41 共通テスト後の学校
「操!」
朝。通学路前方で操を見つけた私はすぐに声をかけた。
「碧! 共通テストお疲れ様でした」
マフラーをした操が足を止めてペコリと頭を下げる。
そうして合流したあとまた二人で学校目指して歩き始めた。
「はい。お疲れ様です。操は共通テストは受けなくても良かったのですか?」
「はい。私は私立大学に推薦が決まっていて、特に共通テストを受けろとも言われていませんでしたから」
「そうなのですね。私の大学はどうせ出願しているならば是非に受けろとのお話だったので、大学によって大分差があるようですね」
「そうですね! 仕事の合間に学業まで頑張らずに済んで私は助かっています。
ところで、碧は共通テストが終わった後もまだ学校には来るつもりですか?」
「はい。文音とも会いたいですし……操は……?」
「私は出席日数の都合上、もう少し学校に通うことになりそうです。
仕事で休んでしまったときもありましたから……」
「なるほど、そうなのですね。でしたら練習はどうしましょうか?」
「碧が学校に来るようでしたら、仕事の入っていない日には是非……!」
「分かりました。それでは卒業の日まで二人で練習しましょう!」
「はい!」
操がとても嬉しそうに首肯し、私もうんうんと頷く。
そうして学校が見えてきた。
私と操は教室棟まで一緒に来ると、そこでお互いのクラスに向かう為に別れた。
クラスのドアを開くと、いつものように文音がいた。
「おー碧! おはよ! 昨日ぶり!」
「はい。昨日ぶりです」
「ねー碧、こうして会いたいから共通テスト後も学校来ることにしたじゃん?」
「はい。そうですね」
「でもあんまりそういう学生多くはないっぽいね、見てみなよ周り」
周りを見渡すと、朝のホームルーム開始5分前だというのに席に座っている生徒は疎らだった。どうやら普段の1/3程度しかいないらしい。
「1/3くらいでしょうか? 少ないですね……」
「うん。私もなんだか少なくて少し寂しいなーって。
この後の試験に向けて勉強頑張るって学生もっといると思ったんだけどなー」
「文音はこの後も試験を……?」
「うん! 共通テスト利用で出願してて、もし落ちちゃったときには一般選抜も出願してるからそっちも受けるかな!」
「そうなのですね……」
文音は私と違い、零一くん同様にまだ勉強を頑張るのだということだろう。
操にしても出席日数の都合上授業には出なければならない。
それらが何もないで学校に来ているのは私だけということになる。
頑張って勉強している人たちの邪魔をしないようにしなければ……。
そんなことを考えていると、朝のホームルームが始まった。
∬
お昼休み。零一くんからメッセージが来た。
「学校来ていますか?」
「はい。来ています」
「良かったら二人でご飯を食べませんか?」
「それは……文音に聞いてみますね」
私はスマホから顔を上げると、既に机を合わせて来ていた文音に聞いた。
「文音、私、零一くんにお昼を一緒に食べないかと誘われてしまいました」
「おぉ! いいよいいよ、行っといで。私は大丈夫だから!」
「そうですか?」
「もちろん!」
「では、そのように」
私はすぐに零一くんに「文音に行ってこいと言われました。一緒に食べたいです」と送る。
すると、待ち合わせ場所に購買横の飲食スペースを指定されたので、すぐにお弁当箱を持つと待ち合わせ場所へと向かった。
飲食スペースはいつもは購買で購入した生徒でごった返している。
今日も3年生はあまり居ないとはいえ例外ではなく、とても二人分の席を取れそうにはなかった。
ちょうど購買でパンを買ったらしき零一くんを見つけると、声をかけた。
「零一くん。お待たせしました」
「いや、僕もいま丁度パンを買い終わったところだから……でも飲食スペースは使えそうにないね……」
「はい。どうしましょうか?」
「うーん、外のベンチはアウターなしじゃ寒いし……。
そうだ……! 保健室に行こう」
「はい? 保健室ですか?」
私は保健室には寄り付いたことがなかった。
ご飯を食べるのなんて許して貰えるのだろうか?
「うん。あまり調子が良くないときに良く休ませて貰っていて、養護教諭の雷電先生とは割りと仲がいいんだ。きっとお昼を食べるくらい許してくれるさ」
そう言う零一くんに連れられ、私は保健室のドアを叩いた。
返事はすぐに来て、私は零一くんと共に保健室へと入る。
「雷電先生! ちょっとお昼をここで食べてもいいかな? 彼女も一緒になんだけど」
「おぉ上月の零一くんじゃないか。まぁお昼を食べるくらい構わないが……。
彼女というと……例の噂の彼女かい?」
長い黒髪を結ってかんざしのようなものでまとめている20代後半に見える若い女性――それが雷電先生だ。
「初めまして雷電先生、3Eの藤堂碧と申します」
「おぉ! おぉおぉおぉ! 君がハリウッド女優志望の噂の彼女かい?」
「はい……」
どうやら私の噂は保健室にも轟いていたらしい。
「もう、雷電先生からかうのはやめてくださいよご飯がまずくなりますから」
「アハハハハ、まぁいいじゃないか。
初めまして私が保健室の先生、
上月くんとは遠い親戚でね。縁あって保健室の先生をしている。まぁ座り給え!」
言われ、私と零一くんは長椅子へと腰を下ろした。
「零一くんと親戚ですか?
それにしてはお正月の集まりではお見かけしませんでしたが……」
「あぁいつものあれね。あれは母と父が行ったんだよ。
私達若い世代はあまり顔を出さないかな。小さい頃はよく連れられて行ったものだよ」
話をしながら私はお弁当を食べ始めた。
「しかしまぁ……あの上月の零一くんがまさか下月の都恋くんとではなく、君を選ぶとはねぇ。私はてっきりあのまま都恋くんに押し切られるものかと思っていたよ」
「やめてください雷電先生……僕は都恋を選ぶつもりなんてこれぽっちもなかったんだから」
「まぁそうはいうがね。彼女の方は紛うことなき本気だったと思うよ」
「それはそうかもしれませんが……」
零一くんは困った顔をしながら惣菜パンに齧りつく。
「まぁなんにせよ。私も君が下月の都恋くんの毒牙にかからなくて良かったとは思うさ」
「はい? 毒牙ですか?」
私が意味が分からず質問するが、雷電先生はくっくと笑うばかりだ。
「それよりもだ上月の! 東王大学を受けるんだろう? 勝算はあるのかい?」
「はい。共通テストは万事問題なく……あとは二次試験でやらかさなければ……」
「ほう。そいつは良かった。さぞきらりさんも喜ぶだろう。
もし受かれば、彼女さんも鼻高々なのではないかね?」
「はい。私も合格してくれると嬉しいです。
東王大学生が彼氏なんだって威張れそうですから」
「そうか! そうか! アッハッハッハ素直でよろしい」
そんな話をしながら、私達二人はお昼ごはんを食べ終えた。
「雷電先生、お昼ごはんを食べる場所を提供してくださりありがとうございました」
私は立ってペコリと慇懃に頭を下げる。
「あぁ良いってことさ。また何かあったらいつでもおいで」
雷電先生はとてもきっぷの良い人だった。
今度また文音や操と一緒に保健室に来てみたいと思う。
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