第三十二話 異世界、征服開始

「ひいっーーー! 化け物だぁーーー!」


「無礼な! 妾のような高貴な存在に対しての礼儀がなっておらぬ! これだから下等生物は……」



 しばらく北上していたら、四体で石が出る下等生物を狩っていた下等生物がいた。

 この種の下等生物は、妾を殺した憎き絶対無敵ロボ アポロンカイザーを操っていた『イワキ ショウヘイ』と同じ種類のはず。

 最低限、妾の言葉くらいは理解できよう。

 今思い出した。

 そういえば、『ニンゲン』とかいう種類の下等生物であったな。

 住んでいる惑星内でも言葉が違っているケースが多く、仲間同士で殺し合う下等生物中の下等生物じゃが、絶対無敵ロボ アポロンカイザーを運用して妾を殺すことはできた。

 油断しないようにせねば。


「四体もいらぬな。一体あればいいか?」


「人間? なわけないか。デカイ!」


「リック! こんな魔獣は見たことがないわ。一旦退いて、ハンター協会に報告した方がよくないかしら?」


「そんな必要はねえ! こいつの死骸を持ち帰って、俺たちのパーティはこの『南洋極』で名を上げるのさ!」


 所詮は下等生物よな。

 妾との実力の差が理解できず、勇ましく吠えておるわ。

 逃げようと提案した個体が一番マシかの。

 とはいえ妾から逃げられるわけもなく、そんなこともわからぬとは、やはり下等生物であることに変わりはないがの。


「ドクトル! マッシュ! 攻撃を合わせるぞ!」


「邪魔よな。消えてなくなるがいいわ! 『破砕絶風(はさいぜっぷう)』!」


「「「ぎゃぁーーー!」」」


 やはり下等生物は脆いの。

 うるさくて邪魔な三体は、原子の単位にまで砕いてやったわ。

 情報は残る一体……下等生物にはオスとメスがおり、こいつはメスのはずだ。

 双方がいないと繁殖できぬ面倒な生き物じゃが、なぜかよく増えるので不思議でたまらぬ。


「妾の言葉を理解できるか? 下等生物よ」


「リック! ドクトル! マッシュ!」


 なにやら騒いでいるようだが、妾が砕いたオスたちはこのメスのツガイなのか?

 それにしては数のバランスが悪いが……どうでもいいか。


「静かにせねば殺す! 情報を渡せば助けてやらぬでもない」


「……」


「理解できたようだな」


 うるさいままなら粉々に砕いて別のニンゲンを探そうと思っていたところであったが、少しはマシな下等生物のようじゃな。

 早速情報を聞き出すとするか。




「なるほどな」


 どうやら、妾はチキュウとは別の惑星に飛ばされてしまったようじゃな。

 妾を殺した、絶対無敵ロボ アポロンカイザーとイワキ ショウヘイに復讐できぬが……同じ生物居住型惑星ではある。

 まずはこの惑星を完全に征服し、全銀河征服の過程でチキュウに戻り、きゃつらに復讐を果たすとするか。


「下等生物、この世界では魔獣なる下等生物を倒すとレベルが上がるわけだな?」


「はい……」


 少しでも妾の気に触ったら、粉々にされてしまうことを理解したようじゃの。

 多少は知恵の回る下等生物のようで、こちらもやりやすくて助かる。


「この石を食らったら、下等生物は強くなるのか?」


「いいえ。それは人々の生活に必要なもので、我々は食べたりはしません」


 ニンゲンは、この石を純粋なエネルギー源として用いているわけか。

 となると、この石を食べた結果妾が強くなったのではなく、魔獣を倒してレベルが上がったから強くなったのであろうか?

 確証はできぬが、その可能性が高いわけだ。


「最近、いくら魔獣を倒しても強くならぬ。なぜだ?」


「レベルは徐々に上がりにくくなります。沢山魔獣を倒し続けないと……」


 最初は簡単にレベルが上がるが、段々と一つレベルを上げるのに必要な討伐数が上がるわけか。

 もしくは、もっと強い個体を倒す必要があると。


「他に可能性はないのか?」


「教会で神官から『神託』を受けるとスキルが現れます。そのスキルが特殊なせいで、レベルアップの条件が大きく変わることがあります」


「なるほど」


 元々妾は、特殊、特別の塊のような存在だ。

 間違いなく、下等生物の法則が当てはまらないはず。

 それがわかるようになるには、教会で『神託』を受ければいいのじゃな。


「下等生物、教会に案内せよ」


「私がですか?」


「他におるまい。そんなこともわからぬのか? 下等生物は。もし嫌なら、お前を殺して別のニンゲンに案内させる」


「わかりました……」


 死にたくなければ、素直に妾を教会とやらに案内するのじゃな。


「では、方向を教えるがいい」


 妾は下等生物を手に持ち……汚いが仕方あるまい。あとで手を洗わねば……下等生物の案内で教会へと飛んで行った。


「寂れた巣箱よな」


 相変わらずニンゲンの住まいは、小さくて狭くて貧相よな。

 妾は絶対に住めぬ!

 なるべく早く妾に相応しい住居を用意せねば。


「神官とやら! 出てくるがいい!」


 妾が叫ぶと、中から別の人間たちが飛び出してきた。


「ばっ! 化け物だ!」


「無礼な!」


 おっと。

 つい下等生物を一匹、粉々に砕いてしまった。

 こいつが『神託』とやらを行える神官だったら、また新しい教会を探さなければならないというのに……。

 ニンゲンは、魔獣と違って倒しても石が出てこぬのだな。

 役に立たん下等生物だ。


「ひぃーーー!」


「黙らぬと、同じように粉々に砕くぞ。神官はおるか?」


「私です」


 もうすぐ寿命を迎えそうなニンゲンが名乗りでてきた。

 殺した下等生物が神官ではなくてよかった。


「妾に『神託』とやらをせよ。断れば……」


 妾の手の中にいる下等生物も、お前らも粉々に砕いてやろう。


「わかりました。『神託』を行いましょう」


 年を食っている分、他の下等生物よりも物分かりがいいようで助かった。


「今、神に祈って『神託』を得てきます」


「嘘偽りを教えたら、みな砕くぞ」


「私は神官なのです。嘘はつけません」


 神官とは、嘘をつかないニンゲンなのか。

 そんなことはあり得ぬと思うがな。

 ニンゲンとは、自分だけが得をするためなら、平気で嘘をつけるずる賢い下等生物なのだから。

 とにかく今は、妾のスキルがわかれば問題はないか。


「『神託』を得てきました。あなたのスキルは、『機械大人、機械魔獣召喚』、『眷属利用によるレベルアップ限界突破』です」


「わかった。お前はどんなスキルなのか意味がわかるか?」


「いいえ。初めて聞くスキルです」


 神官にもわからぬのか。

 所詮は下等生物よな。

 想像するに、この惑星への移転により機械大人、機械魔獣の生産設備を失った妾は、自力で機械大人と機械魔獣を生み出すしかないというわけか。

 『召喚』なので、魔力とやらで呼びだすのであろうか?

 『眷属利用によるレベルアップ限界突破』は、すでに妾自身のレベルが限界に達しており、それを補う手段として存在しているものと推察される。


「レベルの見方を妾に教えるのだ」


「『ステータスオープン』と唱えます」


 ようやく下等生物もわかってきたようじゃな。

 妾の貴重な時間を奪うことがどれだけ罪悪なのかを。

 神官は、年老いているのでもう使えぬな。


「レベル999とは、高いのか低いのか……」


 判断に悩むところだな。


「とてつもなく高いです。私のレベルは98ですから」


 だからこいつらは弱かったのか。

 しかしながら、いまだ全盛期の十分の一以下の力しか取り戻せておらぬ。

 あとは、『眷属利用によるレベルアップ限界突破』でレベルを上げて強くなればいい。

 眷属とは、妾が生み出した機械大人と機械魔獣のことであろう。


「まずは……」


 機械魔獣の方を生み出してみるか……。

 魔獣から出る石は魔石というそうで、魔力の元だと聞いた。

 つまり、今の妾は魔力がとても多い状態だ。

 これを用いて……よくわからぬが、ここは本能に任せよう。

 しばらく集中していると、下等生物を持っていない手の平から赤く光る光の玉が浮かび上がってきた。


「これが機械魔獣なのか? そうか!」


 この光る玉は、妾の魔力が生み出した機械大人、機械魔獣の核なのであろう。

 これを生物に埋め込めば、妾の忠実な機械大人、機械魔獣になるわけか。

 

「理解したぞ! 下等生物、生かしてほしいか?」


「はい!」


「では、これをくれてやろう」


 妾は、もう片方の手で掴んでいた下等生物に、出したばかりの光の玉を埋め込んだ。


「どうやらこれでいいようだな」


「痛いです! 助けてぇーーー!」


 下等生物は鳴き声も汚くて聞き苦しいが、じきに妾の忠実な機械大人、機械魔獣に生まれ変わって静かになるであろう。

 そして十数秒後。

 下等生物は大きさはそのままだが、表面が金属で覆われた、まるで小型の機械大人のような姿になった。

 思っていたよりも使える下等生物ではないか。

 機械大人になれた……これは機械魔獣の方か。

 まあ、使えればどちらでもよかろう。


「実験じゃ。この教会と……近くの町をすべて灰にしろ。下等生物は一匹残らず生かすな」


 いまだ妾が最盛期の力を取り戻していない以上、その存在を知る者は一人でも少ない方がいい。

 メスの下等生物は機械魔獣になったので、これはしばらく使ってみることにしよう。

 役立たずならすぐに処分するが。


「アルミナスサマ、ゴメイレイヲジッコウシマス」


 元は下等生物のメスだが、機械魔獣にしたら随分と戦闘力が上がって静かになったものよ。


「神よ……」


「ソンナモノハイナイ! シネ!」


 それにしても、妾が最初に作った機械魔獣の優秀さと言ったら。

 火炎を吐いて神官や他のニンゲンたちを教会ごと灰にし、すぐに近くの町に襲いかかって一匹残らず下等生物を処分しておるわ。

 これは楽でいい。


「うん? 体が少し大きくなり、戦闘力もわずか増えたような……」


 なるほど。

 妾が生み出した機械大人、機械魔獣で破壊と殺戮をさせれば、それが妾の経験値となり限界以上にレベルが上がるわけか。

 実際、レベルを見てみるとレベル1001まで上がっていた。

 妾が機械魔獣にした元ニンゲンのメスが教会と町を破壊し、ニンゲンたちを殺した結果であろう。


「殺したニンゲンの強さと数の割には、妾のレベルアップが著しいのか? どうやら妾が作り出した機械大人と機械魔獣ならば、なにを壊して殺してもレベルが上がるようじゃの」


 しかしながら、現時点で下等生物の大虐殺はしない方がいいか。

 人間に勘づかれ、先手を打たれると困るからな。

 教会と町一つくらいなら、魔獣とやらの仕業だと誤魔化せる。


「妾なら、極寒の極点でもなんともない。ここを本拠地とし、下等生物に……そういえば、そなたの名は?」


 妾は、妾の命に従って町を焼き尽くし、そこの住む下等生物たちを皆殺しにしてきた機械魔獣に尋ねた。


「『メリー』です」


「メリーじゃな。南の極点の地下に本拠地を作るが、お前はその周辺で妾の代わりに魔獣を始末し、石を集めてくるのだ」


「カシコマリマシタ」


 下等生物の時は弱く醜かったが、今は大分マシになったではないか。

 妾の下僕として生かしてやっているのだから、せいぜい感謝して妾のために働くのだな。

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