第九話 追放された王女

「おいおい、見ろよ」


「ゴミ王女じゃねえか」


「確か、隣のラーベ王家の第三王女だったそうだが、スキルがアレで追い出されたんだよな?」


「王族なのに、魔法も使えないから仕方ないだろう」


「だよな。で、スライム相手に剣で奮闘しているわけだ」


「贅沢な王宮暮らしから、貧乏なハンター生活。ざまあねえぜ」


「ハンターなんてやめて、金持ちジジイの愛人でもやればいいのにな」


「元王女だから高く自分を売れるってか?」




 またも周囲から、私の悪口が聞こえてきた。

 もう聞き慣れたけど、他人の過去ごときに、本当に暇な連中だ。

 私のことを噂している連中は、ハンターとして大した戦績を挙げていない者ばかり。

 一流のハンターたちは、私に気をかける時間があるくらいなら、稼ぎに行くものだからだ。

 思えば、十三歳で成人の儀を受けたあの日。

 私の人生は暗転した。

 王家ならば魔法のスキルが、ラーベ王家なら風魔法のスキルが出なければいけないのに、私には聞いたこともないスキルが出てしまった。

 教会の神官たちも首を傾げ、どんな書物にも過去にそんなスキルが出たという記述はなかった。

 それでも、なにか風魔法が使えればよかったのだけど、残念ながら私は一切の魔法が使えなかった。

 私はラーベ王家を追い出され、今、隣国でハンターをしている。

 私の過去を知る者たちがバカにしてきたり、愛人にしてやると下種なことを言ってきた。

 何度か危ない目にも遭ったが、この一年どうにかハンターとして生活してきた。

 だけど、魔法が使えない私は剣で一日二十匹ほどのスライムを倒すのがせいぜいであった。

 普通に生活はできるけど、最初は風邪を引いて一週間収入がなくなり、路地裏で寝ていたら不埒な男たちに襲われそうになったりなど。

 とにかく、ただ生きるのに精一杯だったのだ。

 これまでの王宮での贅沢な暮らしとはまるで違う生活。

 でも、たまに思うのだ。

 私が贅沢に暮らせていたのは、庶民たちが働いて税を納めていたからだ。

 彼らは日々、懸命に働きながら税を納めている。

 王宮暮らしだった頃には、そんなことを考えもしなかった。

 もしかしたら、今の暮らしの方がよほど人間らしい生き方なのかもしれない。


「でも、たまにはケーキでも食べたいわね」


 また病気になると収入がなくなり、宿賃などでお金だけが消えていく。

 備えのために、ちゃんと貯金しなければ。

 それでも私は、普通のハンターよりも稼げている方だ。

 大半のハンターたちは、一日にスライムを十匹倒すのがせいぜいなのだから。


「ランドーさん、これが今日の分ね」


「安定してきましたね」


「ええ」


 ランドーさんは、買い取り所の職員でもう一年ほどつき合いがある。

 私のようなゴミ王女に対しても優しい人だ。


「そういえば、プラムさんは使い道のわからない変わったスキルを持っていると言っていましたね?」


「ええ、意味不明の使い方も不明なスキルがね」


 これのせいで、私はラーベ王家を追われた。

 せめてなにに使うのかがわかっていれば、故郷から追放されずに済んだのかもしれないのに。


「あきらかに、ちょっと変なスキルの新人ハンターさんがいるんですよ。しかも、彼はそのスキルを使いこなしています」


「ああ、あの謎の少年ね」


「実は彼も、実家である伯爵家の嫡男だったのに、そのスキルのせいで追放された身です」


 いつも思うのだけど、ランドーさんの情報収集能力って凄いと思う。


「私じゃなくて、ハンター協会が凄いんですけどね。ダストンさんは、この国では火魔法で有名なバルザーク伯爵家の出です。成人の儀で望まぬスキルを出して実家と故郷を追い出されたのは、あなたと同じですね」


「どうしてそれを私に?」


「なにかヒントがあるかもしれません。それであなたの暮らしが少しでもよくなれば。可能性があれば提示する。ハンター協会職員の義務ですよ」


 それは違う。

 ランドーさんほどハンターに優しい人はいない。

 特に真面目にやっているハンターに対して、彼ほど親身になってくれる職員はいないはずだ。


「正直な話、プラムさんのような境遇の人はすぐに落ちてしまう。悲惨そのものですが、私たちにできることは少ない。助けられない人も多いのです。ですが、あなたは自力でここまで乗り切ってきた。だから……」


「だから?」


「あなたのこれからの人生に幸があらんことを。ダストンさんには私から話しておきます」


「ありがとうございます」


 ダストンという少年の知識が役に立てばいいけれど……。

 とにかく今は、ランドーさんの好意を素直に受け取っておこうと思う。

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