47 結果
「碧ちゃん。もう健流さんに発言権はないから。
元々、私もきらりも別に碧ちゃんがハリウッド女優を目指していることには特に意見はなかったのよ。ただ健流さんが気に入らなかっただけでね」
「そうなのですか……」
「えぇ……その健流さんがこのザマだもの。
もう貴方の夢に意見するものは居ないわ。ご安心なさいな」
深雪さんが私を慰めるように言い、私は「はい。ありがとうございます」とお礼を述べた。
「健流さん……今後のことはきらりとよく話し合いなさい! 碧ちゃんの一件は貴方に口を出せるものではなくなったわ! 諦めることね!」
深雪さんが学園長を睨みつけながらそう言うと、学園長は項垂れながら「はい……」と返事をした。
発作から回復しつつある零一くんが「良かった……」ソファに寄りかかりながら力なくと笑い、私も「はい。良かったです」と笑顔を向けた。
「貴方……お話があります。二階へ来て頂けますか?」
零一くんの容態が良くなってきたところで、きらりさんがそう切り出した。
「あぁ……」
学園長が俯いたまま答え、二階へとすごすごと行く。
「碧ちゃん、あの動画、私にも送ってもらえるかしら?」
きらりさんが私に力なく笑いかけ、私はただ「はい……」と返事をして動画をきらりさんへとメッセージアプリで送る。
そうして動画が来たことを確認したきらりさんも、ゆっくりと二階へと行ってしまった。
「碧ちゃん。こちらから呼びつけたのに、こんな茶番を見せつけることになってしまってごめんなさいね」
深雪さんが私にゆっくりと頭を下げる。
「いえ……それよりも零一くんが心配です」
「僕は、大丈夫だよ」
零一くんが酸素吸入器を外すと力なく言った。
「本当ですか? やはり救急車を呼んだほうが……」
「大丈夫だってば! 碧さんは心配性だな……」
「本当に本当ですか?」
「本当に本当だよ」
そうして二人して見つめ合って、なぜだかおかしくなってきて笑い合う。
「お似合いだよ。本当に……!」
深雪さんが私達二人を見て笑った。
「それにしても、碧ちゃんの女の勘は凄いね。よく人間観察をしてるよ。
これならハリウッド女優にだってなれてもおかしくないんじゃないかね?」
「はい。いいえ、ありがとうございます」
「ほんと、突然父さんの浮気を疑った時にはびっくりもしたけど、見事に言い当てたんだものな。そう言えば……証拠の動画を送ってくれたのは誰なの?」
「はい。親友の日向文音です」
「あぁ……! 日向さんが! それなら信用できるね」
零一くんが納得するように微笑み、私は文音への感謝いっぱいで「はい……!」と答えた。
「そうだ、夕食はうちで食べていく碧さん?」
「いえ……まだまだ取り込み中のようですから遠慮しておきます」
言いながら私は二階の方を見やる。
きらりさんと学園長の話し合いは当分終わらないだろう。
夫婦の修羅場を経験した後の夕食に付き合わされるのは、浮気を言い当てた身だからといって真っ平御免だ。
「そっか。それじゃあまた学校で!」
「はい、学校で。お祖母様も失礼します。お邪魔しました」
「はいよ。またいつでもいらっしゃいな」
「はい」
私はペコリといつものようにお辞儀をすると、上月家を出て我が家へと帰った。
∬
家へ帰る途中、私は文音へとメッセージを送る。
「文音。本当に助かりました。
危うく零一くんとの交際関係を解消させられそうだったのですが、文音の証拠動画のおかげで難を逃れました」
「えっ……! そうだったの!? でも何にせよ役に立って良かった!」
文音に上月家でしてきたやり取りとその顛末を話すと、文音は「そりゃお疲れ様でした! 上月くんが心配だね!」と返ってきた。
「確かに心配ですが、本当に大丈夫なようで良かったです」
そう返し、家に着いた私は「ただいまー」と家のドアを開けた。
「おかえりなさい。遅かったわね」
母、祐奈がリビングで私を出迎えてくれる。
「うん。零一くんの家にお邪魔していたから」
「まぁ……そうだったの」
「うん。別れさせられそうになったけど、なんとかしてきた!」
「え!? どういうこと。婚約したのもあちらから言ってきたことだったのに、別れさせられそうになったってどういうこと!?」
母は混乱している。無理もない。私だってそうだったのだ。
「大丈夫だから母さん。問題は解決したの」
「解決したって……碧どういうことなの!」
「なんだい。一体どうしたんだい?」
母さんが大声で混乱しているものだから、二階から驚いた父がやってきた。
私は文音にそうしたように事態を母さんと父さんに説明した。
「そうか……健流さんは碧の夢がそんなに気に入らなかったんだね……」
父が残念そうに言い、私が「はい……」と答える。
「でも浮気だなんて……」
「証拠は間違いないんだね?」
「うん。これが証拠……」
私は1分ほどの動画を両親に見せる。
ホテル入口の看板と共に、入っていく車両とその運転手である上月健流さん、及び助手席にいる坂柳美知流さんがきっちりと映っている。
「これは……間違いなさそうだね……」
父が言い、母が「そんな人には見えなかったのに……」と残念そうにしている。
「とにかく、この証拠を突きつけたことで難を逃れたから。
零一くんのお祖母様が学園長に発言権がないと言ってくださったんだよ。
だから私と零一くんがお別れすることはなくなったの」
「そうか……それは不幸中の幸いだったね。お祖母様と文音ちゃんには感謝しなさい」
冷静な父が言い、母が「婚約は継続ってことでいいのよね?!」と未だ混乱している。
「うん。婚約は継続中。安心して母さん、大丈夫だから」
「そ、そう……それなら良いんだけど……」
私が安心するよう促すと、母さんはようやく胸を撫で下ろした。
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