44 呼び出し

 2月23日月曜日。

 私は朝。いつもよりも30分くらい早く登校した。

 零一くんと話をするためだ。

 待ち合わせ場所はAクラスの教室だった。

 私は零一くん来ているかな? と様子見のていでAクラスの教室を覗き込む。

 すると、既に来ていた零一くんと視線が交錯する。


「藤堂さん……!」

「零一くん……!」


 会ってそうそう見つめ合う私達。


「どうぞ入って! まだクラスメイトもほぼ来てないし」

「はい。失礼します」


 私は招き入れられて零一くんの隣の席へと座るよう促され座る。


「藤堂さん、東王大学の二次試験無事終わりました!」

「はい。お疲れ様でした!」


 改まって報告してくる零一くんを私は万感を込めて労う。


「零一くんは他の大学は受けないのですか?」

「あぁ……うん。滑り止めは共通テスト利用でもう合格済なんだ」

「なんと……そうだったのですね。ちなみにどこかお伺いしても?」

「宗慶大学だよ」


 私は驚いて口を一瞬ぽかんと開けてしまった。


「宗慶大! 私立トップの名門校ですね。

 そんな大学に既に合格していたとは……凄いです」


 宗慶大を滑り止めに使うなんて東王大学受験生からしたら当たり前なのかもしれないが、私からしてみればとても贅沢に思えた。


「ありがとう。まぁ東王大学が大本命だから受かってると良いんだけどね……」

「私、この間合格を祈願してきました。だからきっと大丈夫です」

「そうなんだ? 学業成就のお守りといい、藤堂さんにはお世話になりっぱなしだな……」

「いえ、私が勝手にやったことですからお気になさらず」

「そっか。ありがとう! そうだ藤堂さん、実は藤堂さんにもう一つ話があるんだ」


 零一くんが突然そんなことを言い出し、私は「はい? なんでしょうか?」と首を傾けた。


「実は、父さんと母さんがまた藤堂さんと話がしたいって昨日帰ったら言い出して……。

 だからごめんだけど、僕の家に来て貰えないかな?」

「それは……」


 一体何の話だろう? まさかここに来て婚約解消とか言わないだろうか。

 脳裏にはこの間神社で引いたおみくじの結果が頭をよぎる。

 恋愛運と家族運が最悪……。

 私は不安で返答が喉から出なかった。


「大丈夫、僕も一緒だから!」


 私の不安そうな表情を読んだのだろうか、零一くんがそう言って私の肩に右手を置いた。

 いや……どうやら私の肩が震えていたらしい。


「はい。ありがとうございます……それでいつお家へ伺えば?」

「それは藤堂さんの予定に合わせようと思ってるんだけど、どうかな?」


 今日学校の後でと言われるかもしれないと考えていた私は、ほっと胸を撫で下ろす。

 どうしようか。今日は操と練習がある。ならば明日はどうだろうか?


「では、明日学校が終わった後ではどうでしょう?」

「他に第三希望まで聞いてもいい? 父さんの予定が合わないかもだから」

「……はい」


 言われ、私は次の土曜日を第二希望に、そして日曜日を第三希望に指定した。


「ありがとう! これで父さんに連絡してみるから、今日中に予定が決まったら連絡するよ」

「はい。よろしくお願いします」


 零一くんはしばらくかかってお父さんへの文面を作ると、私の希望日時を送ったらしい。

 そうして主要な話題がなくなった私達は暫くの間、卒業式まであと二週間もないことなどを話していた。

 卒業式は3月5日だ。

 零一くんはクラスメイトと会えなくなるのをしきりに寂しがっていた。

 Aクラスはどうやら結束が固いらしく、共通テスト後も8割の生徒が出席しているという。

 そんな話をしていると、Aクラスに人が集まってきた。

 私は既に来ている生徒の椅子を奪っていては申し訳がないと、気が気でなくなって来ている。


「それでは私はこの辺で……」


 そう言って立ち上がる私。


「うん! また今度ゆっくり話そう藤堂さん」

「はい。それではまた」


 私は零一くんと別れの挨拶を交わすと、Aクラスを出てEクラスへと廊下を進んだ。

 廊下を歩きながら、各クラスの人数を見ていくがやはりAクラスほどは集まってはいない。おそらくは我がEクラス同様に、最終的に集まるのはこれまでの1/3ほどだろう。


「やはり1/3くらいが普通なのですね……」


 呟きながらEクラスのドアを開けると、文音がいつもと変わらず来ていた。


「碧おはよー」

「はい。おはようございます」

「今日はちょっぴり早いね?」

「はい。いつもより5分ほど……。先程まで零一くんとお話をしてたんです」

「お! いいねー高校生の内に会えるだけ会っておくのは、私もとても良いと思います!」


 文音が胸を張って言い切る。

 そんな自信満々の文音を見ていてなんだか頼もしく思えてきた私は、不安に思っていたことを文音に吐露することにした。


「文音、私また零一くんのご両親に呼ばれてしまいました……」

「へ? それまたなんで?」

「さぁ……それが皆目検討が付かず……もし婚約解消や交際解消を勧められでもしたらと思うと、怖くて……」

「大丈夫だよ碧! きっとそんなこと起きないって!」

「はい……そうだと良いのですが……」


 そんなことを話しているとスマホが鳴った。


「父さんから早くも返事がありました。明日の午後5時に我が家で待つとのことです」


 文面を確認し、私は再び不安になって文音の方を見やり、そして言った。


「明日、学校のあと、午後5時までに零一くんの家に行くことに決まってしまいました……」

「そっか……急だね……」

「はい。どうしたらいいのでしょう……」

「まぁまだ悪い話題とは限らないし! 良い話題かもだよ」

「それはそうですが……」


 私は自身の胸のあたりに両手を当てて心配する。

 文音は何度も慰めてくれたが、私の不安が解消することはなかった。

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