第四話 アイアンタートル

「現在のレベルは18か。初日の勢いはないが順調にレベルが上がっているな。だけど、新しい武器と武装の解放はないか……」



 翌日も、俺はアーベル北方の荒野に立っていた。

 三日連続の仕事だが、明日は休む予定なので問題ないだろう。

 日本で勤めていた会社では、早出、残業。休日出勤は当たり前。

 有休消化率ゼロパーセント。

 むしろ有休を取ることは悪とされていたので、それに比べたら全然楽だ。

 この世界では、絶対無敵ロボ アポロンカイザー生活も堪能できるしな。

 突然この世界に迷い込み、他人と肉体が入れ替わってしまった身なので元の世界に戻る可能性を模索する気力が湧かないし、どうせ元の世界では独身で、両親もすでに鬼籍にあった。

 こうなったらもう、過去は気にせず自由にやっていこう。

 第二の人生を満喫するのだ。


「ここが、北アーベルの沼か……湖ほどもあるな」


 昨日、買い取り所の職員さんに教えてもらったのだ。

 ちょっとの距離を飛んでいかないと辿り着けないが、このとても広大な沼には、『アイアンタートル』という大きな亀型の魔獣が生息しているらしい。

 確かに、沼の岸辺で全長五メートルほどの亀たちが日向ぼっこをしていた。

 このアイアンタートルの甲羅は鉄よりも頑丈で、武器や、魔法道具、建材など多目的に利用されると、買い取り所の職員さんが教えてくれた。

 『亀鉄』という金属に分類され、一度だけ鋳溶かして自由に成型できるそうだ。

 ただし、鉄のように再利用はできない。

 欲しければ、アイアンタートルを倒して新しい甲羅を手に入れるしかないというわけだ。


「アイアンタートルの甲羅なら、俺のカイザーパンチでも残ると踏んだんだな。職員さんは」


 早速俺は、一番近くにいたアイアンタートルにカイザーパンチを一撃食らわせた。

 すると……。


「おおっ! 甲羅が残った!」


 かなり甲羅がひしゃげてしまったが、ちゃんと残ったのは事実だ。

 さすがは金属の甲羅。

 それに、どうせ鋳溶かすから、形状がどうなっても品質に問題ないって職員さんも言っていたからなぁ。

 そして、魔石だけはなにがあっても必ず残るんだな。

 ある意味魔石とは、最強の強度を持つ物質かもしれない。


「アイアンタートル、素晴らしい魔獣ではないか」


 だって、倒しても素材が残るから。

 肉と内臓もかなりの高級品らしいけど、残らないものはしょうがない。


「カイザーパァーーーンチ! そうだ! カイザーキィーーーック!」


 まだ一度も試していなかったカイザーキックも、試しに使ってみることにする。

 これも、『カイザーキック!』ではなく、『カイザーキィーーーック! 』だ。

 ちゃんと、アニメと同じアクションと掛け声を再現しなければ、本来の威力が発揮できないから手を抜いてはいけない。

 恥ずかしいという気持ちが、その強さを鈍らせるのだから!

 無事に会心のカイザーキックが、アイアンタートルに炸裂する。

 アイアンタートルの甲羅は頑丈なので大丈夫なはず……という俺の予想は音を立てて崩れ落ちた。


「そういえば、足は腕の三倍のパワーがあるとか……それは人間だけど、絶対無敵ロボ アポロンカイザーも人型だからなぁ……」


 カイザーキックを食らったアイアンタートルは、甲羅ごと消滅してしまった。

 どうやら、カイザーキックの威力が強すぎるようだ。

 もっと強い魔獣と戦うまで、カイザーキックは封印だな。


「おっ、レベルが20を超えたら、特技に新しい表示が出たぞ。『カイザーアイビーム』かぁ……」



ダストン・バルザーク(13)


レベル20


スキル

絶対無敵ロボ アポロンカイザー


解放

カイザーパンチ

カイザーキック

カイザーアイビーム(目)


無限ランドセル



 新しい武装? 特技? が増えた。

 アニメでは各話、機械大人(きかいたいじん)と戦う前に、全銀河絶滅団(ぜんぎんがぜつめつだん)……絶対無敵ロボ アポロンカイザーの敵ね。銀河系の完全征服を目論む悪の邪神なんだけど、なぜか人型や動物型の大型機械兵器を毎週繰り出してくる……が出撃させた雑魚マシンと戦うシーンがある。

 〇面〇イダーでいうところの〇ョッカー戦闘員のような扱いだ。

 獣の形状なので機械魔獣と呼ばれているが、他にも戦闘機、戦車、艦船、潜水艦型の無人兵器も後半で登場するようになり、それらを倒すのに絶対無敵ロボ アポロンカイザーは多彩な武器で対応することが多かった。

 その時もっとも使われたのが、カイザーアイビームというわけだ。

 最初に解放されたということは、一番弱い武装なのであろう。

 実際アニメでも、機械大人には使用しないからなぁ……。


「試してみよう! カイザーアイビィーーーム!」


 くどいようだけど、『カイザーアイビーム!』じゃなくて、『カイザーアイビィーーーム!』ね。

 念のためだけど。

 人間の目からビームが出るのか疑問だったけど、本当に出たよ!

 さすがはスキル。

 しかも、かなり配慮されていて目が全然眩しくないぞ。

 あっ!

 配慮ってよりも、ロボットである絶対無敵ロボ アポロンカイザーがカイザーアイビームを出しても眩しがるわけがないので、それと同じってことか。


「で……これも封印だな」


 駄目だ。

 アイアンタートルの甲羅がカイザーアイビームの熱で溶けてしまった。

 威力はパンチよりも低いけど、問題は高温になってしまうことのようだ。

 しばらくは、カイザーパンチだけで対応するしかないかな。


「甲羅を回収しながら、沼なので飛行してアイアンタートルを狩ろう!」


 というわけで、俺は夕方までアイアンタートルを狩り続け、大量のひしゃげた甲羅と魔石を持って買い取り所へと向かった。


「甲羅が……残っていれば問題ないです! 肉と内臓も高価なのに……胆のうは、魔法薬の材料なんですよねぇ……」


「弾け飛び、粉々になってしまいました」


「甲羅が残ってくれただけでも……今、アイアンタートルの甲羅が大変不足しておりまして……亀鉄が不足しているんですけどね。いっぱい獲ってきてほしいです」


「わかりました」


 俺がその日に討伐したアイアンタートルは、合計で七百八十六匹。

 甲羅は一つ十万リーグ、魔石は一つ一万リーグで売れた。

 今日の稼ぎは、合計で八千三百十六万リーグ。

 もうアイアンタートルだけ狩っていれば、俺は一生楽しく暮らせるな……いや!

 もっともっとレベルを上げて、絶対無敵ロボ アポロンカイザーの武装をすべて復活させるのだ。

 そしていつか、絶対無敵ロボ アポロンカイザーに搭乗できるようにする。

 レベルを上げ続けたら、本当に搭乗できるようになるのかはわからない。

 でも実際にレベルを上げてみなければ、搭乗できないかどうかなんてわからないじゃないか!


「頑張ってレベルを上げます」


「ハンターになって三日でレベル37って凄いですよね。もう十分一人前のハンターですよ。ダストンさんは」


「じゃあ、ランクは上がりますか?」


 今の俺のランクはG。

 一番低いランクである。

 だが、これだけの魔獣を倒したのだ。

 せめて一つくらいは上げてほしい。


「計算してみたら、今のダストンさんはランクCに相当するんですけど。ランク昇格って、月末までに申請・審査して、月の始めに一度だけ発表があるって方式なんです」


 そうか。

 手続きの手間や、本人確認などの事務的な手間があって、瞬時にランクは上がらないのか。

 ハンター協会って、役所っぽいな。

 となると、俺のランクが上がるのは来月の頭ということになる。


「本当は、今すぐにでもランクを上げてあげたいんですけどね。ハンター協会の決まりですから、こればかりはどうにもならないんです」


 焦ってハンターのランクを上げたのはいいが、そいつに問題があったとか、過去にあったのかもしれないな。

 事務手続きって色々と面倒なのは、俺も仕事で経験しているから理解している。

 子供のように駄々をこねても仕方がないので、来月のランク昇格を楽しみに待つとしよう。


「それで別に、困ったこともないですしね」


「あっ、でも」


「なんです?」


「明日はお休みだって言ってましたよね?」


「はい」


「三日働いて一日休む。ハンターだからそれでいいと思います。働きすぎると注意力が散漫になって、高位のハンターでも疲労から思わぬ不覚を取ることも多いですから」


 それはわかる。

 俺が勤めていた会社がブラックで、たまに過労で倒れる奴がいたからだ。

 救いだったのは、もの凄く給料がよかった点かな。

 残業代も休日出勤手当も全部出ていたから。

 問題は、その金を使う時間がなかったってことさ。

 せいぜい、絶対無敵ロボ アポロンカイザー関連のグッズを集めるくらいだった。


「明日お休みなら、生活に必要な品とか購入した方がいいですよ。あと防具なくていいんですか?」


「早速、見てみます」


「そうした方がいいですよ」


 そういえば、まだボロい旅人の服装のままだった。

 俺のスキルは絶対無敵ロボ アポロンカイザーだから、実は防具なんてなくても問題ないと思うけど、怪しまれないためにはそれなりの装備を買わなければならない。

 『人間、見た目が九割』という本がベストセラーになるくらい、人は見た目が重要だからな。

 今のボロイ旅人のような服装を改めようと思う。

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