第二話 変ったスキル

「なるほど。城壁の近くには多くのスライムがいるんだな」


 一刻も早く持ち金ゼロの状況を脱するべく、俺はアーベル北城壁の外にいた。

 無人の荒野のあちこちにいる、水色のドロドロな奴。

 RPGでよく見るスライムだ。


「スライムの魔石と、ドロドロも回収すれば、お金になるんだったな」


 本にそう書かれていた。

 どの魔獣からも出る魔石は、この世界の根幹技術である魔法道具を動かすのに使う。

 エネルギー資源扱いで、高品質な魔石は魔法道具や高性能な武具の材料にもなり、高額で買い取ってもらえる。

 当然、高品質な魔石は強い魔獣からしか出ないけど。


「とにかく、少しでもお金を稼ぐぞ。まずは『ステータスオープン』!」


 教会で成人の儀を受けると、この世界の人間はステータスが見えるようになる。

 不思議な話だが、その理由を人生を懸けて探すほど俺が探求心が強いわけでも、ましてや暇人でもない。

 まずは、今日を生きるための糧を得る方が大切だ。



ダストン・バルザーク(13)


レベル8


スキル

絶対無敵ロボ アポロンカイザー


解放

カイザーパンチ

カイザーキック


無限ランドセル



「それは家族も、理解の範疇外だろうな」


 このファンタジー風な世界で、スキルが『絶対無敵ロボ アポロンカイザー』だものな。

 第二の父親が怒った理由は理解できなくもない。

 せめて、少しはスキルの検証をする時間をくれれば……いや、バルザーク伯爵家では、代々火魔法のスキルしか認められていないから無駄か……。

 で、この『絶対無敵ロボ アポロンカイザー』なんだけど、実は俺が子供の頃に大好きだった……いや、今も大好きなロボットアニメだ。

 子供の頃、父に(日本の)頼んで超合金の玩具も買ってもらったのを思い出す。

 ただ、この絶対無敵ロボ アポロンカイザーは、世間ではなぜかあまり人気がなかった。

 学校でクラスメイトたちに、絶対無敵ロボ アポロンカイザーの良さを懸命に説明しても、クラスメイトたちは誰も賛同してくれなかったのだ。

 やはり同時期に〇ンダムの再放送をやっていたから、どうしてもマイナーロボットアニメでは分が悪かったのであろう。

 俺の絶対無敵ロボ アポロンカイザー好きは、大人になっても続いた。

 各種グッズ、画集、未発表分も掲載された設定集。

 ブルーレイボックスが出ると知った時は、いい年をして歓喜したものだ。

 一話から最終話までの全五十二話をいったい何周したことか。

 その絶対無敵ロボ アポロンカイザーの名を冠したスキル。

 これがあれば、俺は結構強いんじゃないかと思う。

 とはいえ、これは実際に使ってみないと加減がよくわからないスキルだな。

 色々と試してみるか。


「絶対無敵ロボ アポロンカイザーの武装と武器はまったく解放されていないな」


 ステータスには、パンチとキックしか表示されていなかった。

 現時点では、ただ殴って蹴るしかできないわけだ。

 絶対無敵ロボ アポロンカイザーには、とにかく武器や必殺技が多い。

 特に武器は、子供たちに玩具が多く売れるよう……玩具メーカーさんの大人の都合ってやつだね!……てんこ盛りなんだが……。


「まだレベルが低いからかな?」


 今の俺のレベルは8。

 この世界の人間にはレベルが存在し、魔獣を倒すか、あとは日々の生活で勉強、運動、仕事、育児、家事などをしても上がる。

 ただ、ハンターや貴族ではない一般人は死ぬまでにレベル10になるくらいがせいぜいだそうだ。

 俺は伯爵家の跡取りだったので、色々と勉強や剣術の稽古などをこなしていて、それでレベルが高めなのだと思う。

 ちなみに魔法だが、これは成人の儀を行わないと使えないので、俺は一度も使ったこともましてや練習したこともなかった。

 今のスキルで使えるとは思わないが。


「レベルを上げて、絶対無敵ロボ アポロンカイザーの武装、武器、必殺技を解放すればいいのか? で、どうすればスキルが発動するんだろう?」


 よくわからないので、まずは絶対無敵ロボ アポロンカイザーの搭乗者にして主人公である岩城正平のセリフを真似てみるか。

 彼がお決まりのセリフを叫ぶと、そこに絶対無敵ロボ アポロンカイザーが格好良く飛んでくるんだよなぁ。


「カモォーーーン! アポロンカイザーーー! っ!」


 今、急に力が増したのがわかった。

 でもやはり、絶対無敵ロボ アポロンカイザーは飛んで来ないか……。

 スキルだから、俺が絶対無敵ロボ アポロンカイザーに搭乗するのではなく、俺の体が絶対無敵ロボ アポロンカイザーのように戦えるスキルなのだろう。


「あっ、でも。もしかしたら……」


 もっとレベルが上がれば、もしかしたら本物の絶対無敵ロボ アポロンカイザーがやって来て搭乗できるかもしれない。


「人生の目標できたじゃん!」


 こうなれば、限界までレベルを上げて、俺が叫ぶと本物の絶対無敵ロボ アポロンカイザーが飛んでくるようになるか確認しないとな!

 四十歳を超えて、こんなに素晴らしい人生の目標ができるなんて。

 神様。

 俺を別の世界に飛ばしてくれてありがとう。

 元家族である、バルザーク伯爵家の連中なんてどうでもよくなってきた。


「早速、スライムからだ」


 まずはスライムを倒して、俺の脳裏に残る絶対無敵ロボ アポロンカイザーの動きをトレースしていこう。

 そうすればレベルアップするに従って、どんなに強い魔獣にも勝てるようになるはずだ。


「行くぞ! スライムども! とう!」


 絶対無敵ロボ アポロンカイザーは飛べるからな。

 まずは飛行を覚えなければ……。


「浮かんだ! しかし……」


 飛べたのはいいけど、まだ慣れないので一ヵ所に留まれずフラフラしている。

 購入して読み込んだ設定集では、絶対無敵ロボ アポロンカイザーは、空中停止から、時速マッハ10まで自在に空と宇宙を飛び回れる。

 宇宙だと光速の数万倍の速度で飛べるんだが……それはいつか宇宙で試すとするか……。

 その前に、空気をどうにかしないとな。


「しばらくは、アニメのシーンを参考に練習が必要だな」


 いくら今の俺が絶対無敵ロボ アポロンカイザーでも、スキルに慣れるまでは訓練が必要か。

 だが、いくらまだ慣れていないとはいえ、絶対無敵ロボ アポロンカイザーは高速で移動することもできる。

 俺は瞬時にスライムに近寄り……。


「カイザーパァーーーンチ!」


『カイザーパンチ!』ではない、『カイザーパァーーーンチ!』だ。

 俺は何度もアニメを見て、主人公のセリフを懸命に覚えたからな。

 記念すべき第一撃を、実は近寄るとかなり大きなスライムに対し繰り出した。

 するとスライムは……まるで水風船のように弾けてなにもなくなった……いや、よく見ると地面にビー玉大の魔石だけが残っていた。


「……ドロドロがない……全部飛び散ってしまった……」


 これは推測だが、まだレベルが低いとはいえ、俺のパンチは絶対無敵ロボ アポロンカイザーのパンチ力にかなり近いはずだ。

 だからスライムの体では、その衝撃に耐えられなかったのであろう。


「……もう一度だ! カイザーパァーーーンチ!」


 やはりスライムは、魔石を残して消え去った……いや、素材として売れるドロドロは、飛び散り過ぎて回収できなくなった、が正しいのか。


「……ドロドロがないと困るなぁ……あれ? 別にいらないか?」


 魔石は必ず残るようだし、これを売れば……。


「ドロドロが回収できないから、魔石のみで数を稼ごう」


 一体ごとの稼ぎの少なさは、数で補えばいいか。


「カイザーパァーーーンチ! 続けて、カイザーパァーーーンチ!」


 その日の俺は、夕方になるまでスライムをカイザーパンチで倒し続けた。

 同じ技を反復すれば、その習得も早まるはずだ。

 そして夕方になった。


「夜に活動するのは危険だ。街に戻ろう」


 カイザーパンチで多くのスライムを倒せたので、魔石を換金して、まずは食事と泊る場所の確保が最優先だ。


「『無限ランドセル』。これは便利だな」


 アニメだと、絶対無敵ロボ アポロンカイザーの八百八万八百八個あるとされる……本当かな? 設定集には書いてあったけど……武器を収納する背中のバックパックなんだが、アニメでも主人公がヒロインの手作り弁当を収納していたから、この世界でレアスキルと言われている『アイテムボックス』と同じように使えたのは幸運だった。

 今日獲得した魔石は、すべてこれに収納できたのだから。


「一日でレベルは15まで上がったから、悪くないのかな」


 一日で7つレベルが上がったのはよかったと思う。

 普通はこんなに上がらないはずだから、これも特殊なスキルのおかげだろう。


「明日からは、もっと強い魔獣に挑もうかな」


 俺はアーベルの町に戻り、ハンター協会の買い取りカウンターに今日獲得した魔石を提出した。


「ええっーーー! 魔石が千二百四十九個ですか! ……これをお一人で?」


 受付にいた若い男性職員が、俺に疑惑の視線を向けてきた。

 気持ちはわからないでもない。


「ええ、そういうスキルなので」


「そうですか……この魔石はスライムのものだと思うのですが……その……スライムのドロドロは?」


「俺が攻撃すると、ドロドロが広範囲に飛び散って回収できなくなるんです。魔石だけだと買い取ってもらえないんですか?」


「そんなことはありません。ですが……明日からはもっと強い魔獣に挑んでもらいたいかなって……。スライムだと素材が残らないようですから」


 慣れているのか。

 職員さんは、俺の攻撃力だとスライムのドロドロが飛び散って回収できないと伝えても、それをおかしいとは思わなかったようだ。

 俺の他にも、もの凄く強いハンターがいるからだろう。


「明日からはそうします」


「ありがとうございます。スライムの魔石は一個五百リーグです。千二百四十九個ですと、六十二万四千五百リーグですね」


「夕食と寝るところにありつける」


「あの……それだけあれば、三ヵ月くらいは普通に暮らせますけど……」


 その後、俺はハンター協会近くの食堂で夕食にありつき、そのあとは買い取り所の職員さんが教えてくれたハンター御用達の宿で就寝するのであった。

 明日はもっと強い魔獣を倒してみるか。

 今度はちゃんと素材が残るといいな。

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