第十九話 暗黒竜現る!
「えっ? Cランクハンター以下は魔獣狩りが禁止なんですか?」
「ランドーさん、どうしてです?」
「以前から話題になっていた、ビランデ山の暗黒竜が復活しました。現在その南下を阻止するべく、リーフレッド王国北部方面軍、北方諸侯連合軍が軍勢を集め、さらに高名なハンターたちを雇い、死の荒野と死の凍土の間に陣を張るべく準備をしておりまして……」
「だから、Cランク以下のハンターは邪魔だと?」
「そういう結論になります」
残念ながら、今日からアーベル北方での魔獣狩りは禁止のようだ。
噂の暗黒竜が、ついに長い眠りから目覚めたらしい。
以前からそれに備えていた大軍が出撃したのと合わせて、ランクの高いハンターたちも徴集されてしまったり、貴族たちに雇われたらしく、C級以下の弱いハンターたちは魔獣狩りを禁止……危ないから、死の荒野と死の凍土に立ち入るなってことのようだ。
実力がないフリーランスのハンターたちは、お上の行動を邪魔するなということらしい。
「Bランク以上はいいんですね」
「王国や貴族に雇われた者も多いですし、Bランクって下級貴族並の身分扱いなので、その行動を制止できないんですよ」
身分が高い人たちの行動は阻害できないわけか。
それに、まったく魔石と魔獣の素材が手に入らないと困る。
Bランクのハンターがそう簡単には死なないだろうから、行動の自由が与えられたってことか。
「私は、ダストンさんとプラムさんの行動を制限するのはどうかと、ハンター協会の上に諮ってみたのですが……」
自慢じゃないが、俺とプラムは下手なSランクよりも稼げるCランクハンターだからな。
ランドーさんとしては、特別に魔獣狩りをする許可を与えてほしいと上に申し出たのであろう。
そうでなくても、この命令のせいで魔石とモンスターの素材、鉱石の供給が大幅に減ってしまうのだから。
「何事も例外は許されないと、申請は却下されてしまいました……」
「ハンター協会も、いわゆるお上だから仕方ないですよ」
「そこは否定できませんね」
前職。
少しお役所の認可が絡む仕事だったんだけど、彼らの規則だから無理です、前例がないのでできません、というつれない返事には泣かされたものだ。
テレビで日本の変わらなさを指摘する自称進歩系知識人の言い分も、まあわからなくはなかった。
彼らはテレビで言うだけで、それを解決する実行力は持っていなかったけど。
「今日はお休みにしよう」
「師匠、いいんですか?」
「いいんじゃないの? これまで俺たちは頑張ってレベルを上げたし、スキルも磨いて、魔石と素材も集めたさ」
素材は……攻撃力が強すぎるので、アイアンタートルの甲羅と、ゴーレムの鉱石専門だけど。
魔石は沢山集めたので、少しくらい休んでもいいだろう。
「どうせしばらく休んでも、お金には十分余裕があるんだから」
「ダストンさんとプラムさんはそうですよね。お二人の行動を阻害しているのはハンター協会です。それで不都合が出ればハンター協会の責任なので、しばらくはお休みで構わないと思いますよ」
「お休み……いいですね。ありがとうございます。ランドーさん」
この人、本当にいい人だよなぁ……。
それでいて、若手職員の中ではかなりのやり手だと評判になっているのだから凄い。
俺の社畜時代よりも優秀なんだと思う。
「暗黒竜を追い払えば、元通りですよ」
「それはそうなんですけど、正直なところ大丈夫なんですか?」
連合軍の中には、父が率いるバルサーク伯爵家諸侯軍も混じっているはずだ。
彼らが暗黒竜を倒せるなんて夢は見ていないけど、なるべく犠牲が少なく追い払えたらいいなとは思っている。
人が死ぬのはよくないからな。
「前回、四百三十七年前の南下では、公称七万人の軍勢で暗黒竜に当たって、二万人ほど死んだそうですが……」
「そんなに犠牲が出たんですか?」
死者二万人って……もはや天災クラスだな。
しかも、公称七万人ってことはもっと少ない可能性が高く、三分の一以上が死んだって、軍隊では全滅扱いの損害なんだけど……。
しかも、それだけの犠牲者を出したのに暗黒竜を倒せず、ただ南下を防いでビランデ山に追い返しただけという。
「暗黒竜は、ビランデ山のマグマ溜まりに浸かって傷を癒すそうです。前回の負傷で気が立っていますから、人間に復讐をと思っているでしょう。というか、数万年前からずっとそうみたいです」
冬眠から目覚めて南下しようとすると、人間たちに負傷させられて南下を阻止されてしまう。
逃げ帰り、マグマで傷を癒して再び南下し、また負傷させられと。
それを繰り返している間に、暗黒竜は人間への憎しみをどんどん積もらせているはずだ。
今回も犠牲者が多そうだな。
「ダストンさんとプラムさんも、暗黒竜退治に参加できればよかったんですけどね」
「はははっ、さすがに暗黒竜の相手は荷が勝ち過ぎですよ。俺もプラムも新人ハンターですしね」
「そうですかね? 私は大丈夫そうに思えますけど……。はあ……ハンター協会のルールだから仕方ありませんね」
ランドーさんもどうにかしようと、ハンター協会のお偉いさんたちに上申はしているからな。
ハンター協会の決まり、これまでに前例がないという他に、若造が上層部に意見するなど生意気だ、的な理由でも却下されたんだろうけど、そのせいで犠牲者が増えるなんて……と思っているが、どうにもできないのでもどかしい。
ランドーさんの気持ちは痛いほどわかるけど、それが現実ってものだからな。
「前にプラムが行きたいって言っていたカフェに行こう」
「覚えていてくれたんですね。ありがとうございます、師匠」
「しばらくは町で遊ぶぞ」
「あまり考えてばかりいても仕方がないですからね。師匠、行きましょう」
俺とプラムは腕を組み、ハンター協会の建物を出て街へと向かう。
その様子は、まさに婚約者同士のデートのようだ。
その後は一週間ほど。
二人でアーベルの有名な飲食店を巡り、服やアクセサリーなども購入し……俺もプラムに服を選んでもらったぞ……観光名所なども巡って楽しい休暇を過ごした。
「お店はどこも空いていて、待たずに利用できるのも素晴らしい」
「そうですね、師匠」
「暗黒竜の南下を防げるかどうか、アーベルの町の人間は戦々恐々なんですよ」
昼食をお高いレストランでとっていると、お店のオーナーが声をかけてきた。
確かに、お昼時なのにお客さんが少ないな。
このままだと、お店の経営にも響くことは確実だ。
「もし連合軍が負けた場合に備えて、みんな逃げる準備をしているのです。暗黒竜の第一の標的はこのアーベルの町なので」
そんな状況なので、多くの町の人たちはレストランで食事どころではないというわけだ。
「もうすぐ一週間ですか。連合軍は勝利できたのでしょうか?」
「大丈夫ですよ。連合軍は大軍ですから」
オーナーを不安がらせないよう、俺は連合軍は暗黒竜の南下を阻止できると太鼓判を押したが、実際のところはわからない。
俺は、暗黒竜がどんな魔獣なのかを知らないからだ。
竜だから厄介な存在だとは理解しているけど。
「そうですよね。これまでもずっと大丈夫だったのですから。おっと、デザートを用意しますね。新作ですが、一日も早く多くのお客さんがこれを召し上がれるようになるといいですね」
俺とプラムは、レストランで食事とデザートを楽しんでから家に戻る。
すると、留守番をしていたムーアが俺たちに駆け寄ってきた。
「ダストン様、プラム様。ランドーさんが至急買い取り所に顔を出してほしいと」
「プラム、嫌な予感がするな」
「師匠、私も同じことを思いました」
急ぎ買い取り所へと向かうと、受付には顔色が優れないランドーさんがいた。
「奥へどうぞ」
「はい……」
彼の案内で買い取り所の奥の部屋に移動すると、そこにはボロボロで、凹み、焦げ、傷だらけ、血まみれの装備をつけた数名のハンターたちがいた。
間違いなくかなり凄腕のハンターたちなのだが……この様子だと……。
「負けたのですか?」
「ああ、大敗も大敗だ」
「今回は念入りに十万人出したが、半分は戻ってこれないだろうな」
前回の戦死者が二万人なのに、今回は半分以上が戻って来れないのか……。
大敗どころか、確実に全滅判定じゃないか。
「あの……大丈夫ですか? 血まみれで」
「ああ、これはもう治療済みなんだ。治癒魔法や治癒薬で、装備品についた血は消えないからなぁ……ランドーさんにも随分と心配されたさ」
「それはよかったです」
「心配してくれてありがとう。お嬢さん」
なるほど。
一流のハンターは、プラムの出自なんて本当に気にしないのだな。
彼女をバカにしていたというハンターたちは二流以下ばかりであり、俺とパーティを組んでプラムが強くなったら、怖くなったようでなにも言ってこなくなった。
つまりは、その程度の連中だったというわけだ。
「(おっと、それよりも俺たちを呼び出した理由を……おおよそ予想できるけど……)ランドーさん、俺たちを呼び出した理由は?」
「暗黒竜の阻止を頼みたい。それも内密にです」
「内密でですか? しかもC級でしかない俺とプラムに?」
確かにランドーさんには世話になっているが、いくらなんでも無茶すぎる願いだろう。
そんなことをして俺たちになんの得が……いや、損ばかりではないか。
「今、C級以下のハンターは魔獣を狩れないんですよ。俺たちが暗黒竜の下に向かうどころか、死の荒野と死の凍土に入っただけで処罰の対象になるのではないですか?」
暗黒竜なんて化け物を命がけで倒したのに、それが原因で罰せられてしまうなんて……。
俺のランクの件もだが、ハンター協会はお役人である。
規則を破ったら、たとえそれがいいことでも確実に罰せられてしまう可能性が高い。
俺が真に若者なら、たとえ自分が罰せられてもこのアーベルの町を守るために……というパターンもあるかもしれないが、生憎と中身はくたびれたオジさんである。
大人の汚さなど十分に理解しており、守りに入って当然というわけだ。
せっかく家を購入したが、これまで俺が稼いだ額を考えれば、別に捨てて逃げても大した損害にはならない。
ここは逃げだな。
「ランドーさんも逃げればいいのでは? あなたならどこでも上手くやれますよ」
優しいだけではなく優秀だからな。
この町と心中することはないんじゃないかな。
「ただハンター協会に打つ手がないのならそうしますよ。私も自分が可愛い普通の人間ですから。問題なのは……」
「ランドーさん、ここからは俺が言う。ハンター協会のクソッタレな上層部は、Eランク以上のハンターを総動員して、次の阻止戦に投入するそうだ」
「……バカなんですか? ハンター協会は?」
十万の軍勢と、かなりの数の上位ハンターたちで阻止線を張って失敗したのに、今からEランク以上のハンターを強制徴兵して第二の阻止線に投入する?
時間稼ぎになるかどうかすら怪しいところである。
ハンター協会の上層部は、きっとバカばかりなのであろう。
「王国北部方面軍は壊滅。総司令のグラードル公爵も司令部も暗黒竜のブレスで消し炭になった。この世界で唯一のSSSランクだったハンター『剛腕のバックラー』も死んだ。Sランク三名、Aランク七名、Bランク二十二名が死亡。どうやら、暗黒竜は数万年の悲願である南下を確実に成功させたいようだ」
これまでは、なんとなく数百年ごとに起き出し、南下を阻止され負傷するとビランデ山のマグマ溜まりに戻ってしまっていた。
今度は、次こそはと気合を入れるようになったのか。
前回は二万人の犠牲者で、今回は五万人超え……。
今回は、さらに難しい局面に立たされたわけだ。
「ダストンさんとプラムさんの実力は私が一番よく知っています。尋常ではない成果を出しているではないですか。ですから、お二人なら暗黒竜を阻止できるかもしれないと思ったのです」
「……」
まあできなくはないだろうな。
だけど、ハンター協会の決まりは絶対というか、独断専行なんてしたら罰則が厳しい。
命がけで町を救ったのに、規則違反ですと言われてハンター協会から罰せられたらバカみたいじゃないか。
俺は、彼らは絶対にそうすると思う。
ハンター協会ほど大きくて歴史のある組織の上層部なんてプライドの塊のような人たちばかりなので、俺たちが暗黒竜を倒したら『余計なことをしやがって!』くらいにしか思わないはずだ。
「しかしだな。なんの力もない町の人たちのことを考えるとなぁ……」
「避難させればいいじゃないですか。早めに」
ベテランハンターの言い分を、俺は即座に否定した。
たとえば、俺が暗黒竜を倒したとしてだ。
追い返すだけならもっと成功の目があるか。
とにかくそれをしたあと、ハンター協会から独断専行を咎められて罰せられたとする。
町の人たちは、俺を称えて罰はナシにしてくれと言うかもしれない。
だが、それをハンター協会が受け入れるとも思わないし、それならどうにか処罰を撤回させようと実際に動く町の人たちも少ないだろう。
オリンピックで金メダルを取っても、称えられるのなんてせいぜい一ヵ月くらいだ。
大衆は熱しやすく冷めやすい。
結局俺だけが罰せられ、町の人たちはどうして暗黒竜に襲われようとしていた町が無事な理由なんてすぐに忘れてしまうはず。
「ランドーさん、今のうちに避難しましょうよ。町の人たちも今から避難させれば……」
プラムの言い分は正しくはあるのだけど……。
「いや、ハンター協会はそれをしない。屈強なハンターたちを多数抱えているからこそ、ハンター協会は国や貴族に対してものを言えるし、対抗できる力を持てるのだから」
もしここで逃げたら、ハンター協会の権威が真っ逆さまに急降下してしまう。
だからEランク以上の冒険者を根こそぎ動員しようとしているのだから。
どう考えても勝てるわけがないが、自分たちの地位を守るため、万が一の可能性に縋りたい。
それで暗黒竜に殺されるハンターたちが可哀想だが、彼らは決してアーベンの住民に避難しろだなんて言えない。
プライドというのは本当に厄介なものだ。
「ですが、ここから逃げ出しても死ぬわけではありません。ハンター協会上層部の保身で捨て駒にされたり、危険なのに避難もできなかったり。いつも被害を被るのは下々の人たちです。それにいざとなったら、ハンター協会の幹部の方々はこの町の人たちを見捨てて逃げ出すでしょう」
「それはあり得るかも」
プラムの考えに俺も賛同する。
ハンター協会は世界規模の組織で、他の支部に逃げ出しても、いくらでも働き口は残っているのだから。
もしかしたら、ハンターたちに暗黒竜を阻止させている間に、ハンター協会の幹部連中は逃げてしまうかもしれない。
「お嬢さん、あんたは……」
「元王女ですし、私は王族失格と判断され、王家を追放された身です。高貴な身分の人たちが成さねばならない義務なんてどうでもいいです」
そうだよな。
プラムにそれを科すなら、まずは元の地位と生活に戻すべきだ。
さらに言えば、ハンターは高ランクほど義務も発生するが、今の俺とプラムはCランクだ。
一般庶民よりも裕福に暮らせるが、Bランク以上みたいに貴族と同等なんて扱いはされない。
ランク制度にはそういう側面もあるから、俺は一ヵ月間でCランクまでにしか昇格できなかったのだけど、かえって助かったな。
「あなた方はAランクかSランクかは知りませんが、そのランクに相応しい義務を果たせばいい。俺もバルサーク伯爵家を追い出された身なので」
「「「……」」」
俺とプラムの素っ気ない返答に、ハンターたちは黙り込んでしまった。
「半数は生き残っているのでしょう? なんとかなりませんか?」
「なるものか。俺たちは逃げ出したという悪評を背負ってまで、ここに報告に戻ったが……」
「相手は暗黒竜だぞ。俺たちですら、全員が無事にここに辿り着けたわけではない。暗黒竜に追い殺されたハンターたちも多いのだ」
「軍勢はすでに崩壊したが、暗黒竜は兵士たちを遊び半分で追いかけて、ブレスで焼き払いながら南下している。他にも多くの魔獣がいて、敗走する人間なんて格好の餌だろうな」
「崩壊した連合軍は戦力にならない。目端の利くハンターたちがある程度逃られるかどうか、といった感じだ」
考えてみたら、王国北部方面軍はともかく、貴族の諸侯軍なんて大半が農民で烏合の衆もいいところだ。
だからこそ、亀鉄製の武具を貸与して誤魔化したとも言えるのだが、暗黒竜相手だと無力であろう。
「ダストンさん、王国北部方面軍司令部のみならず、多くの貴族たちも死んだそうです」
「バルサーク伯爵も討ち死にしたぞ」
「そうですか……」
ハンターの一人から父の戦死を告げられたが、ショックはほとんどなかった。
当然バルサーク伯爵家も諸侯軍を出しており、そうなる可能性も考慮していたからだ。
俺を勘当して追い出した人だが、そのせいで今の生活があると思えば、正直複雑な心境だ。
百パーセント『ざまあみろ!』とは言えない。
そもそも、俺の暗殺を目論んでいたのは母だからな。
「バルサーク伯爵家は、次期当主のフリッツ殿も初陣だったと聞く。生死不明だがな」
「なんでまた、こんな危険な戦で初陣なんて……」
いくら俺のスキルがおかしかったとはいえ、いきなり嫡男を廃して弟を次期当主にしてしまったのだ。
批判がないわけでもなく、だから戦に参加させて箔をつけさせたかったわけか。
そして、それが見事に裏目に出たわけだ。
「フリッツは討ち死に確実ではなく、生死不明なのか」
「誰も死んだところを見てないからな。だが、まず死んだと思ってくれ」
俺もまず死んでいると思うが、そうなるとバルサーク伯爵家も大変だな。
現当主の父と、次期当主のフリッツ。
両方を一気に失ってしまったのだから。
俺にはもう関係ない話だが……。
「ダストンさん、どうにかなりませんか?」
「どうって……」
極秘裏に倒すという手もあるが、それはどうなんだろう?
報酬は出ないだろうが、極秘で倒してしまえば暗黒竜の死体は手に入るか……。
暗黒竜ってほどだからかなり強い魔獣のはずで、今の俺が攻撃しても素材は残るはず……。
素材の売却は、他でやればいいのかな?
「お願いします。暗黒竜の死体なんてなくても構いません。また退けたことにすればいいのです」
数百年後、また暗黒竜が冬眠から目覚めると噂になっても次は出てこなかった。
また数百年後も出てこなかったとなれば、みんな暗黒竜のことはじきに忘れてしまうか。
素材は……売るルートあるのかな?
ほとぼりが冷めればいけるか?
「ランドーさんは、師匠が必ず暗黒竜を倒せると確信しているんですね」
「そりゃあ、あの成果ですから」
ランドーさんは、俺なら暗黒竜を倒せると確信しているようだな。
「あなた方もですか?」
「Cランクで、一日に数千体もゴーレムを倒せるハンターなんていないだろうに」
「そもそもC級二人では、リンデル山脈に辿り着けないからな」
「高位のハンターたちは、あんたらの実力を認めているよ。クソみたいな昇格制度のせいで損しているとな」
「ハンター協会の上層部って、俺たちのことは知らないんですか?」
「当然知ってますよ。だからEランク以上のハンターを強制徴兵なんて案が出てくるんですよ」
「ルールを変えればいいのに……」
「非常時のハンター強制徴兵は規則に存在しますから。ダストンさんをいきなりBランク以上にするとなると、これはもうハンター協会の規則を変えるしかなくなります。他の幹部や支部を説得している間に、アーベルの町が暗黒竜に蹂躙されてしまうでしょうね。ただ、強制徴兵だとダストンさんが逃げ出しても文句は言えませんし、ハンター相手の法なので逃げても罰則がないんです。ハンターは根無し草なので罰せられないというのもあります。ハンター協会のルールは国法の下なので、他国に逃げられたらもうどうにもなりませんしね。じゃあ、残ったダストンさんが暗黒竜を退治してしまうと、報酬は一般労働者の日当程度で、倒した暗黒竜の素材は没収です」
ハンター協会の規則が酷すぎて、もう笑うしかないな。
「私はこの町を救いたいのです。ですから……」
「でも、得られた素材の報酬がなぁ……」
無料働きはゴメンなので、問題はどうやって換金するかだな。
「だから俺たちがいる」
「なるほど」
この三人が倒したことにしてしまうのか。
そして暗黒竜の死体を換金してもらい、俺たちは売却益を受け取る。
「そこは嫌がらないんだな」
「俺たちが、お前さんたちの功績を奪っているんだが……」
「それは別に……」
むしろ茨の道だろう。
ここで評価されても、あとで暗黒竜を倒したハンターに相応しい難しい仕事がきた場合、断れなくて死ぬかもしれない。
暗黒竜の素材を売却した報酬を俺たちに渡してしまえば、大金を得たことで発生するトラブルに巻き込まれるだけで大損なのだから。
俺とプラムは別にCランクのままでも困らないわけで、どうせ暗黒竜を倒した功績もノーカウントなので、ランク上がらないわけだし。
「それも覚悟の上だ」
「この町を救うためだ」
「倒したあとのトラブルは俺たちが引き受ける。そのあと、困難な依頼を断れずに死んだらそれも運命だと思って諦めるさ」
「わかりました。そこまで覚悟されたのなら、俺は依頼を引き受けましょう」
「師匠、私も依頼を受けます! 私たちは婚約者同士なので、死ぬも生きるも一緒ですから」
「お二人とも、ありがとうございます。私がしっかりとサポートしますから」
俺とプラムはランドーさんからの秘密の依頼を引き受け、暗黒竜を求めて北へと飛んで行くのであった。
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