第二十五話 臨時買い取り所

「ダストンさん! プラムさん! そうでした。バルサーク子爵様とプラム様でしたね」


「ランドーさんが、この臨時買い取り所の責任者なんですか」


「この度辞令が降りまして。よろしくお願いします」




 ドルスメル伯爵が約束を守り、元ステリア子爵領にハンター協会の買い取り所ができた。

 早速着任した責任者が挨拶に来たのだけど、その人物はなんとランドーさんであった。


「若手が一支部のトップになれたので栄転とも取れますが、ご覧のとおり私の他は五人の若い職員しかいません。しかも、二十年限定で買い取り所のみ。暗黒竜騒動の際にラフプレーが過ぎました」


 やはりそうなったのか。

 ハンター協会のような大規模組織において、優秀な若手が横紙破りをしたのだ。

 これはある種の左遷人事なのであろう。

 もっとも、ランドーさん本人に悲観した表情は見られなかったけど。


「アーベンの支部ですが、暗黒竜騒動以降、寂れて酷いものです。優秀なハンターほど、南に逃げてしまったのですよ。暗黒竜騒動の際に呆れられたのですね」


 ハンター協会は、貴族たちが仕掛けた平民たちによるハンターへの中傷、誹謗を阻止できなかった。

 その報いを受け、今では魔獣の素材と魔石の取り引き量が大分落ち込んでしまったそうだ。


「ダストンさんとプラムさんが卸す素材と魔石が、アーベンの支部からごっそりなくなることに大反対した幹部たちが多かったのですが、結局ドルスメル伯爵が怖くてなにも言えませんでした。情けない限りです」


 ハンター協会は世界規模の組織で、国にも対等にものを言える。

 はずだったのに、今のアーベン支部はそれができない。

 ハンターたちに愛想を尽かされて当然か。


「私はこちらに転勤になって、かえってよかったです。お互いに上手くやりましょう」


「そうですね、よろしくお願いします」


「ランドーさん、よろしくお願いします」


「二人とも出世なされましたね。将来はいい夫婦になりそうだ」


「「あはは……」」


 ランドーさんの不意打ちを食らい、俺とプラムは顔を赤らめてしまった。

 こうして、ランドーさんが支部長となった臨時買い取り所がスタートした。

 基本的に、魔獣の素材と魔石をハンター協会を通さずに販売することはできない、ということになっている。

 どうも色々と抜け道はあるようだが、今それをしてもハンター協会に睨まれるだけなので、こういう風にした。

 俺とプラムが獲た魔獣の素材と魔石を買い取り所に査定させる。

 二割の額をハンター協会に納めるのだけど、その前に魔獣の解体や、基本的な素材への加工などを、困窮する流民や領民たちにやらせ、彼らにハンター協会が賃金を払う仕組みにした。

 解体、加工された素材と魔石はアーベンに運ばれるが、輸送も領民たちに委託して賃金を払ってくれるそうだ。


「かなり助かります」


「このくらいしないと、アーベン支部の幹部たちはなにもわからないでしょうからね。ですが、彼らはドルスメル伯爵が怖くてなにも言えませんよ」


 これまで、アーベンの支部が雇った人員でやっていた魔獣の解体、加工、輸送のかなりの仕事が消滅したが、俺はすでに子爵であり、ドルスメル伯爵もいてなにも言えない。

 元ハンターにしては情けない限りなのだが。


「ハンター協会の幹部には、あまりハンターとして実績がない人の方が多いんですよ」


 ハンターとしての実力よりも、組織運営能力や金勘定が上手で出世したような者も多いというわけか。

 彼らはハンターとしての実力に乏しいので、いざドルスメル伯爵のような武闘派を相手にするビビってしまう。

 それを見た現役ハンターは実力がある者ほど、ますますハンター協会の上層部に失望するわけだ。

 アーベンの町のハンター協会支部は、暗黒竜騒動以降、なす術なく力を落としていた。


「うちはうち。よそはよそだ。臨時買い取り所を作れた以上、これを利用してバルサーク子爵領を発展させる……のは、ムーアとアントンに任せるか。俺とプラムは、魔獣狩りを続ける」


 ぶっちゃけ、そうした方が俺とプラムにとって得であった。

 俺に人を見る目なんてなくて、ムーアとアントンが賄賂や横領で私服を肥やし、領地が発展どころかさらに荒廃したところで、他の国に逃げればいいのだから。

 沢山魔獣を倒せばレベルも上がり、俺が絶対無敵ロボ アポロンカイザーに乗れるようになるかもしれない。

 損はしない仕組みだ。

 俺は、プラム以外の人間をそこまで信じるほど善人でもお人好しでもない。


「ようするに、普段どおりだ。行くぞ、プラム!」


「はい! 師匠!」


 俺とプラムは、北の魔獣の住処まで飛んでいった。

 俺とプラムのレベルだが、今は268と212だ。

 新しい武装も武器も解放されておらず、これからはもっと魔獣を倒すことにしよう。


「師匠、新しい武装や武器が解放されるといいですね」


「ああ、頑張ろう」


「私も頑張ります!」


 俺とプラムは通常の飛行魔法ではあり得ないスピードで、北の魔獣の住処へと飛んで行ったのであった。

 さて、今日も沢山魔獣を狩ってレベルを上げないと。

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