領民などどうなってもいいどころか殺してもなんとも思わない女。

 生前は父のせいで大人しかったが、ついに本性を現した感じだな。

 フリッツも、母の性質を大きく受け継いでいるようだ。

 ダストンが死んで俺と入れ替わらなかったら、やはり同じように……それを考えるのは無意味だな。


「もしかすると、暗黒竜よりも強いんじゃないか? その巨大ゴーレムは」


「強いでしょうね……」


 ドルスメル伯爵の質問に答える俺。

 なにしろ機械大人だからな。

 いまだ暗黒竜騒動のダメージを回復しきれていない王国北部方面軍と、編成したばかりのバルサーク伯爵家諸侯軍には荷が重いはずだ。


「ぶつけるだけ無意味でしょう」


 多分機械大人に対しなんらダメージを与えられず、ただ踏み潰されるだけだと思う。

 そして、兵力を失ったアーベンとバルサーク伯爵領は機械大人によって占領され、次は南下して王都を狙うはずだ。


「困ったな。王都に援軍を……頼めないかぁ……」


「こんな時に、南部に兵を出している場合じゃないんですけどね」


「まさか王国だって、あんな巨大ゴーレムがいきなり出現するとは思わないからな」


 確かに、機械大人の出現はいきなりだった。

 まずはドルスメル伯爵に対処させるというのは、間違った判断でもないのだから。


「どうしたものか……」


「まずは、俺とプラムで偵察をしてみます。どのくらいの力があるのか、知った上で対応した方がいでしょう」


「そういえば、二人は優れたハンターだものな。強いにしても、どのくらい強いのか具体的にわかれば、王国への援軍要請もしやすいか……」


 残念ながら、いきなり軍勢を戦わせても機械大人に虐殺されるだけだ。

 俺とプラムが暗黒竜以上に厄介な敵だと報告すれば、ドルスメル伯爵が王国に援軍要請を出しながら、アーベルやバルサーク伯爵領の住民たちを逃がすこともできるはず。


「ダストン様」


「俺たち二人だけの方が、かえって生還しやすいだろうからな」


 軍勢を連れていた場合、まさか見捨てるわけにもいかず、かえって俺とプラムが危険に陥るかもしれないのだから。


「厄介そうならすぐに逃げるさ。すまない、プラム。危険なことにつき合わせて」


 とはいえ、現状ではスキルセクシーレディーロボ ビューティフォーを持つプラムでなければ、俺について行くことすらできないのだけど。


「私は元より、なにがあってもダストン様についていきます。だって私は、ダストン様の婚約者なのですから」


「すまない、頼む」


「ダストン様、プラム様。ご無事の帰還を」


「ムーア、俺たちは死ぬつもりはないさ。なあプラム」


「はい、無事に結婚式を挙げたいですからね」


 バルサーク伯爵家の軍勢をムーアとアントンに任せ、俺とプラムは全速力で巨大ゴーレムのいる場所まで飛んで行くのであった。

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