第十七話 暗殺再び

「ふふふっ、『神経毒』と呼ばれたこの俺こそが、ダストンとかいうガキを殺すのだ」



 秘密の暗殺依頼はとても儲かる。

 依頼さえ漏らさねば、割り増しで依頼料を支払ってくれるからだ。

 標的はダストンとかいうガキ……。

 最近ハンターとして稼いでいると聞いた。

 交渉したルーザとかいうオバさんがケチなので前払い金をくれなかったが、ダストンさえ死ねば、あいつの遺産が沢山入ってくるらしい。

 成功報酬は相場の倍出すと聞いたので、俺はこの仕事を引き受けた。

 今確認したが、弱そうなガキなので簡単に殺せるだろう。

 俺の配合した神経毒なら、人間などものの数分で呼吸困難にしてしまう。

 これを防ぐ手立てなど……超一流のハンターならいざ知らず、いや、そんな連中でも必ず隙は見い出せるのだから。

 人間、四六時中警戒なんてできないのでね。

 俺はそいつらの隙を狙って、毒針を標的の体のどこかに刺すだけだ。


「(一流のハンターまではいかないな。隙がかなりある。楽な仕事だな。これは)」


 狙いを定めて毒針を放つと、正確に首筋に刺さった。

 これで奴は倒れ、そのまま呼吸困難に陥るはず……なんだがなぁ……。


「どうして俺の神経毒を食らっているのに、なんともないんだ?」


 絶対におかしい!

 この神経毒の致死量を考えたら、あいつがなんともないなんてそんなわけが……ちゃんと命中したのを俺は確認しているのに!


「そんなバカな……」


「命中はしたよ。効果がないだけで」


「えっ?」


 この俺が、標的に狙撃地点を気がつかれたのか?

 そんなバカな……そんなことはあり得ないはず……俺はこれまで一度も仕事をしくじったことなんてないのだから。


「報いを受けてもらおう」


「がはっ……」


 なんて重たい一撃なんだ。

 こいつは本当に人間なのか?

 駄目だ……もう意識が……。

 俺はこのまま死ぬのだろうか?




「師匠、よく手加減して殴れますね」


「一時的にスキルを切ったんだ。でないと軽く一撃しただけで木っ端微塵だから。レベルアップの影響で人間離れしているのは事実だから、余裕で無力化できた」


「なるほど。スキルを意識的に切るなんてできるんですね。さすがは師匠」


 また俺を狙った暗殺者がいるので、察知、捕捉、無力化を一瞬で成し遂げた。

 スキルのおかげでレベルアップが順調なので、スキルを切ってもプロの暗殺者の意識を簡単に奪えるからだ。


「それで、どうしますか?」


 番所に突き出す……あまり意味はないんだよなぁ……。

 罪状が暗殺未遂だから、大した罪にもならないからだ。

 さらにこの暗殺者の犯罪を証明するのも難しく、もし母に裏から手を差し伸べられれば簡単に釈放されてしまうだろう。


「はぁ……はぁ……ダストン様、そいつは……」


「暗殺者だな」


 息を切らせながら、慌てて俺たちの下に駆けつけたムーアに対し、気絶しているのは俺を狙う暗殺者だと説明した。


「ムーアも、これから大変かもな。俺はこの様だから」


 間違えて、ムーアが負傷したり殺される可能性もあるからだ。

 今のバルサーク伯爵家に、よくこんな余裕があるものだと感心したりもしたが。


「私はもうどこにも行く場所がありません。覚悟しています。それともう、さすがに限界ではないかと……」


 暗殺者を頼むのも無料じゃないしな。

 暗黒竜のせいで、バルサーク伯爵家は財政に余裕がない。

 これで終わりかな?


「師匠、こいつはどうしますか?」


「かっぱぐ」


「そんなんでいいんですか? それに犯罪では?」


「それは大丈夫」


 こいつは暗殺者だ。

 番所に駆け込んで窃盗の被害を訴えても、俺が暗殺されかけたと言えば、たちどころに立場がなくなるのだから。


「着ている服以外奪ってしまえ。財布……結構持ってるのな。あと、あった」


 暗殺に使う毒針も押さえた。

 もしこいつが哀れな犯罪被害者として番所に駆け込んだら、俺はこの毒針を提出するだけだ。


「被害を訴えることはできませんか」


「金目のものも全部没収だ。これで損切りするだろう」


 ここでまた俺に拘れば、余計に損をする仕組みにする。

 こいつが本当のプロなら、もう俺に関わらないはずだ。


「しかし、暗殺って儲かるんだな」


 善悪はともかくとして、儲けるには人と違うことをしなければいけないのがよくわかった。

 俺は、暗殺者の着ている服以外すべてを奪い、気絶したまま放置してその場を立ち去った。


「帰りにレストランに行こう。ムーアもいいもの食べて、この前流した血を回復させろよ」


「ダストン様は剛毅ですな」


 剛毅というか、降りかかる火の粉を払っているだけなのだが、如何せんスキルが絶対無敵ロボ アポロンカイザーなので結果が大げさになるだけだ。


「プラム、デザートはどうしようか?」


「新作のケーキが食べたいです」


「俺も食べよう。ムーアは?」


「私もお酒は苦手なので、甘い物の方がありがたいです」


 その日は臨時報酬が追加されたので、三人でお高いレストランで食事とデザートを堪能したのであった。

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