第二十四話 ドルスメル伯爵

「もうそろそろ来ると思っていたぞ! 元バルサーク伯爵公子にして、今はバルサーク子爵よ」


「それなら話は早いですね」



 急ぎ飛行してアーベンの代官屋敷に向かった俺とプラムであったが、予想に反してすぐに屋敷に通してくれた。

 今日はアポイントメントの予約だけ取って終わりだと思っていたのだが、俺たちの想像以上に北部は逼迫しているようだ。

 ドルスメル伯爵は初老で白髪交じりの髪が目立つも、ガッチリと鍛えられた体をしたオジさんであった。

 あきらかに軍人で、今のアーベンには最適な人材かもしれない。

 暗黒竜の脅威はなくなったが、北部は今も混乱しているからだ。


「元ステリア子爵領に、ハンター協会の買い取り所だな。いいだろう! 五年だけ認めてやる!」


「十年!」


「お前……俺と交渉しようってか?」


 ドルスメル伯爵は、鋭い目をギロリとさせながら俺を睨みつけた。

 どうやら実戦経験豊富なようで、下手なヤクザよりも殺気と威圧感に満ち溢れていた。

 普通の人なら引くのだろうけど、今の俺は絶対無敵ロボ アポロンカイザーなのだ。

 人間相手に引くわけにいかないな。


「どうせ、なにか代わりに面倒事を任せるんでしょう?」


「……ふっ! 気に入ったぞ! 坊主!」


 なぜか俺はドルスメル伯爵から気に入られたようで、彼に肩をバンバンと叩かれた。

 スキル絶対無敵ロボ アポロンカイザーをしてもなかなかの力であった。


「これを見ろ!」


 ドルスメル伯爵は、回りくどい話は嫌いなようだ。

 軍人なので、無駄な時間が時に大敗の原因になると本能で理解しているからであろう。


「元ステリア子爵領の北部、死の荒野に至るまでに七つの貴族領がある。子爵領二つ、男爵領が二つ、準男爵領が三つ。いくつ引き受ける? 一個で一年期間を伸ばしてやる! 競売価格は一個一リーグだ!」


 つまり、元ステリア子爵領付近の領主たちで、王都に逃げ出していないのはフリッツだけなのか……。

 実はあいつ、根性あったのかな?

 いや、なにも考えていない説が濃厚だな。


「一リーグですか? どの領地も?」


「誰も買いやしねえ! 目敏い奴ほどな!」


 多くの成人男子が暗黒竜に焼かれて死に、生き残った領主と家臣とその家族たちが損切りして逃げ出すほどの領地だ。

 俺みたいに、二億リーグで購入したら大損なのであろう。


「被害が大きいんですね」


「軍団を組む際に、同じ地域の奴らを一纏めにすると楽なのでな」


 軍隊として連携が取りやすいからだが、それをした結果、暗黒竜のブレスでみんな平等に焼き払われたのか。


「家臣に聞きましたが、バルサーク伯爵家も、千人送り出して十五名しか生き残らなかったそうです」


「それでも、バルサーク伯爵家は生き残りが多い方なんだよ」


 それは、七つの領地の領主一族も逃げ出すか。

 当主どころか、家臣や領民たちすら一人残らず討ち死にしてしまったのだから。


「だからよ。坊主が面倒みてくれたら、臨時の買い取り所の設置を認める。どうだ?」


「全部引き受けたら二十年にしてくれますか?」


「……坊主にしちゃあ、交渉が大胆だな。いいだろう。二十年だな」


 これで二十年間。

 俺とプラムが採取した魔獣の素材と魔石及びその買い取り金額を、領内開発に振り分けられる。


「ハンター協会に人を送るように言っておく。あいつらは断らんだろう。支部が増えるんだからな。ポストが増えて嬉しいのは、国も教会もハンター協会も同じだからな」


 こうして俺たちは、無事にドルスメル伯爵から臨時の買い取り所の設置許可を得ることに成功したのであった。

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