第十一話 伝授

「このスキルですが、まずは座学がとても長くなります。よろしいですか? プラムさん」


「師匠、私のことはプラムと呼び捨てにしてください」


「プラムね。俺もダストンと呼び捨てで……」


「師匠の名を呼び捨てにはできません」


「……でも……」


「できません!」


「(王女様だったから、芯のところは我が強いのかな?)わかりました。では始めます」




 ランドーさんの紹介で、元ラーベ王国の第三王女プラムがスキルを使いこなせるよう、教えることになった。

 彼女のスキルは、『セクシーレディーロボ ビューティフォー』。

 この世界の人間が理解できるわけがなく、それはプラムもスキルを使いこなせないわけだ。


「(それにしても、本当にアンナ・東城に似てるなぁ……アニメだと十八歳だったから、十四歳当時のアンナ・東城って感じ)」


 プラムは俺の一歳年上で、俺と同じく成人直後に追放され、この一年ハンターとして頑張ってきたと、ランドーさんから聞いている。

 頑張り屋さんなんだろう。


「師匠、どうかしましたか?」


「なんでもないです。説明を始めます」


 プラムが、セクシーレディーロボ ビューティフォーのスキルを使いこなせるようになるためには、いかにアニメで動く、戦うシーンを彼女にイメージさせるかにかかっている。

 俺の場合、絶対無敵ロボ アポロンカイザーマニアであったおかげで、すぐにスキルを使いこなせるようになった。

 脳裏にアニメのシーンが浮かぶことが、どれだけスキルの習得を早めたか。

 もはや言うまでもないだろう。

 だが、プラムはこの世界の住民。

 言うまでもないが、この世界にアニメなど存在しないわけで、ましてや超合金の巨大ロボットが活躍する話なんて理解できるわけがない。

 そこをどう理解してもらうか。

 まずは座学に時間をかけなければいけないのだ。


「これが、プラムのスキルを使う、人が乗って動かす巨大な金属製ゴーレムだ」


 俺はプラムに、セクシーレディーロボ ビューティフォーの絵を描いてみせた。

 学生時代、数少ない愛好の志と共に同人誌を制作していてよかった。

 俺の画力では漫画家やイラストレーター、アニメーターにはなれなかったけど、絶対無敵ロボ アポロンカイザー関連の絵だけは上手に描けるのだ。

 『好きこそものの上手なれ』というやつだな。


「巨大な、人間が動かす金属製のゴーレムですか?」


「俺は以前、たまたまこのお話を見かけたのさ。神話と呼ばれる頃の古い文献のお話らしい。それをたまたま知っていた俺は……」


「スキルを使いこなせたのですね?」


 という設定の嘘にしておいた。

 日本やアニメの話をしても、彼女は信じてくれなそうだからな。

 この世界風にアレンジしたわけだ。


「神に選ばれし、絶対無敵ロボ アポロンカイザーとセクシーレディーロボ ビューティフォーの操縦者たちは、邪神が繰り出す同じ金属のゴーレムたちと戦い、ついには邪神を倒したわけだ」


「なるほど! でも変わった名前のゴーレムですね」


「大昔の話なので、その時代の価値観に合った名前なんだと思うよ」


「さすがは師匠。鋭い分析ですね」


 プラムは目を輝かせながら俺の話を聞き、大いに感動するので、小市民的な性格をしている俺はちょっと罪悪感を覚えてしまった。


「とにかくだ。セクシーレディーロボ ビューティフォーのスキルを使いこなすには、自分がその金属製の巨大ゴーレムだという自覚を持つんだ。イメージが大切だな」


「イメージですね」


「ちょっと試してみるか……」


 いつも寝泊まりしている部屋での説明を終えた俺は、プラムを連れて早速スライムの生息地まで飛んで行った。


「師匠、飛べるんですか?」


「絶対無敵ロボ アポロンカイザーは飛べるからね」


「飛行の魔法なんて、風魔法でもかなり上位の実力者しか使えません」


「プラムのスキル、セクシーレディーロボ ビューティフォーなら飛べるようになるよ」


 セクシーレディーロボ ビューティフォーは、絶対無敵ロボ アポロンカイザーの補助を担当するロボットなので、同じスピードで飛べる。

 支援ロボなので、攻撃力と防御力は低いけど。

 絶対無敵ロボ アポロンカイザーと同じく超々銀河超合金アルファが使用されているが、細身で女性型マネキンのような見た目なので装甲が薄いからだ。

 あとは、プラムがそれを覚えられるかどうかだな。


「到着」


 目の前には、ハンター生活初日と同じくスライムたちの姿があった。


「まずは見本を。カイザーパァーーーンチ!」


 俺のパンチでスライムは弾け、そのあとには魔石だけが残った。

 レベルを上げて強くなっても、魔石は相変わらず頑丈だな。


「凄いです! 師匠! 私も早速!」


「その前に。まずは自分が、俺が描いたセクシーレディーロボ ビューティフォーであると思い込む」


「思い込むですか……」


 プラムは目を瞑って想像を始めた。

 まるで、自分の体とセクシーレディーロボ ビューティフォーの機体を重ね合わせるかのように。


「次に、セクシーレディーロボ ビューティフォーの武器は……ステータスはどんな感じかな?」


 まず、それが出ないとスキルを使用できないからなぁ。

 とにかく、自分がセクシーレディーロボ ビューティフォーだと思い込む。

 その力を発揮できると確信するのが大切なのだ。


「あっ! 出ました! こんな感じです」


 プラムは、俺にステータスの内容を教えてくれた。



プラム・ラーベ(14)


レベル12


スキル

セクシーレディーロボ ビューティフォー


解放


レディーパンチ

レディーキック


修理キット




「なるほど」


「師匠?」


「成功だ」


 やはりレベルを上げないと、武器や武装が解放されていかないんだな。

 セクシーレディーロボ ビューティフォーは支援用ロボットではあるが、一応戦闘もできる。

 というか、地球防衛隊の兵器なんて目じゃない強さだし、アニメでも単独で機械大人を撃破したこともあった。

 装甲が薄くても超々銀河超合金アルファでできているし、戦場で損傷した絶対無敵ロボ アポロンカイザーの修理もできる優れものなのだから。


「やりました……私はようやくスキルを……」


 プラムは感極まっていた。

 突然ラーベ王国から追放され、この一年間たった一人でハンターとして頑張ってきた。

 きっと色々な苦労してきたのであろう。

 それが報われたのだから、当然の感情なのだと思う。


「あっ、でも」


「師匠、まだなにかあるのですか?」


「ポージングも大切だよ」


「ポージング……型ですか?」


「そうとも言う」


 たとえば、剣術のスキルを効率よく発動させるためには、ちゃんと剣術の型を納めていなければならない。

 俺だって、カイザーパンチやカイザーアイビームを繰り出す時、絶対無敵ロボ アポロンカイザーのポージングを正確にトレースしているのだから。

 特に、カイザーアイビーム。

 両手でVサインを作って目の外側に横にして添えるポーズをしないと発動しない。

 まんまアニメのポージングを再現しているので、ちょっと恥ずかしいけど、それは誰もいない場所で使用することで解決した。

 当然、セクシーレディーロボ ビューティフォーも同じようにしなければいけないのだ。

 その正しいポージングを、絶対無敵ロボ アポロンカイザーマニアである俺が伝授しないで誰がするというのだ。


「確かに、剣術でも型は重要ですからね。私は剣術のスキルがないので、スライムを倒すにも苦労していますけど」


 プラムの剣の腕前はそんなに悪い風には見えないけど、魔獣相手でスキルがないってのは相当不利である証拠であった。


「では教えます。同じ動作を繰り返してください」


「はい! お願いします」


「レディーーー! パァーーーンチ!」


「(レディ……パンチ)」


「駄目駄目! 恥ずかしがっては!」


 確かに、恥ずかしいと思うよ。

 俺もそうだった。

 なにしろ、現実でアニメのロボットがパンチやキックを繰り出すシーンなんて、子供のゴッコ遊びか、マニアの集いで披露するくらいなのだから。

 だから声が小さく、動作が小さくなっても仕方がない。

 だけど、これは遊びではないのだ!


「プラム、君の人生がこれから拓けるかどうかの瀬戸際だ! 恥ずかしいという気持ちを捨ててくれ。それにだ。俺にセクシーレディーロボ ビューティフォーのポージングを真似る意味はない。だが、君が一刻も早くポージングを覚えてくれたらと……」


「すみません! 師匠! 師匠の厚意を無駄にしてしまって!」


「だいたい、ここには俺とプラム以外誰もいないのだから、恥ずかしがる必要なんてない」


 スライムはいるけど、スライムにポージングを見られても恥ずかしくはないよな。


「そうでした。ここには、私と師匠の二人きり。羞恥心を捨てて頑張ります!」


 一度覚悟を決めたプラムの覚えは早かった。


「レディーーー! キィーーーク!」


「大分よくなったね」


「ありがとうございます! 師匠!」


 プラムはパンチとキックを習得すべく、周囲のスライムを虐殺し続けていた。

 キックは攻撃力過多な気もするけど、どうせパンチでもキックでもスライムなら魔石しか残らないので同じことだ。


「俺は魔石を拾っておく」


 それにしてもよほど嬉しいのか、プラムはもの凄い勢いでスライムを虐殺しているな。


「ポージングも徐々に完璧になっているな。こういうことは繰り返しの練習が必要なんだ。プラム、頑張れ」


「はいっ! 師匠!」


 プラムは夕方まで、可能な限りのスライムを虐殺し、大量の魔石を得ることに成功したのであった。




「スライムのドロドロは……ないんですね。わかります」


「俺と同じ系統のスキルなので」


「となると、早く慣れてアイアンタートルかゴーレムに移ってください。魔石はありがたい。千六百七十八個で、合計八十三万九千リーグになります」


「私が一日でこんなに……」


 ランドーさんから一日の報酬を受け取ったプラムは、人目も憚らずに泣いていた。

 これまでの苦労が報われたのだ。

 無理はない。

 俺は自分のハンカチを、そっと彼女に渡した。


「ずびびゅーーー。ありがとうございます。洗って返しますから」


「別にいいよ。安物だから……」


 美少女が鼻を噛んだハンカチ……俺にその手の性癖はないし、雑貨屋で二百リーグで購入した品だからあげても惜しくなかった。


「あの……報酬の分け前はいかほどお渡しすれば」


「えっ? いらないけど」


 俺が倒したわけじゃないから。


「ですが、これからもしばらく教わることになるので、無報酬というわけには……」


 この子、元王女様なのに律儀な性格をしているというか……。

 別に今のところお金には困っていないからなぁ……。

 さて、どうしたものかな?


「ダストンさん、プラムさん」


「なんです? ランドーさん」


「お二人でパーティを組めばいいのでは? それなら、報酬を頭割りしても問題ないですから」


「それはいいアイデアですね」


 プラムが、ランドーさんの提案に真っ先に賛成した。

 パーティかぁ……。

 正直なところ、考えたこともなかったな。

 あっ、でも。

 プラムのスキルは『セクシーレディーロボ ビューティフォー』だから、スキルが『絶対無敵ロボ アポロンカイザー』と組んでもおかしくはないのか。 


「ハンターは、パーティを組むのが普通なんです。念のために教えておきますけど」


 俺もそれは知っていたが、とにかく俺のスキルは特殊である。

 しかも、戦っている様が……格好よくない?

 子供なら喜ぶのか?

 でも、魔獣の生息地に子供が応援には来ないからなぁ……。

 俺は飛べるし、一人で戦っていた方が恥ずかしくないというか、一番効率がよかったのは事実だ。


「プラムさんも、ダストンさんと同じだと思いますよ」


「ですねぇ……」


 プラムのスキルも、セクシーレディーロボ ビューティフォーだからなぁ……。

 他のハンターの前で、『レディーーー! パーーーンチ!』はないと思う。


「師匠、一緒にパーティを組みましょう」


「そうしようか」


「師匠、これからもよろしくお願いします」


「こちらこそよろしく」


 それが一番効率よく稼げるし、プラムは俺の初恋の人アンナ・東城に似ているから悪くない。

 アニメのヒロインキャラが初恋の人なのかって?

 文句ありますか?

 もう一つ、彼女と組むといいことがある。

 スキル『絶対無敵ロボ アポロンカイザー』を極め、アポロンカイザーに搭乗することが夢である俺からしたら、スキル『セクシーレディーロボ ビューティフォー』を持つプラムと組むことは、その早道かもしれないという考えからだ。

 それと、彼女は『修理』の特技を持つ。

 いくら俺が圧倒的に強くても、これからどんな強敵が出てくるかわからない。

 回復手段を持つ仲間がいた方がいいに決まっているのだから。


「いやあ、よかったですよ。これからはもっと効率よく稼げますね」


 ランドーさんも俺たちがパーティを組むことを祝福してくれて、こうして俺はプラムとパーティを組むことになったのであった。

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