今でも君を……。

昼間の仕事でちゃんと働けるようになった俺は、勇気を出して一葉に連絡した。


「はい」

「一葉……俺だけど……」

「えっと、詐欺ですか?」

「違うって、凛音」


俺の言葉に一葉は、黙っている。

沈黙が長く続く。

このまま、連絡が取れなくなるのは嫌だ。


「一葉、あの時はごめん。5年前……。俺、一葉を信じられなかった。でも、途中で気づいたんだ。だから、あの日。一葉に謝りたくて……。でも、一葉ミモザに行くって」

「もういいよ。もう、そんなの怒ってないから……。元気そうでよかった」

「元気だよ!一葉も元気そうだな!あっ、今度飯行かない?正也まさやが焼き鳥屋出したんだって。誰も行く奴いないから一葉と一緒に行けたらなって……」

「彼女いるんでしょ?大丈夫なの?」

「彼女!あっ、大丈夫、大丈夫。一葉なら友達だってわかってくれるから」


俺は、大嘘つきだ。

彼女なんていないのに……。

今付き合ってる奴なんかいないのに……。

ちゃんとケジメつけたから連絡したのに……。


「そっか……。それなら行くの考えとく」

「おう。いつにするか日にちすぐにわかる?」

「仕事もあるからすぐにはわからないよ」

「一葉は、まだ夜働いてるのか?」

「えっ?今は、掃除の仕事してる。だから、夜はもう働いてないよ」

「そっか、よかった。仕事だから、また、連絡する」

「うん。じゃあね」


一葉が普通の生活をしてるのがわかって嬉しかった。

一葉に夜の世界は似合わない。

俺は、一葉にもう一度会いたい。

会って、次はちゃんと……。


リビングにある引き出しを開ける。


「ブランド物とか高いのがいいよね。だけど、これが精一杯だったの。ごめんね。いらなかったら捨てて」


二十歳の一葉にもらった蛍石のネックレス。

安物だからって恥ずかしそうに渡された。

捨ててくれって言われたけど、捨てられなくて……。

付き合った女達に「これ何?」って聞かれたけど本当の事は言えなかった。


「次に会うなら、これつけて行ってあげようかな」


一葉がめちゃくちゃ喜んでくれるんじゃないかって想像する。

なのに……。

何で、神様は意地悪なんだ。


「凛音君、私。今付き合ってる人と結婚する事になると思う……」


やっぱり早く一葉に会いたいって思って、すぐに連絡した結果がこれかよ。

精一杯笑顔で幸せになれよって言うしか出来なかった。

ちゃんとわかってた……。

初めから俺じゃ幸せに出来ないって事を……。


「凛音、久しぶりだな」

「代表。また、ちょっと働かしてもらいたいんですけど」

「昼職は?」

「暫く働く理由が見つからないんで……。だけど、生活しなきゃいけないから」

「まあ、店に入れよ」

「どうも」


俺は、弁当屋を辞めて……。

また、此処に戻ってきた。


「また、働かないかって連絡くれてたのに返事遅くなってすみません」

「いや、いいよ。凛音も夜には戻りたくないかなって思ってたから」

「二店舗目を手伝ってくれって話でしたよね」

「あーー。一年だけでもいいから頼めるか?」

「勿論ですよ」


代表は、俺にコーヒーを入れてくれる。


「そんなお土産みたいなネックレスどこで買ったの?」

「蛍石ってやつです。昔、一葉が誕生日プレゼントにくれたんですよ」

「へぇーー。綺麗だな!って、何でそんなのつけてんだよ。もしかして、付き合ったのか?」

「そんなわけないじゃないですか。一葉を幸せに出来るのは俺じゃないですから……。ただ、俺も幸せにしたかったんですよ。だから、真面目に……働いて」

「一葉ちゃんに連絡したのか?」

「久しぶりにしたんです。25歳になった一葉がどんなに綺麗になったか見たかった。それにちゃんと会って謝りたかったから……」

「一葉ちゃんは何て?」

「結婚するらしいです。今の相手と……」


代表は、俺にティッシュを差し出してくれる。


「凛音、前も言ったろ?一葉ちゃんはエスパーじゃないって。ちゃんと気持ち伝えればよかったんだよ」

「バツイチで弁当屋のアルバイトの男が、一葉にプロポーズしてる奴に勝てるわけないでしょ?」

「わかんないだろ!ちゃんと気持ち伝えてたらチャンスはあったかも知れないだろ」

「ないですよ。チャンスなんてあるわけないです」


あれから一年間。

新店舗を手伝って、俺はまた弁当屋さんで働き始めた。

44歳になり、俺は店長をしている。


「一葉……。今も幸せなのかな?」


ギャラリーにある写真を見つめて呟いた。


「あの、面接にきました」

「あーー、はいはい」


二十歳の大学生の女の子がアルバイトの面接に来た。

俺は、またあの日の償いをするのだろう。

これから先も誰にも言えないこの想いを抱えながら……俺は生きていく。


一葉……ずっとずっと愛してる。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

残り香♡凛音編♡【カクヨムコン応募中】 三愛紫月 @shizuki-r

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ