第7話 剣と杖と魔法と従者と


「皆の衆、聞くといい!これは誇りを掛けた決闘である!」


 第三王子が高らかに宣言する。


 観衆は殆どが貴族、そして第二王子と騎士団の一部。


 父である国王が国政で忙しくて見に来ることもできず、第一王子は既に国政に関わっているので来ず、第二王子は軍事を任されているため戦争をしていない今の時期は割と時間に余裕があるらしく見に来ているが決闘については良く思っていない顔をしている。


 国内に不和を起こす原因になりかねない事をやらかしているから当然だ。


 他の王子や王女らは決闘に興味が無いらしく姿は見えない。意外と家族内で人望がないのだろうか?


 随分と派手にやる、まあ普通は王族が決闘をするときは本気で誇りを守ろうとする手段であり、それに賛同する人間が供として参加することが出来るルールがあったりする。


 とはいえだ、痴話騒動に加担する騎士や貴族はかなり少ない。第三王子が婚約者をないがしろにした挙句、口説いた人間の兄が出しゃばったことに逆切れしてこうなったのだから、一応集まっておくかという感覚で5人くらいは付いている。


 対して俺の方には0人、流石に一対多数は卑怯なので決闘を申し込まれた方も人を集めることは出来たのだが、自分から来る人間はいなかったし、俺から人を呼ぶこともなかった。


 流石に王族相手に喧嘩を一緒に売ろうなど口が裂けても言えん。相手の名誉も地に落ちろと言わんばかりの所業は、な。


「私が決闘を申し込むのはボロトー侯爵、の息子だ。貴様は私の決闘を受けるのか!?」


 だだっ広い広場に大声で叫ぶ第三王子があまりにも滑稽に見える。


 だって改めて説明すると、自分の婚約者の目の前で他の女を口説いて叱られたら思いっきり火をつけやがったようなもの。


 被害を受けた俺と妹、そしてボロトー侯爵全体にたいして何のメリットがないのも特徴だ。


 俺が負けたら妹を新たな婚約者にしてアララ様との関係を切るつもりだろう。


 王家には全く得もないし、損しかないことを提案するということは陰謀が絡んでいたりするのかと疑っているが、まさか決闘を申し込んだ翌日に強行するとは思わないって。


 思考の口調が砕けるくらいには前代未聞のことをしでかしているんだよな、この王子。


 悪しき前例を作っちゃって恥ずかしくないのか、それとも後で笑い話にでも昇華するのか。


「お受けいたしますよ、殿下」


 被害をもろに受ける側からしたら笑い話にもなりゃしないけどな!


 笑い話にできるくらい滑稽にしてやろうかと考えたが、相手の顔もある程度立てる必要が…………


 ないか。


「両者、武器は持ったか?」


「この杖がある」


「何故剣を用いない!」


「剣は苦手ですので。それに武器は最初に取り決めをしたでしょう、どんなものでもよいと」


 たった1日、されど1日、僅かな時間で自分の最も得意な武器を、借り物とはいえ用意することには成功した。


 決闘は命を取りあわなければルールが全て、何故か第三王子ではなく宰相が出てきてくれたおかげで、物理的に刃を向けずに済んだのだ。


 いくら決闘とはいえ王子に刃を向けるのは体裁が悪すぎる。


 宰相も自国の貴族がは向かったなど評判が立てば国の沽券にかかわると考えたのだろう。


 幸いなことに俺は剣が得意ではない。加減して負けるという芸当はできないし、逆に丁度良く勝つことも剣ではできない。


 だが杖なら、魔法なら明らかに俺に分がある。新たに得た力もそうだが、地力も素質もあった。


 なので俺が用いるのは杖、というよりも老人が支えの代わりに使うようなステッキに近いものだ。


 流石にこれは王都にあるボロトー侯爵所有の屋敷から取り急ぎ持ってこさせたものだ。全員が全員、屋敷に特有の武器があるわけではないが、俺は戦闘面でも


「いつの間にそんな真似を…………」


「合図は鐘を鳴らして3回目が鳴った時、その瞬間に動きはじめること。ご理解いただけましたか?」


「いいだろう、早く鐘を鳴らせ!」


 最初から最後まで俺をぶちのめすつもりしかない第三王子は合図の催促を促す。


 ここまで来たら醜態とも思わないのだろう。誰がどう見ても滑稽にしか見えない。


 そんなことを考えていたら1度目の鐘が鳴り響く。


 第三王子は剣を構えていつでも斬りかからんと鼻息を荒くして様子を見ている。周りの従者はまだ剣を構えていない。


 俺は杖を地面について不動の構えで立っている。


 2度目の鐘が鳴り響く。


 ここでようやく従者達も剣を構える。


 従者と言っても騎士団の団員、それも若いのばかりで実践経験も少なさそうだ。


 ここで俺もついていたステッキを地面から少し浮かせる。


 この瞬間、俺はいつでも行動できるようになった。傍から見ればちょっと手を動かしただけで不動に見えるが、この構えに気づいたのはいったい何人いるのやら。


 鐘の余韻が未だに耳に残っている。緊張が空間を占めて肌に焼き付くような感覚が残る。


 そして3回目の鐘の音が鳴る。


「かかれー!」


 まず自分よりも従者を先行させる第三王子の号令と共に従者たちは俺の元に走ってこようとする。


 気迫はまあまあ、しかし闘志がかなり低いのに気づいていないのは第三王子くらいだ。


 ならばやりようはいくらでもある。例えば少し浮かせたステッキで地面をとんとつくとあら不思議。


「うおっ!?」


「うわっ!」


「グエッ、地面が、滑った!?」


 テーブルクロス引きのように地面が動いてみんな転ぶではありませんか。


 俺の得意分野は土の魔法、ついでに水の魔法も使うこともできる。


 水の魔法は齧った程度だが、土の魔法は専門知識を仕入れこんでまで習得したのだから当然だ。


 何故土の魔法をしっかり仕入れたかって?土いじりは領地改革で非常に役に立つからだ。


 文字通り土地を転がし、地面の中の栄養を発掘し、使った土をまた深く埋めて栄養を蓄えさせて、これを何度も続けることが飢饉を起こさない秘訣なのだ。


 それはさておき、たった一度のアクションで離れていた第三王子まで足を取られずっこけた状況を見て、どうやったら負けるのかという困惑まで湧き上がってきた。


 どうしよう、俺も丁度良く傷ついて王子だけのこして丁度いい戦いを見せられたらよかったのだが、明らかに一方的に勝つ未来しか見えない。


 周りの雰囲気も大丈夫なのかとほとんどの人間が疑問に思っている。


 これ、着地点どうなるんだ…………?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る