第三十三話 アルミナス 始動開始
「悪くはないか。全銀河を支配する予定の妾の格にはまだ合わぬが、今のところはこれで我慢しやろう」
情報を集め、口封じに極点近くの教会と町を滅ぼした妾は、氷に閉ざされた南洋極の極点地下に巨大な神殿を築きあげた。
もっとも、そのような下等な仕事、高貴な妾が直接するわけにいかぬ。
選んだ魔獣に妾が生み出した光る玉を植え付けて機械魔獣を増やし、その任に当たらせていた。
いまだ、多くの魔獣を狩り続けている、元はメスのニンゲン『メリー』。
妾の問いに的確に答えることができる参謀にして、元はコウテイペンギンとかいう魔獣であったルース。
地下神殿の警備を任せている、元はビッグシロクマとかいう魔獣であったゴルル。
そして、今も妾に相応しい地下神殿にするべく工事を続けている、元はゴールデントドとかいう魔獣であったバトゴア。
他にも沢山おるが、管理が面倒なのでこの四体に任せておる。
実質、この四体が妾の新しい四天王であろう。
以前の四天王とは比ものにならぬほど弱いが、そのうち新しく作れるまでの繋ぎゆえ問題あるまい。
「少しずつではあるが、やはり機械魔獣に破壊と殺戮をさせるとレベルが上がるの」
じゃが、この程度の殺戮ではなかなか力を取り戻せぬな。
「幸い、メリーが沢山魔石を集めてくれている。ここは、機械大人の召喚をなすべきであろう」
機械魔獣と機械大人の差じゃが、機械魔獣の方が基本的には弱いが、形状や大きさに融通が利くことであった。
だから地下神殿に配置できるのだ。
一方機械大人はといえば、戦闘力を確保すると、どうしてもその体が巨大になってしまう。
敵対する勢力が持つ兵器や、絶対無敵ロボ アポロンカイザーと戦わせるのにはちょうどいいが、近くに置く意味はなかった。
「しかし、その破壊力はバカにできぬ」
ニンゲンの住む場所に放てば、レベルが上がりやすいはずだ。
だが同時に、とても目立ってしまう。
現在力を取り戻す途中である妾の傍では運用できぬ。
「しかし、このままではなかなか強さを取り戻せぬ」
どうしたものか……。
「アルミナス様、なにかお悩みでしょうか?」
「ルースか……」
ルースは知力に長けた機械魔獣である。
なにかよい解決策があるやもしれぬな。
「いまだ妾は最盛期の力を取り戻せておらぬ。さらにこの身はすでに限界までレベルが上がっており、お主らが殺戮と破壊をせねばレベルが上がらず。さてどうしたものかというわけだ」
どうであろう?
ルースは妾に対し、優れた意見を提案できるや否や。
「なるほど。では、機械大人を遠方で暴れさせればよろしいかと。こちらの地図をご覧くださいませ」
いつの間に手に入れたのか、ルースはこの世界の地図を妾の前で広げた。
精度は下等生物が作ったものらしいが、現時点では大まかにこの世界のことがわかればよいのじゃ。
問題はない。
「ここは、この世界の南の果て。極点の地下でございます。なので、遥か北で機械大人を暴れさせればよろしいのです。さすれば、この世界のハンターたちでは機械大人に歯が立たぬでしょう。機械大人がもたらす破壊と殺戮により、アルミナス様は姿を隠しながら力を増すことができるでしょう。アルミナス様の願いである全銀河系征服の前にこの世界を支配する必要がございますが、その時に世界が混沌としていた方が達成も容易かろうと」
「実によいアイデアよ。ルースよ、褒めてつかわす」
「お褒めに預かり光栄にございます」
遥か遠方、北の地で機械大人を暴れさせるか。
妾の存在が知られずに済むのが一番いい。
妾があとどのくらいで最盛期の力を取り戻せるのか、妾自身にもわからぬからの。
「油断は禁物なのでな。今は時間が欲しいのだ」
そう。
時間さえあれば、妾は最盛期の大きさと力を取り戻せるのじゃ。
その時間を稼ぐため、生み出した機械大人でこの世界を混沌に陥れて秩序を破壊しておけば邪魔される心配もなかろうて。
妾に抵抗する者なり勢力、国は、この惑星を征服する前に機械大人に破壊させておくのだ。
「では、機械大人を呼び出そう」
しばらく念じると、機械魔獣軍団を作り出した時と同じく、妾の手の平の上に青く光る石が浮かび上がってきた。
機械大人のコアは、青い石なのか。
「これをどうやって北部の下等生物なり魔獣に埋め込むか……」
メリーを北部に派遣して、適当な下等生物に埋め込ませるか?
いや、もしそれでメリーから妾の存在が知られてしまったら意味がないではないか。
思案に耽っていると、頭の中になにかが思い浮かんできた。
「なるほど。この世界において強い『機械大人』を生み出すには、強き負の心が必要なのか。つまり……」
メリーと同じく、ニンゲンという下等生物にコアを埋め込むのが最善というわけか。
そして、その強き負の心を持つ者をどう探すのかと言えば……。
「アルミナス様?」
妾は玉座より立ち上がり、両手の平を宙に向け、目を瞑って再び集中を始めた。
「北の大地において、妾の呼びかけに応じる下等生物よ! 妾が与えし力で北の大地に復讐を果たすのだ!」
そう言い終わったところで、妾が召喚した青く光る玉は高速で北へと飛んで行った。
どうやら妾の眼鏡に叶う素材を見つけたようじゃの。
「さすがでございますね、アルミナス様」
「まあな」
前の世界では、こんな魔法使いのような真似はできなかったがな。
機械魔獣も機械大人も、宇宙要塞内の工廠で製造するものだったからの。
「しかしながら、ニンゲンを機械大人とした結果、製造した場合とどういう差異が出るのかよくわからん。まあ機械大人としての戦闘力を保持していれば問題ないがな」
さて、あの北へと飛んで行った青い玉は、どのようなニンゲンに入り込むのであろうか。
なるべく早く監視システムを構築したいところであるが、今は地下神殿を完成させる方が先じゃな。
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