42 相談

 2月10日。火曜日。

 学校へ登校した私。

 しかし、教室へ入っても文音の姿が見つけられなかった。


「どうしたのでしょう? もうすぐホームルームが始まるというのに……」


 不思議に思い文音を心配していると、直に担任の女性教諭がやってきてホームルームを開始。

 とうとう文音は来ないままに学校は始まってしまった。


 私は心配で1限目が始まるまでの間に、文音にメッセージを入れることにした。


「文音。今日はお休みですか?」


 しかし、授業が始まるまでの間にメッセージが既読になることはなかった。

 英語の試験対策授業をひたすらに聞く私。

 1限目を終え、再びスマホを確認するが、既読こそついているが文音から返信はなかった。

 そうして2限が終わり、私が再度スマホを確認しようとしたとき、Eクラスのドアがばっと開け放たれた。

 誰が来たのかと視線を送ると、そこには息を切らしている文音の姿があった。


「文音……!」

「碧……! 私……私……!」


 文音は息を切らしつつ私の横の席に付くと、ふぅーと深呼吸。

 そして私に目を合わせると、嬉しそうに言った。


「私……! 志望校受かったよ碧!!」

「それは……おめでとうございます」

「うん……! ありがと!」

「それにしても、今日が合格発表だったのですね?」

「うん……共通テスト利用のね!

 ごめん、メッセージは見たんだけど、返信してないや。

 直接碧に受かったーって言いたくてさ!」


 文音は言いながら私の後ろに回り込むと、私の肩を両手で揉む。


「いえ、構いません。合格を直接言いたい気持ち分かりますから。

 改めて、おめでとうございます文音」

「うん! かーっ! これでやっと受験勉強から解放されるよ~。

 一般選抜も出願してたけど、受けなくて良さそうで良かった~」


 文音は私の肩揉みをやめると、大きく腕を上げて伸びをする。


「そうですね。今日の帰り、合格祝いにカラオケでも行きますか?」

「お! いいねー!」

「では、決まりです。私、操も誘ってみます」

「うんうん!」


 文音がとても嬉しそうに首を二度振った。




   ∬




 カラオケは結局、操が仕事だったらしく私と文音の二人きりになった。

 初っ端、文音が平成のJーPOPを歌い終えてコーラを飲む。

 次は私の番だ。私は同じく平成に大ヒットしたというバラードソングを歌う。

 歌は結構自信がある。


 私が自信満々で歌い終えると、文音がヒューと口笛を吹いて盛り上げた。

 次の曲はまだ入れていないらしく始まらない。


「次は何を歌いますか文音」

「うーん次は二人で一緒に歌えるやつにしよ碧!」

「はい。分かりました……。そういえば文音」

「うーん?」

「斎藤さんには合格の話したのですか?」

「あーうんまぁね! 一応朝受かったーって連絡はしたよ。

 そしたら仕事終わったらお祝いしてくれるってことになってさ……へへ……」

「え!? それじゃあ私とカラオケしている場合ではないじゃないですか」

「良いの良いの! 波瑠兄の会社終わるの午後6時だし、それまでは碧とこうして祝勝会をするつもりだから!」

「はぁ……まぁそういうことでしたら……」


 私は斉藤さんに悪いので、仕事が終わる午後6時前にはお開きにしようと固く決意し、再び選曲を始めた。




   ∬




 斉藤さんの仕事が終わる18時の10分前にはカラオケ祝勝会を終えると、私は渋谷のカラオケ屋さんの前で文音と別れることにした。


「文音、本当におめでとうございました! それではまた明日!」

「うんうん! ありがとね碧! じゃあまたー」


 文音は斉藤さんが働いているというオフィスビルの方へ、私は駅へと向けて歩き始めた。

 文音の合格祝いをした後で足取りは軽く、すぐに渋谷駅へと到着。

 私はそこから更に我が家へと電車に揺られた。


 そうして家に帰り着き、午後7時をあと10数分で回ろうかという時。

 私のメッセージアプリがメッセージを受信した。

 相手は……文音だ。

 どうしたのだろうか? 斉藤さんとなにかあったのかもしれない。

「ねぇ碧……変なこと相談しても良い?」

「はい? 変なことですか?」

「うん……」

「もし、もしだよ? 碧は付き合ってる相手のお父さんがその……」

「はい。相手のお父さんがなんでしょう?」


 私が一体何の話が始まるのだと不思議に思って返事をすると、文音は「……やっぱいいや! ごめん急に!」とメッセージを終えた。


 私は訳も分からず「斉藤さんと何かあったのですか?」と聞く。


「大丈夫! 斉藤さんとは全然なんにもないから!!

 てかこれから一緒に食事だし! ごめんね碧! 本当なんでもないから!」


 文音から帰ってきた返事にはそのように書かれていたので、私は不審に思いつつもやり取りを終えた。

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