第三十六話 暴虐、万力夫人

「素晴らしいワインだわ。料理も最高ね。デザートはちゃんと用意しているのかしら?」


「勿論でございます。他領より、腕のいいパティシエを連れてきました」


「昨日、踏み潰してやった奴みたいなことはないわよね?」


「はい。あのようなことは二度と起こさせません!」


「私のデザートに毒なんて盛ろうとして。無駄なのに」




 この体は素晴らしいわ。

 とても大きくて強くて。

 体が金属になってしまったけど、ワインと料理とデザートの味がわかるから問題ないわ。

 巨体化した私は、邪魔な父、兄、母を握り潰し、その後は家臣たちを掌握。

 反抗した奴は、家族と一緒に握り潰してやったわ。

 一族を一人残らず殺してあの世で再会させてあげる私は、教会になんて行かなくても情け深いのよ。

 そしてそのままの勢いで周辺の貴族領に攻め込み、私の支配を受け入れない者たちは皆殺しにしてやった。

 こうして広大な領地がブロート子爵家のものとなり、私はこの地の支配者となった。

 現在、私の巨体でも過ごせる巨大な屋敷の建築を家臣や領民たちにやらせつつ、今は臨時で作らせた玉座に座わり、集めさせたワインを楽しみ、料理を味わっている。

 まさに至福の時ね。


「これこそが、私に相応しい生活なのよ。でも、このワイングラスはいただけないわ」


 体が大きくなった分、ワインを沢山飲まないと満足できなくなってしまったから、私の支配地では私以外はワインを飲むことを禁止したわ。

 違反者を何人が握り潰したら、みんな言うことを聞いてくれた。

 領内のワインはすべて税として徴収し、これを特製のワイングラスに注いで飲んでいるのだけど……グラスが、高貴な私に相応しくないわ。

 早くちゃんとしたグラスを職人たちに作らせないと。

 他にも、私が好きな食材や料理も私以外が口に入れないようにと命じた。

 そのことで私に口答えした家臣たちもいたけど、やっぱりみんな握り潰してやったわ。

 圧倒的強者となった私に逆らうなんて、本当にバカなんだから。

 愚か者に相応しい末路よ。

 あとはこのまま、バルサーク伯爵領を奪還して、リーフレッド王国を滅ぼし、世界を私の手に入れる。

 私は永遠に美味しいワインと、豪華な食事、甘くて美味しいデザートを楽しみ、綺麗なドレスやアクセサリーで着飾るの。

 今からとても楽しみだけど……。


「ダストン……そうダストンよ! 私をバルサーク伯爵領から追い出し、自分がのうのうとバルサーク伯爵になって!」


 とにかく腹が立つわ!


「「「ぎゃーーー!」」」


 つい怒りを抑えきれなくて、近くにいた家臣たちをハエのように叩き潰してしまったわ。

 まあ、代わりはいくらでもいるからいいけど。


「手が汚れてしまったわね。ハンカチを」


「畏まりました」


 早くハンカチを持って来ないと、あなたも叩き潰すわよ。


「どうぞ」


「ねえ、あなた」


「あの……なにかお気に召さないことでもあるのでしょうか?」


 お気に召さなくて当然よ!

 鈍くて使えない家臣ね。


「どうして、高貴な私が使うハンカチが絹製ではなくて、木綿製なのかしら?」


 私は貴族なのよ!

 それも選ばれた。

 そんな私に、庶民と同じく木綿製のハンカチを使えというわけ?


「ルーザ様が使えるハンカチとなりますと、すぐに用意できるのは木綿製でして……」


「だからって、この私に木綿のハンカチを使えと? 絹のハンカチを用意しなさい!」


「それが……ルーザ様が使えるような絹のハンカチともなりますと、製造に時間がかかりますので……かといって、小さな絹のハンカチを繋ぎ合わせるわけにもいかず……」


「当たり前でしょう! 私にツギハギのハンカチを使えと言うの? あなたは!」


「そんなことは決して……」


「じゃあ、今すぐ絹のハンカチを用意しなさい」


「それも大変に難しく……」


「用意しなさいよ! 私を誰だと思っているの! 生意気な男ね!」


「ぎゃぁーーー!」


 また叩き潰してしまったわ。

 人間って脆いわね。


「この私に口答えするからよ」


 体が大きくなり強くなったおかげで、もう誰も私に逆らえないわ。

 気に入らない奴は潰せばもう二度と見ないで済む。

 本当に最高だわ。


「急ぎ、職人たちに編ませます」


「そうすればいいのよ」


 少しくらいは待ってあげるわ。

 待てなかったら、その無能な職人たちごと叩き潰すけど。

 この私を待たせるなんて、これ以上の不敬はないのだから。


「そう! ダストンよ! ダストンを叩き殺さないと気が済まないわ!」


 産んでやった恩を忘れて、私をバルサーク伯爵領から追い出し、父と兄を誑かして私を教会に送ろうとした。

 私が父と兄を殺さなければいけなかったのは、すべてダストンのせいよ!


「最近、ますます領地の経営が順調だという噂を聞いたわ。ダストンの母である私が支配してあげましょう」


 ダストンと、あのプラムとかいう生意気な小娘は叩き潰してやるわ。

 そしてフリッツ!

 可愛さ余って憎さ百倍よ!

 ダストンの次は、王都を占領してリーフレッド王国の王族と主だった貴族たちは皆殺しにする予定だから、ついでに殺してあげるわ。

 その光景を予想していたら、心の底から楽しくなったきたわ。


「でもねぇ……。時間切れよ!」


「ルーザ様! お許しを!」


「もうすぐ、ルーザ様の使える大きさの絹のハンカチを編み終わりますので!」


「どうか潰さないで!」


「私の命令は絶対よ! ここで情けかけて助けると、他の者たちが言うことを聞かなくなるわ。新しいブロート子爵領の。いな! ブロート王国のためにあなたたちは死になさい」


 私の命令に逆らえば死あるのみ。

 私の願いどおりにできない無能なんて、みんな死ねばいいのよ。

 もう一人の家臣と、私が使う絹のハンカチを織り機で編んでいた職人たちを叩き潰してやったわ。

 元から間に合うわけはないのに、泣きながら必死に絹のハンカチを編んでいた愚民たちの焦った表情には笑えたわ。

 次はどんな趣向で、ダストンとプラムを殺そうかしら。


「早く料理を持ってきなさい。食後にちょうどいいタイミングでデザートも出すように。私が気に入らなかったら叩き潰すだけだけど。今後、あなたたちの生死はすべて私が決める。嫌なら、その場で首でも吊るのね。あーーーはっはっはっ!」


 もう何日か休んだら、次はダストンのいるバルサーク伯爵領を目指して侵攻しましょう。

 その前にアーベンがあるけど、ついでに踏み潰していけばいいわ。


 ダストン!

 実の母を蔑ろにした報いを、今こそ受けてもらうわ!

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