第三話 強すぎる

「スライムの次に弱い魔獣は、ホーンラビットか……。毛皮と角、肉が売れる。魔石はスライムよりも少し高く売れるくらいか……」




 翌日。

 俺は、ハンター協会で購入した魔獣事典で次に倒す予定の魔獣について調べていた。

 ホーンラビットは、角がある巨大なウサギである。

 ウサギは基本的に可愛いものだと思っていたが、人間よりも大きいとそんなに可愛くないな。

 目が円らではなく、三角形でルビー色に光っているから、というのもあるのか。


「とにかく、倒して倒してレベルを上げるんだ」


 そうすれば、なにか他の武装や武器が使えるようになるかもしれず、いずれは絶対無敵ロボ アポロンカイザーに搭乗できるかもしれない。

 〇ラクエで、モンスター職を極めると外見がモンスターになるように、スキル『絶対無敵ロボ アポロンカイザー』を極めると、自分が絶対無敵ロボ アポロンカイザーになるか、ここは剣と魔法のファンタジー風世界なので、絶対無敵ロボ アポロンカイザーを召喚できるようになるかも。

 巨大ロボットに乗って戦う。

 そんな男のロマンを、できれば叶えたいものだ。

 そしてそれが実現できる可能性があるのは、このスキルを獲得した俺だけなのだから。


「というわけで、俺のレベルアップの糧となれ! カイザーパァーーーンチ!」


 俺が、昨日のようにホーンラビットにパンチを繰り出すと、ホーンラビットはまるで新幹線に轢かれた人間のように弾けて消えた。


「ホーンラビットも駄目か……」


 よくよく考えてみたら、絶対無敵ロボ アポロンカイザーは全長六十五メートル、体重は八百八十トンだ。

 そんな超巨大重量物に全力で殴られたら、体長二メートルのウサギなんて消滅して当然か……。


「手加減をすればいいのか!」


 そうだよな。

 なにも全力で殴る必要なんてなかったんだ。

 少し……かなり加減すれば、きっとホーンラビットの素材も残るはず。


「(かなり手加減して……)カイザーパァーーーンチ! ……駄目か……」


 かなり手加減したのだけど、まったく効果がない。

 どう攻撃しても魔石以外残らないので、これはもっと強い魔獣に挑まなければ。


「もう夕方だし、それは明日でいいや」


 その日は倒せる限りのホーンラビットを倒し、またもや魔石だけを無限ランドセルに仕舞ってから、ハンター協会の買い取り所へと向かうのであった。


「ホーンラビットの魔石は、一個一千リーグです。千七百八十五個あるので、百七十八万五千リーグです。あの……また素材は駄目だったんですか?」


「はい。ホーンラビットも、『パァーーーン!』と弾けてしまって」


「肉や毛皮は仕方がないとして、角は残っているでしょう? いくらなんでも」


「いえ、残りませんでした」


「そうですか……」


 あからさまにガックリと肩を落とす、買い取り所の若い男性職員さん。

 気持ちはわかるけど、こればかりは俺にもどうにもならないんだ。

 どう手加減しても、ホーンラビットは消滅してしまう。

 買い取り所の職員さんはホーンラビットの角に期待していたけど、カイザーパンチの威力を考えると、角も毛皮も強度の差なんて誤差みたいなものだと思う。


「明日からは、もっと強い魔獣に挑戦してみてください」


「わかりました」


「魔石は常に需要があって、むしろ常に不足気味ですから、毎日沢山持ち込んでいただけてありがたいんですけど……」


 でも素材は持ち込みゼロなので、俺は微妙なハンター扱いされていそうだ。

 この世界の便利な魔法道具は、魔石か、人間の魔力で動いている。

 地球でいうところの石油や石炭、電気みたいなもので、どこの国も躍起になって集めていると聞く。

 強いハンターが優遇される理由はここからきているのだ。


「では、報酬をどうぞ」


「ありがとうございます。これで夕食には肉が食えるかな」


「腹がはちきれるほど食べられますよ。その金額なら」


「それもそうか!」


 これは、実家を出て正解だったな。

 将来必ず絶対無敵ロボ アポロンカイザーに搭乗するという人生の夢も見つかったのだから。

 俺は報酬を受け取ると、帰りにたんまり肉を食ってから、昨日から利用している宿に戻るのであった。

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