第二十話 暗黒竜VS絶対無敵ロボ アポロンカイザー
「俺たちを抱えて、あんなに速く飛べるのか……」
「二人とも凄いな」
「魔法で飛べる者は希少……お嬢さん、あんたどうしてラーベ王家から追い出されたんだ? あそこは、風魔法の家柄じゃないか。飛行魔法は高度な風魔法だろうに」
「別のスキルのおかげで飛べているんです」
「……ハンター協会も、貴族も、王家も古い常識とルールを頑なに守るのが大好きなんだな。バカらしい」
ハンター三人を抱えながら飛行する俺たちは、死の荒野を北上していく。
その速さに彼らが驚いていたが、これでもスピードは落としている。
俺たちが本気で飛行したら、彼らは確実に目を回してしまうからだ。
俺とプラムが超高速で飛んで気分が悪くならないのも、スキルのおかげだろう。
だって、絶対無敵ロボ アポロンカイザーとセクシーレディーロボ ビューティフォーは乗り物酔いなんてしないのだから。
「見えてきた。デカッ!」
「えっ? 竜って大きくても数十メートルくらいじゃないんですか?」
「暗黒竜は特別だ」
どう小さく見ても全長三百メートルほどはある漆黒の巨大な竜が、ゆっくりと歩きながら南下を続けていた。
あちこちに、暗黒竜のブレスによって焼かれた消し炭のような人間が見える。
あんなのにブレスを吐かれたら、亀鉄製の装備も意味はなかったのかもしれないな。
「じゃあ、始めるかな。あなた方は離れた場所で見ていてください。プラムは俺の補助ね」
「わかった。武運を祈る」
「もし負傷したら、特技修理の出番ですね」
大分遠方に三人を先に降ろしてから、俺は暗黒竜の前に立ち塞がった。
プラムはその後ろにいる。
「ギュア?」
暗黒竜は不思議に思ったのであろう。
自分に立ち塞がる一人の無謀な人間に。
だからであろう。
すぐにブレスを吐かず、俺を興味深そうに観察していた。
「その油断がお前の命取りだ! 絶対無敵ロボ アポロンカイザー! 発進!」
気合を入れるため、アニメと同じく主人公岩城正平のように大声で発進シーンを再現する俺。
その場から飛び上がって、まずは挨拶とばかり暗黒竜の首筋に蹴りを食らわせた。
「ギュアーーー!」
かなり痛かったようで、暗黒竜は悲鳴をあげた。
そして、仕返しのブレスを俺に吐く。
だが、俺はそれを高速飛行でかわしてしまった。
「さすがに一撃でバラバラにはならないか」
竜、それも特別な大型竜だから当然か。
普通の生物ではないから、絶対無敵ロボ アポロンカイザーの攻撃にも耐えられるのだろうが、さすがは竜。
他の魔獣とは頑丈さが段違いだな。
「お前が倒れるまで、あとはひたすら攻撃するだけだ! フィンガーミサイル!」
十本全部を、一度に満遍なく暗黒竜に命中させる。
暗黒竜は大爆発に包まれ、それが晴れた時、暗黒竜は血まみれであった。
「多少、効果はあるのか」
傷はつけたが、致命傷ではないはず。
まだまだ攻撃を続けなければ。
「コールドフラッシュ!」
これで凍ってくれたら……と思ったら、暗黒竜がこちらに対抗すべくブレスを吐いた。
「やはり、まだレベルアップが足りないんだな……」
コールドフラッシュは、暗黒竜のブレスで相殺されてしまった。
マイナス一億度ならあり得ないので、まだまだスキル絶対無敵ロボ アポロンカイザーが完全ではない証拠であった。
もっとレベル上げが必要だな。
「ならば! 攻撃を続けるのみだ! カイザーパァーーーンチ!」
「ギュアーーー!」
「カイザーキィーーーック!」
俺は高速で飛び回り、次々と暗黒竜にパンチと蹴りを食らわせていく。
不完全でも戦闘力が巨大超合金ロボの攻撃なので、素手の攻撃でもとてつもない威力だ。
暗黒竜はダメージを蓄積させ、徐々にその動きを鈍らせていく。
あとはこのまま殴る、蹴るを続けて……。
「甘い!」
俺が予想したとおりであった。
窮地に追い込まれた暗黒竜は、その巨大な尻尾で俺に大ダメージを与えようとしたが、事前に予想できていたので上手くかわすことができた。
「もう観念するんだな!」
俺は攻撃を頭部に集中させる。
どんな生物でも、頭には脳などの重要な器官もあり、大ダメージを受ければ死んでしまう。
とにかく俺は、暗黒竜の頭を殴り続けた。
「ギュアーーー! ギャーーー!」
「アホか! お前は!」
また暗黒竜が俺を尻尾で攻撃しようとしたのだが、なんとそれが自分の頭に直撃してまたも悲鳴をあげる羽目になってしまった。
俺が回避を工夫したのもあるが、頭に攻撃を集中したので判断力が鈍ってきたのであろう。
「このまま畳みかける!」
とは言っても、あとは頭部をひたすら殴り続けるだけだ。
「ギュワァーーー!」
「これで終わりにするか……。食らえ! 渾身のカイザーキィーーーック!」
「ギュ……ワ……」
一旦暗黒竜の上空へと飛び上がって勢いをつけてから、落下速度を利用したカイザーキックで暗黒竜の頭部に一撃を入れる。
これだけ威力を増しても暗黒竜の頭部は破壊されなかったが、内部はズタボロになったはず。
その証拠に、頭部に致死量のダメージを受けた暗黒竜は、まるで大地震のような地鳴りと共にその場に倒れ伏した。
「ふう……やっと死んだか。俺の攻撃にここまで耐えるとは、さすがはドラゴン」
念のため、まだ生命反応が残っているか調べてみるが、暗黒竜は完全に死んでいることが確認できた。
「師匠!」
「プラム、やったよ」
さすがは、絶対無敵ロボ アポロンカイザーのスキルだ。
こんなに巨大な竜をノーダメージで倒せてしまうのだから。
「修理、使いたかったです!」
「……そのうち出番は必ずあるから……」
覚えた特技の練習がまったくできないプラムに多少の不満はあったようだが、それはそのうち解決するだろう。
この世界、強い魔獣はまだまだ沢山いるだろうから。
「師匠、レベルが上がりました」
「あっ、俺もだ」
まあ、暗黒竜なんて大物を倒せば当然か……。
プラムに関しては、同じパーティという扱いだからであろう。
ダストン・バルザーク(13)
レベル258
スキル
絶対無敵ロボ アポロンカイザー
解放
カイザーパンチ
カイザーキック
カイザーアイビーム
フィンガーミサイル
コールドフラッシュ
ダブルアームトルネード
ロケットパンチ(爆破)
無敵剣
豪槍(ごうそう)アポロニアス
特技に、この手のロボットの定番武器ロケットパンチが追加された。
無敵剣と豪槍アポロニアスは、無限ランドセルから取り出せる新しい武器だ。
ますます腰に差した剣がお飾りになっていくな。
ただ、絶対無敵ロボ アポロンカイザーのロケットパンチは、指のフィンガーミサイルを用いて敵を爆破可能であった。
当然腕も吹き飛ぶんだが……なぜか次のシーンで腕が回復しているのは、これは昔のロボットアニメのお約束ということで。
俺が再現するとどうなるのか?
実際に試してみないとなんとも言えないな。
プラム・ラーベ(14)
レベル201
スキル
セクシーレディーロボ ビューティフォー
解放
レディーパンチ
レディーキック
パイオツミサイル
修理キット
「あの……師匠? 『パイオツミサイル』ってなんですか? どんな武器ですか?」
うーーーむ。
出てしまったか。
セクシーレディーロボ ビューティフォーの一番威力がある武装、パイオツミサイルが……。
そのままおっぱいがミサイルとなって飛んでいくという、非常にわかりやすい武装である。
パイオツミサイルは、フィンガーミサイルよりも大型なので威力がある。
機械魔獣なら、複数を同時に吹き飛ばせるほどの威力だ。
『オッパイ』じゃなくて『パイオツ』なのは。業界的なイメージを含ませるため?
当時、リアルタイムで放映を見ていた子供だった俺は、たとえロボットでもおっぱいがミサイルとして飛び出るシーンにちょっと興奮していた。
当時はそんなにエロイものなんてなかったから、これはもう仕方がないと思うことにする。
「あとで試せばいいさ。それよりも……」
「暗黒竜の死体ですよね」
俺の無限ランドセルに入れてもいいのだけど、それをしたら色々と問題が発生してしまう。
どうしようかと悩んでいたら、ハンターたちが駆け寄ってきた。
「イケるはずだと思ってはいたが……」
「本当に暗黒竜を倒してしまったな……」
「改めて見ると大きいな。よく俺たちはこんなのから逃げ出せたものだ」
この三人に暗黒竜討伐の功績を譲り、その代わり暗黒竜の素材と魔石の代金は俺たちに。
そういう契約なんだが、三人の顔色は晴れなかった。
「過ぎた功績など、明日の死への一里塚だからな」
「アーベルの町を救うためとはいえ……」
「このあと、どんな難事を押しつけられるか……。だが、こうするしかなかったのだ」
これがバカや低実力者なら、俺たちの功績を奪って喜んでいたはず。
ところが彼らは優れたハンターであった。
他人の功績を、それも実力が伴わない自分たちが奪えば、のちにどんな災いが訪れるか。
理解しているがゆえに、頭が痛いのであろう。
でもそうしなければ、暗黒竜退治を実行した俺がハンター協会に罰せられてしまう。
だから三人は泥を被ったのだ。
このあと、この功績のせいで無茶をさせられるのは確実で、きっと彼らは死も覚悟しているだろう。
ただのバカなら、のん気に暗黒竜殺しの英雄を気取って好き勝手やるのだろうけど、まともな人たちなだけに不憫でならない。
ハンター協会の融通が利かないことの一番の犠牲者だ。
「こっそりアーベルに戻って、ランドーさんに報告してくれ」
「暗黒竜が倒れたのなら、その死体くらい他の魔獣から守れるさ」
「ランドーさんへの報告を頼むぜ」
俺たちがここにいるとまずいので、こっそりと戻ることになった。
暗黒竜は無事に倒され、アーベルの町は安全になったけど。
連合軍の犠牲者の多さや、後始末を考えると……俺たちは暗黒竜の死体の売却益だけ貰って、知らんぷりをしていようと思う。
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