第二十六話 愚弟

「また農民が逃げただと? どういうことだ?」


「それが……北の……ぐはっ! ゲホッ! ゴホ!」


「はあ……はあ……北! またもダストンの領地か! あの領民泥棒が!」


「フリッツ、落ち着いて」


「母上、俺様は落ち着いていますよ。おい! そのボロ切れを外に捨ててこい!」


「はっ!」



 まったく。

 俺様の家臣は、どいつもこいつも使えない奴ばかり。

 無能なダストンの話なんてするから、つい剣で斬り殺してしまったぜ。

 偉大なる俺様に仕えたい者は多いから、すぐに補充できるけどな。

 それにしても、たかだか税率を九割にしたくらいで愚民どもが騒ぎやがって!

 いったい、誰のおかげで生活できていると思っているのか。

 見せしめで二~三家族を磔にしたあと焼き殺し、己の立場をわからせてやったんだが、それでも他領に逃亡する領民が増えやがった。

 しかも、逃走先の大半が北のバルサーク子爵を名乗るダストンときたものだ。

 あいつのところになんて逃げやがって!

 見つけ次第奴隷に落としてやっているんだが、一向に逃亡する領民の数が減らない。

 奴隷はよく死ぬから、補充ができて好都合だけどな。

 愚民なんて放置しておけば勝手に増えるから、少し殺したくらいで大騒ぎしやがって。

 家臣の分際で生意気なので、そいつも殺しておいた。

 殺した家臣の家族は奴隷にしたが、もうほとんど死んでしまったがな。

 しかしながら、どういうわけかこのところ愚民が増えないで減っているらしい。

 さすがに少し困ったな。


「母上、どうしましょうか?」


「そんなの簡単よ。北にいるダストンを殺して、その領地を併合するの」


「それはいいアイデアですね」


 生意気にも、ハンターとして大金を稼いだダストンは、北の貴族の領地を八つも競売で購入したのだ。

 どうせあいつは無能だから、余計に領地を荒廃させるだけだと思ったら……。

 今では北部一富裕な領地になったと聞く。

 どうせ誇張だろうが、ダストンのくせに生意気な!

 母上の言うとおり、北の領地は俺様がすべてを併合してやる!

 ダストンは捕らえ次第処刑で、あいつには元他国の王女である婚約者がいると聞いたな。

 ダストンには勿体ないので、俺様が貰ってやろう。

 貴族同士の争いなどよくあるし、どうせ王国は見て見ぬフリだろう。


「ようし! 出兵だ!」


「フリッツ様、今のバルサーク伯爵領にそんな余力はございません。ここは、ダストン様に援助を頼み……がはっ!」


「死ねよ! このクソ雑魚が!」


 この俺様が、あの無能なダストンに頭を下げろだと?

 そんなこと、できるわけがないだろうが!

 ふざけたことを抜かしやがって!


「おいっ! このゴミを外に捨てておけ! あとな、こいつの家族は奴隷に落とせ!」


「畏まりました」


「出兵の準備もだ! 急がないとこいつの二の舞になるぞ!」


「畏まりました!」


 ダストンめ!

 運よく広大な領地の開発に成功したようだが、俺様がすべて奪ってやるぜ!

 噂によると、婚約者は元王女だけあっていい女らしいからな。

 領民の女は飽きたので、俺が代わりに使ってやるよ。

 せいぜいあの世で悔しがるのだな。

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