第十二話 順調な二人

「本当に飛べました! しかもこんなに速く! 風魔法使いでも上位の人しか使えない魔法なのに……」


「プラムは覚えが早いなぁ」



 翌日から、俺とプラムのパーティは修行と魔獣の討伐を兼ねた日常を送ることになった。

 まずは飛び方を教えるのだが、プラムの実家ラーベ王家は風魔法の名人を代々輩出しているそうだ。

 飛行魔法が使える人も多く、プラムも成人の儀まで魔法は使えなかったが、座学や風魔法の名人たちを近くで見ている。

 そのおかげか、すぐに飛べるようになっていた。


「だけど、まだ遅いな」


「これでも遅いのですか?」


「当然だ」


 この世界における風魔法の名人でも、時速二百キロがせいぜいであろう。

 ところが、絶対無敵ロボ アポロンカイザーとセクシーレディーロボ ビューティフォーはマッハ10で飛べる設定だ。

 宇宙だと、光速を簡単に超えることができる。

 俺でもまだ全然なのに、プラムはもっと頑張らねばならない。


「なるほど。私はまだ全然なのですね」


「とはいえ、日々の修練の他に、レベルも重要な要素となるはずだ。俺も絶対無敵ロボ アポロンカイザーの性能すべてを引き出せていないのだから」


 むしろ、まだ全然使いこなせていないのは確実。

 魔獣を倒してレベルを上げつつ、同時に型(動作)の修行も必要であろう。

 俺とプラムのスキルは、『なりきって』こそ最大の力を発揮するのだから。


「なりきるですか?」


「ああ、それも常にだ。俺も修行しているからな」


「どんな修行でしょうか?」


「それは、常に自分が絶対無敵ロボ アポロンカイザーであると思い、生活していくことだ」


 そうすることで、常にスキルが発動している状態にする。

 俺もプラムも、標準的な上位貴族並の魔力は備わっていた。

 魔法のスキルがないので使う機会はなく、スキルの発動に魔力が必要だという事実もなかった。

 だから二十四時間常にスキルを発動しても、それで疲労困憊することは……最初は大変だったけど、俺はこの二週間半ほどでそこまで疲れなくなっていた。


「極自然に絶対無敵ロボ アポロンカイザーでいられることで、それが特技のキレ、飛行の安定化や速度上昇に繋がるわけだ。才能の差はあれど、ようは慣れだな」


「なるほど……師匠はさすがです! 私も修行してみます! ところで一つ質問なんですけど……」


「なにかな?」


「特技に『修理』ってあるじゃないですか。これって……」


「治癒魔法みたいなものだと思うよ」


 多分、絶対無敵ロボ アポロンカイザー状態の俺と、セクシーレディーロボ ビューティフォー状態のプラムしか回復しないと思うけど。

 俺も通常の状態なら治癒魔法で回復できるが、常に絶対無敵ロボ アポロンカイザーでいると治癒魔法の効果はないかもしれないな。

 常に絶対無敵ロボ アポロンカイザーでいるとまず負傷しないので、プラムの修理も万が一に備えてって感じかな?


「修理は治癒魔法の一種ですか」


「プラムも、セクシーレディーロボ ビューティフォーの状態なら回復できるはず」


「はず、ですか?」


「実は俺って、このスキルが使えるようになってからダメージを受けたことがないからなぁ……そのうち機会があったら練習しよう」


「負傷したことがないって凄いですね。以前の私は生傷が絶えなくて……教会で治癒魔法を頼むと高額で、なかなかお金が貯まらなかったんです」


 成人の儀を独占的に取り仕切る教会は、銭ゲバで評判だからなぁ……。

 治癒魔法代わりの修理を持つプラムとパーティを組むことは、俺の安全係数を上げてくれるはずだ。

 問題はどうやって修理の練習をするかだな。

 実は今のところ、絶対無敵ロボ アポロンカイザーがあまりに硬すぎるため、自分でわざと負傷して修理を試すことができないのだ。


「おかえりなさい。ゴーレムの魔石と鉱石が大量ですね。鉱石の査定額はあとにならないとわかりませんが、魔石の分だけで十分でしょうね」


 お金も順調に入り、レベル上げも上手く行っている。

 セクシーレディーロボ ビューティフォーのスキルを持つプラムともパーティを組めたし、あとは絶対無敵ロボ アポロンカイザーに搭乗できるようになれば最高なんだが……。


「となると、もっと強い魔獣を倒さないとな」


 絶対無敵ロボ アポロンカイザーに搭乗できるようになるかはわからないけど、武装と武器の完全解放はまだまだ先だ。

 明日からも頑張らなければ。


「私ももっと強くなりたいです。師匠これからもよろしくお願いします」


「俺の方こそよろしく」


「今夜はどこで食事をとりましょうか?」


「『金の匙亭』でいいと思う」


「あそこは美味しいですからね」


 俺は元々庶民の出。

 プラムはこの一年で、金銭感覚が非常にシビアになった。

 あまり無駄遣いはしないのだけど、せめて食事はいいものを食べたいという意見が一致し、高額の美味しい料理が……とはいえ、一人前五千リーグほどだけど……ドレスコードなしで食べられるレストランに寄ることが多かった。


「今日は肉かな?」


「デザートが楽しみですね」


「俺たち、お酒が飲めないからね」


 この世界では十三歳で成人なのだけど、単に俺もプラムもお酒が苦手なだけだ。

 二人とも甘いものが好きなので、一緒に食事をとっても楽しかったのだ。


「じゃあ行こうか」


「はい」


「ダストンさん、プラムさん。明日もゴーレムの鉱石が欲しいのでよろしくお願いします」


「そんなに鉱石が不足しているの?」


「暗黒竜騒ぎの影響ですね。他の金属も軒並み値上げなんです。亀鉄製の武具は無理でも、鋼や鉄、青銅製の武具を揃えたい貴族や、大商人、平民も多く」


 それだけ、暗黒竜が怖れられている証拠か。

 まだ必ず冬眠から目覚めるという保証もないのに、そこまで怖れられているのだから。


「他の金属製品や魔法道具の価格を圧迫するってのもありますね。そんなわけで、鉱石の買い取り金額も上がっていますよ」


「もっとレベルを上げたいから、数が稼げて素材が残るゴーレムでいいかな。プラムはどう思う?」


「私も師匠の考えに賛成です」


 明日もゴーレムを狩ることに決まった。

 今夜はそれに備えて美味しいものを食べるとしよう。

 俺の初恋の人、アンナ・東城に似ているプラムと一緒に。





「農機具、魔法道具、建材、武具、その他金属製品の価格が上がりすぎではないか?」


「バルザーク伯爵様、私以外のどの商人に見積もりを出させても同じですよ。暗黒竜のせいで金属需要が激増し、供給がひっ迫していますから」


「ぬぬぬ……」


「今回はツケ払いも認めます。今年の税収で返却していただければ」


「すまぬ……」



 ええい、暗黒竜め!

 お前のせいでなにもかも値上がりして、我がバルザーク伯爵家の財政はマイナス域に突入してしまったではないか!

 疫病神のダストンがいなくなったというのに……。

 しかも、フリッツは私が思っていた以上にバカだった。

 もしこれでスキルに火魔法が出なかったら……そんなわけがない!

 必ずや火魔法が出て、フリッツが次のバルザーク伯爵となってくれるはず。

 その前に、甘ったれたあいつを鍛え直さなければ。

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